不気味な村の伝承
とある村には不思議な光景があった。
村の中心から太陽が登る方角の対極には門が建っており、そこでは蜘蛛の巣みたく、夜より濃い黒の棺桶が鎖に繋がれて宙をぶらり。
それは風によっても揺れ動き、不気味な金属音が鳴り響く。
ここを立ち寄った旅の者達は必ず聞いた。
「あれはなんだ。」
それに対して村の者達は。
「豊穣の象徴であります。」
と、答えた。
やはり、さっぱりと分からないと旅人は首を傾げる。
これは幾度となく繰り返された光景であった。
大抵はそこで気味悪がって終わってしまうが、好奇心が勝ったのか、今回の旅人はより深く聞いてきた。
「あれがどうして豊穣の象徴なんだ。」
「それはそれはこんな話がありまして。」
今より数百年前のこと。
当時の村は貧しく畑の実りは乏しい、ただただ過酷な毎日があるのみ。
これを脱却すべく一人の若者が動き出す。
彼は作物を売りに街まで行った時に、畑を肥やすに何が良いかと調べていると、魔法協会の魔術師からこう教えられた。
「私は君らの村を良く知っている。あの土地には悪意が溜まりやすい。悪意は瘴気となり、植物を枯らしてしまう。」
これを聞いて彼はどうすればいいか聞いた。
「悪意の矛先を作りなさい。」
魔術師はこうも言った。
「棺桶に生きた罪人を入れて吊るすのです。」
悪意は悪意を引き寄せる、弱い所から強い所へ。
若者は村に帰るとこの事を皆に話して、棺桶と吊るす為の門を作ったが、罪人だけは用意が出来なかったのだ。
この頃の村人は厳しくとも盗みすら働かない善良な人々だった。
ある日、また若者は作物を売りに街へ行った。
彼は昼過ぎまで探し回り、例の魔術師と再会してすぐに、この問題をどうしたら良いかと必死に懇願した。
すると、魔術師は困った風にこう言うのだ。
「どんな人間でも呪術で呪わせてみれば、罪人の代用として扱うことが出来ます。それと、この事を誰かに聞かれても、私が教えた事だけは秘密にして下さい。」
その後、若者は呪術道具を買い揃えて村に帰ったとさ。
時は現代。
「昔話はここまで。」
村人は無理やり話を終わらせた。
もちろん旅人は不完全燃焼、酷い仕打ちだ、中途半端に終わってしまうのはよくないと、続きを所望してみたのの。
「いやはや、余所者にはこれ以上の事は聞かせないようにと、村長が硬く命令していましてな。仕方のないことです。」
そこで旅人は諦めて次の旅路に向かっていく。
その途中、彼が振り返ると、ちょうど自分に棺桶の影が覆い被さっていた。