閑話1 東の町にて(2)
◆登場人物紹介(既出のみ)
・ビリー…リリアンが旅の途中で出会ったBランク冒険者パーティーのメンバー。獣人フェチ
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。神秘魔法を使う事が出来る。
・タングス…仙狐(3本の尾を持つ白毛の狐)の兄妹の兄
・シャーメ…仙狐の兄妹の妹。二人とも20歳程度の人狐の姿になれる。
・ティルダ…鳳凰夫婦の一人娘。10歳程度の鳥人の姿になれる。
リリアンと過ごしたのはたった1日、会うのは約ひと月ぶりだけど、忘れるわけがない。今日の彼女には連れがいるらしい。違う種の獣人の女の子二人に挟まれて、にこやかに話をしながら歩いている。
片方は銀の長い髪を二つに束ね、同じ色の耳と尾を持つ人孤で、リリアンより幾分年上に見える。でもかなり元気そうな雰囲気の女性で、リリアンの腕をとって楽しそうではしゃいでいる様子は大人の女性というより少女の様だ。
もう片方は逆にリリアンよりかなり年下の鳥人の少女だ。短めの髪は赤毛だが、背から見える翼には赤に少し黄が入るような色が見える。あの狭間の色を何と呼ぶのかは知らないが、綺麗な色だと思った。こちらは対照的に大人しい子のようで、リリアンと手を繋いでニコニコ笑っている。
二人に挟まれたリリアンは、以前会った時の可愛らしい表情でなく少し大人びた雰囲気に見えた。一人じゃないので声が掛けにくいが…… ここで躊躇していたらチャンスを逃してしまう。思い切って近づいた。
「あ、ビリーさん! この町にいたんですね、お久しぶりですー」
声を掛ける前にリリアンの方から気付いてくれたのだが、逆に掛けようとしていた言葉を見失ってしまった。
「やあ、久しぶり。元気してたか?」
咄嗟にありきたりの言葉しか出て来ない自分が情けない。
「おね……リリちゃん、この人だあれ?」
人孤の女性は取り繕おうともせずに、不快な視線を俺に向けた。鳥人の少女はリリアンの後ろで怯えるように隠れている。いや、挨拶をしただけなのに…… 俺、そんなにキケンそうに見えるんだろうか……
「以前私がお世話になった冒険者の方だよ。親切な良い人だから大丈夫だよ」
リリアンが少女の頭を撫でながら笑いかけて、フォローをしてくれた。
早めの昼飯にと入った店は、少なくとも俺は今まで来た事のないような洒落た店だった。
「付き合ってもらっちゃって、すみません」
そうリリアンは言うけれど、まさか俺が昼飯に一緒させてもらえるなんて…… それだけでもう、すげえ嬉しい。それにこんな可愛い女の子たちが、俺がいつも使っているようなラフな定食屋に行くとも思えないしな。
どうぞと給仕が持ってきた大きめの木製のプレートには、ハーブを効かせたローストモーアにとても華やかな彩りのサラダとフルーツが添えられている。トーストされたパンが二切れ乗っていて、パンの横にあるクリームの様な物は…… これはパンに付けるのか? さらに給仕は野菜が沢山入ったスープの深皿をテーブルに置いて行った。
……女の子ってこんな、華やかなメシ食ってるんだなあ……
いやいや、姉のアンナや同じパーティーのリタとメシを食いに行く事はあるけれど、こんなメニューは見た事がないな。俺らが普段食べている、腹いっぱい食べるのを目的にしているような定食とはえらい違いだ。
そう思いながら向かいを見ると、人孤のシャーメさんと鳥人のティルダちゃんも初めての物を見るように目をまん丸くさせている。
「おいしそうだね、食べようか」
リリアンが二人のお姉さんの様な口ぶりでそう言うと、二人とも大きく頷いて本当に嬉しそうな顔で食べ始めた。
「獣人の中央都市でも、こんな洒落たランチを出す店はないんですよ。獣人は見た目とかをあまり気にしないですからね」
俺の表情に気が付いたのか、リリアンがそう補足した。
明らかに女性向けの、こんな洒落たランチは俺にはちょっともの足りなかったし、さっきの二人の輝いていたあの目をもう一度見たくて、給仕を呼んで人数分のデザートを頼んだ。届いたチョコレートケーキにはクリームがたっぷり乗せられていて、その甘さと美味しさがすっかり二人の警戒心も溶かしたくれたようだ。
嬉しい話や楽しい話になると、リリアンとシャーメさんの耳がぴくぴくと動くのはとても可愛らしい。ティルダちゃんは透き通る可愛らしい声でころころと良く笑い、それも耳に心地よかった。ケーキとお茶を愉しみながらの可愛い獣人たちとの楽しいおしゃべりで、すっかり心がいっぱいになった。
昼とデザートの代金を持つと申し出ると、それは申し訳ないとリリアンに止められた。でもここは男を立ててほしい、遠慮をするなと押し通すと、彼女は深く頭を下げて礼をしてから可愛らしく微笑んで言った。
「じゃあ今度お会いした時には私がご馳走しますね」
……また次も一緒の時間が過ごせるなと、心でガッツポーズをした。
今日は、本当にいい日だった……
あー、やっぱり獣人可愛いわー やべえ、ニヤニヤがとまんねえ……
* * *
宿に戻ったビリーはずっとニヤニヤし通しだ。帰って開口一番、リリアンに会ったと言っていたから、念願叶って喜んでいるのだろう。俺も会いたかったが、ビリーによるともう町を出て行ったというので、仕方ないな。
しかしビリーの喜びようは半端ない。
「嬉しそうなのはいいんだけど、あれじゃあいつまでたっても彼女なんか出来なさそうよね」
横に居たリタが呆れた様子で口にして、それにアンナも頷いた。そういや、リリアンに会う前は彼女が欲しいってのが口癖だったが、めっきり聞かなくなった。
「まあ、今は熱が冷めていないだけだろう。落ち着けば戻るんじゃないか?」
それが間違いだったという事がわかったのは、随分と後の事だった。
* * *
ビリーさんと会った事で結局女子会にはならなくて、一緒に行けなかったタングスはすっかり不貞腐れてしまった。なだめようと色々と話をしていたら、このまま研究所で一晩お泊り会をして次の朝に帰る事になった。勿論ティルダちゃんも一緒で。
ランチも楽しかったし、お泊り会も楽しかった。あの二人分の広さのベッドに4人でくっついて寝たのも、狭かったけれどなんだか楽しくて嬉しかった。
お読みいただきありがとうございます。
お気楽閑話なので、短く分けて投稿してみました。
タングスとシャーメは、見た目は大人ですが、中身はまだ16歳くらいです。
(メモ)
シャーメ、タングス(#32)
ティルダ(#25)
ビリー(#15~18)




