Moonsault
第2部 第7話 Your Lie in April
史上最大のナベツネの刺客、益田の登場になす術もない一同。打倒益田を誓った一同は、作戦会議を開くのだった。
俺の友人、扶桑は叫んだ。
「さすぞ!」
俺もしたたかに言い返す。
「うつぞ!」
箒を持って掃除をしていた若宮ちゃんがなだめに入る。
「2人とも物騒だね。喧嘩は止めてね。迷惑だから」
扶桑は、若宮ちゃんの顔を見上げて言った。
「いや、将棋を指すか、碁を打つかって話なんだけど……」
若宮ちゃんは、呆れ顔で掃除を続けた。
「もう、紛らわしい話は止めてよね!」
扶桑は帰路に着いた。夕日が目に染みる。
「どうしよう、やっぱりできないよ……」
小さな男の子が、塀の影から一人の女性を見つめている。そんな少年の姿をを見つめていると何となく心が温まる。一体、どんな女の子を見ているんだろう。扶桑は気になって、その女性を見た。こんな子どもが追いかけるにしては、やや年上の女性だ。後姿で良くわからないが、あの後姿にはどことなく見覚えがある。
あの髪型、あの服装、あの歩き方、あれは……、間違いなく若宮ちゃんだ。若宮ちゃーん。扶桑は若宮ちゃんを追いかけようとし、ふと気づいた。この少年は一体何をやっているんだ。相変わらず、塀の影から若宮ちゃんを見つめている。扶桑はその少年の首根っこを掴んで問いただした。
「お前、何やってるんだ!?」
少年は扶桑の目を見たとたん、怯え、泣き出してしまった。
「ごめんなさい!」
これだからガキは……。扶桑は少年を下ろし、なだめた。
「おいおい、お前、泣くなよ。一体何やってたんだ。若宮ちゃんに、あのお姉ちゃんに何するつもりだったんだ?」
少年は泣き続ける。
「ごめんなさい!」
ああ、どうしよう。扶桑がオロオロしていると、後ろから不意に何者かに話しかけられた。
「何してるの?」
扶桑は悪い事をしているつもりはないのに、思いっきり驚いてしまった。
振り向くと、そこには生駒さんの姿があった。
「そんなに驚かなくても。誰なの、その子?」
扶桑は事情を説明した。
「ああ、実は、かくかくしかじかという訳なんだよ」
その少年は、生駒の姿を見るなり、扶桑の後ろに隠れてしまった。
生駒がその男の子の頭を撫でて話しかける。
「どうしたの。お母さんとはぐれちゃったの?」
その少年はモジモジしながら答えた。
「お母さんは僕を世界的なピアニストにしたくて、とっても厳しいんだ」
生駒は申し訳なさそうに話を続ける。
「そう、悪いこと聞いちゃったかな。じゃあお父さんは」
少年は、暫くためらい、上目遣いに答えた。
「……実は僕はお父さんのお遣いをしてるんだ」
「そうなんだ。偉いわね、どんなお遣いなの。お姉ちゃんが一緒に行ってあげようか」
「うん、これをあの、あのお姉ちゃんに付けて来いって」
「どれどれ……」
それは小型の探知機だった。扶桑と生駒さんは顔見合わせた。
「君、名前は何て言うの?」
少年は答える。
「益田……」
その少年は自分の名前を言いかけて、はっと口を押さえると逃げ出してしまった。
「畜生、奴め。あんな子どもまで使って来るとは……」
さて、所変わってカフェ「いそしぎ」にて。
「ねえ、マスター、どう思う」
扶桑はいつものモカを飲みながら尋ねた。扶桑はいつもこのモカが飲みたくなる。
シャルンホルスト・カットのマスターは答える。
「気をつけないとな。俺達もいつの間にか探知機が付けられてるかもしれないぞ。もしかしたらこの会話も盗聴されてるかもな」
「そうか、それは大変だ」
「君の嘘だって筒抜けかもね。例えば、君が昨晩怪しいお店に行ったこととか……」
「マスター、何故それを!?」
扶桑は口の中のコーヒーを噴き出してしまった。
マスターは電子手帳「ザウルス」を拭きながら答える。
「首の後ろを触ってごらん」
「え、こ、これは探知機。いつの間に!?」
「もっと気を付けなきゃ駄目だよ。まったく、扶桑君は詰めが甘いな」
「お前が言うなよ!!」