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120 『サポーター』/ニール(3)

◆登場人物紹介(既出のみ)

・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女

・ニール(ニコラス)…王族の一人。前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥

・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーの生まれ変わりであるリリアンに執心している。

・デニス…リリアンの先輩でSランク冒険者。リリアンに好意を抱いている。

・マコト…神の国(日本)から召喚された、今回の『勇者』

 俺の故郷に寄り道をしたいと話すと、シアンさんも快諾(かいだく)してくれた。

 マーニャさんとジャスパーは教会に用事があるからと別行動をすることになった。

「まあ、アレクがいるからな。遠慮しているんだろう」

 シアンさんがそう言った。


 マーニャさん……つまりマーガレット様が神巫女だった時と、母様やシアンさんが討伐隊だった時はちょうど同じ頃合いだ。シアンさんの口ぶりからすると、気まずい様な事でもあったのかもしれない。

 それに用事があるのなら、わざわざ付き合わせるような事でもないと、そう思った。



 俺の故郷は大きな街道から外れて山の方に向かった所にある、小さくてのどかな田舎町だ。

 その町の外れに、生まれた時から母様と過ごしていた屋敷がある。


 貴族の家としては、かなり小さい方らしい。

 でも俺と母様だけの二人家族で、俺にとってはこれでも十分に広い家だったし、使用人も最低限しか入れていなかった。王都で他の貴族の家を見て、でかさにびっくりしたほどだ。


 自分の家なのに、まるで来客のように屋敷の扉を叩く。

「どなたですか?」

 と、若い男性の声がして、あれ?と思った。


 執事はいるけれど爺さんのハズだ。こんなに若い声のわけはない。それにどうにも知っている声に思えた。

 首を傾げている俺の代わりに、シアンさんが前に出て名乗ると、ゆっくりと扉が開いた。


「いらっしゃいませ。まさかこちらにいらっしゃるとは思いませんでした」

 内から扉を開けて頭を下げたのは、つい十日と少し前まで一緒の家で暮らしていた、俺の教育係で騎士のアランだった。


 * * *


「ニコラス様の護衛兼教育係の任を終えまして、次の任にアレクサンドラ様の屋敷の護衛を志願したのです」

 そう教えてくれたアランの表情が少し緊張しているように見えるのは、座っている場所のせいだろう。

 アランの隣では、母様がにこにこと嬉しそうに笑っている。

 最初にアランが、自分は護衛騎士だからと離れたところに立っているのを、命令だと言って無理やり自分の隣に座らせたのはこの人だ。


「ニールがいかに王都で頑張っていたか、アランが事細かに教えてくれたよ」

「ニコラス様が討伐隊に入ったので、またしばらく故郷には帰れないだろうと思いまして。せめてこの1年間のニコラス様の様子をお伝えしようと」

「あのウォレスを負かしたそうじゃないか」

 昔の仲間のシアンさんが居るせいもあるのか、珍しく母様が客への口調を『作って』はいない。


「ああ、あの試合はなかなか良かったぜ」

 ご機嫌な母様の言葉に、シアンさんも調子よく答えた。その向こうに座るデニスさんはアランよりもさらに堅い表情をしている。

 リリアンはここでもマイペースに美味しそうにお茶を飲んでいて、俺の隣に座ったマコトは、君のお母さんさっぱりした感じのいい人だね、と俺にこっそり耳打ちをした。


「まあ、結局そのウォレスは討伐隊をやめちまったけどな」

 シアンさんの言葉に、おやと言うように母様が目を見張る。

「何かあったのか?」

 と、今度は俺に向かって言った。


「ああ…… 俺と一緒は嫌らしい」

「ニールにつくのは嫌なんだとさ」

 俺に続けたシアンさんの言葉に、母様は苦い表情でため息を()いた。

 普段何を言われているとか、どんな事をされているとか、そんな話を母様の耳に入れた事はなかったはずだけれど、母様にも何か思う事があるのかもしれない。


「それなら、代わりにアランを連れて行ったらどうかな?」

「え!?」

 母様の提案に声が出た。アランも驚いて母様の方を見ている。


「ああ、アランなら適任だと思います」

 少し場に慣れて来たらしいデニスさんが、母様の言葉に賛同する。それを聞いて、母様はにっこりと微笑んだ。

「それはいい案だな。どうだアラン、一緒に来ないか?」

「い、いや。私にはここの護衛の任が……」

 戸惑うようにシアンさんに言い訳をするアランの肩を、母様がポンと叩いた。


「私の大事な息子を任せられる者はそうはいない。アランなら、私は安心できるし、嬉しいんだけどな」

 そんな風に自分の話を目の前でされると、どんな顔をしていればいいかわからない。


「それにここの護衛の任はお前でなくてもできる。でもニールをちゃんと守って、怒って、しつけてくれるのは、誰にでもできるわけじゃないだろう」

「……アレクサンドラ様」

 母様の言葉に(うなず)いたアランを見ていると、なんだか嬉しいような恥ずかしいような不思議な気分になってきた。 


「ニール、またアランと一緒に居られて、お前も嬉しそうだな」

「ええっ!? そんなことはないけどっ」

 慌てながら否定すると、シアンさんがニヤニヤしながら俺の髪がぐしゃぐしゃになるほどに撫でた。


 一緒に居られるからとか、そういうのじゃなくてさ。けれどさ、アランは俺に色々と教えてくれるし、騎士として爺様のもとでも仕事もしてたから、王族の事もわかっているだろうし、それに冒険者もしてたから……


 いろんな言い訳が頭を巡る。そんな俺を見て、アランはぷっと吹き出した。


()()()は、また以前みたいに私に怒られたいみたいですね」

「な、なんだよーー 怒られるって決まったわけじゃないだろう?」

 何故か表情が緩みそうになるのと、ふてくされたふりで誤魔化(ごまか)した。


「ニールを頼んだよ、アラン」

 そう言いながらも、母様まで笑っている。いつの間にか俺以外がみんなで笑っていて、でもなんだかあったかい様な、そんな感じがした。

 お読みいただきありがとうございます。


 前回短めに切った分、ちょっと早めに仕上げてみました。

 そして短めと嘘をついた事になりました。1,2より長かったです……


 これで初期メンバー+αに戻りました~~

 マーニャとの関係が初期の頃とは違いますが……


 そういや、アランとニールの最初の頃の話を書いたのが、去年のクリスマス閑話でした。あれからここまで1年かかるとは思ってませんでした(笑)


 ちょっと仕事多忙の余力維持が怪しくなってきておりますが、無理ない範囲でなんとか頑張ります~~



(メモ)

・アラン…デニスの後輩のAランク冒険者で騎士。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしていた。

・アレクサンドラ…ニコラスの母親で、元魔王討伐隊の『サポーター』。シアン、アシュリーたちの昔の仲間の一人。


 次の任(#114)

 (閑話3)

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一部の話を『『ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい』おまけ閑話集』への別掲載の形に変更いたしました。
よろしければこちらもよろしくおねがいします♪
https://ncode.syosetu.com/n2483ih/

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