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UFO

第2部 第1話  Fullmetal Alchemist



 日が昇る。う……ん。もう朝か。窓までほふく全身で進み、カーテンを開ける。一瞬にして部屋が真っ白になる。湿気を含んだ日差しがガラス越しに突き刺さる。


 俺の友人、扶桑の部屋には冷房がないのだ。半分眠っていたが、突然鳴った電話のベルによって完全に覚醒させられた。

「もしもし。はい、はい、はい。あ、ごめん、キャッチ入ったから切るね」

扶桑は慌てて支度をした。


 出勤だ。家の扉を跳ね除け、朝の歩道を突き抜ける。食パンをくわえながら吹かない風を切っていると、扶桑の後方から聞きなれた音が聞こえてくる。軽快なエンジン音だ。後ろを振り返ると、太陽が扶桑の目に染みた。


 「よう、慌ててるみたいだな。送ってやろうか?」


 扶桑はまだ視力がおぼろげな目を擦りながら目を凝らすと、そこにはこのクソ暑い日にまでフルフェイスとライダースーツに身を包んだグナイゼナウ・ライダーの姿があった。

「頼むぞ、ライダー」

そう言って扶桑はライダーが乗るスーパーカブ90のタンデムシート(というか荷台)に飛び乗った。風が心地よい。


 「着いたぜ、親分」

はっと飛び起きた。扶桑はいつの間にか眠りに落ちてしまっていた。辺りを見回すと、そこはシャルンホルスト・タワー前の広場だった。


 「ここかよ!」

扶桑は思わずライダーの背中を叩いた。扶桑はここに来たかったのではない。


 「どこに行くつもりだったんだ?」

ライダーは背中を摩りながら言う。扶桑は時計を見た。もう間に合わない。まあいいか。


 扶桑はライダーとともに地下1階にあるシャルンホルスト・カフェ「いそしぎ」へと向かった。「カランカラン」という心地よいベルの音とともにドアが開く。


 すると、店の中に、とても奇妙な格好をした、ウィンリィに似た若く美しい女性がいた。その女性は不意に扶桑を振り返ると、叫んだ。

「雷ちゃん!」


 そのまま、その女性はライダーに駆け寄る。ライダーは一瞬言葉を失ったが、その女性を避けるようにして言った。

 「生駒、どうしてここが!?」


 その生駒という女性は、ライダーの腕にすがりついて言った。

「あなたの事はすべてお見通しよ!」


 すっかり2人の世界になってしまっているようなので申し訳なかったが、扶桑は気になってしょうがなかったので聞いてみた。

「ねえ、ライダー。一体誰なんだい、その人は?」


 ライダーは生駒さんの手を振り解いて呟いた。

「ああ、くの一の生駒さんだ」


 くの一ならランファンなのだが、この人はウィンリィに似ている。なぜなら、ランファンは知名度が微妙だからだ。ちなみにランファンの中の人は水樹奈々。しかし一体この2人はどういう関係なのだろうか。とりあえず、扶桑も事故照会、じゃなかった、自己紹介をする。

「どうも、扶桑といいます。よろしく」


 そう言って手を差し出すと、ライダーが間に入り込み、生駒さんを外に連れて行こうとする。

「まあまあ、外でゆっくり話そうな」


 何か怪しい。とっても怪しい。という訳で、探ってみよう。

「おい、待てよライダーよ。何か隠しちゃあいないかい?」


 すると、ライダーが答えようとする間も無く生駒さんがしゃべりだした。

「よくぞ聞いてくれました。実はね……。

 雷ちゃんは伊賀の忍者の名門の家の跡取りとして生まれた。雷ちゃんが元服するとともに、村で1番美しい娘、生駒と婚約した。2人は一生の幸せを誓い合った。2人は愛し合っていたはずだった。ところが、雷ちゃんはある時、こんな時代に錯誤した忍者になることを拒否したのだ。きつい修行に耐えかねた、というのがその実情なのだが、そんなことはどうでもいい。


 『こんなのやってられるかよ!』

雷ちゃんは脱走した。雷ちゃんは駄目な忍者だったが、逃げ足だけは速かったのだ。村の者はとうとう雷ちゃんを捕まえられなかった。


 『抜け忍には死、あるのみ!』

お父上はそうおっしゃられた。忍者には厳しい掟があるのだ。


 しかし、心から雷ちゃんを愛していた生駒は、慈悲を願った。

『お待ちください、お父様。雷ちゃんは必ずこの私めが連れ戻します』

できの悪い息子だったが、それでも大事な一人息子だ。


 お父上は慈悲を受け入れてくださった。

『わかった。しかし、それでも後を継がぬというのならば、お前の手で始末するのだぞ』


 生駒は身を切る思いでその条件を飲んだ。そして、生駒は雷ちゃんの後を追った。

……と言うわけなの」


 ライダーはふて腐れながら話を聞き、そして言った。

「誰ができの悪い息子だって。誰が村1番の美女だって。いいか、とにかく俺にはまだ戻れない理由がある!」


 それを聞いた生駒さんは泣き崩れた。

「それなら、私の手であなたを殺すしかないわね!」

生駒さんは懐に手を入れると、ギラリと光るくないをちらつかせた。


 刃物に恐怖した扶桑は、ライダーに喝を入れた。

「何贅沢なこと言ってるんだよ。こんなにかわいい人を放っておいて!」


 ライダーは正座して、俯き加減で悲痛の叫びを上げた。

「悪いが、俺には好きな人ができたんだ!」


 ガーン。と聞こえた。確かにそう聞こえた。


 おそるおそる、生駒さんの顔を見ると、血の涙を流していた。阿修羅だ。阿修羅がここにいる。

「あんたを殺して私も死ぬわー!」


 扶桑は、暴れる生駒さんを命からがら何とか押さえ込んだ。

「そんなに真剣にならなくてもいいじゃないか。君はかわいいんだし、きっといいことあるよ。さっさとあんな男のことなんか忘れてさ、よかったら僕と……」

扶桑の左頬にはくっきりと生駒さんの手形が錬成されていた。


 「私は諦めないわよ。絶対に雷ちゃんを連れ戻してみせるんだから!」

そう、捨て台詞を残し、生駒さんは去っていった。

 

 生駒さんとはいったい何者なんだ。禁忌を犯した鋼のヘルメットをかぶるライダーに、対価を求めるのか。


 いそしぎのマスターは、ブラウン管の表面に発生する静電気で遊びながら言う。

「今日からいそしぎはシャルンホルスト・カフェ改め、カフェにすることにしたよ。カフェのほうが今風でいいだろう?」


 扶桑は同意する。

「確かに、カフェってのはおしゃれな感じがするね。アニエスベーっぽいかも」


 そこでマスターから、素朴な質問。

「ところで、扶桑くんは何処へ行くつもりだったんだい?」


 「……!!」

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