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連作短編 Psy-Borg 第四部  作者: 細井康生
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錯乱の扉~4

 頽廃した街並みを探索する。2ヶ月前にテロリストの攻撃を受け壊滅した街。その後拠点となり、いくつもの戦闘が行われた場所。多くの人が死に、この街から離れて行った。


 道には薬莢が転がり、不発弾が転がっている。それを集め、処分してまた人がこの街に戻れるように作業をしている。


 不発弾や地雷の爆破、トラップの排除など人の手ではいくら時間と人を投入しても元に戻るまで100年はかかるだろう。しかしAI搭載のパワードスーツを揃えた装甲騎兵隊であるクラウスの部隊ならば、その作業時間を大幅に短縮できる。


 AI兵器はまだ国際法上の整備が完成されていない。専守防衛としての兵器の使用は認められているが、直接的な戦闘での使用は認められていない。


 そのため、どうしてもこうした事後処理に回される。


(極東自衛隊の苦労が推し量れるな)つい苦笑いが漏れる。


 彼の妻はその極東の島の出身だ。その国の前線基地には何度も訪れているし、彼女の故郷にも何度か訪れたことがある。


(この作戦が終わったら、娘も連れて観光にでも行きたいものだな)


 結婚当初は極東配備も申請したが、今や特殊AI部隊を率いる彼に、今後その任は下りないだろう。 

 妻から故郷の季節ごとに移り変わる自然の美しさを聞くたびに、その想いは募っていく。 


 しかしクラウスの前に広がるのは、巻き上げられた砂塵に覆われた茶色の世界だ。


 破壊された建物が立ち並ぶゴーストタウンと化した街の瓦礫の中から、そこかしこに溢れる薬莢や投げ出された武器の回収を続ける。


 いくつもの戦の跡。崩れた住居。砂ぼこりといまだに消えない血糊の匂い。ここはまだ戦場の雰囲気を色濃く残している。


 反政府ゲリラとの激しい戦闘の爪痕が残る街の中心地。崩された建物の残骸が道の脇にうずたかく積まれている。


 かつてここで人の営みが成り立っていたとは想像できない。


 市場が立ち並び活気の満ち溢れていた広場には、休日ともなれば街の半数以上の人が、ここに出向き穏やかな一日を過ごしていた。


 そんな何百年も続いていた平和な日常を、無差別爆破テロは地獄へと変えた。休日の人が溢れかえる市場のそこここで、同時に爆発音が上がり、阿鼻叫喚の中一瞬で1000人近くの市民が亡くなった。

 それを合図とするかのように、各地で無差別テロが発生した。その後は完全な内戦状態だ。


 今、こうしてクラウスが「平和維持活動」として任務に当たれるのは、戦いが終焉したからではない。破壊尽くされ、戦いの拠点がここから別の場所に移っただけに過ぎない。


 瓦礫はテロリストたちの格好のカモフラージュになり、新たなテロの温床になる。


 今、世界はネットワークに支配されている。瞬時にニュースは世界を駆け巡り、好きなだけ情報は引き出される。そしてソーシャルネットワークに流された真偽不確かな情報は、駿馬のように駆け抜けて、人々にぼんやりとした蹄跡を残したまま一人歩きしていく。


 より早く新しいものを求めて、人々は情報に翻弄される。


 クラウスのように現場で踏みとどまり、黙々と処理をする者達を労いもせず。


 時々、そんな理不尽さをクラウスは感じていた。


 しかし、ここではそんな気持ちを第三者的な視点から俯瞰で諭してくれるものはいない。己の意思決定と行動は、規則の範囲内において最大限に尊重され、保証される。


 しかしそれと同時に責任も彼の肩にのしかかってくる。


 完璧な自立型人工知能を搭載した装甲騎兵部隊ではあるが、その大元は彼の行動原理であり、意思そのものなのだ。


 通常の任務よりもストレスのかかり方は比べようもない。それ故に任期は通常より短い1年半と定められている。


「A-13アルファ地区不発弾探索、J-13同様、および薬莢処理。H大通り50ヤード瓦礫撤去および収集。私とE-13は生存者の確認、確保以上」


 部隊に装甲騎兵は6体待機している。通常、作業時は概ね6クラウスを含めた5体でチームを組み、他はその間メンテナンスに回る。その組み合わせはランダムだ。


 本部からの指揮、情報系統に一体。クラウスのケアマネージメント用に一体AIが振り分けられ、計11の人工知能が稼働している。


 各々表層的な性格は違うが、元を辿れば全てクラウスの知能や思考傾向が反映されており、言ってみれば本人を含めた13人のクラウス単独部隊であると言える。 


 たった1人で戦場に立たされているようなものだ。


 時々たまらない程の孤独感と、恐怖が襲ってくる。もう二度とあんな寂しさを味わいたくない。



 アル中でいつも泥酔していた父、それを咎める母の金切り声。食器の割れる音から始まる罵り合いの日々。親権をめぐる泥沼化した離婚調停。物のよう扱われる自分。

 厳格すぎる祖父母。灯の消えた家、郊外の夜の暗さ、ひとりぼっちのベッドの中。もう懲り懲りだった。


 各人工知能プログラムには、無機質なアルファベットで区分された名称がつけられている。彼が率いる第13部隊では、クラウスの頭文字であるKを除く、A-13からM-13が振り分けられていた。


 勿論そのままで作戦を遂行する事も可能だが、彼は各々にアルファベットで始まる名前をつけ、一つ一つ人格を持った人として扱っている。その方が孤独を感じなくて済む。


 荒廃した街の中を探索する。骨組みの鉄骨が剥き出しになったブロック塀が散乱し、かつての大通りもクラウス達装甲騎兵が縦列でしか進めないほど狭まっている。


 路肩には移動用の店舗に使っていたであろうトレーラーハウスが横倒しに放置されている。クラウスはそれに目をやると、苦々しい表情を見せた。



 離婚後、母方に引き取られてからも彼は定期的に父親に会いに出掛けた。家を追われ、職に溢れた父親は、郊外の森の近くのトレーラーハウスで生活をしていた。会いに行くたびに痩せ衰え、アルコールを片時も離さず自堕落な生活を送っていた。


 派手な化粧をした娼婦のような女と暮らしながら、常に甘え声でその女にその日の酒代をせびっている醜態を晒していた。


 そしてクラウスが会いに行くと必ず彼に居丈高な態度で金の無心をした。そこにはかつての威厳を持った、精悍とした父の姿はなかった。


 それでも会いに行ったのは、ずっと幼い頃の両親が仲良く、優しい温かい家庭の中で育った淡い記憶が捨てきれず残っていたからだろうか?そこら辺の記憶は曖昧だった。


 トレーラーハウスを見るたびにそんな寂寥感と言いようのない憤りを覚えてしまう。


 クラウスがそんな思い出に浸っていると、突然前方を行くE-13が方向転換し、そのトレーラーハウスに向かっていくと、目の前で破壊し始めた。


「おい!エド、何をしている。それは撤去対象じゃないぞ」 


 E-13の予想外の行動につい声を上げる。


 その言葉に反応するように彼は動きを止め、ジッとそのトレーラーハウスを見下ろしていた。


「目障りだ…」


 モニターから聞こえて来たE-13の反応に一瞬耳を疑った。


「なんだって」


 と彼は問い返した。いつもなら即応するはずであるが、妙な沈黙が流れる。


「おい、エド。報告!」



 声を荒げもう一度反応を確かめた。普段はこんなに感情的になることはない。その声についむせ返る。

「排除確認、任務完了しました」


 E-13はいつもと変わりなく報告を返した。

「エド、俺はそんな指示を出していない。指示履歴を提示しろ」


 速やかに履歴がクラウスの元に送られる。細かいタイムラインを検索し、その行動が遂行された時のプログラムを確認すると、クラウスは眉根をしかめて「なんだこりゃ?」と呟いた。


『売女め!』


 そう記載されている。ハッキングかと思ったが、この部隊活動中は独自のネットワークが構築されており、ないとは言い切れないがその可能性はかなり低い。しかしなんらかのバグとは考えられる。


「部隊に告げる。プログラムに不具合を確認した。一度キャンプに戻る。速やかに撤退しろ、エド撤退だ」


 声を荒げてそう指示すると、踵を返しキャンプへと戻っていった。



つづく


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