57 英雄に添う者/デニス(2)
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。今世では鉤爪を使い、剣のスキルは隠している。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、前『英雄』アシュリーの『サポーター』。デニスの兄貴分
・ニール…冒険者見習いとして活動している、貴族の少年
・アラン…デニスの後輩の冒険者。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしている。
「魔獣に魔族、もちろん魔王もだが、こいつらを倒すのは『勇者』か『英雄』じゃなきゃいけねーんだ。他のヤツが倒しちまったら、勇者の剣に魔力が集まらない」
そう俺たちに向かって話すシアンさんの後ろから、先駆けのオークが2頭、跳び掛かって来た。
彼が振り返りもせずに手に持った剣を振ると、1頭が首から血を吹き出して倒れた。そのまま流れるようにもう1頭の襲撃を避けると、静かに「アラン、そっちに行くぞ」と告げる。そのオークがシアンさんの脇を駆け抜け、告げた通りにアランを目掛けて行った。
「だから戦闘中の『サポーター』の役割としては、『英雄』への補助や援護がメインとなる。魔法使いなら回復魔法や補助魔法を。戦士であれば、敵に致命傷を与えぬ程度にダメージを与えて動きを封じ、また時には『英雄』の盾になる」
アランが労せずその1頭を片付ける間に、後続のオークの群れが追いついてきた。少なくはないその数に、今度はオークの方に振り向いたシアンさんは、でもまだ涼しい口調のままで俺たちに話を続けた。
「正直、損な役回りだ。強敵を討伐する事もないのだから、称賛も評価もされない。ニールの言ったように、『英雄』の付き人かその程度だと思われているだろう。そしてもしもの時には、自分が死んで『英雄』を守れと、そう使命を受ける」
迫るオークの群れの中をシアンさんが軽い足で通り抜けると、ところどころのオークが吹っ飛び、または深い傷を受け倒れていく。それを逃れたオークたちは真っすぐに俺たちを目がけて向かって来た。
「だから王族の『サポーター』も、教会の『サポーター』も、それを見越した人選が行われる。だが冒険者だけは違う。闘技大会の勝者から選ばれる」
アランとニールのペアのところには多くても2頭、リリアンのところには1頭。俺のところには3頭。まるでそう制御された様にオークが向かってきて、それを倒したタイミングで次が送られてくる。
シアンさんが、そうなるように足止めして、時に間引きをしているのだ。
「すごい……」
オークと戦いながら、アランが感嘆の声を上げた。
「でも『サポーター』に必要なのは強さだけじゃない。周囲を見て瞬時に判断し、敵を倒し過ぎる事もなく加減をする。それはただ倒すよりも難しい事もある。そして己の名誉を求めず、ただ『英雄』に従う」
仲間が次々と間引かれている事に気付いたオークたちが、狙いをシアンさんに向けた。だがそれは彼らにとっては大きな間違いだった。
「だから俺を推挙してくれたアッシュの選択は正しかったはずだ」
その一言を吐き出したシアンさんの口調が強いものに変わった。目の前にいるオークを薙ぎ払って突き離し、視線をシアンさんの方に向けると、その瞳が燃えるようにギラついていた。
「俺以上に、あいつの事を考えているヤツはいない。俺以上にあいつの為に命をはれるヤツはいない。なのに……」
「シアンさん!」
その変化に気付き、名前を呼んだが既に遅かった。彼が剣を一閃すると、その周りに居たオークが一回り分、まるで弾ける様に倒れた。
「……ああ、すまない。やりすぎたな」
名を呼ばれた事で気が付いたらしい。致命傷を受け絶命しつつあるオークたちを眺めながら、シアンさんは申し訳なさげに頭を掻いた。
「おっさん、もうちょい後輩にも遣り甲斐残してやってくれや」
シアンさんの一撃に怯んだオークの群れは躊躇し、しばし足を止めた。
「こちらに3頭ください」
静かに、リリアンが告げた。
「リリアン?」
彼女らしからぬ、冷たい表情をしている。
リリアンと知り合ってまだ浅いシアンさんは、それには気付かず、少し意外そうな表情をしただけで、すぐに挑戦的な雰囲気に変わった。
「いいねえ、やってみろや」
そう言って群れを挑発すると、シアンさんに振り払われたオークたちが、リリアンに向かって行った。
シアンさんは『獣使い』を持っていた。出立時のパーティー登録で、シアンさんとリリアンに僅かに光が纏わりついたのを、俺たちは見ていた。
マスターを得たリリアンは、俺が今まで見た姿とは比べ物にならないくらいに強かった。
その軽い身でオークを飛び越え、手にした鉤爪で的確に急所を貫く。横からのもう1頭の攻撃をしゃがんでかわし、すり抜けざまに足元を掬うとその1頭は無様に転んだ。
なんだろう? 今の彼女の雰囲気は……あの大人になったリリアンを思わせるようだ。
リリアンに3頭なのに同じ数じゃあ俺にはぬるいと、シアンさんに思われたらしい。今までの倍の6頭のオークに囲まれると、これ以上リリアンを見ている余裕は流石に無くなった。
* * *
倒したオークは既に100頭近くになっただろうか。
「ほれ、デニス。いいところ見せてやれや」
そういってシアンさんが、群れを統率していたオークキングを俺の所に送り込んだ。長くはない攻防の末に俺がキングの背中を地に押し付け、剣を突き立てると、残ったオークは散り散りになって逃げて行った。
普通に討伐依頼を受けても、倒すのはせいぜい20頭か多くても30頭ほどだ。
「こりゃ、マイルズが喜ぶな」
「こんなに一度に持っていったら、逆に困るんじゃねーか?」
5人がかりでオークをマジックバッグに仕舞い込むだけでも、大分時間がかかった。シアンさんと、何故かリリアンがかなり性能のいいマジックバッグをいくつも持ってきてくれていたのが幸いした。
周りを浄化してすっかり血の跡を消してから少し休憩し、帰路についた。
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(メモ)
『獣使い』スキル(#7、14)
(Ep.2)




