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プロローグ 平凡な1日の終わりの話

 ----いつだっただろう。ヒーローに憧れていたのは。いつからだっただろう。ヒーローになれないと思い始めたのは。----




(ジリリリリリリッ ジリリリリリリッ)

朝の穏やかな雰囲気をぶち壊すような高い金属音が昨日夜更かしをしてしまった俺の耳に響いてくる。


「・・・もう朝か...なんで眠るのは簡単なのに起きるのはこんなにも辛いのだろう...」


俺は寝ぼけたようなことを呟きながら、もそもそと布団から手を出し目覚まし時計を止める。

今日も昨日と同じような朝が来る。毎日変わらない平凡な1日が、毎日変わらない平凡な俺を迎える。


俺の名前は、天魅 塁(あまみ るい)


高校2年生だ。顔は中の下、運動神経人並み、学校の成績はいつも平均点と競うレベル。友人もそれほど多くはない。もちろん彼女いない歴=年齢だ。俺に春が来たことは1度だってない。

好きなものはゲーム、嫌いなものはしいたけだ。食感が嫌いだ。匂いはとてもうまそうなのに、食べるとグニュッとしている感覚に裏切られている気がしてなんか嫌だ。

部活は野球部で、俺の行っている高校は強豪校と言われている。と言っても、もちろんレギュラーなんかではなく、3軍の、それもベンチウォーマーだ。野球部と聞くと坊主を1番に想像するだろうが、そんな気合いを入れる奴は1軍のメンバーだけで、ボール拾いや草抜きが主な仕事の俺たちはそんなことはしていない。なぜなら無駄だからだ。昔のスパルタ社会と違って、別に今は強要もされないし自らしようとも思わない。特に野球が好きでも得意でもない俺がなぜ野球部に所属しているかは理由があるんだが、まぁ今話すことでもない。


・・・今話した事を簡潔にまとめると、どこにでもいるようなモブ男の1人が俺ってわけ。まぁ、人気者になって他人から期待され続けるよりは、普通に生きて普通に暮らせている今の平凡な生活がなによりの安心感があるから別に嫌いではない。この生活の方がモブ男の俺には合っている。


「るいちゃ〜〜ん、ご飯できてるよ〜〜。」


焼いた魚の香ばしい香りと共に声が下から聞こえて来る。

俺の育ての母である松木 優子(まつき ゆうこ)だ。

俺には父と母がいない。俺が小さい頃に事故で亡くなったそうだ。まだ物心がつく前だったので顔も声も匂いも覚えていない。あまり詳しい話は聞かされてないからなにも分からないし、覚えていないので別に知ろうとも思わない。なので自分を養子にしてくれて、今俺の名前を呼んでくれているあの人の事を俺は母親だと思っている。旦那さんを早くに亡くし女手一つで俺を育ててくれた彼女のことを俺は本当に尊敬し、感謝している。

俺は布団から出ると軽く背伸びして寝巻きのまま階段を降りていく。


「おはよう、るいちゃん。今日もすごい寝癖ね。」


俺のボサボサの頭を見て笑いながら皿を洗っている。


「おはよう。なんでこんなに重力に反発するんだろう。」


俺は頭を掻きながら、椅子に座り食事をとる。


「いただきます。」


「どうぞ〜。」


うん、いつも通り母の作る料理はうまい。最高だ。


「あ、そういえばるいちゃん、」


ホカホカのご飯を口一杯に頬張っていると母が話しかけてきた。


「ん?ほひは??」


「最近この辺交通事故が多発してるんだって。特に朝方が夜勤なんかで疲れてる人の居眠り運転が多いらしいわよ。るいちゃんも気をつけてね〜。」


俺は口に含んだご飯をゆっくりと飲み込む。


「ブラック企業が労働基準法を守らないからこんなことが起きるんだよ。世の中の偉い人たちは弱者の気持ちは分からんのかね。」


どうでもいいことを言いながら俺は残りのおかずをかきこむと、学校の準備に取り掛かる。

。寝癖を直し、顔を洗い、歯磨きをし、学生服に着替え、荷物を持ち、玄関に向かう。いつもの流れだ。


「じゃあ、行ってくるよ。」


そう声をかけると台所にいた母が小走りでやってくる。


「いってらっしゃい。車には十分気をつけるのよ。」


「うん、わかったよ。いってきます。」


そう言って扉を開ける。心なしか母の顔がいつもより不安そうに見えた気がした。

扉を開けると、眩しい朝日とともに1人の影が自分を待っていた。


「よぉ!遅かったじゃんか!早く行こうぜ!」


この朝から元気な坊主頭は三神 大地(みかみ だいち)

俺の数少ない友人の1人であり、昔からの幼馴染みであり、俺が好きでも得意でもない野球を続ける理由だ。

こいつは昔から元気がよく、誰とでも仲良くなれて、尚且つ弱いものを放っておくことができないお人好しの性格の本当にヒーローのようなやつだ。昔から何度もピンチを救ってもらっていて、俺の恩人でもあり、憧れているやつだ。もちろんこんなことは口が裂けても言葉にはしない。絶対調子に乗るからだ。普通の幼馴染みとして接している。

三神は野球部で1軍のエースで4番だ。プロ野球のスカウトからももうすでに目をつけられていると聞く。まるで漫画の主人公のような奴だ。俺も三神に追いつきたくて野球をしてきたが、とうの昔に見えないほどに突き放されてしまっている。もはや、雲の上の人物だ。だけど、三神のそばにいるといつか自分も変われるような気がするからいつまで経っても野球を続けている。我ながら情けなく思う。


「まーた、夜更かししてただろ。目のクマひどくなってんぞ。」


「なかなか強敵なボスが出てきたんだよ。倒さないと眠れないタチでさ」


いつものようにくだない話をしながら歩き出す。学校までは徒歩10分くらいでいつも三神と2人で登校する。これは小学生の頃から変わらない。もう何年も同じ道を歩いているにも関わらずお互い話が途切れることはない。本当に彼が幼馴染みでよかったと心底思う。

他愛もない話をしながら歩いていると学校が見える距離にある車通りの多い交差点についた。いつも長い信号が今日は運良く青だった。俺は横断歩道を渡り始めると靴紐が解けているのに気づいた。渡ってしまって結び直せばいいものを、俺は何故かその場でしゃがみ込み結び直し始めた。


これが俺の人生で一番の間違いであり、判断ミスだった。


「おぉ〜〜い、なにやってんだよぉ〜。先行っとくぞ〜?」


もうすでに横断歩道を渡りきっていた三神が声をかける。


「ごめん、靴紐がほどけた。直ぐ結び直すよ!」


と、声をかけた瞬間に近くにいた女性の甲高い声が頭に響いてきた。


「きゃーーーー!!!!」


俺は焦って声のする方に目を向けると信じられないことが起こっていた。車の信号は赤にも関わらず猛スピードでトラックが突っ込んできている。

居眠り運転だ。

俺はすぐにその場を動こうとした。動くことができなかった。体が石のように固まり指先すら自由にできない。しかし、思考だけは働くことができた。やりたかったこと、やれなかったこと、後悔したこと、友人の顔、三神の顔、そして母の顔。あぁ。朝の母の話をもっとしっかりと聞くべきだったな。1人にしてごめん。お母さん。そして、いつまでも追いつくことの出来なかった三神。結局変わることのないまま終わっちゃうよ。残念だな。もっと一緒にいたかったよ。

様々な感情と言葉が一気に溢れ出してくる。


・・・これが走馬灯か...本当に時間がゆっくりに...感じるな...


そう思っていた刹那、視界の隅からものすごいスピードで何かがこちらに向かってくる。

・・・三神だ!


「来るな!!!」


そう言いかけた瞬間に俺の体は道路の端まで突き飛ばされた。

横断歩道の真ん中で三神が笑っている。


「よかっ、た...」


微かに聞こえた気がした。聞こえた時にはもう遅かった。目の前をスピードを落とさないトラックが通過していく。赤黒い何かがが飛び散る。理解出来なかった。いや、理解したくなかった。時は無残にも進み続ける。

トラックが通過したあと、もうそこには俺の知っている三神はいなかった。

それから俺は気を失ったのか、三神と一緒に死んでしまったのか分からないが、目の前が真っ暗になった。

あぁ、いっそのこと俺も死んでたらいいな。もう生きる理由もなくなったし...


そんなことを考えていたら、急に辺りが眩しくなった。


・・・なんだ、生きていたんだ...


なんで...俺だけ...




重い目蓋をやっとの思いで開けた俺の目には理解しがたい奇妙な世界が広がっていた。


今回の作品が初投稿になります。拙い文章ですが、精一杯書かせていただきますので、温かい目で見てくださると光栄です!よろしければブックマーク、評価のほどよろしくお願いします。

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