閑話3 聖夜祭(2)
※本編は夏ごろの話ですので、時系列に沿っていない話になります。ご了承下さい。
(???年前)
「ねえ、君はクリスマスって知ってるよね」
「そりゃあ知ってるわよ。私の国では殆どの人がクリスマスを祝うもの」
「これって神様の誕生日なんだってね。多くの人に祝ってもらえるなんて、きっと素晴らしい神様なんだろうね」
ギヴリスはニコニコしながらそう言った。
きっと本心では羨ましいのだろう。彼は誕生日を祝ってもらうどころか、良い事をしても褒められたり讃えられたりした事もない。
「神様じゃあないわね。神に仕える人……かしら?」
「それって、大司教みたいな人?」
「まあ、そんなイメージでいいんじゃない?」
合っているかどうかわからないような、適当な答えを口にしたけれど、彼にはさして重要な事ではなかったようだ。すでに興味は別に移っているらしく、私の国から持ってきた本を興味深そうにあれやこれやと広げている。どうやら今は料理に目が行っているらしい。
「ねえ、ターキーだって、おいしそう!」
「ギルは食べる事ばかりねぇ」
「だって、君が作る物は何でも美味しいんだもん。こないだのマフィンも美味しかったよ」
そうは言うけれど、私たちは別に食べなくても死ぬような事は無い。ギヴリスが美味しい物を食べたいのは、心を満たしたいからだと言うのを私は知っている。
「この国にもクリスマスがあっても良いんじゃないかって思うんだけど」
「それは貴方の誕生日? それとも大司教か国王の誕生日?」
「いやいや、誰かの誕生日じゃなくてもいいからさ。こうやって町を飾り付けて、皆でお祝いをして、美味しい物食べてさ。大事な人たちと互いに感謝して過ごす日が、あったらいいんじゃないかなって思ってさ」
そこまで話して、彼は恥ずかしそうに目を逸らせた。
「……それとさ。僕もこんな風に君と過ごしたいな」
確かにこの国で行われるイベントであれば、私たちも人のふりをして混ざる事ができるだろう。そうやって人々と当たり前に過ごす事も、彼のささやかな楽しみの一つでもあるのだ。
それにしても、私は彼の恋人なのだから今更そんな事で恥じらう事はないのに。でもその姿がとても愛おしく思えた。
「そうね」
そう言ってそっと彼を背中から抱きしめる。こちらを振り向いた彼と、肩越しに口づけた。
こうして二人で過ごせる時間は、とても幸せでとても嬉しい。
今度こそ彼と離れずに居られますようにと、私たちが祈るとしたら何に祈ればいいのだろうか。
* * *
(??後)
聖夜祭は神と身近な人々に日頃の感謝を表す祭りだ。1年が終わる少し前に、その年を締めくくる行事の一つとして行われる。
祭りを一緒に過ごす相手は、家族や恋人同士というのが一般的だが、私たちみたいに仲間や友人同士で集まる事も少なくない。
今年の聖夜祭は、日中の『樫の木亭』でささやかなパーティーをする事にした。
先日、『樫の木亭』で毎年使っているツリーを納戸から引っ張り出してみたところ、大分年季が入っていて古ぼけて来ていた。使えなくはないが、聖夜祭の夜には店の看板代わりにもなるものだ。昼に場所をお借りするお礼代わりに皆で新しい物を設えようと言う話になり、ニールとアランさんに都合してもらう事になった。
「やっぱりてっぺんに星があるやつがいいよなーー」
ニールがそう言ってやたらはしゃいでいて、何故かアランさんがふふっと小さく笑ったのが聞こえた。
聖夜祭の当日にニールが持ってきたのは、納戸にあった物より一回り程大きく、作りもしっかりしていて枝ぶりもいい、見るからに良い物とわかるツリーだった。
「どうだーー 立派だろう」
ニールが自慢げに言った。
だけど、これだけのツリーだとそれなりに値も張っただろう。心配になってアランさんの方を見ると、諦めたような顔をして言った。
「ニールのお爺様が張り切ってしまいまして…… どうにかお止めして、この程度の物にしてもらいました……」
ニールの友人へのプレゼントとして贈って下さったそうだ。だからツリー代は気にしなくていいですよと、アランさんは言った。
「今度お返しに、何か皆で狩ってこようぜ」
シアさんがそう提案し、皆で頷いた。このツリーは有り難く使わせていただく事にした
一通り飾り付けをした後で、今度は皆で持ちよったお菓子やプレゼントをツリーに飾って行く。ツリーに飾るのは神への贈り物だ。それが多いほど神への感謝の気持ちを表している事になる。
贈り物が飾られたツリーは、朝になると今度は玄関先に飾られる。聖夜祭の翌朝、子供たちはそこから『神様のおすそ分け』を貰える事になっている。但し貰える物は二つまで。欲張らずに両の手で持てるくらいの幸せを、という謂れらしい。
ツリーの贈り物が全部なくなれば、全てを神に受け取ってもらえたという事になるので、持ち主は張り切って子供の喜びそうなものを沢山飾るのだ。
デニスさんとシアさんは、ロディさんの店でラスクやクッキーを買ってきた。ツリーに飾る事を伝えたところ、ロディさんの奥様が1個ずつ包んで色とりどりのリボンをかけてくれたそうだ。
ミリアちゃんは、女の子が喜ぶようなリボンや髪飾りをいくつも作って用意していた。お菓子を飾るツリーは多いけれど、こうした可愛い小物が飾られるツリーは珍しい。ミリアちゃんの小物を目当てに『樫の木亭』のツリーを覗きにくる女の子もいるそうだ。
私もマフィンを焼いてきたので、ツリーに飾らせてもらう事にした。
「へぇ、クッキーとかじゃないんだ? これリリアンが焼いたのか?」
ニールが興味深い様子でマフィンを手にとった。
「うん。クッキーもいいけど、たまには神様もこういうのが食べたいんじゃないかなって思ってねー」
本当は甘い物は何でも好きそうだけどね。
「これは腹持ちがいいから、喜ぶ子もいそうだなぁ」
そう言ってデニスさんも褒めてくれた。
パーティーのテーブルに並ぶメニューは、いつもと大きくは変わらないけれど、でも皆で祝う特別な日というだけで、いつもより美味しく感じるから不思議だ。
ロディさんの店で買ってきた一口大のサンドイッチが大皿一面に並んでいる。今日のサラダにはカリカリに焼いたベーコンをのせた。これなら皆野菜もしっかり食べてくれるだろう。メインディッシュは定番のカラクン鳥のローストだ。これは先日皆でピクニックがてら狩ってきたものを、マーカスさんの店で丸ごと焼いてもらった。
私の作ったシチューのパイ包みを見て、シアさんが目を輝かせた。
「おお、いいな。聖夜祭らしい気がするな」
上機嫌で言った言葉に、デニスさんが首を傾げた。
「そうか? 聖夜祭でなくても食べるけどな」
「なんとなく……な。俺にはそんな感じがするんだよなー」
そう言ったシアさんは、少し懐かしそうな目をしていた。
最後のお楽しみのケーキは、ミリアちゃんが作ってくれた。あれだけ色々食べたはずなのに、デザートは追加でも入っちゃうから不思議だ。
皆で美味しい物を沢山食べてわいわいと色んな話をして、お腹も心もいっぱいになった。
今年はこうして、皆と1年の締めくくりを迎えることが出来て、本当に良かった。今年は色んな事があったよね。
また来年もその先もこうして、皆と楽しく一緒に居られたら嬉しいな。
お読みいただきありがとうございます。
年末忙しいといいつつ、せっかくのクリスマスだからとちょっと頑張ってみました。
ちょっと無茶して仕上げた為、不足の部分もあるかと思いますがご容赦下さい。
この話で30万字達成いたしました。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
まだ本編は続きますので、頑張って書いていきたいと思います。
今後ともよろしくお願い致します。




