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121 少年(2)

◆登場人物紹介(既出のみ)

・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。冒険者の『サポーター』

・マルクス…上位魔族、魔王の側近の一人。見た目は人間の少年の姿。人間に混ざって町で薬売りをしていた。

・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役。アシュリーの生まれ変わりであるリリアンに執心している。

・ニール(ニコラス)…王族の『英雄』。リリアンの友人で、前『英雄』クリストファーの息子

・デニス…リリアンの先輩で冒険者の『英雄』。リリアンに好意を抱いている。

・アラン…ニールの教育係をしていた騎士。新しい王族の『サポーター』

・マコト…神の国(日本)から召喚された『勇者』

 普通に旅をしていたら、おそらくマルクスには会わなかっただろう。

 どうやらシアさんの存在に気付いていて、彼の行く先を避けて移動してたらしい。魔族の彼も、魔力の匂いを嗅ぎ分けることができるそうだ。

 今回はこうして前触れもなく転移で帰って来たので、事前に逃れる事ができなかったのだろう。



 家に上げてお茶を出しても、マルクスはまだ警戒を解こうとはしていなかった。

 さっき言ったように話を聞きたいだけなのに。見た目は私よりずっと幼い少年だし、なんだか調子が狂ってしまう。


「ワーレンのダンジョンを作ったのも、マルクスですよね?」

 お茶菓子を勧めながら尋ねると、こくこくと大袈裟(おおげさ)に首を縦に振った。

「うん…… おれ、皆みたいに戦うのは得意じゃないからさ。ああやって色んなものを作って稼ぐしかなくて……」


「へっ!? ダンジョン??」

 当たり前のように私の家にまでついてきて居たニールは、私たちの会話を聞いて変な声を出した。

 ニールにとって、このポーション売りの少年マルクスは『友達』なんだそうだ。


「ダンジョンの何を作るんだって??」

 まだ状況を把握できていないニールが、答えを求めるように私の方を見る。

「ダンジョンそのものですよ。彼はダンジョンクリエイターです。デニスさんが昔入ったダンジョンも彼の作だと思います」

 最後はデニスさんの方を向いて伝えた。


「……言っていたな。ワーレンのダンジョンと製作者が同じだろうって」

「はい、しかも新しい物だったので、まだ彼の魔力の残り香があったのでしょう。匂いを嗅げない人間でも気配のようなものを感じたはずです」

「今、ダンジョンを作っているのはおれだけだから……」

 マルクスが横から遠慮がちに言葉を挟んだ。

 

「……シアン様、リリアンさん…… 彼は何者ですか?」

 アランさんは私たちの会話を聞いていて、何かに気が付いたのだろう。不安そうな顔で答え合わせを求めた。


「魔族だよ。魔王側近の上位魔族だ」

「えええええええ!!!!」

 シアさんの言葉に、ニールが隠しもせずに大声を上げた。


「彼には何度も会っていたのに…… そんな事、ちっとも気づきませんでした」

「そりゃあそうだろう。こいつは魔族らしくなさすぎる。普通のやつらにはわからないさ」

「多分、今までもこんな風にあちこちを巡っていたのでしょうね」


「うん、おれは他のやつらよりも見た目が人間に近いから。バレた事は一度もない」

「ずっと起きていたの?」

 そう尋ねると、うんうんとまた首を縦に振った。

「でも別に悪い事はしてないよ。ダンジョンを作って、あとはああしてポーションや道具を売ってたくらいで」


 まだ驚きを抑えきれないニールが、私たちの会話に割って入る。

「そうだ。お前の父さんの体が弱いから、その為に稼ぐんだって…… え…… もしかして、父さんって……」

 自分の言葉に(つまづ)いて、またニールの口が止まった。


「魔王だろう?」

「ああ、ニンゲンは父様のことをそう呼ぶな」

 あっけらかんとしたシアさんとマルクスのやり取りに、デニスさんが首を傾げた。

「つまり、魔王が弱ってきているって事か?」


「それは前からだろう?」

 今まで黙ってお茶を飲んでいたマコトさんが、さらりとした言い方で口を挟んだ。

「僕が最初の『勇者』としてこの世界に来た時からずっと、魔王は弱り続けている。すでにだいぶ力を失っているようだが……」


「そうだ。父様は前よりもっともっと弱っている。だから、おれたちがどうにかしないと父様が死んでしまう」

 悔しそうにマルクスが言うと、皆が複雑そうな表情をした。それもそうだろう。私たち討伐隊は、その魔王を倒す為に選ばれているのだから。


「あーー…… 俺たちは一応、魔王討伐隊で…… 魔王を倒す為に旅をしているんだが……」

 困ったようにデニスさんが言うと、マルクスが泣きそうな顔になった。


「リリアンさん…… 彼は本当に上位魔族なんでしょうか? それにしては、だいぶ……」

 アランさんが言い難そうに言葉を濁す。言いたいことはわかっている。

「確かに他の上位魔族のような強さや恐ろしさは彼にはありません。でもあれだけのダンジョンが作れるのですから、決して力がないわけではないと思います」


「……なぁ、シアンさん…… これ、どうすればいいのかなぁ?」

 一番戸惑った様子のニールが、(すが)るような声で言った。

 お読みいただきありがとうございます。


 前回の話を書いた時に、後半も含めて書いていたので早めに仕上がりました。

 (一応、週産文字数の宣言を守ろうとしているつもり)


 次回はちょっと息抜きで、クリスマス閑話になります。



(メモ)

 ワーレンのダンジョン(#15、#17、#33)

 父様(Ep.5)

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一部の話を『『ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい』おまけ閑話集』への別掲載の形に変更いたしました。
よろしければこちらもよろしくおねがいします♪
https://ncode.syosetu.com/n2483ih/

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