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Loop The Loop

第1部 最終回スペシャル  Natsume's Book of Friends



 朝日が昇る。ついに決戦の時はやって来た。シャルンホルストのすべては今日で決まる。シャルンホルストを愛する俺等は、戦わなくてはならない。かけがえの無い明日のために。


 扶桑は、先ほどシャルンホルスト・カットのマスターが扶桑のために作ってくれたという、お守りを握り締めた。古風な日本的お守りだ。


 俺等は、神鷹中尉が用意してくれた一式陸上攻撃機、通称「葉巻」に乗って敵のアジトへと向かった。雲の切れ目を縫って飛行機が飛ぶ。


 「凄いなあ。ライダーは飛行機も操縦できるんだ」

彼のこうした意外な一面には感嘆させられる。


 しかし。

「ハハハ。操縦なんかできないさ。これは冗談だよ」


 「おいおい、冗談って、操縦してるじゃないか」


 「気のせいだよ。そう見えるだけさ」


 気が付くと、俺等の体は宙に浮かんでいた。

「本当だ」


 運良く指定の場所に墜落すると、手厚い出迎えが俺等を待っていた。

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 赤い絨毯の上を通り、応接室へと通された。いかにも高そうな紅茶とクッキーが目の前に置かれる。リプトンの紅茶とブルボンのクッキーではなさそうだ。

「まもなくいらっしゃいます。もう暫くお待ちください」

俺等は息を呑んだ。暗雲が空を包む。一言も会話ができなかった。


 いつも明るい神鷹中尉までもが表情を曇らせ、グナイゼナウ・ライダーをすがるように見つめている。ライダーの表情は……、わからない。


 やがて奥の扉が開いた。部屋に入ってきたのは赤鬼1人だった。敵は1人だが、何があるかわからない。俺等は一斉に身構えた。赤鬼はプレッシャーを物ともせずに、気さくに手を上げ笑顔でこう言った。

「よう、みんな。久しぶり!」


 あれ、何か違う。俺が冷静に突っ込んだ。

「この前会ったばかりだろ!」

俺はツッコミ番長だ。


 「そうだっけ、ハハハ。それで、ええと……、何だっけ?」


 「決闘するんだろう?」


 「ああ、そうかそうか、いや、ゴメンな、本当。ナベツネの奴がやれってうるさくてさ。この前タワーを襲撃したのもさ、悪かったな」


 第1部第7話で紹介されたナベツネか。これは一体どういうことだ。扶桑の脳味噌がねじれる。そしてこの名前がまだ重要な意味を持っているとは、この時の扶桑には知る由もなかった。

「いいのか、それで?」


 「ああ、今あの野郎は副業が忙しいとか言ってたからさ。あいつには本当うんざりなんだ。待遇悪いしさ。悪いことばっかりするし。それで、この隙に逃げ出そうって訳さ」


 「なるほど」


 「この前さ、あのタワーでいい仕事見つけたんだ。今度そっちに移ることになった」

 

 「そうか、それは良かったな。それで、若宮ちゃんは、あの女の子は無事なのか?」


 「そうだったな。我を守りしものよ、その名を示せ。女の子を返そう。受けてくれ」


 扶桑はあたりを見回した。

「……で、どこに?」


 ライダーと神鷹中尉が不思議そうな顔で、扶桑に問いかける。 

「何の話だい?」


「いや、若宮ちゃんがさ」

そういえば、扶桑は若宮ちゃんの行方を確認していなかったのだ。すぐ修行に行ってしまったし……。


 「若宮ちゃんがどうかしたのかい?」


 「昨日も、普通に働いてたわよ」


 迂闊だった。扶桑はまんまとひっかかったのだ。扶桑はソファーになだれ込んだ。


 「そういうことか。うん。ならいいんだ。忘れてくれよ」


 「うん、そういうことだ。色々すまなかったな。また会ったら、その時は宜しくな」


 扶桑等は立ち上がった。


 「おう、それじゃあな」


 扶桑等は安堵して徒歩でシャルンホルスト・タワーへと戻った。長い道のりだが、そんなものは気にならない。カランカラン、と音を立ててシャルンホルスト・カフェ「いそしぎ」の扉を開ける。


 「いらっしゃいませ」

笑顔でそこに立っていたのは、若宮ちゃんだった。


 若宮ちゃんだ。無事だったんだね。扶桑の胸の内は言いようの無い気持ちで一杯になった。扶桑は、若宮ちゃんを受け入れるべく両手を広げた。若宮ちゃんはこちらへ向かって走って来る。本当に無事でよかった。扶桑は目を閉じた。若宮ちゃんが扶桑の胸に飛び込むかのように。


 「あんた、何やってんの?」

扶桑が暫く立ちすくんでいたら、神鷹中尉に冷たい言葉を浴びせかけられた。若宮ちゃんは俺に抱きついていたのだ。


 扶桑は涙を流した。ライダーが扶桑の肩を叩く。扶桑に同情してあげてくれよ。扶桑はかぶりを振った。階段を駆け上がり表に出る。眩しい太陽が扶桑の両目を突き刺す。青い空だ。そうだ、いいじゃないか。世界の平和は守られたんだ。俺達には、明日が待ってるんだ。それでいいじゃないか。そう、それで。


 扶桑はこの戦いを通じて、かけがえのない友人と巡り合えたんだ。これを友人帳という。


 扶桑は明日への一歩を踏み出したのだ。

 「マスターのお守りのお陰でうまくいったよ」


 マスターは、書院のデータをカセットテープに保存しながら、言った。

「あれ、不発だったのかい。あれ、中には爆弾が入ってたんだよ。びっくりさせようと思ってね」


 「殺す気かよ!!」


     - 第1部 完 -

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