Ep.10 家族/サム(2)
◆登場人物紹介(既出のみ)
・サム…魔法使いの『サポーター』。可愛いらしいドレスを着た、金髪巻き髪のエルフの少女
・クリス…『英雄』で一行のリーダー。人間の国の第二王子。金髪の碧眼の青年
・アッシュ…冒険者の『英雄』。黒髪長身の美人
・アレク…騎士で『サポーター』。クリスの婚約者でもある。真面目で一生懸命。
・メル…魔法使いの『英雄』。黒髪の寡黙な青年
・ルイ…神の国から来た『勇者』の少女。サムと仲が良い。
・シア…冒険者で一行の『サポーター』。栗毛の短髪の青年
※後書きに鉛筆書きのイメージ画を載せています。キャライラ系嫌いな方はスルー推奨です。
私たちの見ている前で、ナインテールの遺骸はキラキラと光に包まれて消えた。後に残された尻尾は、一つずつが手のひらに収まるほどのサイズに縮まっていた。
残された2匹の仔狐はきゅーきゅーと泣きながら、尾を拾い集めたクリスの膝に前足をかけた。彼の手に集められたナインテールの尾に鼻を寄せながら「お母さん、お母さん」と呼んでいるように思えた。
その鳴き声に応える様に尾が淡い光を放ち、そのうち二つがそれぞれ仔狐たちに纏わりついた。光の中で仔狐たちは一回り大きくなり、1本だった彼らの尾は2本に増えていた。
「仙狐は成長と共に尾が増えて九尾になると聞いていたが…… こういう事か……」
アッシュが呟いた。
「これは想定外じゃの」
いつの間に現れた白髪の翁は、そう言って白い顎鬚を撫でていた。ただのご老人ではない事はすぐにわかった。背中には竜の翼、鱗の生えた尾。竜人……だろうか?
皆に緊張が走り、アレクとメルは身構えた。
「ああ、お前さん方がやったとは思っとらんよ。ありゃあ、魔族だな」
翁があっけなく放った言葉にまた別の緊張が走った。
先程私たちの目の前で消えた、あの異様な魔力を持つ者が…… あれが魔族だったと言うのか? 私たちはナインテールがやられているのを、ただ見ている事しかできなかった。これからあの魔族たちと戦わなければいけないのに……
その御老人に気をとられていると、急に辺りが陰って頭上から羽ばたく音が聞こえた。見上げると5色の翼を持つ巨鳥と、それと並んで赤い鳥が舞い降りようとしているところだった。
「君たちは?」
地に足をついた巨鳥の口から、その美しさに似合わぬ野太い男性の声が聞こえた。
「あなた、その姿では皆を怖がらせてしまうわ」
そう言ってもう一羽の鳥は細身で赤毛の女性の姿をとり、遅れて最初の巨鳥も逞しい男性の姿に変わった。
* * *
「ナインテールの尾はアミュレットにすると良いらしい」
「本当に、残りの尻尾を私たちが貰っちゃっていいのかなぁ?」
「それがナインテールの望みだろう?」
アッシュはそう言って微笑んだ。
ルイとアッシュが話し合っている間、仔狐たちはずっとアッシュにすり寄って背を撫でられている。昨日シアに懐いていた仔狐らは、一晩でアッシュに鞍替えしたらしい。朝起きたらシアと一緒に寝ていたはずの仔狐たちが、2匹ともアッシュにしがみついていたそうだ。
「あれだけ昨日一緒に遊んだのになあ」
そう不満そうにぼやくシアは、でも少し優しい目をしていた。
ナインテールに貰った尻尾は、私がアミュレット化する事になった。アミュレットにすれば、所持しているだけで状態異常耐性の効果が得られる。
魔力の強さからするとメルでも出来るんだけれど、彼は「こういう事はサマンサ様の方が得意かと」とか言って、ちゃっかり私に押し付けて逃げてしまった。
でもアッシュが「サムならきっと良いものを作ってくれる」と、笑って言ってくれたものだから、俄然やる気がでた。彼女が喜んでくれるのなら、頑張らないわけにはいかない。
アッシュは美人だし強くて優しい。そして私の事もとても大事に思ってくれている。
私が彼女にさせようとしている事は、本当は彼女の望んでいる事ではない。それでもアッシュは私の事を思って、それに協力しようとしてくれている。だから私も彼女の為になれる事があるのなら、精一杯で応えたい。
アッシュが自分は幸せになれないと思っている事を、私は気付いてしまった。きっとそんな事はないと思うのに……
九尾の尾はその名の通り9本あって、そのうちの2本は仔狐たちが受け継いだので、残りは7本。私たちの人数と丁度同じ。七つというのは少ない数じゃない。元の尾の魔力が強いので、加工するにも相応の魔力と時間が必要だ。
それを皆に伝えると、しばらくこの仙狐の住処に滞在する事になった。その間に、古龍の翁は皆に稽古をつけてくれ、鳳凰の長も私たちの魔法を見てくれるそうだ。昨日力不足を実感した私たちにとって、それもとても有り難い申し出だった。
そして、親を失ったばかりの仔狐を特に気にしていたアッシュは、しばらくここに居られる事を聞いてほっとした顔をした。
「そのうちにはこの星に生命を捧げる身ではあるが…… 九尾が代替わりするにはまだ早いですな」
鳳凰の長がそう言っていたのを思い出した。きっとナインテールはあの仔狐たちを庇ったのだろうと。
彼らが言うところによると、ナインテールは本来ならば魔族などにやられるような惰弱な魔獣ではないそうだ。そしてはぐれた下位魔族ならともかく、あのような上位魔族が獣人の国にまで侵攻する事も今までにない事なのだそうだ。
魔族たちが求める物は王都にある。それを魔族から守るのは神の意思なのだ。決してその事に疑問を抱いてはいけない。
あの惨いナインテールの最期を見届けたとしても。
* * *
一行は定期的に王都に戻る。王都ではそれぞれに分かれて各機関への報告と所用を済ませ、休暇を兼ねて二日後にまた出立するのが恒例になっていた。
私たちも旅の報告の為に教会に帰らないといけない。ところがメルは、もう教会には行かないと言い出した。
確かに報告だけならば私一人だけでも十分に用は足りる。ただメルを目当てにしている重鎮の方々からは文句が出るだろう。
何故かと理由を聞いても、行きたくないからだと、ただそう言った。
最近メルはアッシュととても仲が良い。おそらく彼女に好意を抱いている。あまり自分の希望や願望を持たずに、人に言われるままでいた彼が随分と変わったものね。最初はシナリオの話をしても、気が進まない様子だったのに。
夕餉の席では私の隣の席が空いている事に、大司教様を始めとする重鎮の方々はあからさまに残念な顔を見せた。でもメルのあの様子だと、もう彼がここに来る事はないだろう。
大司教様の席から順に、金の細工で縁取られた豪奢なグラスが並べられる。それが並べられるのは私の席までで、隣のメルの席には何も置かれない。さらに下手の司祭たちの席に配られるグラスには金細工はついておらず、明らかに違う物だと言うのがわかる。
夕餉の席でこの神酒を配られるのが、教会での地位を得ている者の特権なのだ。私とメルは『英雄』に選ばれた事でようやくこれを口にする権利を得たのに。
メルは……それすらも捨てるつもりなのだろうか?




