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Brain Twister

第2部 第6話  Haruhi Suzumiya



 「ふざけるな!」

ガチョン。シャルンホルスト・カットのマスターは雄叫びを上げた。俺の友人、扶桑は尋ねる。

「どうしたんだい?」

「受話器に指を挟んじゃってさ」

マスターは天狗の鼻に変身した人差し指を見せる。


 扶桑はその指をそっとしまい、再び尋ねた。

「誰からなんだい、今の電話?」

「ああ、この電話かい。実は開店祝いに電気屋さんからもらったんだ。もう大分古い物だけどね」


 扶桑はその電話をそっと異次元に放り込み、マスターをにらんだ。マスターがにらみ返す。だんだん扶桑の顔が近づいていく。マスターはそっとまぶたを閉じた。ひたいから汗が流れる。

「ふざけるなあぁ!」


 扶桑は、マスターが手首カットになるんじゃないかと思うほど叱り付けた。

 マスターは諦めたように、顔の美的レベルを25パーセントアップした。

「実は、今の電話はナベツネからだ」

「なんだって。第1部第7話や第1部最終話で名前だけ出てきたナベツネか!」

マスターの顔は戻らない。どうやら本当のようだ。


 「奴はすでにこのタワーの乗っ取りを開始している。まずは立ち退きを拒否しているテナントをあの手この手で買い占めているようだ。この店にも、膨大な額を提示されたよ」

「それで、どうしたのさ?」

「もちろん断ったさ。そしたら『あなた達、夜道を歩く時は気を付けて下さいね』だとさ。お前等も気を付けろよ」

扶桑等は肩を怒らせた。まったく、何て奴なんだ。この電話が重要な意味を持つとは、この時の扶桑には知る由もなかった。


 その日の夜。俺はいつものようにアウディTTクーペで首都高速を走っていたはずだった。

「おかしい、ここは一体どこだ?」

気が付くと、俺はニューギニア島沖50キロの大陸棚の上、海底で鰹とゼロヨンバトルを繰り広げていた。


 一方その頃。生駒はいつものように、変わり身の術を練習していた。飛んでくるくないを当たったように見せ、丸太を変わり身にするはずだった。

「ぐわっ!」

数十本のくないが当たったのは丸太ではなく、変わり果てた姿のグナイゼナウ・ライダーだった。

「雷ちゃん、どうしてここに!?」

生駒はライダーを介抱してあげた。


 この荒唐無稽な展開は一体なんなのか。ハルヒがそう願ったのか。


 そして次の日。

「とうとう被害者が出てしまったか」

今日はマスターが休みだったので、扶桑がマスターのセリフを代弁する。包帯でぐるぐる巻きになったライダーを見て、感慨深げに。


 「そのようだな」

赤鬼が考える人のポーズで呟く。


 俺は勢いよく扉を開き、「いそしぎ」に入る。潮の香りと海草にまみれたままだったからか、皆は俺のことを妖怪とでも思っているかのような顔をしている。

 「どうにかしなくてはな」

顔にまとわり着く海草を取りながら言った。


 「あの不思議な力、薬を使っているに違いないだろう」

赤鬼がポーズを維持したまま頷く。


 「うん、それも相当な使い手だね」

若宮ちゃんは頬を膨らませて言った。


 「どうにかしなくちゃね」

ライダーも頷く。その時だった。


 「この店は君たちのものじゃないんだぜ」

得体の知れない男の声が響く。声のする方を見やると、ダブルのスーツに身を固めた男が腕組みをして立っていた。


 「誰だ!?」

扶桑が叫ぶ。


 「いつの間に、そこに! まさか超能力者!? それとも、未来人!?」

生駒が口走る。赤鬼が立ち上がり、こう言った。


 「お前は……!」

男はいつの間にか若宮ちゃんの背後に移動している。その手は臀部に向かって伸びていた。


 「何さらすんじゃい、ボケが!」

若宮ちゃんの鋭い裏拳が男の顔面に入る。男は流れる鼻血を拭いながら言った。

 「おや、君は脱走兵の赤鬼君じゃないか」


 神鷹中尉が赤鬼を見上げ、尋ねる。

 「誰なの、あれ!?」


 赤鬼はしたたかに答える。

「あいつはヴュルテンベルク益田といって、ナベツネの右腕といわれていた男だ。しかし益田、お前、嫁に逃げられて寝込んでたんじゃなかったか」


 益田は拳を握り締め、肩を震わせている。

「それを言うなぁー!」

益田の目は、雨後の滝になっていた。

「どうして俺を捨てたんだぁー!」

益田は、生駒の胸に手をかけながら叫んだ。手裏剣が額に突き刺さる。益田は血を流してよろめいた。


 「理由は明らかだよなあ」

扶桑は言った。赤鬼も二度頷く。


 「そうやってお前等まで俺を虐めるのかぁー!」

益田は両手で目頭を押さえつつ、駆け足で逃走した。去り際に、神鷹中尉にボディタッチをしながら。


 「まったくもう、どうにかならないの、あいつ!?」

神鷹中尉が愚痴をこぼす。


 「待てこのやろー!」

ライダーが益田を追いかけ店を出て行ってしまう。


 「こら、追いかけてもしょうがないぞ!」

赤鬼が眉間に皺を寄せてライダーの後を追う。


 その時、ふと、どこからか現れたシャルンホルスト・カットのマスターが、新書版の「それいけ×ココロジー」を読みながら呟いた。

「あの益田という男……」


 「その心理テストの本で何かわかったのか!?」

扶桑は身を乗り出して聞いた。


 「あの男……。あのキャラは羨ましい」


 「弟子入りして来いよ!!」

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