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召喚されたモブの話

あの地獄のような体験から5分、いや、10分ほど経ったか?俺は今自分の置かれている状況について行けていない。青い空、白い雲、眩しすぎるほどの太陽。さっきと何も変わらない。しかし、俺の目の前に広がる景色が違う。いつも三神と2人で登校する毎日同じような交差点とはまるで正反対の景色。辺り一面に広がる絵の具で描いたような緑の大草原。以上だ。道路もない。学校もない。人もいない。三神もいない。...何もない。


「・・・ここは・・・どこだ??」


突き飛ばされた時に地面に擦ったのか小指の付け根から血が流れていた。

俺は死んでしまったのか?ここは天国か??しかし、俺を助けてくれたヒーローのような三神の姿が見えない。ならば、ここは地獄なのか?期待されたヒーローの未来を俺なんかのせいで真っ黒に塗りつぶしてしまった罪なのだろうか。それならば納得がいく。俺はそれだけのことをしたんだ。後悔したってし足りないくらいだ。なぜあの時助けてくれたんだろう。本当にヒーローの考えることはわからない。


「うぅ...三神ぃ...」


さっきの光景が蘇る。涙が溢れて止まらない。それと同時にとてつもない目眩と吐き気がして、俺はしばらくの間立ち上がることが出来なかった。


「おはよ〜ございます。もー起きました??」


いきなり女性の声が頭を駆け巡る。なんとも心地よい、この空のように透き通った声だ。俺はやっと体を起こし、立ち上がるとさっきの声の主を探す。大草原に不自然なほどの光が一か所に集まっている。眩しい。俺が目を細めて見ていると、


「体の調子はどうです?気持ち悪くないですか〜??」


俺の体調を心配した声が光の中から聞こえてくる。すると徐々に目が慣れてきたのか、光の中から女性の姿が見えてきた。現代の日本ではまず見たことのないような格好をしている。それはまるでゲームや漫画で出てくるような、"神さま"のような印象を受ける。シルクのような繊細な素材で身を包み、頭にはどう考えても邪魔としか思えないほどの派手な冠なのか帽子なのかをかぶっている。少し膨よかな体で、とても整った顔立ちだ。


「ここは、どこだ??」


俺は質問に答えず自分の質問をした。


「ここですか??ここは、リベールと呼ばれる世界で、あなたの住んでいた"チキュウ"とは全く別の場所です〜。」


「・・・りべーる??」


聞いたこともない地名だ。外国の名前は人並みには知っているがそんな名前は知らない。それに世界が別とはどういうことだ??


「なんで俺はそのリベールと呼ばれるところにいるんだ??それに、お前は誰だ??何を知っている??」


理解が追いつかない俺は早口で質問を続ける。


「おぉ〜〜、すごい質問攻めですね。でも、そういうの嫌いじゃないですよ〜。」


俺の焦る気持ちに反したように、彼女は笑いながらゆっくりと語る。


「あなたがここにいるのは、時空司るプリティー女神こと、クロノスの(わたくし)が召喚したからですっ!」


・・・なんだこいつ?なんでこんなにドヤ顔なんだ??


「私はあなたの知ってることなんでも知ってますよ〜〜。ゲームが好きなことも、しいたけが食べられないことも。しいたけが食べられないなんて意外とお子ちゃまなんですね。ぷぷぷ。」


いちいち勘に触るやつだ。

それに、召喚??どういうことだ??


「ちょ、ごめんて、嘘ですよ〜〜。だからそんなに睨まないでください〜。」


「なぜこんなところに俺を召喚?したんだ??」


「・・・ん〜〜、そのことなんだけどいろいろと手違いがありまして...本当にごめんなさい!!!」


いきなり彼女は頭を下げてきた。


「手違い??」


「そうなんです〜。実はこの世界はとってもピンチなんです。今は魔王と呼ばれる邪悪な存在がいないので平和なんですが、じきに魔王の座を狙って種族同士の戦争が起こり始まっちゃうんですよ〜。リベールのほとんどの住人達はこの事実を知らないんですが、偉大なプリティー女神の私はなんでもわかるんですよね〜。」


「ちょ、ちょっと待ていきなり情報量が多すぎて頭がついていかない。」


「まぁー、そうなりますよね。とりま、1度全て話すんで質問はその後おなしゃす。」


「・・・・・」


「この世界のピンチと知った私はリベールの平和を守る者として、黙って見ている訳にはいかなかったんですね。私は非戦闘員ですので、誰か変わりに戦ってくれる勇者はいないかな〜と思いましてですね〜。でも、この世界から探すとなると強いものは魔王になるかもなんでさすがに信用できず、信用できるものはみんな力のないものばかりだし、何よりヘタに魔王が誕生する〜、なんて言って混乱するのは避けたかったんですよ。」


「なるほど...それで魔王になる心配もないし裏切る可能性の少ない地球人を選んだわけか。」


「ないす〜^_^ やっぱ物分かりがいい人は助かりますわ〜。」


「それで、どういう手違いがあれば俺なんかを召喚するんだ??」


「それはですね...初めは勇者の素質がヤバイほどあって異世界召喚物語系ではぜったいにチート級に強い確信のある"三神大地くん"て子に目をつけてたんだけどね〜...」


「・・・!・・・三神ッ!!!」


「そう、あなたの友人の三神くん。残念ながら、叶うことないの願いになってしまったんだけど。」


・・・俺の・・・せいだ...


「そんな顔しないでください〜。人は誰しもいつかは死ぬものです。早かれ遅かれ。彼はただそれが来てしまった。それだけです。」


「違うっ!!あの時俺がいなかったら!三神はっ!死んでいなかった!!!俺を憎んでいるはずだ...」


胸が締め付けられる。苦しい。


「それは違います。あの子はなんの迷いもなくあなたを助けました。そんな彼が、命を張ってでもあなたを助けた彼がそんなこと思うはずもありません。」


そうだ...三神が人を憎むなんか考えられない。それでもなぜ俺なんかを...


「ちょっと話がそれちゃいましたね。元に戻しましょう、三神くんが死ぬ直前に私は三神くんをこの世界へ召喚しようとしていました。召喚を終える直前に死んでしまったので召喚は失敗したかと思われたのですが、なぜか変わりにあなたが現れたんですよね〜。不思議ですね〜。」


「・・・まて、もしかして、お前もなんで俺が召喚されたのか分からないのか??」


「いや、別に分からない訳じゃないんですよ〜?ただ、今までの私の経験上ないことなのでちょっと理解が追いついてなくて〜。」


「それが分からないっていうんだよっっ!!」


「召喚というのはちょっとした素質というか、適正がないと別世界の生物は異世界に行くことが出来ないんですよね〜。なので、もしかしたら三神くんの一番近くにいたあなたが運良く適正があって選ばれたのかな〜。どうかな〜。そうかもしれないな〜。今まで何回か勇者を召喚したことはあったけど、こんなこと初めてで...女神さん困っちゃうっ(≧∀≦)」


「困っちゃう(≧∀≦)・・・じゃねーよ!!!」


「てへっ( ^ω^ )」


「・・・・・じゃあ、すぐに帰してください。母が1人で待ってるんだ。」


「・・・んーとね、それも実は言いにくいんだけどね、召喚はすぐできるんだけど帰すのはすぐできないの!」


「はぁ??どういうこと??」


「召喚というのは世界がピンチの時にだけできてそのピンチが救われるまで帰れないの。OK?」


「全然OKじゃありません。じゃあこの世界を救わない限り元の世界に帰れる方法はないってわけ??」


「いや、帰れないってことはないの。また、どこかの世界で勇者の素質を持ったものが生まれてくれれば変わりにその人を召喚してあなたは元の世界に帰れるんですよね〜。」


「じゃあ、早くその勇者様とやらを召喚してくれよ。」


俺は食い気味に言う。


「私はいいんですけど、あなたがね〜。」


彼女がわざとらしくため息を吐く。


「どう言う意味だよ。」


「ほらっ、勇者ってそんなにポンポン生まれてくる訳じゃないの。だいたい100年か200年に1人生まれればいい方ですからね〜。」


「100年も待ってたら世界が滅びるだろ!」


「いや、この世界の100年はあなたの故郷ほど長くはないの。と言っても、みんなの寿命が長いから100年なんか長く感じないってことなんだけどね。あ、もちろん安心して!別の世界から来た人も寿命はこの世界基準になるから!ただ時間の感覚だけは人それぞれですから、ねぇ〜。」


「じゃあ、こんな世界で100年も200年も過ごせってか!絶対無理だ!俺はカップラーメンの3分も待てないんだぞ!!他に方法はないのか!??」


「で・す・か・ら〜、さっきも言ったように一番手取り早いのはこの世界のピンチを救うことですっ!別にあなた1人で戦えって言ってるんじゃないんですよ??この世界には、つよ〜い魔物達がうじゃうじゃいるんだから、そいつらを仲間にしてちょちょいのちょいでゲームクリア!でしょう!!」


・・・こいつはなんでこんなに能天気なのだろうか。


「そんなこと日本人の、ましてやコミュ障の俺なんかができるわけないだろ!!!」


「んー、やってみないとわからないでしょ〜?ま、とりあえずこんなとこで喋ってても日が暮れるだけだからあそこの町に行ってみましょ!」


「と、遠い...」


「さぁ!レッツラゴー( ^ω^ )/!!!」


この一歩がモブ男と胡散臭い女神との長い長い旅の始まりになるなんてこの時の俺は思いもしていなかった...

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