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1 一人前の冒険者になりました!

 名前を呼ばれて受付に向かった。窓口の担当はいつものカナリアさん。冒険者仮登録をした頃からお世話になってるので、すっかり顔見知りだ。

「これで今日からあなたも一人前の冒険者よ。リリちゃん、頑張ってね」

 冒険者ギルドの看板娘お姉さんは、にっこりと微笑んで冒険者カードを差し出した。


 受け取ったカードに目を通すと、今朝まであった(仮)の字が消え、さらにジョブ(職業)が『冒険者見習い』だったのが『獣戦士』になっていた。戦闘系ジョブのうち、獣化しながら戦う獣戦士は獣人のみがとれるジョブだ。でもこの体に生まれる前は剣士だったから、剣士になると思ってた。


 私には前世の記憶がある。前世の私はSランクの冒険者だった。剣士としてあるパーティーの前衛を勤めていたが、挑戦したダンジョンで()()()()()()死んでしまった。

 享年22歳。まだまだこれからだったのに……


 気が付いたら、私は狼獣人の「リリアン」として転生していた。死んでしまったのは仕方がない。今度こそ果たせなかった前世の夢を叶えよう。


 * * *


 今日で15歳になり私は晴れて冒険者となった。夢を叶える為には強くならなければいけない。


 ここ王都シルディスの冒険者ギルドには仮冒険者制度がある。その制度を使うと15歳になっていなくても『冒険者見習い』として活動できる。

 見習いとして活動して経験値を集めておくと、15歳で冒険者デビューしてすぐにランクアップする事も可能なのだ。私はこの制度をかなり活用していたので、最低条件のクエストさえ受ければ今日にでもランクアップできるはずよね。


 早速クエストを受けようと依頼ボードに向かった。デビューしたばかりの今の冒険者ランクはF。ひとつ上のランクのクエストまで受けられるので、EとFのクエストを探す。


「んー…… スライムの討伐くらいでいいかなぁ? ……うわっ!」


 依頼ボードに貼ってあったカードに手を伸ばすと、後ろから大きな手でがしがしと頭を撫でられた。

「リリアン、今日から冒険者デビューだろう?」


 この声はデニスさん! 尻尾を振りながら振り向くと、栗色の髪のおにいさんがその長身から見下ろす様に私の手元を覗き込んだ。彼はお世話になってる先輩冒険者の一人だ。


「ん? スライムかー。こっちにしようぜ!」


 デニスさんが手にした依頼はホーンラビットの狩猟クエスト。そんなに強くはない魔獣だけど、初心者ソロには推奨されない。基本的に家族単位の群れで行動している為、複数を相手にしないといけないからだ。

 でもデニスさんがこういう言い方をするのは、一緒に行ってくれるって意味なのよね。


「今晩の夕飯に、ウサギのシチュー食べたくないか?」

「たべたーーい!」


 今日の、いや夕飯の目標が決まった。


 * * *


 デニスさんのお陰で、ホーンラビットを沢山狩ることができたので、ほくほく顔で王都への帰路についた。クエストの分とは別に、ちゃんと夕飯の分も余計に狩ってある。

 クエスト自体は私一人で受けていて、戦ったのも基本的には私だけ。デニスさんは危ない時だけサポートしてくれた。有り難い事に、デニスさんは本当に面倒見がいいのだ。


「獣戦士になったって事は、マスターを探すんだろう?」

「うーん…… 将来的には、ですねぇ……」

 煮え切らない雰囲気の私の返事に、デニスさんは意外そうな表情を見せた。

 獣人にとって『獣戦士』が一番相性のいいジョブだし、『獣戦士』には『獣使い』のスキル持ちがマスターになる事で戦闘力がアップする。なので、当然返事はイエスだと思っていたのだろう。


 前世の記憶のある私にとって、今の獣人の人生より前世の人間であった頃の記憶の方が長いから、獣人の習性に馴染みきれない気持ちもある。それにマスターになってもらいたい人……と思い浮かべると、あの人の顔が浮かぶ。強くて優しくて愛おしい、前世の私が愛してた人。もう会えるわけはないのに……


 私が言葉に詰まったのと耳が下がっていたので、何かを察したのだろう。

「ま、いい相方が見つかるといいな」

 デニスさんはそれだけ言ってポンポンと頭を撫でてくれた。


 * * *


 クエストの完了報告を済ませ、ランクはEになった。

 残りの兎肉の半分をデニスさんに渡そうとしたけれど、「店で食べようぜ」と断られてしまった。じゃあ、兎肉のシチューを作ったら、残りはローストにしてデニスさんに渡せばいいかな。


 まだ夕方とは呼べぬ程度に陽は高く、町は子供たちの声で(にぎ)わっている。ギルドを出ると、ちょうど子供たちが町の中央にある公園を目指して走っていくところだった。子供たちと同じ方向に進み、4軒先に目指す店がある。


「ただいまー!」

 デニスさんと一緒に『準備中』の札の下がっているドアを開けた。


 私が下宿させてもらっている、この酒場兼食堂『樫の木亭』は、この西地区で一番人気の店だ。西の冒険者ギルドに近く、安くてボリュームのあるメニューを提供してくれる。主人は元Sランク冒険者で、亜人種にも偏見がない。冒険者にとってはとても居心地が良い店だ。


「おかえり、リリアン。早かったのね」

「沢山獲れたかー?」

 店の奥の厨房から奥さんのシェリーさんが顔を覗かせた。主人のトムさんは声だけ聞こえる。前世で私が通ってた頃には二人ともまだ若かったんだけど、今ではすっかり貫禄がついてしまった。二人の一人息子のジャスパーは冒険者になって家を出ていってしまったそうだ。


「うん、兎のシチューを作ろうと思って!」

 兎肉を持って見せながら厨房に入ろうとすると、シェリーさんに止められた。

「先に汗を流して着替えてきなさい。これは下拵(したごしら)えだけしておいてあげるから」

 シェリーさんに兎肉をとられてしまったので、お言葉に甘えてお任せする事にした。

 デニスさんも「また後でな」と片手を上げて店を出て行った。


 * * *


 2階に上がり借りている部屋に荷物を置く。この部屋は元々ジャスパーの部屋だったが、今は私が使わせてもらっている。

 簡素な木のベッドがこの部屋のメインの家具だ。ベッドの脇には中サイズのアイテムボックス。(ほとん)どの荷物はこの中に収めてある。窓際には書き物が出来るくらいの小さなテーブルが置いてある。

 壁にかけてある服の中から普段使いの服を手に取り、浴室に向かった。湯をかけて体を洗い、普段着に着替えてエプロンを付けた。


 1階の厨房に戻ると、すでに兎肉は骨つきのまま一口大に切ってあった。同じくらいの大きさに切った野菜と兎肉を鍋で軽く炒め、スープを加える。柔らかく煮えたらホワイトソースを入れて塩コショウで味を整えて完成。トムさんに味を見てもらってOKが出た。トムさんのOKが出れば、お店にも出してもらえるのだ。

 残った兎肉には塩コショウとハーブを擦り込んでローストにしておいた。これはデニスさんに渡す分。


 気が付くと店の方からもう人の声がしていた。ちょっと時間は早いけど、お店を開けたのかな?

 店を覗くと沢山の常連さんたちの姿。バイト仲間のミリアちゃんももう来ていて、せっせと皆にエールを配っている。


「リリアン、こっちにいらっしゃい」

 シェリーさんに手招きされて店の中央に向かうと、テーブルに小さなケーキが置いてある。いつの間にか店に戻っていたデニスさんが、ニコニコと可愛い花束を私に手渡した。


「リリアン、誕生日と成人と、あと一人前の冒険者になったお祝いだ。おめでとう!」

「「「おめでとうー!!」」」

 皆が一斉に乾杯した。みんなの笑顔、笑顔、笑顔。びっくりしたし、とても嬉しい!

「ありがとう!!」

 笑顔になった私の頭を、デニスさんがポンポンと撫でてくれた。


 今日作った兎のシチューは、お祝いのお礼に皆に振る舞う事になった。お礼を言いながらシチューをテーブルに配ると、「今度一緒にクエストに行こう」と何人かの先輩方から有り難いお誘いをいただいた。


 リリアンの誕生日は前世の私の命日でもある。でも今日はさらに、私の冒険者としての出発の日にもなった。

 ケモ耳娘がデレる話を書いてみたかっただけだったりします。

 でもなかなかデレてくれません。


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一部の話を『『ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい』おまけ閑話集』への別掲載の形に変更いたしました。
よろしければこちらもよろしくおねがいします♪
https://ncode.syosetu.com/n2483ih/

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― 新着の感想 ―
[良い点] デニスさんいい人! 夢が何か知りたくなりました! [一言] Twitterからきました!
[良い点] セリフとセリフの繋ぎ?みたいなところの文章が巧みで私もまだまだだなぁと痛感しました!感想の文章が拙くてすみません。 [一言] ケモ耳娘のデレ、早くみたいです。
[一言] 拝読しました、ヒロインのリリアンちゃんが強くてかっこよく可愛い過ぎてやばかったです。ストーリーも読んでいて世界観にも没入できてしまいました
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