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47 仲間

◆登場キャラ紹介(既出のみ)

・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。ニールの家に仮居候中。15歳。

・ニール…冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年。14歳。

・アラン…騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしているBランク冒険者

・ギヴリス…リリアンを転生させた神。『黒の森の王』と呼ばれる獣人たちの神

・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者。23歳。

・マーニャ…エルフでBランクの魔法使い。美人で酒に強い。実年齢不詳(かなり年上らしい)。

 昨日町に着いたのが大分遅い時間だったので、今朝の鍛錬は控えめで。ニールの朝練時間に合わせて一緒に体を動かす程度にしておいた。

「リリアンさんが居てくれるお陰で、ニールも張り合いが出ているようで助かります」

 と、アランさんが言ってくれるので、迷惑をかけてないかと砕いていた気持ちが少しだけ軽くなった。


「リリアンも朝練するんだなー」

 ランニングをしている時に、ニールが嬉しそうな顔で呑気な事を言ってきた。

「うん、いつもはもっと早く起きてやってるよー」

 それを聞いたニールの口がへの字に曲がった。

「アラン! 俺も明日からはもっと早く起きて朝練やるから!」

 どうやら対抗意識を刺激したらしい。そう宣言すると、さっさと走って先に行ってしまった。あーあ、あれだとすぐにバテちゃうだろうなあ。

 張り切るニールを見て、アランさんは可笑しそうに口に手を当てた。何故だかアランさんは朝から機嫌が良い。


「リリアンさん、早朝練習の時には声をかけて下さい。私もご一緒しますので」

「わかりました。でもかなり朝早いですよ、大丈夫ですか? それに朝なら心配はいらないんじゃないですか?」

「まだ人の少ない時間ですから、一応用心しましょう。それに私も早い時間から朝練をしていますから」

 朝なら護衛の必要はないと思っていたのだけれど、確かに早朝の人気(ひとけ)はない。

 そうか。今更だけどデニスさんもそれ程に私を気にしてくれていたんだろう。

 あの時、黙ってデニスさんの部屋を抜け出して本当に悪い事をしてしまった。


 * * *


「今日は少しのんびりしようと思って」

 朝食の席で、ニールの誘いをそう言って断ると、ニールはひどく残念そうな顔をした。

 ニールって本当に思う事が顔にでるのよね。ポーカーフェイスとか、絶対に出来ないと思う。

「長旅から帰ってすぐに、またお出掛けされていたんですから。無理をさせたらいけませんよ」

「それもありますし、あと住む場所を探さないと……」

 アランさんのフォローに続いてそう言うと、ニールが不思議そうな顔をした。

「まだここに居ればいいじゃないか」

「ええ、でも悪いし……」

「そうですね。せめて安全が確認できるまではここに居ていただいた方が、用心も出来るので都合が良いでしょう」

 ニールはともかく、アランさんにまでそう言われると、ちょっと心が緩んだ。


「部屋も空いてるしさ。俺とリリアンの仲なんだから遠慮すんなよ!」

 って、ニール!? いったいどんな仲よー!?

 多分アランさんも同じような事を思ったのだろう。もう笑いを(こら)えきれない様子で、口元に手をあててニヤついている。

「それにリリアンさんが居ると、ニールの気合が全然違うんですよ。もうしばらく、いい刺激を与えてやって下さいな」

 そんな風にアランさんが言うものから、朝錬の事を思い出して私まで吹き出してしまい、ニールはそんな私たちを見て、なんだよーと不貞腐(ふてくさ)れた。


「お出掛けされる時には、あまり人気(ひとけ)のないところには行かないように、用心して下さいね」

 そう言って、二人は出掛けて行った。今日は近場のクエストでも受けてくるそうだ。



 洗濯など身の回りの事を済ませると、一人で町にでた。

 1年以上住んでいる町の風景が、今は少しだけ別の色で色付けされている。

 ドリーさんが記憶の整理をしてくれたからだ。今の街並みに昔の思い出が重なって見えている。

 そして何故かずっと足が向いていなかった場所がある事にも気が付いていた。


 季節は日差しが痛いほどに眩しい頃を迎え、町中(まちなか)の樹々では夏の虫が死にもの狂いで(こえ)を上げて競い合っている。でもそんな聲も今の私の心には響かなくて。まるで分厚いカーテンを頭から被っているかの様に、遠くの方に聞こえている。


 今、心の中に響くのは別の声で……


 なかなか美味かったな。

 食べ過ぎちゃった。どうしよう太っちゃう。

 そんな気にする程じゃねえのに。

 気に入ったのなら、また皆で行こうか。

 もう一軒、良い店知ってるのよー

 今度はそこにも行ってみましょう!


 なあ、今度は二人で行かないか?

 何抜け駆けしてんだよ!

 じゃあ、私と一緒に行こう?

 ずるいー 私も行くわよー

 ええっ なら、私たちも二人で一緒に……

 ははは。これじゃあ結局皆で一緒に行くようだな。


 それを聞いて、皆で笑った。

 嗚呼、良かった。皆が笑っていて良かった。


 思い出を数えながら道を辿ると、懐かしい場所に行きついた。

 でも顔を上げても、目の前が(にじ)んで良く見えなくて……


 何かがぽろぽろと頬を伝って落ちていった。


 * * *


 アランさんとニールの許可を得ているので、午後は談話室にある書棚の本を読ませてもらう事にした。

 先日見かけた時から気になっていたのだけれど、ここには王都の図書館でも、他でも見かけない本が何冊かあるのだ。


 その内の1冊を手に取ってみた。


 なんて事のない、この国の神話が書かれた絵本だった。

 この国に生まれた者であれば、子供でも知っている物語だ。昔の私も、確かにこの物語を知っていた。

 絵本に描かれる魔王の姿は、黒い髪に血のような赤い目を持っていて。この絵を見る度に私は自身の髪と瞳の色を嘆いた。


 この国では当たり前のこの物語は、でも何故かこの人間の国(シルディス)にしかない。そして確かにこの話の通り、魔王は時を経て復活し魔族はこの国を襲う。

 何故か彼らが目指すのは人間の国だけなのだ。獣人の国、ドワーフの国、エルフの国には見向きもしない。


 何故か?と、思う事は他にも沢山ある。

 その中には、魔族領に入った事のある者だから思うだろう事も。

 そして、ギヴリスに会った事のある、私だから思うだろう事も。


 ……何故ギヴリスは魔族領で『捕らえられて』居るのだろう?

 その疑問を、問う事は()()()()()()()

 多分、彼は多くの事を知っている。でもそれを問う事は出来なかった。出来たとしても、教えてはくれない事もわかっていた。


『君たちの世界に、僕が直接手を出す事はできないんだよ』


 教える事も、彼が手を出した事になるのだろう。

 ギヴリスの(いおり)――研究所にも、彼の隠家にもたくさんの本があって、その中には読んではいけない本があった。それもおそらく同じ理由だろう……


 でも、こうして自分で調べる事は禁じられていない。おそらく、自分たちの力で何かをするのならば良いという事だろう。


 ならば、自分で知るしかない。この世界の事、魔族の事、魔王の事……


 何冊目かに手を掛け書棚から引き出すと、隣に並んでいた薄い本が一緒に抜かれて落ちた。

 落ちた本を拾おうとしゃがみ込んだ私の目に、その表紙に書かれている文字が飛び込んできた。


 何故…… こんな物がここにあるんだろう……?


 本の題名(タイトル)に、少し躊躇(ためら)ったが意を決して表紙を開いた。


 そこに書いてある言葉に、署名に、胸が痛んだ……


 * * *


 今日は『樫の木亭』に、ヤマモモの酒とシロップ漬けをお土産に持ち込んだ。昨日の最後に立ち寄ったラントの町で引き取って来た、以前に頼んで仕込んでもらっていたものだ。

「お土産って、ミノタウロスの肉じゃなかったのか?」

「あれもだけど、元々はこれがお土産のつもりだったのよ。ミノ肉は偶然手に入った物だからねー」

 見慣れぬお酒に皆興味津々で、あっという間に半分が無くなってしまった。珍しいからと、一度は飲んでみようと思った人が多かったらしい。


 程よく水で割ると、甘くて飲みやすいので、あまり酒に慣れていない人には特に好評だった。私やニール、他にもお酒自体が飲めない人にはシロップ漬けを水で割った物を用意した。

 さらにトムさんがヤマモモ酒の実を使って、肉に添えるソースを作ってくれた。オークソテーに掛けると、酸味がいい感じに肉の味を引き立ててくれて、これも今日の人気メニューになった。マーニャさんやアランさんはこちらの方が気に入った様だ。



 この四日間、ここでも色々あったらしい。

 ニールは急用があって、少し故郷に帰っていたそうだ。マーニャさんが付き添ったというので、珍しい組み合わせなのもあり少し驚いた。でもその話が出た時に、アランさんはちょっとだけ嬉しそうだった。

 ミリアちゃんは相変わらずジャスパーさんに(あき)れてはいるそうなんだけれど、でもヘマが減ってきたので怒らずに済んではいると、ため息と一緒にぼやいていた。



「そういや、リリアン。住む所はどうするんだ?」

 デニスさんがエールを(あお)りながら聞くと、アランさんが代わりに答えた。

「ああ、ひとまず例の件が落ち着くまでは私たちと一緒に居てもらう方が良いと思いまして」

 気のせいか、それを聞いたデニスさんの眉間に少しだけ(しわ)が寄ったように見えた。


「お言葉に甘えさせていただいて、まだしばらくニールの家にお世話になります。その間に住む場所見つけてきますー」

「部屋を探しに行く時は、俺も付き合うからな」

「んーでも、日中は護衛なくても大丈夫ですよね? 人気のない所とかは避けますから大丈夫ですよー」

 そうは言ったけれども、デニスさんは不服そうだ。どうにもデニスさんには過分に心配されている様に思える。


「なあ、リリアン。明日は俺とクエストに行かないか? 部屋探しはまた今度でいいだろう?」

 部屋探しの話に割り込むように、ニールの誘いが入った。今朝は断ったしね。

「明後日は家庭教師が来るし、その先もしばらくは用事があるからがっつりクエスト行けないんだよー。俺リリアンと一緒に行きたい」

 行きたい、と言う時に笑ったニールの顔が、やたらとキラキラしてみえた。

 あれ? ニールってこんな風に笑ったっけ? そう言えば、『樫の木亭』で働く様になってから、ニールの雰囲気が変わったなあとは思っていた。以前はもうちょっと意地悪っぽかった気がする。


「んー、そうだね。明日は一緒に行こうー」

 そう言うと、ニールのキラキラがさらにグレードアップした。

「なあ、ニール。俺も行っていいよな?」と、デニスさんが言い、ニールが「マーニャさんも」と言うと、彼女は飲んでいた酒のジョッキを掲げてみせた。


 明日は久しぶりのクエストだ。しかも皆と一緒で、とても嬉しい。

 今の私も、こんなにいい仲間に恵まれている。


 昼の感傷を思い出し、昔の自分に向けて、「大丈夫」と心で声をかけた。

 お読みいただきありがとうございます。


 前回の話は早めに仕上がっていたので、今回は余裕があると思ったら、結局ギリギリまでかかっていました。

 締め切りがないとダメな性格の様です(笑)


 サイドストーリーとは別に、ショートストーリーを書きたいなと思うこの頃……



(メモ)

 朝練(#9)

 あの時(#40)

 神話(#32)

 ギヴリス(#17)

 ヤマモモ酒(#10)

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一部の話を『『ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい』おまけ閑話集』への別掲載の形に変更いたしました。
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