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40 ブランケット/デニス

◆登場人物紹介(既出のみ)

・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女

・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者

・ジャスパー…デニスの後輩冒険者で、『樫の木亭』夫婦の一人息子

・ニール…冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年

・アラン…デニスの後輩の冒険者。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしている。

 夢を見ていたようだ。

 夢の内容は覚えていないが、なんだか懐かしい、そんな気がした。


 そして目が覚めると、リリアンは居なかった。


 * * *


 何してんだ、俺は……


 まず、何で俺がベッドに寝ているんだ? 昨晩はリリアンをベッドに寝かせたはずなのに。俺はリリアンの隣であのまま寝ちまったのか?

 まさか…… 寝ぼけて何かしでかしてたりしないだろうか……


 まだ少し混乱している頭と気持ちを抑えながら、でも慌ててベッドから出る。


 ソファに綺麗に畳まれたブランケットが置かれていた。俺が畳んだんじゃない。リリアンか。

 ローテーブルにメモが置いてあり、『朝の鍛練をしてきます』と丁寧(ていねい)な字で書かれていた。

 それを見て少し安堵(あんど)した。少なくとも、俺のせいでリリアンが出ていった訳じゃないらしい。


 いや、待てよ?

 今あいつを一人にしたらマズいんじゃないか!


 慌てて部屋を飛び出した。



 俺は毎朝、公園で朝のトレーニングをしている。今日はその時間にも完全に寝坊をした。

 昨晩の騒ぎがあったからな。仕方ない。

 いや…… それは甘えだ。リリアンだって同じだろうに、ちゃんと早起きをしているじゃないか。


 リリアンを探す当てはなく、ひとまずいつもの公園に向かった。

 が、そこであっけなくリリアンを見つけた。


「あ、デニスさん、おはよーございますー」

 俺が毎朝公園で会う子供たちに、リリアンがパンを手渡しているところだった。

 子供たちは俺の姿を見て、「おはようございます」とか、「にーちゃん遅かったな」とか「このねーちゃん、にーちゃんの彼女?」とか、好き勝手に色々と言ってくる。戸惑いつつもそれらに返事をし、いつもトレーニング後にするように子供たちの頭を撫でてやった。

 皆がいつもの嬉しそうな顔になり、礼を言いながら帰って行くと、リリアンと二人になった。


「あーー……と、すまない。面倒をかけさせちまったか?」

「いいえー 皆良い子ですねー」

 申し訳ない気持ちもあるが、リリアンがニコニコしてくれているのが救いだ。

 でも俺の言いたいのはこんな事じゃないはずなんだが……

「ロディさんの店で、朝食用にサンドイッチ買ってきましたー。帰って食べましょう」

 そう言って、大きな紙袋を見せた。こいつ、どんだけ買ってきたんだ?

「……そうだな、ひとまず帰るか」

 朝飯を食ったら、リリアンにちゃんと話をしないとな。


 * * *


 ひとまず、俺がリリアンに何か失礼な事をしちまったとか、そういうのはないようで、そこは安心した。昨晩はあのまま俺が寝ちまったので、リリアンはソファで寝る羽目になったらしい。


 今朝、リリアンが公園に居たのは本当に偶然だそうだ。

 子供たちには、俺の居ない日にも年長者が年下の面倒を見て、最後にパンを配るように教えてある。リリアンが自分のトレーニングを終えてロディの店にいったら、パンを引き取りに来た子に会ったらしい。そして一緒に公園へ行き、子供たちの面倒も見てくれていたと。


 俺は先輩として、リリアンを守る為にここに連れてきたはずなのに…… むしろリリアンに面倒をかけた形になったのが、申し訳ないし、情けなかった。


「なんか色々とすまない」

 頭を下げると、リリアンの方が申し訳なさげな顔をして手をぶんぶん振って否定した。

「いいえ、昨日から迷惑かけてるのは私ですし! 第一、デニスさんにこのソファは小さすぎるじゃないですか! 私がこっちで良かったんですよ」

 でも数日だが俺と旅をしていて、ここしばらくベッドで寝かせてやれていない。王都に帰って、やっとベッドで眠れるはずだったのに……


「それでですね、ちょっと考えてたんですけど…… どうせ住む所がないなら、またちょっと出掛けて来ようと思いまして」

「は!?」

「で、帰ってから部屋を探そうかと……」

「……出掛けるって、どこへだ?」

「ドワーフの国に。頼んだ武器を受け取りに行かないといけないんです。少ししてから出直そうと思ってたんですけど、そういう事ならすぐに行って来ようかと」

 ……またえらく遠いな……

 話を聞くと、本当ならワーレンの町の後にそこに立ち寄る予定だったらしい。

 ジャスパーが同行したので予定が狂ったと……

「なら、俺も一緒に行く」

「えー、一人で大丈夫ですよ。王都の外ならあの手紙の事も心配ないじゃないですか」

「んな事言ったって、相手は貴族だし、どこで何があるかわからんだろう」


「また私に乗るんですか?」

 リリアンが、ちょっと恥ずかしそうに訊いてきた。


 ……そういう事になるよな。

「……とにかく、一人にゃさせられねぇ。心配だ。同行させてほしい」

 ()えて、それには答えずに誤魔化(ごまか)した。


 そして言いたかった事は、結局言えなかった。


 * * *


 二人で『樫の木亭』に行くと、トムさんに怒られながらもジャスパーが仕込みの手伝いをしていた。昨日ミリアに何か言われたらしいと、シェリーさんがこっそり教えてくれた。


 昨晩、ジャスパーがリリアンにした事をトムさんに伝えると、やはり大きなため息をついて頭を抱えた。これでリリアンが『樫の木亭』を出るのは決まりになった。

「元々ここでお世話になるのは、見習い期間が終わるまでの約束でしたから。私が甘えてる感じになっちゃってたんです。新しい部屋探しますし、大丈夫です」

 トムさんたちからしても、リリアンが居れば店を手伝ってもらえるので、そのままにしておいたという経緯(いきさつ)もあるらしい。


 そんな話をしていると、アランとニールが『樫の木亭』にやって来た。例の手紙の件で、これからギルドマスターに話をしに行くと。俺とリリアンにも一緒に来てほしいそうだ。


 * * *


「単刀直入に言いますと、あの手紙の主がわかりました。事情がありますので、お名前は言えません。ですが、その関係者に協力を仰ぐ事が出来ました」

「俺の……知り合いだった…… リリアン、ごめん……」

 アランの説明に続いて、ニールがそう言って頭を下げた。詫びるという事は、今回の件は彼に関係があるのだろう。

「ニール様」

 アランが(たしな)めるように強く名前を呼ぶと、ニールはああと言って黙り込んだ。

「……そして目的ですが、残念ながら悪い方の予想でほぼ当たりだったようです。なので、ミリアさんも含め、身辺に気をつけておいて正解でした」

 ギルドマスターのマイルズさんも、それを聞いてうんうんと(うなず)いた。


「そして手紙の主の()()()に話をすることができまして、その方も今回の事を好ましくないと(おっしゃ)って下さったので、対応をお願いしました。しかし、その対応が何時(いつ)からなのかわかりませんので、警戒は引き続きお願いします。あと……」

 ここでアランは深くため息をついた。

「その手紙の主からリリアンさんに、招待状が届くかもしれません。それについては事件性などがあるわけではないので、こちらから口は出せません。リリアンさん自身でどう対応されるかになるでしょう」

「え? なんで私に招待状?」

「……アラン。回りくどい言い方じゃなく、はっきりとわかりやすく話せ」


「……はい。つまりは先方は男性で、リリアンさんと関係を持ちたいと思われているようです。強硬手段に出るのは止めていただける事になりましたが、正攻法で…… まずはお茶などにお誘いして、そこから親しくなられて…… というのなら問題ないという話になりました」

「正直…… 俺はリリアンには行ってほしくない…… でもあいつ、顔と外面は良いから……」

「ニール様、貴方は黙っててくださいと言ったでしょう」

 さっきより強くアランに叱られたニールは、眉間に(しわ)を寄せつつ口を(つぐ)んで(うつむ)いた。


「なあ、アラン。その貴族の影響力はどんなもんだ? 王都の外なら大丈夫そうか?」

「いいえ、その方は顔は広いので…… むしろ王都の外では監視の目が届かない可能性があるので、余計に警戒してください」

「……だとさ、リリアン」

「はい……」

 リリアンは観念して、でも明らかに残念そうに返事をした。

 その残念そうな素振りが、俺と一緒は嫌なのだと言われたようにも感じて、ほんのちょっと胸に刺さった。


「王都の外に行かれるので?」

「ああ、ちょっと用事があって出掛けてくる。俺が付いて行くから大丈夫だ。ただ、もうしばらくはこっちの事をアランに頼まないといけない」

「……またですか」

「出来るだけ早く戻ります! あと戻ったら部屋を探さないと……」

「うん? 部屋ですか?」

 俺以外は昨晩の騒ぎを知らない。リリアンの言葉に(いぶか)しげに反応した。

「私が『樫の木亭』で借りていたあの部屋…… 元はジャスパーさんの部屋なんです。ジャスパーさんが帰って来たので、あそこを出ないといけなくて……」


「昨晩は急だったから俺の部屋に泊まらせた。周りの警戒もしなきゃならんから、都合はいいんだが……」

 それを聞いて、マイルズさんは顔をしかめて言った。

「男の一人暮らしの部屋に女性を泊まらせるのはどうかと…… いや、でもそうか。手紙の事があるから、女性の部屋に預ける訳にも、宿に泊まらせる訳にもいかんのか……」


「なら部屋が見つかるまで、俺んちに来ないか?」

「え? ニールの家?」

「そうですね。客間が空いていますし、私もメイドも一緒に住んでますから、そういった心配もないと思います。身辺も守れます」

 ニールの提案にアランが後押しをし、リリアンがほっとした顔で少し微笑んだのが見えた。


「……まあ、俺の部屋も男の部屋だからな…… リリアンにとって安心できる場所じゃないだろう。その方が良いんじゃないか?」

 自分の言葉なのに、吐き出す時に何故か少し喉に詰まった。

「ああ、それがいいな」とマイルズさんが言った言葉も、「助かります。よろしくお願いします」とリリアンが微笑みながら二人に頭を下げる姿も、何故か目の前ではない、ガラス越しか何かの風景の様に感じていた。



 冒険者ギルドを出て4人で『樫の木亭』に戻り、トムさんに簡単に説明をした。

 その間にリリアンはジャスパーの部屋から自分の荷物を持ってきた。そう大きくはないマジックボックスが、たった一つだけだった。

 ニールが運ぼうかと声をかけたが、曰く防犯対策の為に本人で無いと持てない仕組みになっているらしい。


 リリアンと明日の朝に出立する約束を交わし、3人とは『樫の木亭』の前で別れた。



 一人で部屋に戻ると、ソファに置いたままになっていたブランケットが目に入った。リリアンが畳んだブランケットだけが、一晩だけでも彼女がここに居た事を訴えているような気がした。


 寂しいような、でもどこか不安や苛立ちにも似ている、こんな気持ちに自分がなるだなんて、思ってもいなかった。

 お読みいただきありがとうございます。


 今回のサブタイトルの付け方は、ちょっと気に入ってます。

 前半でブランケットが出てきた時には、最後のオチ?にするつもりは無かったのですが、いい案配にデニスが動いてくれました♪


(メモ)

 朝のトレーニング(#9)

 ドワーフの国、武器(#11)

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一部の話を『『ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい』おまけ閑話集』への別掲載の形に変更いたしました。
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