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105 アミュレット

◆登場人物紹介(既出のみ)

・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。教会の魔法使いしか使えないはずの転移魔法や、鑑定の能力を使う事ができる。

・ニール(ニコラス)……前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥。正体を隠して冒険者をしている。

・アラン…デニスの後輩のAランク冒険者。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしている。

・デニス…Sランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。

・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、Sランク冒険者。デニスの兄貴分。ずっとアシュリーに想いを寄せていた。

・マーニャ…エルフでBランクの魔法使い。デニスとは古くからの知人。実年齢不詳(かなり年上らしい)。


・サマンサ(サム)…前・魔王討伐隊の『サポーター』の一人で魔法使い。可愛いらしいドレスを着た、金髪巻き髪のエルフの少女

・メルヴィン(メル)…前・魔王討伐隊の『英雄』の一人で魔法使い。黒髪の寡黙な青年。アシュリーの恋人だった

「良かったーー もう俺この家には入れてもらえないと思ってたよ」

 ニールは笑いながら大袈裟(おおげざ)にそう言って、ソファーに思いっきり体を放り投げた。

「ニール、お行儀が悪いですよ」

「だってさー 俺嬉しくって」

 いつもの様にアランさんに(たしな)められるが、今日は全く(こた)えていない。


 メイドゴーレムのアニーが、てきぱきとつまみになるものを並べてくれる。薄切りの燻製(くんせい)肉にスパイスの効いたソーセージ、スティック状に切った野菜と一緒にクリーム状のディップを何種類か。チーズとドライフルーツを盛った皿を準備していると、慣れた様子でシアさんが飲み物を出してきてくれた。



 各々のカップに飲み物を注ぐと、軽く掲げる。一度口をつけてから、大皿のつまみに手を伸ばす皆にアランさんが切り出した。


「わざわざ場所を変えたのは、あの時の話を聞きたいから……ですよね。アミュレットの事でしょうか」

「ええ」

 呑気なニールと違って、さすがにアランさんには『樫の木亭』を出た理由を悟られている。


「あの時シャーメも聞きましたが、お二人はどうして九尾(ナインテール)のアミュレットを持ってたんですか?」

「ある方から、頂いたのです……が、どなたからかは明かさない。そういう約束になっています」


「……」

 私たち3人の静かな視線に、アランさんは少し視線を()らせた。

「……はい、わかっています。おそらく、訳ありなのでしょう。その方は、ナインテールを倒して手に入れたとも言っていました」


「それは無いな。先代の九尾が倒されたのは15年前だ。俺らはその瞬間を見届けている。あのアミュレットは、その時に俺ら討伐隊が九尾から貰った物だ。勿論、俺も一つ持っている」

 そう言って、腰に付けた小さいマジックバッグから九尾のアミュレットを取り出して揺らして見せた。


「あの時シャーメとタングスは、お前たちからサムとメルの匂いがすると言った……。お前たちのアミュレットが、元はサムとメルが持っていた物だとしたら、大きな問題だ」


「あの時……言ってましたね。私たちが殺したのか、と……」

 そう言ってから、アランさんは手元のカップに入った蒸留酒を一口で飲み干した。


「あれから…… どこかでシアン様に聞こう聞こうと思っていたんです。サマンサ様は殺されたと言ってましたよね」

「ああ。でもそれがお前たちの仕業ではない事は、俺らも承知している」

「メルヴィン様は……?」

「おそらく、ヤツも殺されている。大教会の奥に引きこもっていると言われてはいるが……」



「アラン……」

 ニールに不安げな表情を向けられたアランさんは、つらそうな顔を伏せがちにしてしばらく沈黙していた。そして、深くため息をつくと、ようやく顔を上げた。


「あのアミュレットを、私たちにくださったのはマーニャさんです」


「マーニャが……?」

 デニスさんが信じられないと言うように目を見張る。

「まさか…… アラン、それは本当なのか? あのマーニャが……?」

 シアさんがデニスさんに続いて、()()()()()声を上げた。


「アミュレットを頂いた時…… マーニャさんは、ナインテールを倒して来た話をしてくれて…… いや、違う…… そうだ。ナインテールとは言ってなかったんです。周りに聞かれたらアミュレットを奪われるから、わざと名前を伏せたのだと、そう思ったのですが……」


「倒したのは、九尾じゃなかったんだろうな……」

「……では、何を…… いや、誰を……」

 シアさんの言葉に、アランさんはまたぎゅっと眉間に(しわ)を寄せた。


「以前にシアさんと二人で、サマンサ様の最期を見ていた方からお話を伺ってきました。サマンサ様を殺したのは魔法使いの集団だったそうです」

 

「……マーニャさんは…… 3パーティーで倒したと…… 最期の言葉が忘れられない…… と…… 高位魔獣は人の言葉を解すると聞いた事があります。てっきり、その事かと思っていたのですが……」

「魔獣ですらなかったって事だな…… そりゃあエルフなら言葉も通じるだろう」


「嘘だろ!? あの優しいマーニャさんが…… そんな事っ!!!」

 シアさんの言葉をかき消すように、ニールが叫んだ。

「……何か、事情があるのかもしれません…… 他に何か気付いた事はありませんか?」


 私の言葉に、ニールがあっと小さく声を上げる。

「ニール、何かあったのか?」

 耳ざとく聞き付けたデニスさんが、強い口調でニールに尋ねた。


「あ、いや…… 実は…… これもマーニャさんに内緒だって言われてて……」

 私を含めた4人の視線を受けて、急激に委縮しながら話しはじめた。



「前に…… 故郷の母様が体調を崩したって連絡が来たんだ。故郷までは馬車で三日はかかる。それをマーニャさんに話したら、その近くに仕事のついでがあるからって、一緒に連れてってくれた。見た事のない魔法で……一瞬で故郷の隣町について……」

「転移魔法だな」

「なんですか? それは……」

「一瞬で記録した場所まで移動できる魔法だ。教会の魔法使いしか使えないし、1日で一度という制限もある。メルとサムが使っていた」


「教会って…… どういう事だよ? 俺、全然わかんねぇ……」

「……マーニャは、教会の魔法使いだったって事か?」

 ニールだけでなく、デニスさんまで困惑した表情を見せている。


「そう……ですね。そして、それを隠していた。でもそうだとしても、教会の魔法使いだという事を隠す必要はないのに……」

「よくわからんが…… サムは教会を抜け出してから追われていた。マーニャもサムを探していた追手の一人だったって事じゃないのか? 冒険者のふりをして情報を集めていたとか」

「なるほど…… それなら隠していた事にも説明がつきます」


 アランさんの言葉の後に沈黙が降りてきた。

 でも……と、おそらく皆が思って、でも誰も言えずにいるのだろう。マーニャさんとの今までの関係を突然裏返す程に割り切る事はできないのだろう……


「……マーニャさんがサマンサ様の件に関係していた事は……正直ショックです、が…… でも、少なくとも私たちが知った事を、マーニャさんに気付かれてはいけない気がします。特にニールは嘘が下手よね」

「え……あ、いや……そんな事な――」

「ですね。ニールはしばらく冒険者ギルドに行く事は控えた方がいいでしょう。行く時は私がご一緒します」

「俺たちの方でも、それとなく情報を集めてみるよ」


 結局、これ以上話をするような雰囲気ではなくなってしまい、今晩はこれでお開きになった。


 * * *


 二人を帰し、少し熱気が冷めたような部屋で、今度は3人だけでテーブルを囲む。


「マーニャの事、リリアンはあまり驚かなかったよな…… 知っていたのか?」

 新しく注いだエールを口に運ぶと、ため息を()きながらデニスさんが言った。


「いいえ、でもマーニャさんが本当はBランクではないのと、あの名前が本当の名ではない事は知っていました」

「いつからだ?」

 シアさんは自分のカップに手も付けず、テーブルに片肘をついている。

「最近です。見習いの頃には気付かなかったんです。その頃にはまだ神秘魔法が使えませんでしたから」


「神秘魔法?」

 どこかで聞いたなと、デニスさんが誰に聞かせるでもなくぽつりと言った。

「魔法と呼んでいますが、詠唱を必要としないものもあります。シアさんの『龍の眼』と同じように、私も神秘魔法で鑑定と同じ事ができるんです」


「マーニャの本当の名前とランクは見えたのか?」

「名前は……エルフの文字で書かれていましたが、マリーと。ランクはSでした」

「マリーか…… マーニャと呼ばせるのに、そこまでの不自然さはないな。ランクは…… 確かにあいつの実力はBランクなんかじゃないと思ってはいたが……」



「ああ、そうだ。それと、俺はマーニャの事は()()()()()

 思い出したように投げ込まれたシアさんの一言に、デニスさんが少し目を見開いた。

「え? でもさっき……」

「あれはお前に合わせたんだ。以前にリリアンにも訊かれたが、俺はマーニャに会った事はない」


「いやだって、マーニャはシアンさんの事が苦手だって確かに言ってたぞ。以前……あっと……セクハラまがいな事をされたとか」

「はあ?! 俺がそんな事する訳ないだろう?」

「なんかあいつの胸をじろじろ見ていたとか」


「胸?? ……マーニャって、そんなにいいカラダしてるのか?」

 シアさんがまんざらでもない様子でデニスさんの話に食いついたのに、何故かちょっとだけ気分がモヤっとした。

「まあ、胸はデカいな。スタイルもいい。それに男にかなりモテる」

 デニスさんもニヤニヤとしながら答えているように思える。


 むぅ、なんだろう? ニヤつくデニスさんと、わきわきと手を変な風に動かすシアさんに、やけに面白くない気分になった。


「そ・れ・で!? シアさんはマーニャさんに会った事は無いんですよね!?」

 つい声が大きくなり、二人は少し驚いた様にこちらを見た。


「ああ、そうだ……けど…… リリアン、怒ってるのか?」

「怒ってませんよ!?」

 そうは言ったが、どんな顔をしていいのかが分からずに、咄嗟(とっさ)に二人から顔を()らせた。なんだろう。怒る理由なんて無いはずなのに、なんだか嫌な気持ちになっているのが、自分でもよくわからない。

 気分を落ち着けようと、ふぅとひとつ深呼吸をした。


「……それで、どうなんですか?」

 もう一度訊くと、戸惑う様にシアさんが答える。

「あ…… ああ、会った事はない…… が、西ギルドの冒険者なら全く会った事がないのはおかしい。だとすると、敢えて俺の事を避けているんだろう」

「俺はてっきり、シアさんの冒険者時代の知り合いとかだと思ったんだ。マーニャはエルフだから長命だし、シアさんとは一度組んだ事があるって言ってたし」


「……少なくとも…… アシュリー(わたし)が覚えている範囲では、あの頃にそんな魔法使いは……」

 15年前の記憶を手繰りながら、同時にマーニャさんの事を思い浮かべる。すらりとしたスタイル、豊かな胸、金の流れる髪に、美しい切れ長の紫水晶(アメシスト)の瞳……


 ……どこかで……その瞳を見た……

「あの紫の瞳……」

 昔の仲間の瞳を思い出す。美しい金の髪、透き通る白い肌、深く光を湛える紫水晶の瞳……


 ――私が愛しているのは姉様だけなの――


「サム……『姉様』……?」

「待てよ、リリアン。サムの『姉様』はマーガレットだって、そういう話になっただろう? あ、いやまてよ……そうだ…… マーガレットになら、俺は会った事がある…… しかも…… 魔王の玉座で……」


 ――おかしいわね――

 ――なんでこんなにバランスが崩れたのかしら。これでは上手く星に力が注げないわ――

 

「……マーガレットは…… アッシュが死んだ事を気にも留めていなかった。あいつは俺らの事を……何かをする為の『餌』なんだと言った。ただの餌の癖にと。……アッシュが死んだというのに…… 俺らがあんなに命がけで戦ったっていうのに……」


 シアがつらそうに吐き出した言葉に、何故か『間違っていない』と、そう思う自分が居る。

 そうだ…… 人間は……

 お読みいただきありがとうございます。


 前回、短かった分、早めに投稿しました。

 この後はいつものペースになります。ご了承ください。



(メモ)

 あの時(#84、#85)

 アミュレット(#19、Ep.10)

 内緒の魔法(#44、#48)


 神秘魔法、鑑定(#29)

 マーニャを知らない(#82)

 セクハラ(#71)

 マーガレット(#46)

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一部の話を『『ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい』おまけ閑話集』への別掲載の形に変更いたしました。
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