23 行く先
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。金獅子族の城では魔法石の力でリリスと言う名の大人の戦士に化けている。
・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。
・イリス…リリアンの姉で、三つ子の真ん中。銀の髪と尾を持つ。
・レオーネ…金獅子族の戦士
・ベルトルド…金獅子族の族長
・ティルダ…鳳凰夫婦の一人娘
・コニー…金獅子族の少年。同族に殺されそうになったところをティルダに助けられた。
・バスク…5色に光る羽根をもつ鳳凰。壮年の逞しい男性の姿になっている。圧がすごいらしい。
・シュティス…バスクの妻。細身の赤毛の女性の姿になっている。
昨日の戦士に感化された長が、今日の訓練をやけに厳しくしたのは当然の事だったろう。自分も同じく多大な影響を受けた様で、久々に早朝から鍛錬に励んでいたのだが。
リリスと言う名の人狼の戦士は…… おそらく自分と年齢はあまり変わらぬくらいだろうに、あそこまでの腕を持つとは。いかに自分の努力が不足していたかを思い知らされた。
獣人でありながら、鉤爪だけでなく剣をあれほどに扱えるという面においても、己の求める道を改めて確認させられたと思う。
皆が引き上げた訓練場で、模擬剣を手に一つ一つ型を確認しながら、昨日の事を思い出す。長と手合わせをした時のリリス殿の立ち姿、身のこなし。全てが脳裏に焼き付けられ離れない。
夕食の席ではもっと色々な話をして聞いてみたかったが、隣にイリス嬢が居たので思うように叶わなかった。
願わくは、またお会いして是非自分とも手合わせをしていただきたい。どのような特訓をされているのかご助言や指南などお受けしたい。そして……
「レオーネ殿、こちらにいらっしゃいますか?」
その時、バタバタと慌ただしい足音と共に兵士が訓練場に入って来た。
「なんだ?」
「急な来客でして…… ええと、今朝お立ちになったお客人がまた参られております」
自分の願いが神に通じたのではないかと思った。
* * *
正直に言うと私はすぐには納得できなかった。
でも反対をしていたのは私だけだったし。ティルダちゃんでさえ、「城になら、小鳥になればすぐに遊びに行けるじゃないか」とカイルに言われて頷いてしまった。
確かに金獅子城から連れ出したところで、私が彼の生活の保証をすることは出来ない。種族同士の争いの火種になり兼ねないので、灰狼族の集落にも連れて行けない。
私が出来るのは人間の国に連れて行く事くらいだ。それも良策とは思えない。
本人の希望が第一なのもあり、カイルの提案に協力する事となった。
金獅子城には『獅子人の子供が倒れて居るところを保護した』事にしてコニー君を連れて戻った。
詳しい状況を私たちは知らない。コニー君も気を失っていて覚えていない事にする。
巫女のイリスがさり気なく「こんなに幼いのに『獣使い』を持っているとは、さすが金獅子族ですね」とアピールする。
これで先方の巫女も彼の『獣使い』を確認するだろう。恐らく『何かが引き金になり発現した』事にでもなるはずだ。
ティルダちゃんの見かけた例の獅子人たちが怪鳥の話でも出してくるか、そうでなくても彼らが勝手にシナリオを作ってくれるだろう。
さらに私は長とレオーネさんに話をする。
「この子が気に入りました。また彼の様子を見に来ても良いでしょうか?」と。
また手合わせをする機会を望んでいた金獅子の長にとって、私の再訪問は願った話だろう。コニー君の存在がその機会を作る事になる。
その際にはカイルもイリスも同行すると話しておいた。レオーネさんも目を輝かせていたし効果はあるようだ。
灰狼族の長も戦士も気にかけている子供で、たまにでも様子を見に来るとなれば、そうそう下手な真似はできまい。
「このくらい条件を揃えておけば、今回みたいな事にはならないと思うよ。でも後は自分で生きていける力を付けないとね」
これからがとても大変だよと言ったカイルに、コニー君は真剣な顔で頷いた。
ティルダちゃんも毎日様子を見に来ると張り切っていた。それを聞いて、カイルが私の意見に反対した理由がもう一つあった事に気付いた。
そうか……
「レオーネさん」
戦士の名を呼び、歩み寄る。
「彼は強くなりたいと言っていました。貴方が彼の力になってあげていただけませんか? 私もこちらにお伺いした時には、出来る事は協力しますので」
そう言って深く頭を下げた。レオーネさんの庇護下に入る事ができれば、きっとコニーくんも安全だろう。
イリスも「私からもお願いします」と隣で頭を下げる。レオーネさんはとても嬉しそうな顔をして快諾してくれた。さすがイリスね。
無事にコニー君を城に帰し、その日二度目の金獅子族との別れとなった。
コニー君もレオーネさんと一緒に見送りに出てくれた。頑張ってね、とコニー君の頭を撫でると、「うん」と力強い返事が返って来た。
* * *
その日見た夢の中で、大きく逞しくなったコニー君と、今よりちょっと大人になったティルダちゃんが、二人で手を繋いで歩いているのを、私は見ていた。
二人は互いを見ながら微笑んでおり、その様子を見て嬉しいような、でも何故か寂しいようなそんな気持ちになった。
鳳凰のティルダちゃんの方が成長はゆっくりだ。コニー君はすぐにティルダちゃんに追いついて、そして彼女を追い越すだろう。
種族の違う二人が共に過ごすのは容易な事ではない。でもあの二人は上手くいく、そんな気がした。
気付けば自分も誰かと手を繋いでいた。
「ああ、お前もそこに居たのか」
不器用な笑顔で言う『前世の私』に、彼も微笑みで応える。
会いたかった……と、自分の心が咽び泣くような声をあげる。
「この旅が終わったら、二人で……」
彼の言葉の最後は何故か聞こえない。でもちゃんと覚えているよ。
ああ、一緒にいきたかったなあ……
胸がつまって、ただ足元を見つめた。
項垂れる私の後ろから、『彼』が『私』を包むように抱きしめた。『前世の私』は女性にしては背が高い。いくら彼が私より背丈があるといっても、腰掛けもせずにこんな体勢になれるはずはない。
「リリアン」
『彼』が『私』の名を呼んだ。
そうか私はリリアンだった。じゃあ、私を抱きしめている『彼』はいったい誰なんだろう?
「リリアン」
また名を呼ばれたけど、彼の顔を見る事が出来ない。
「リリアン」
三度目の呼び掛けに、目を開いた。
* * *
「どうしたの? 今朝は珍しくお寝坊だね」
目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
さっきまで私の名を呼んでいたカイルが、やっぱり疲れてたのかもね、と言いながら窓を開ける。朝の光と共に、清々しい山の空気が入り込んで来た。
上体を起こすと、目からつぅーと水が零れた。慌てて手の甲で拭って、そおっとカイルを見るとまだ背中を向けたままでいる。多分、見ないふりをしてくれている。
何食わぬ風で「イリスは?」と聞くと、早起きして朝食準備を手伝っているそう。
そのままカイルに見られぬように洗面所に向かい、顔を洗った。顔を拭いて鏡を見るといつもの「リリアン」がそこに居た。
小声で私に語り掛ける。
「そっか、少し羨ましかったんだね……」
昨晩はバスクさんの勧めで、鳳凰の住処に泊めてもらう事になった。
「コニー君が帰ったばかりだし、3人まで帰っちゃうとティルダが寂しがるわ」
そうシュティスさんも言ってくれたので、お言葉に甘えさせていただいた。
「今日はどうするのかね?」
「一族の集落に帰ります」
なんだか昨日も聞いたような会話で、ちょっと可笑しくなった。
「他の皆の所にはもう行ったのかね? 仙狐たちは特に君に会いたがっていたが」
「もうお伺いして大歓迎していただきました。今度町の方にも遊びに来てくれると。お爺様には最初怒られてしまいましたが」
そう笑って答えると、バスクさんはやれやれといった様子で言った。
「あの爺さんは融通きかんからなぁ。わかっててもアレはやめらんのだろう」
やっぱり。あれはわざとだったのね。
「もしよければ、私がお送りしよう」
それを聞いてカイルが少し眉をひそめた。
「とても有り難いのですが…… 騒ぎにならないかなぁ?」
鳳凰の姿は確かに目立っちゃうよねえ。
「いや、さすがにあの姿ではいかないし、離れた場所に下ろすから大丈夫だ。元の姿で飛ぶ時も目眩しをかけている。人にでも知られたら厄介だからな」
不安げなカイルと対照的に、イリスは今までにない経験ができそうねとやたらと嬉しそうだった。
* * *
我々地を走る獣が空から地上を見下ろす事はそうはない。ましてや、風を切って飛ぶような事など。
巨大な鷲の姿になったバスクさんの背中は、私たち3人が乗るには十分な広さだった。カイルがちょっと強張った表情をしていたので、大丈夫?と聞いてみたが、真剣な顔で頷いてみせたので、本人の建前を尊重する事にした。
「バスクさん、少し高く飛んでもらえませんか?」
「どうしたかね?」
「……少し、あちら側を見ておきたくて」
そう言うと、バスクさんは黙って逆に向きを変え、高度を上げてくれた。
『獣人の国』と呼ばれる地域の外れは深い峡谷でその向こう側と隔てられている。峡谷の先は、まだ昼間だと言うのに闇の世界だった。
「あっちはなんであんなに暗いのかしら?」
イリスがぽつりと呟く。
「あちら側は魔族領だ。まだ魔族は眠っているので、あの様に闇に覆われている」
「こんなに近いのか……」
察したらしいカイルが少し青ざめている。
「安心したまえ。基本的には魔族は『獣人の国』を襲わない。彼らの目指す先は人間の国だ。たまに『はぐれ』がこの峡谷を越える事もあるが、それは我々が対処している」
そう言うと、バスクさんはまた方向を変え、今度は帰る方角に向かって高度を少し下げた。
「ありがとうございます。安心しました。一部の魔族が目覚めていると聞いたので、その時が近いのではないかと……」
「いや、あの様子だとまだ先だろう。その魔族の事だが、シアン殿からそれらしい話を聞いた事がある。さほど害はないので大丈夫だとは言っていた」
「シアに会ったんですか?」
「彼はあの後に2度来ている。すぐ後に挨拶に参られたのと、もう一度は2年ほど前だ。龍のが彼を気に入ったようで、その時は爺様の所にしばらく滞在していたらしい。かなりしごかれたと、うちに来た時にボヤいていたよ」
はっはっはっとバスクさんが大きく笑うと、ちょっとその背が揺れ、カイルがびっくりしてバスクさんの背中の羽に強くしがみついた。
「彼はとても元気にしていたよ。会ってはいないのか?」
「こんな姿になって、わかる訳もないですし。それにどんな顔をしていいかわからないんです。でも良かった。シアが元気で居てくれて……」
ほっとした半面。他の仲間の事を思い出して、少し悲しくなってしまった。
バスクさんが大きく羽ばたいてスピードを上げた。この分だと昼過ぎには灰狼族の集落に帰れるだろう。「すごいね」とはしゃいで言うイリスの声に気付き、「うん」と笑顔で応えて見せた。
空から見下ろすいつもと違う光景に、3人での会話は盛り上がって、時間はあっという間に過ぎた。
集落に着くまでは、カイルは頑張って耐えた。
お読みいただきありがとうございます。
リリアンが勝手に夢を見てくれたのでそこの部分が自己満足。
そんな流れの予定は全くなかったのに…… キャラって動くものですね。
逆に不満点はイリスの描写と存在感が薄い事。
大人しくしているキャラはどうしても目立たないです。
ラーシュのせいで、出るはずのないキャラが出てきました。
せめて幸せになってほしいです。




