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ブルーブラッド  作者: 人間性限界mohikan
二章『自由の荒野』
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二十九話、二兎追う物

今回ちょっと人体破壊描写がグロ重点です、苦手な方は注意お願いします



口腔内に全てのエーテルが収束していく。

己が肉体に纏わりついていた雷光すらもエーテルとして変換し、己が肉体を砲身と化して必殺の一撃を叩き込む時が来た。


急速に発生する体内エーテルの枯渇で視界が霞み、体温が失われて行くのを感じる。

生命維持に必要な分すらも火力に回し、光が瞬時毎に輝きを増していく。


急速に死が迫っている事が否が応でも実感できる。


だが、恐怖はない。

最早痛みすら感じない。


当たり前だ。

自分は今、愛する全ての人の為にここに戦い、立っているのだ。


これは愛の力だ。

クロエはそう信じているし、信じきっている。


なぜならば、この力のあり方を示してくれたのは他でもない生みの親であったからだ。

最早朧げにしか思い出せないが、これだけは覚えている。


常に何かから逃げていた。

常に何かと戦っていた。

常に何かといがみ合っていた。


それでも両親が自分の手を離すことは無かった。

怒鳴られ、殴られようと捨てる事だけはしなかった。


この理不尽で厳しい世界で一人娘が生きていけるように賢明に育ててくれたのだ。

それほどまでに愛が深かったが故に、最後まで両親は愛を持って道を示してくれた。


今でも覚えている。

あの日、家族は逃げ続けた何かに遂に追いつかれた。


周囲で同じく運命から逃れようとしていた人間たちが全身から紫の血を吹き出し、吐き出し、死んでいった。

そして、死にきれなかった者たちは―――――。


とてもよく覚えている。

皮膚が裂け、骨が砕け、筋肉が肥大化していった激痛とあの滅ぼすべき者との邂逅で目覚めた内なる真の欲望に触れた感触を。


『魔法少女』に変身を遂げた我が身を見て恐怖に満ちた表情で刃物を振り被る父の姿を。

そして、人であった時分から過度に帯電体質であった肉体から放たれた一筋の雷光が父を引き裂いた瞬間を。


叫び声をあげて逃げ出す母に軽い歩みで追いついてから爪で薙いだ感触を。

まだ周囲で汚染に屈せずに抵抗する人間たちと、変異して人から逸脱していく蠢く者どもを分け隔てなく蹂躙し、殺傷していく愉悦を。


そして理解した。

全ては愛だったのだと。


両親は理解したに違いない、別離と旅立ちの日が来たのだと。

娘が少女から大人の女に変わる日が来たのだと。


だからこそ、最後に己が命で示してくれたのだ。

衝動に従い、力を行使して生きろと。

他人を殴打し、殺す光景を見せられたのも、全て必要だったからだ。


殺さねば殺されるという極々当たり前の義務教育。

それが両親の最期の教育、愛の成果。

愛されたからこそ、今自分はここにいる。


愛とは殺意なのだ。



『愛は絶対に負けない!』


まだ平和だった幼き日に母が読んでくれた書物の中、極大の破壊魔法を使う主人公の少女はそこ叫んでいた。


幼かったあの日、その少女にあこがれた。

母に尋ねた、自分もこんな風になれるのか。



『良い子にしてればいつかなれるよ、きっと』


母はそう答えてくれた。

だから良い子であり続けた。


家が無くなっても、大好きだった犬がいなくなっても、車が無くなってひたすら歩き続ける事になっても、ちょっとした事で殴られ、蹴り飛ばされるようになっても。


親に従って良い子として生き続けたのだ。

そして、それは正しかった。


滅ぼすべき敵を見つけた。

己の内にある抑えがたい愛を知った。

愛をぶつけて壊れない相手を見つけられた。


人を超え、今の自分はあの子と同じ魔法少女だ。

愛を背負った者は無敵だ。

あの生首おちびが助けてくれたからには家族愛すらも今は味方してくれている。


これから放つのは一撃必殺。

常にイメージする物のは極大の破壊と殺戮を成す愛の力の結晶。


そう、愛しているからこそ殺したいのだ。

生きて帰っていつかきっと、あの愛しい人を―――――リュナちゃんを殺すのだ。



―――――――――――――――



半身を粉砕されて仰向けに倒れ伏し、両肩に歪な長剣を突き刺されたレオの目前にて大口を開けたクロエが口腔より極大の光を放った。



ここまでの戦闘はこの攻撃を対処不能な状況で確実に直撃させる為の前振り、帯電は雷撃という見せ札を出すと同時に出力をブーストする為の布石。


そして、最後に確実に拘束を成功させるための伏兵の配置。

胴体部への攻撃が無意味であると暴露させてしまったからには狙う場所は当然―――――


脅威判定を終えるよりも先にクロエの放ったレーザーがレオの視界を染め上げる。

生半可な威力ではない事は濃い蒼の色から分かる。


まるで重強化外骨格(マトリョーシカ)に搭載された肩部レーザー砲級。

否、これはそれすら超えた重戦車の備える戦術級重レーザー砲に匹敵すると推測する。


回避不能、最適な防御手段、無し―――――。

レオの兵士としての知識が詰みという答えを出すのとほぼ同じ瞬間、クロエは己が肉体を砲身と化した一撃必殺の重砲撃を敢行した。


光の奔流が頭部へと直撃する刹那、レオの眼前にて発生した青い膜の様な障壁が一瞬、青い燐光と絶叫の如き硬質な金属音を放ちながらクロエの光を遮った。


無意識で形成した魔導防壁(バリア)が瞬く間に青い光をまき散らしながら霧散していく。

先まで雷撃をたやすく防いでいた筈の防壁がレオを守ったのはほんの数秒の事でしかなかった。


だが、その数秒がレオの思考を再編させ、行動に移すには十分な時間稼ぎとなった。



防壁が作った僅かな刹那に腕を動かし、眼前にて横向きにした刀身の腹を盾にしてレーザーを正面から受け止める。


肩を剣で縫い留められたとて最早この体に筋肉も骨もありはしない。

故に間接の干渉や可動部の問題など気にすることなく腕は十分動く。


こちらの剣で反撃は可能、だがそれでは相打ちにしかならない。


敵はもう一匹いた。

そいつも滅ぼすにはこの攻撃、耐える他ない。


決して逃がさない、二匹とも根絶やしにしてみせる。

その為にはこの一撃、何としても反撃可能な状態で凌ぎきらねばならぬ。


決意を新たにする間にもレオの紫に染まった視界が再び青く染まりだし、刀身にインクがにじむが如くに変色を起こしていく。


剣を構成する血がレーザーの含有するエーテルの攻防に敗北して霧散し、それを補う幾ばくかの生体金属(ミスリル)は熱量に負けて融解していく。


敵側の砲撃に含まれるエーテル濃度の方が遥かに高いが故に、防壁と刀身の二重防御が早々に崩壊を始めているのだ。



先に『燃料補給』した事が災いしたのか、対抗するためのエーテルが不足した剣が貫通されるまでさほどの猶予はない。



「ちぃ…ッ!」


舌打ちすると同時に剣を握っていない左腕を剣の刀身に宛がって補強とする。

純粋に支えとすると同時に、左腕を追加装甲として宛がい、加えてエーテルを剣に直接供給して状況の改善を試みる。


既に融解寸前の刀身に赤い鎧の如き腕が接触すると同時に熱された鉄に水がかかったが如き音が響き渡る。

蒸気が噴き出し、次いで宛がった腕すらも青い燐光をまき散らしながら徐々に赤熱して腕全体が崩壊していく。


先に体内エーテルが枯渇した側が敗北する一種の消耗戦。

脳内より分泌される刺激物質によって現実には刹那である時間が主観では無限の如く引き延ばされて行く。


痛覚など既にない。

恐怖も無い。

だが防御で急速に目減りしていく体内エーテルの枯渇がかつて押し込んだ者共を呼び覚ます。



喰らい、達しろと叫ぶ神の声。

ただひたすらにこちらを肉体(ボディ)呼ばわりしては罵倒する邪神の声。

それら全てを嘲笑するかつて己を絶望に追い込んだ不愉快な男の声。



「黙れ有象無象ども…!この体は俺の―――――」


激怒共に放たれたレオの声は直後に三重防御を突き破ったクロエの本気狩壊光線(マジカルブレイカー)の直撃によってかき消された。




―――――――――――――――



闇夜を染めた蒼き閃光は極大の爆発となって周囲の生命と建造物を吹き飛ばし、切腹が齎したエーテルの檻すらも薙ぎ払った。


それほどに、クロエの放った魔導レーザーは強力な物であったのだ。

立ち上がる濃密な砂埃の中、勝利を確信したデュラが握りこぶしを宙へと掲げ叫ぶ。



「よっしゃぁ!仕留めたぁ!」


そうして己が上に詰みあがった瓦礫の山をぶち抜き、埃に塗れながら必死に這い出してなおもデュラの顔に浮かぶのは勝利の笑みだ。


潜んでいた建物ごと余波の巻き添えを食った事など意に介してはいなかった。



「やった!やった!ババアが殺った!」


舞い上がった埃に咳き込みつつも、胸中に湧き出てくるのは深い安堵と勝利への喜び。

これまで出会った中でも類を見ない程の強大な敵であった。

化け物と言っても相違ない大敵だった。


だが、殺した!

ババアが殺した!


後は全力ブッパをかまして干からびてるであろうババアを回収してさっさと帰るだけだ!


残っているかは分からないが、首は持ち帰るべきであろうか?

先に帰らせた妹にも手柄を上げたと自慢してやろう!


そう喜び勇んでクロエの元へと歩み出そうとしたデュラの動きを止めたのは不意に脳裏に蘇った父の言葉だった。



『死体を見るまでは油断してはいけないよ』


不意に湧き出るのは先ほどまでの安堵とは打って変わった現れるようになった疑心。



「…ッ!死んでる筈、死んでないとおかしい…!」



10秒前後、それがクロエが敵悪魔憑きに最大出力で本気狩壊光線(マジカルブレイカー)を叩き込み続けた時間だ。


絶命直射、そう呼んでも差し支えない文字通りの一撃必殺。

敬愛する父とて手立てなくば確実に死ぬレベルの攻撃だ。

これを受けて生きている生き物がいる筈が無い。



だが、もしそれでも生きているとしたら…?



「…ッ!」


デュラは己の内に湧き出た疑念を振り払うように地を力強く蹴り、寄生した体から生やした翼をはためかせて空へと舞い上がる。



まずは視界を確保する。

空からならば埃の舞い上がった地上よりは楽に観測が出来る筈だ。


加えて、敵が生きているならば声を上げた事で場所を把握されている可能性があるが故に陣地転換も必要だ。



残存する建物よりも高く飛び、緩く左方向へと旋回移動しつつ、デュラは地上を凝視する。

そして、より強まる違和感の中で嫌がおうにも理解する事となった。



「化け物め…ッ!」


晴れていく土埃の中、立っている姿。

総数は、二つ。


否、正確には地に足をつけて立っているのは一体のみであった。


消耗らしい消耗を感じぬ様子で立っている乾ききった血の様な赤黒い鎧を纏った悪魔憑き。

それが力尽きたクロエの胸倉を掴み上げている光景がそこにはあった。


両断された筈の胴体は接合され、肩に突き刺さっていた二本の(つるぎ)は既にない。

頭部からは湯気と煙が立ち上りつつもどうやら原型はとどめている様であった。


変わったところがあるとすれば、何も身に着けていなかった筈の頭部に兜の様な物が増えている事であろうか。


だが、その程度の守りが増えた程度で耐えられる物である筈が無かった。

ありえない、あってはならない事態だった。



赤鎧の幽鬼はおもむろに掴み上げていたクロエを引き寄せ、首元へと顔を近づけていく。

それをデュラは己自身も連なる血統である吸血種が行う捕食行動であると即座に判断した。



「らぁッ!」


させるか―――――!

そう思った瞬間にはデュラは既に己が掌に集まった血の塊を握り潰して氷の槍を構築し、空中にて体を前転させるが如き勢いでの全力投擲。


凍槍が自身を構築するエーテルすらも推進力として消費し、その身を削りながら急加速、あたかも戦車より放たれる徹甲弾(APFSDS)の如き速度で目標へと飛翔する。


が、しかし―――――。

直撃する間際、唐突に凍槍が半透明の膜に阻まれるように蒼い燐光と甲高い金属音を放って宙空にて一瞬、受け止められる。


阻まれたのは一秒に満たない程の刹那の時間。

だが、それはレオが凍槍に対応する時間を稼ぐには十分すぎるものだった。


防壁(バリア)を突破した凍槍が瞬時に後背へ薙ぎ払った横薙ぎの一閃で砕け散る。

その手中にクロエは既におらず、代わりに両手に持つは赤黒い刀身の長剣。


砕けた凍槍が炸裂し、光芒がまき散らされる刹那の時間。

デュラの瞳に映ったのは横薙ぎの一閃の勢いに任せて体を向き直りながら数歩踏み出し、体を更に一回転捻って勢いをつけながら赤い剣を投擲してくるレオの姿であった。



まずい、誘われた―――――。

狙いは最初から自分であった事に遅まきながらデュラは理解した。


防壁が防御した方向と角度から逆算されて位置を暴露してしまった。

体を固定できぬ空中での投擲で姿勢制御が追いついていない。

体勢を整えるよりも先に敵の攻撃が直撃する。


気合でかわさねば死ぬ!


背に生えた羽を動かし、回避機動を取ろうとする刹那の間にブーメランの如く高速回転する剣が迫り、デュラの胴体と顔を逆袈裟に切り裂いた。



(あづ)っ!」


とっさに体をひねって、深手を避けたデュラが顔に走った激痛と赤熱感に呻く。


痛みに怯んで揚力を失った肉体が即座に本来のあるべき物理法則に拘束され錐揉み急降下を開始する中、そんな事は些事とばかりにデュラは未だに痛みと熱で疼く顔に震える手を添える。


血だ、溢れんばかりに蒼い血が手についている。

斬られたのだ、顔を。


肉体側にも無視できぬ程度の損傷はあるがそんな事はどうでも良い。

体の痛覚など遮断出来る、戦闘は続行可能、どうせ使い捨てであるからメンテナンスも考える必要などない。


だが、顔は…顔だけは…!



「よくも…よくもママが遺してくれた顔を傷物にぃいいいッ!」


墜落しつつあるデュラが選んだのは上昇による姿勢の回復ではなく、むしろ更なる加速による急降下。

落下で得られる運動エネルギーと大気中のエーテルを捉える羽を用いた不自然な増速、強制的な姿勢制御を行い地面すれすれで水平状態に移行、剣を投げ捨てたレオへと肉薄する。


エーテルの介在する空間において、ミュータントの羽は純粋な翼というよりは水中の魚のヒレに相応すると言った方が順当であろう。


物理法則の支配された空力と水中における魚の行う高速かつ複雑な機動の複合。

大気のエーテルを捉えて推進力と成す。

それこそが飛行種の真骨頂。


羽ばたくごとに左右に不規則に体を高速スライドさせながら、減速するどころか更に加速を繰り返す。

デュラはそのある種奇怪で冒涜的な高速機動で滑るようにレオへと進路を向ける。



「殺すぅ!てめぇは私が殺ぉす!」


掌に残った顔から拭った血をデュラが強く握りつぶす。

手から溢れた血が即座に氷結し、武器へと形を変えていく。


デュラが両の腕で構えるは波打つ刀身を持つ蒼い大フランベルジュ。

自慢の美形を醜く歪ませた鬼気迫る表情のデュラが空母に迫る雷撃機の如く地面に擦るほどの低空で、隠すような下段の構えで剣を持ち迫る。


対するレオは両手の掌を迫るデュラへと即座に向ける。

一見して静止を呼びかける様に見えるその姿は当然、降伏や停戦要求の為ではない。


言うまでもなく攻撃の為だった。

レオの掌がデュラを指向した刹那、その両掌が連続して火を噴いた。


両腕部に仕込んだ銃身がせり出し、凝血弾を対空砲の如く連射する。


それは第二次大戦の防空戦闘を彷彿とさせるものであった。

長物を構えて迫る飛行種の異形とそれを二本の腕から吐き出される火力でもって迎え撃つ死から見放された異形。



連続して巻き起こされる爆裂の光芒が瞬く中、炎と爆発の壁を突破したデュラが小柄な身を生かして死角たるレオの直下、下半身の目前へと迫る。


そして―――――。



「死に晒せぇえええええッ!」


エーテルを捉える羽根を生かした不自然なる急上昇をしつつの逆袈裟斬撃がレオの右脇腹を襲う。

赤い鎧と蒼いフランベルジュが激突し、絶叫の様な硬質の激突音と蒼い燐光をまき散らされる中、それでも矛盾の戦いを勝利したのはデュラであった。


斥力場(ディフレクター)による自動防御を腕力でぶち抜き、赤鎧の装甲すらも切り裂き、右脇腹から入ったフランベルジュの一撃は迎撃を試みて指向していた左手すらも両断する。


だが、まだ足りぬ。

普通の生き物ならば十分でもこの化け物にはまだ足りぬ。



「まだぁああああッ!」


叫ぶデュラは3mを超す戦闘形態となっているレオの頭上へと加速のついた勢いのままに飛び上がる。

首だけを動かして敵の姿を追うレオの瞳に濁った赤い月を背に上段に構えたデュラの姿が映る。


デュラが狙うは奇怪なる羽根によるエーテル空力併用制御を用いた急上昇からの再急降下による上段唐竹割による第二撃。


狙うは頭部一つのみ。

胴体への攻撃は初回の投擲、そして今回の斬撃にて無意味と理解しての所作であった。


顔を切られた怒りの中にあってなお、デュラは冷静に脅威を分析し、己の手札の中から数少ない勝ち筋を選んで手札を切っていた。


防壁(バリア)の展開が間に合わぬ肉薄した至近での近接戦闘。

それはクロエと戦い、余剰エーテルが枯渇しているであろう今であれば勝てる筈と踏んでの選択であった。


勝つにしろ、逃げるにしろ、クロエを回収するにはレオに肉薄するほかに道はない。

ならば、倒すことを前提にした方がまだ勝機も生存の可能性もある。



武器すらも投げ捨てたからには最早この幽鬼に打つ手は―――――。

なぜ、武器を投げ捨てた?

射撃武装はまだ保持しているというのに?


僅かに心の中に沸いた疑問が現実化するのはすぐの事であった。


トドメとして放たれた渾身の一撃が残る右腕に容易く防がれたのだ。

振り降ろされたフランベルジュは蒼い燐光をまき散らしながら腕を深く切り裂き、だが両断出来ずほぼ中央部にて停止する。


先に両断した胴体部より遥かに強固な装甲と化したレオの右腕がデュラの一度限りの全力攻勢を受け止める。



「…ッ!?こいつ…ッ!」

「そう、その位置で良い」


デュラは相対する悪魔憑きの付けた兜の隙間から見える口が若干吊り上げるのを見た。


「何を―――――!?」


直後、クロエの背に何かが突き刺さる感触が襲う。

否、突き刺さるという程度ではない。

それは腹を貫通し、肉体の生命維持機能を完全に破壊していた。



「こういう事だ」


己自身にすら赤い剣が突き刺さっている事に意に返すことなくレオはデュラに告げる。



「剣…戻し…ッ!」

「ブーメランならば俺でもイメージしやすいと思って試してみた。悪くはないな」


支配した肉体の身体機能が急激に落ちていく。

内臓類が破壊された事が感覚でわかる。


だが、まだだ。

まだ、やれる。


体が生命活動を停止するまでの間際にもう一撃は出来る。



「あ゛ぁあ゛あ゛あ゛あッ!」


固着して用を為さなくなったフランベルジュを手放し、体から溢れ流れ出た血を右手に集めて氷の短剣を作り上げ、デュラはレオへの最後の攻撃を刊行する。


突き出された氷の短剣が蒼い燐光をまき散らしながら赤黒い兜に激突し、甲高い金属音を上げて兜もろとも砕け散る。

その下の光景にデュラは目を見開いた。


青白い顔の左半分を染める赤く焼けただれた肌、そして熱で茹で上がった白濁した左目は右目と合わせると白と赤のオッドアイにすら見える。


それはクロエの本気狩壊光線(マジカルブレイカー)を受けて無事では済まなかった事を意味していた。



「貴様も逃がさん」


短い処刑宣告を終えたレオが斬られた左腕をデュラに見せつける様に持ち上げて晒す。

切断された傷口から溢れた粘性のある蒼が触手の様に地面へと垂れ下がり、地面に転がる残りの部位と接合して本来あるべき場所へと左手を呼び戻す。


その様にデュラが思い至ったのは己の死に様よりも先に、クロエの攻撃をいかに耐えたかという答えであった。


即座に目玉を動かし、周囲を素早く探り、理解する。


周囲に散らばるのは血液という形でエーテルを多分に含んだミュータントの遺骸、目の前にあるのは人から逸脱した肉体、粘性のある血液。


レオは地面に固定されて尚、自由が利く己の肉体から血の触手を手当たり次第に四方八方にばら撒いたのだ。


そして触れたあらゆるエーテル資源、遺骸や地面にまき散らされた血を貪欲に補給し、そこから得たエーテルで持って頭部に血の兜を形成して絶命直射を耐え抜いたのだ。



「貴様らのせいでまたあの忌々しい存在の知恵を使わされた」


この化け物には自分達では勝てない、勝てるとしたらやはり父しか―――――!


デュラの思考は再生したレオの左手から繰り出された手刀が胸を貫いた瞬間に停止した。



「ごぶ…ッ!」


鈍い衝撃と共に肉体から逆流した血液がデュラの口からあふれ出す。

変異時に表皮に施した鱗状装甲など障子の如く貫いたレオの左の先にあるのはデュラが寄生した肉体に元より備わっていた心臓。


それが肉のはじける音と共に水音を立てて握り潰される。

それと同時に、急激に体から力が抜けていく。


否、力を抜かれているという感触の方が近かった。

血を吸われている。


既に人から逸脱したレオの肉体はそれ自体が強力な斥力場(ディフレクター)で鋳固めた偽りの人型。

レオの意のままに振る舞う血液の塊が、突き刺した敵の体から直接血を吸い尽くすなど造作も無かった。



「パ…パ…!」


寄生した体を経由して本体のエーテルすらも吸い尽くされていく中で、デュラの意識は遠のいていった。



―――――――――――――――



ようやく二体の敵を処理し、レオに芽生えたのは達成感ではなく嫌悪感であった。


あのクロエという悪魔憑きにレーザー直射を受けた際、血の兜と周囲からのエーテルの強制補給を行ったのはレオの意思ではなかった。



己の内に眠る三体の神を名乗るおぞましい者ども、その中でも最も嫌悪するあの古き人の神の差し金だった。


最早、器として不適格となった今ですらも執着し、死に最も近い存在でありながら己の死を望まぬそれにレオは最も強い嫌悪を抱いていた。


なお悪い事は、他の二体もその行動に関してだけは拒絶せず同調した素振りがあった事だった。


人の中で好き放題に巣食い、主導権を巡って争い、そして破滅だけは回避するために協力し合う。

先まであった高揚感や幸福感も、このようなゲスどもの事を思い出せば醒めてしまう。



「さて…頭も潰しておくか」


レオの眼前にあるのは腹から大剣を生やし、心臓を左腕で貫かれて絶命したと思われる敵の姿。


頭を切り落としたのに戦闘を続行した悪魔憑きがいたからには、逆に心臓を潰しても頭だけで生きていられる奴もいるかもしれない。


確実に始末するために心臓と頭の双方を破壊するのが肝要だ。

レオはデュラの胸から左腕を引き抜き、両手を組んで頭上へと掲げる。


ダブルスレッジハンマーによる渾身の一撃でデュラの頭を粉砕するべく、組んだ両拳を振り降ろそうとした刹那、突如として肉体がレオの制御を拒絶した。



「この…ッ!?こんな時に…ッ!邪神…!」


己の内に潜む神の内の一体が強烈な介入を開始した事にレオは半分焼けただれた顔を更に歪ませて嫌悪する。


最も長く付き合いがある腐れ縁だが、別に仲も良くなければ仲間でもない。

むしろ仇敵であるとすら思っているそれをレオは制圧すべく全神経と精力を注ぎ込む。


だが、内から意識を顕現させたスーラはレオを跳ねのけて体を支配し、更にはかつての如く目だけを赤く光らせた影を顕現させる。



「この血の脈動は血族…ッ!薄いが我が血統を感じるッ!貴様、誰の子か…!」

「なんだと…ッ!?亡者どもが繁殖してるなど許され…ッ!」


スーラの放った言葉にレオは驚愕と共に呪詛を吐き出す。

だが、そうであるならばこそこれほどまでに邪魔する事が理解できた。


是が非でも殺さねばならない。

二つの意識が一つの肉体を奪い合い、ぎこちなく、ゆっくりとそれでも勝利しつつあるレオがおろされたかけていた両腕を再び高く掲げる。



『起きよ、陽神の子よ。死ぬ事は許さぬ』


レオが両拳を振り降ろすのと、スーラが脳を直接揺さぶるようなあの奇怪な声で敵に覚醒を命じるのはほぼ同時であった。


レオのハンマーパンチが直撃する刹那、意識が遠のきつつあったデュラは不思議な声に突き動かされ、使命感にも似た切迫した感情と共に意識を覚醒させた。


まだ、死ねない。

死ぬわけにはいかない。


命じられた意思が思考を明快にし、瞬時に生き残るための最適解がデュラの脳裏に湧き上がる。



「爆ぜよ」


デュラの視線の先にあるのはレオの右腕に深く突き刺さった己が作った蒼いフランベルジュ。


レオに敗因があるとすれば、未だ足りぬエーテルを補給するためにデュラの血を吸った事。

そして、デュラの始末を優先して右腕に刺さった剣の排除を怠った事。


デュラの言葉に従うように砕けて起爆したフランベルジュがレオの右腕を切断、両腕で組んだハンマーが本来の軌道を逸れて頭部ではなく右肩を粉砕する。



「ぎぃいいいいいいッ!」


致命の一撃を回避したデュラは叫びながら頭部を捻じって肉体に張り巡らせた肉の根を自切、寄生していた体との接続を解除して頭部のみで空へと浮かび上がる。



「グイリィイイイイイインッ!」


寄生用の触手を喪失し、血液とエーテルの過半を失って萎れたデュラが被膜状に展開したアホ毛を羽ばたかせながら叫ぶ。


既に死に体、即座に揚力を失って滑空する紙飛行機の如く落ちていく中でデュラが目指したのは同じく力尽きて地に伏しているクロエの元であった。


出来る事は尽くした。

後はもう、敵が先に動くか回収が先に来るかであった。



「この忌々しい…ッ!あの地下鉄からずっとお前は俺の邪魔ばかり…ッ!」


かつての精彩さを失い、それでも確固たる殺意でデュラを始末するべくレオは背後へと逃走を図った獲物へと向き直る。


未だ微弱ながら抵抗を続けるスーラを払いのける様に震える左手をデュラに向け、掌を開く。

即時にせり出すのは単装の銃身。



「死ねぇ!」


叫びと共に銃身が幾度となく火を噴き、乾いた血の散弾が地に伏したクロエと傍らに落ちたデュラへと殺到し―――――。



直撃する刹那に現れた何かが展開した魔導防壁(バリア)によって眼前で受け止められた。

次々と緑の炎を上げて爆裂する凝血弾の雨が蒼い燐光を放つ半透明の膜に阻まれ、目標を食い破ることなく虚しく燃焼して消えていく。



「ひぃいいいいいいッ!」


場にそぐわぬ素っ頓狂な声を上げたのはクロエらの前に降り立ち、防壁を展開した巨獣の背にしがみついていた矮小な人間であった。


クロエの気まぐれで捕まえられ、従者として散々引っ張りまわされた哀れなる男、ゴサン。


彼は当然ながら、ラペナが帰還する際に共に連れて行って貰える筈なく、当地に留まっていた。

都市の殲滅戦が始まり夜が訪れた時、ゴサンは四足の騎獣であるグイリンの背に乗って待つようにクロエに命じられていたのだ。



『死にたくないなら良い子に待っててねぇ~』


その言葉を頼りにゴサンはひたすらに耐えていた。


街が燃え盛り、夜行種による蹂躙が行われ、主が化け物と死闘を繰り広げる中、ゴサンはグイリンと呼ばれた巨獣の背にしがみつき、必死にあらゆる恐怖に耐えていたのだ。


そして今、安全だと思っていた巨獣の上にいてすらもゴサンは戦禍に巻き込まれつつあった。



「クロエ様ぁああああッ!ここなら安全じゃなかったんですかぁああああ!?」


叫ぶゴサンを無視し、巨獣はレオに向けて口を開いた。

発光するそれにクロエのそれと同じものを感じたレオが腹に突き刺さったままの剣を引き抜き、即座に盾とする。


グイリンの口から放たれたのは蒼い光弾。

重強化外骨格(マトリョーシカ)のプラズマ弾にも見えるそれはしかし、類似するプラズマ弾よりも遥かに早い初速でレオへと襲い掛かった。



「ぐぅッ!?」


剣に突き刺さったデュラの体の成れの果てがプラズマの炸裂で蒸発し、防壁(バリア)が砕け散る。


それでもなお、剣の装甲で砲撃を耐えるレオがゆっくりとグイリンへ向けてにじり寄る。

一気呵成に突っ込んでこないのは、未だスーラの妨害があるが故。


対するグイリンは逃げる素振りを見せず踏み留まり、迫るレオへと砲撃を続行する。



「なんで逃げないんだ!?このままだと…!?」


叫びながらゴサンはふと理解した。

この獣はクロエ様とあの生首を救うために降りたが、目の前の化け物を相手にするので限界なのではないかと。


つまり―――――。



「俺が回収しないと逃げれないって事なのか!?」


ゴサンの叫びに応える様に口からのプラズマ砲撃を繰り返すグイリンが蒸気を鼻から大量に掃き散らした。



『さっさとやれ』、グイリンの仕草からゴサンはそう言っていると判断した。



「もうやだぁ!こんな奴らと一緒なんてやだぁ!おうち帰るゥ!」


連続した非日常と恐怖で幼児退行を起こしつつもゴサンは生き残るべく行動を開始する。

ゴサンは保身に長けたからこそ生き延びてきた男、その姑息な才能をクロエが見抜いていたのかは定かではない。


だが、少なくともゴサンは泣き叫んでなお頭が回り、行動が出来る男であった。


まず軽そうな生首、デュラを両手で拾い上げてグイリンの背に乗せ、次いで大柄のクロエの肩に体を潜り込ませて担ぎ上げる。


見た目に反してクロエの体は軽かった。

エーテルを使い切って仮死状態の悪魔憑きの軽さに驚きつつ、それでもなんとか運べそうな事に安堵したゴサンが涙を流しながら歯を食いしばって闇に染まった地獄を進む。


目に映るのは唯一の蜘蛛の糸と言っても良い騎獣の背のみ。



「ふんぬぅああああッ!」


ボロ雑巾の様になったクロエを背に放り投げ、ゴサンもグイリンに搭乗する頃にはレオは目前まで迫っていた。



「全員乗ったから早くおうちに連れてってぇええええ!」


鬼気迫った表情のレオがぎこちなく赤い剣を振り降ろす中、ゴサンが失禁と共に絶叫を上げた。


脱出の準備が完了した事を理解したグイリンが砲撃をやめ、振り降ろされた剣を額から生えた歪な衝角の如き角で弾くと同時に首を振ってレオの腹に衝角を叩き込んで吹き飛ばす。



「フンっ!」


そうして距離を作ると同時に鼻息を一息吐いたグイリンは強靭な四脚で地を蹴り、空へと飛ぶと硬質な翼を展開してエーテルを捉えて高速で暗黒の空へと飛び去って行った。



その有様は神話に語られる麒麟とペガサスを混ぜたような歪な姿であった。



「くそっ!くそっ!くそがぁッ!」


グイリンの一撃から体勢を立て直して地に立った時点で、既に獲物を逃したことを悟ったレオが怒りのままに石造りの街道を二度、三度と踏み砕く。


そして脱力し、その場に座り込んでうなだれた。



「夜間活動可能な敵を始末し損ねた…。これは後に障るぞ…」



未だに周囲では殺戮と生存をかけた戦いが続く中、レオにとっての戦いが終わりを迎えた。

戦闘での勝利とは裏腹に、戦術目標を一切達成できなかった。


敗北としか言いようのない戦いであった。

主人公無双のシーンは白色水星でも見てる気分でどうぞ

https://www.youtube.com/watch?v=kiRA1mub_Yk


魔法少女さんは元々古参兵、自分を魔法少女だと思い込んでいる狂人、教養ある家庭出身という構想でしたが、結構書いてるうちにこっちが良いという感じで改変出来る内は改変する性分なので戦前生まれという感じになりました。


現状自称神々を除けば100歳越えの作中最古参となります。

本体は黒色の毛をもつ2m程度の小柄な人狼で四足形態も使うので猫背気味で見た目より背が小さく見えるイメージです。

人間形態は肩に届かないぐらいの短い青髪で165cm程度のこちらも小柄な肉体になりますが、世紀末は栄養状態が悪いので150cmや140cmの身長も多いので割と作中では割と長身になります

見た目イメージはまどマギのさやかちゃん、或いはらき☆すたのこなたという感じになります。

ヒロイン一号です。


生首姉ことデュラの元イメージはデュラハンとゆっくりれみりゃです

父譲りの紫の瞳と母(故人)譲りの青紫の髪を持つ、要は寄生能力持ちの冒涜的ゆっくりれみりゃです。


亜種としての性能は開設済みですので省きますが、妹より総合的に弱いです。

妹が頭部のみで高機動を実現できる一方で姉は肉体を得てようやく妹相当の性能です。

ゆ虐のふらんとれみりゃぐらいの戦力比ですね


夜戦編がこれで概ね終わったのでいよいよ話が進みそうです

今回はここまで

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