Tokyo Tower
第2部 第2話 ARIA
A
うらぶれた休日の午後、俺、蒼龍はいつものように、カフェ「いそしぎ」へと向かった。いつものウェイトレスに案内される。若宮さんといったかな。そんなことより大変なんだった。
俺はそのウェイトレスに尋ねた。
「扶桑は来てるかい?」
俺がそう尋ねると、彼女は気を悪くしたのか、しかめっ面で言った。
「いえ、来てないみたいですけど」
何か悪いことでも言っただろうか。もしかすると、嫌われているのかもしれない。
「そうか、ありがとう」
俺は精一杯のお礼を言った。
しかし、扶桑の居場所の見当もつかない。仕方なく、待つことにした。ここで待っていればやって来るだろう。
すると、さっきのウェイトレスが話しかけてきた。
「あの、蒼龍さん。今度、私と何処かに遊びに行きませんか?」
今度は急にデートのお誘いか。女心は秋の空、とはよく言ったもんだ。本当に理解しがたい。もしかして、何かたくらんでいるのだろうか。とにかく、俺はこんなことをしている場合じゃないんだ。
「ゴメンよ。今は女の子と遊んでいる場合じゃないんだ」
とにかくここは断っておくのが正解だろう。余計な争いは避けたい。
扶桑、早く来てくれ。何やってるんだ。
B
うらぶれた休日の午後、私、若宮はいつもの様に、カフェ「いそしぎ」にて働いています。お客様がいらっしゃいました。あ、蒼龍さんだ。私は蒼龍さんを心を込めて案内しました。蒼龍さんは私のことどう思ってるんだろう。気になります。
ふと、蒼龍さんが話しかけてきました。
「扶桑は来てるかい?」
きゃ、蒼龍さんの方から話しかけてきてくれるなんて。でもなんで扶桑なのよ。あんな男のことなんて、どうでもいいっつーの。
「来てないみたいですけど」
あんな男より私を見て、蒼龍さん。
「そうか、ありがとう」
きゃっ、笑顔でお礼言われちゃった。もしかしていい感じかな。
よし、ここは勇気を出してデートに誘ってみよう。
「あの、蒼龍さん。今度私と何処かに遊びに行きませんか?」
私の思いよ、届いて。お願い。でも、蒼龍さんの口から出た言葉は、残念なものでした。
「ゴメンよ。今は女の子と遊んでいる場合じゃないんだ」
ショックでした。私よりもあの男が良いっていうのね。
もしかして、蒼龍さんそっちの気があるのかしら。でも、私は諦めないわ。必ず扶桑に勝ってやる。恋は障害が多い方が燃えるのよ。蒼龍さんを振り向かせて見せるわ。
C
うらぶれた休日の午後、私、シャルンホルスト・カットのマスターは、いつものように、カフェ「いそしぎ」でグラスを磨いています。おっ、蒼龍君がやって来た。しかし、彼はいい男だよな。若宮ちゃんが惚れるのも無理はない。こんな二枚目が恋敵だなんて、扶桑くんも哀れだな。と言うか、若宮ちゃんも目をハートにしてないでちゃんと仕事しろよな。
「扶桑は来てるかい?」
まったく、いつの間にここは溜まり場になったんだか。
「来てないみたいですけど」
おいおい、扶桑くんさっき来たじゃないか。酷いな。今はトイレに行ってるだけだよ。まったく、何て扱いだ。彼だって仮にもお客さんなのに。それにしても用を足すのにずいぶん時間がかかるな。
「あの、蒼龍さん。今度、私と何処かに遊びに行きませんか?」
おっと、最近の女の子は大胆だな。自分から、しかも公衆の面前でデートに誘うなんて。まあ、そんなことしてる余裕があるならちゃんと仕事してくれるともっといいんだけどね。ああ、ほかのお客さんが呼んでるよ。
「ゴメンよ。今は女の子と遊んでいる場合じゃないんだ」
まったくだよ。そんな暇はない。はい、お開きにして仕事、仕事。
その時、いそしぎのネオ・ヴェネツィアことトイレから、妙なARIAが聞こえた。
「今タモリのピクロスがいいとこだってのに、一体何だ?」
「マスター、紙ー!!」