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ブルーブラッド  作者: 人間性限界mohikan
二章『自由の荒野』
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二十八話、衝動戦

ツイッターアカウントが凍結されたりしましたが私は生きています

意識が遠のき、思考が霞む。

己の内から命そのものが急速に失われて行く冷えた感覚が脳を支配していく。

死が迫っている。


だが、だからこそ―――――。

だからこそ、標的を見定める視線は鋭敏となり体は新たな滋養を求めて活性化し続ける。


眼球が変異し、目に映る全てが蒼と紫色の世界へと変わり果てたレオの目に映る光景は単純な物であった。


目が痛くなるほどの青に囲まれ、付近で燃え盛る市街は虚ろな紫の色で浮かび上がる。

己のまき散らしたエーテルが揺蕩い、大気の薄いエーテルと混ざり合い、流動し、アノマリーへと変じていく。


最早レオの瞳に闇は映らない。

色彩という人の喜びを捨てた代償にエーテルの濃淡で全てを見通す変異した眼球を得たが故に、夜の闇など恐れるに足りず、なおかつ光すらも拒絶した。


二刀流に持ち替えたクロエの両の剣より迸る電流の閃光すらも意に介すことなくレオはひたすらに最短、最小の距離と動作で肉薄し、剣を突きつけ、振るい、腕を伸ばして抉る様に掴みかかる。


その動きに若干の怯みや思慮とも取れる動作をするも、即座にクロエも己の優位性が機能しない事を理解し攻撃と戦闘機動を再開した。



元より、特大剣の状態でも行っていた雷光による目潰しが効いていなかった時点で半ば理解していたであろうクロエはそれまでと一転して防御と回避を捨て、攻撃へと軸足を移す。


剣と剣が激突し、牽制と行動阻害を狙った双方の緑の炎と青い雷光が宙を舞う。

まき散らされた暴力的なエーテル攻撃が弾かれ、逸れ、外れる度に周囲の構造物と生存者を吹き飛ばし、薙ぎ払う。


エーテルの檻の中、双方が試みる敵を滅ぼすための戦術行動と相手を出し抜くための戦闘機動の為に残余の建造物が盾や足場として利用され、戦闘の余波によって薙ぎ払われていく。


クロエの放った雷撃がレオの剣に斬り飛ばされ、まだ健在であった住居の防壁を爆砕して中に潜んでいた住人を夜行種の供物として夜の闇に解き放つ。


目標から逸れたレオのプラズマ火球が弱肉強食の理を行う悲運なる弱者と捕食者を平等に焼き払う。


一時はレオの切腹により発生した濃いエーテルを纏う濃厚な血の香りに誘い出された夜行種たちもこの二匹の異形の引き起こすエーテルの冒涜的暴風雨の中で逃げ場を求めるが、周囲に作り出された致死性アノマリーの檻があってはそれすらも叶わない。


その暴威の範囲の内にある生けとし生ける者全てが理不尽なる死と破壊の中に沈んでいく。

その中にあって、レオは一種の酩酊感と幸福感すら覚えていた。


ここには成すべき事だけがある。

敵を殺し、滅ぼすだけで良い。

ここで終わりならば、終わってしまえば良い。

思い悩む必要はない、頭に浮かぶ『最善』を実行していくだけで良い。


それはかつて軍人として末端に近い位置にあった時の救いに似ていた。

下士官として、そして残り少ない純粋な人類として未来を憂い、考え、行動したとて己の理想には程遠い現実を前に最後には思考を閉ざす事が救いとなった。


任務をこなし、義務を果たす。

難しい選択は上に任せれば良いという一種の開き直りだ。


軍よりはぐれ、生き残り、文明の利器を失った人という種の脆弱性を嫌と言うほど見させられてきた。

否、それ以前に既に軍務においてそれを理解するには十分であった。

それでもなお可能性を、小さい希望を妄信していたに過ぎなかったのだ。


かつて望んで踏み入れた地上の世界に救いなど無かった。


汚染され、遅いか早いかいずれは化け物は変ずる逸脱した者達。

ただ資源と物資を食いつぶし、父祖の技術など忘れ果てて獣へと退化していく末世の光景。

死ねば最早生き物ですらない異形となって起き上がる神なき世界。


否、神はいたのだ。

人の信じた救いをもたらすものでなかっただけで。

そんな世界を見て最早残っている感情は少ない。


絶望すらも既に枯れ果てた。

正気であろうと狂気に落ちようと最早、意味などない

全て燃え尽きてなくなってしまえば良い。

そしてそれこそが兵士の義務だ。


たとえ故郷へ帰れなかろうと己は最後まで人類の兵士なのだ。

兵士は考えない、兵士は悩まない。

成すべき任務と責務を果たす事だけがその存在価値だ。


大義を信じ、殉じれば良い。

自らの自由意志でもってして、そうなれば良いのだ。

そうであるからこそ、知恵捨てなり。


切腹という動作を『スイッチ』とし、レオは望む最高の状態へと変じた。

最早ミュータントの生き血を啜る事すら苦ではない。


血を飲むのは燃料を補給するのと一緒だ。

変質した視野は戦闘中に使用していたアノマリー探知装置と一緒だ。

炎と化したエーテルをまき散らすのはエーテル兵装を放つのと一緒だ。

剣を振るうのは近接短刀を振るうのと一緒だ。


自らの意思で破壊した肉体は最早神の望む『境地』には至らない。

そうであるが故に―――――。


今はただ、敵諸共に燃え尽きるのみ。

敵が死ぬ事は最良だ。

自分が死ぬ事は当然だ。

諸共死ねば最善だ。


少なくとも、目の前の一体を道連れにすれば今も故郷にて奮闘する同胞達の脅威となる化け物を二つは減らせるのだから。


ひたすらに己の命を削るエーテルを消費する高機動を繰り返し、高揚する意識の中、レオの心だけはどこか穏やかであった。




―――――――――――――――



攻防を繰り返す中、本来は白と黒のみである筈のクロエの眼がレオの更なるエーテル出力の向上を『色』として検知した。


既に消耗の限界など超えているはずだ。

ガス欠でありながらエンジンの限界を超えてアクセルを踏み込んだ重戦闘機の如く、レオは更なる暴威でもってクロエへと肉薄する。



先までの剣戟を優に超える重い一撃を受ける毎に剣がひしゃげ、甲高い悲鳴のような金属音が鳴り響く。

生体金属(ミスリル)を混ぜ込んだアマルガム鋼の自動修復が追いつかず、徐々に刀身が歪に歪み、欠けていく。


重い衝撃を受け続けた骨が軋み、筋肉が断裂し、剣を握る感覚が徐々に消えていく。

それでも、まだ剣を手放すわけにはいかない。


元より、剣で倒せるとは期待していない。

剣で持って相対するは『奥の手』を放つための仕込み、そして確実に命中させるための環境作りに他ならない。

であるこそ、手など抜けようはずがない。


クロエは雷光による目潰しなど効かぬとばかりに地面に擦れる程の前傾姿勢にて疑似スラスターで加速し、砲弾となって迫るレオ。


先より早い、最早かわせるものではない。

迎え撃つのみ。


両の手に持つ双剣と全身に雷光を帯電させつつ、両足を地につけたクロエが構えた両の剣で迎え撃つ。


牽制に放った一条の雷光に身を焼かれ、そうであってもレオの光を失った薄黒く赤い瞳が決してクロエから逸らさない。

一挙手一投足全てを余さず捉え、決して逃がさないという意思がそこには感じられた。


そも、雷撃の効果が既に無い。

先の乱射でおおよその威力を把握し、前面に魔導防壁(バリア)を展開して雷撃を中和しているのだろう。


ヴィルを捕食した事で記憶と力を得たレオのエーテル運用能力は格段に上昇していた。

ポージングという縛りを必要とする事で絶対防御を獲得したヴィルに比べれば格段に劣るとはいえ、展開の理屈を理解してしまえば模倣は容易だ。


元より、防壁など大型ミュータントは常時展開しているのであるから出来るのが道理。

正気にては後天的に学習など不可能であろう『呼吸の仕方』をレオは他者の生命を搾取する事で『理解』した。



『出来ると思い込めば良い』、それが悪魔憑きのエーテル運用の骨子。


自身の肉体を兵器と定義したレオにとって防壁展開はさほど苦になる物ではない。

彼自身がかつて用いた、或いは共に戦った兵器には防壁展開能力を持つ兵器が存在していたからだ。


かつて目撃したそれにイメージを合わせ、レオは人外の肉体でありながら自己認識を完全なる兵器へと変質させていく。


否、レオの心持ちはさながら、人類全盛期に異界の騎士と戦った兵装完全装備の機動歩兵のそれだ。

最早その枠すらも逸脱し、遥かに高性能な身体性能を獲得し、それでもなお心は兵士であり、兵器であった。


その妄信が繰り出すは純粋な質量と高加速による突撃戦術、単調なるそれが許される程の純粋な性能差を前面に押し出した搦め手を使わぬ正攻法の攻め。

回避するいとまが無ければ受けるほかにない。


ただ受ければ剣諸共貫かれる、受け流すべし。

突き出された剣の刀身を狙い左片手剣で勢いよく弾き、反らした剣とは真逆へと脚力だけで鋭く跳ねつつ身を反らし、体当たりを回避。


そのまま体を捻り中空にて反回転、後背へ抜けたレオへと向き直り―――――。

その時には既に逆噴射にて強制的に姿勢制御を終えた着地したレオが上段に構え直した剣を振り下ろす瞬間がクロエの蒼い瞳に映った。


早すぎる、あまりの事態にクロエの瞳が驚愕と共に大きく見開かれる。


あれだけの加速を更なる疑似スラスターの噴射で殺した上で最短で行ったこちらの回避行動の上を行かれたとクロエは即座に理解した。


ガス欠寸前の癖に一切のエーテル消費を顧みない自滅を望んでいるとさえ思える程の大盤振る舞いから放たれる高速機動であった。



「ッ!?」


とっさに右手剣を振り降ろされる軌道に割り込ませて防御するも逸らすのが限界であった。

剣は歪み、骨と筋肉が限度を超えて自壊する感覚そして―――――。


赤熱感と共に右腕と肩の肉が削げ落ちた。

否、実際に傷口が焼けている。

炎を纏った刀身によって焼ききられたのだ。

骨まで断ち切られなかったのは運が良かったからに過ぎないだろう。


致命傷を避けたクロエが獣特有の低いうなり声を上げ、即応する。

痛みを意に介している時間はない。

反撃するならば今しかない。



「しィ…ッ!」


防御と同時にクロエは短く息を吐きつつ、半歩踏み出しながら手すきの左手剣による鋭い刺突をレオの腹部目掛けて放つ。

が―――――。


放った刺突が中空にて勢いよく激突した何かによって火花を散らしながら有らぬ方向へと弾かれる。

その正体はレオの握り拳であった。


横薙ぎに放った拳を剣の腹にたたきつけ、攻撃を反らした。

その意味―――――。


あれほどの重い一撃であった斬撃がまさかの片手、つまりこれは誘われ―――――。

そう思うも束の間、唐突に襲い掛かる腹部への衝撃がクロエの瞳に移る景色を後方へと引き延ばした。


逸れた視線をレオに戻せば理解できる。

腹を蹴られたのだ。


クロエの瞳は確かに捉えた。

レオに重なる様に揺れるいくつもの影を。


幾度となくレオの斬撃を拒んだヴィルの拳、圧倒的な蹂躙を見せてレオを絶望させたエンキの足癖、今やそれが文字通りレオの『血肉』となって力を与えている。


なるほど、強い。

先のガンポッドを乱射しながら理詰めで追い詰めてきた時よりも単調でありながら、それが故に力量差を理解させられるほどに明確な力を示してくる。


きっと普段は無駄に考えすぎる人間なのだろう。

アレコレ考えすぎて実力を発揮できない人間がキレて無心で殺す事を追求した結果がアレだ。

頭が拒絶しても体は最適解を理解している。


だが―――――。

だが、それはこちらも同じ事―――――。



「はァ…ッ!」


口から蒼い血を吐き散らしながら、クロエは追撃を試みるレオに向けて咄嗟に右手剣を力任せに投擲していた。


追撃の構えを取っていたレオの動きが急停止し、剣への対処を強制されているのが見える。

手に入れられるのはほんの一瞬の猶予でしかないが、それで十分だ。


決して軽くない負傷を受けながら、クロエは口角を釣りあげる。

投擲の勢いを利用し、中空にて体の向きを反転させると同時に四本の手足にて反動を殺して無理やりに着地すると同時に獣らしい四足歩行にて一転してレオへと肉薄攻撃を敢行する。


右腕が痛む。

削げ落ちた肉の再生が遅い、無理に動かした事で出血すら始まった。


だが進む。

この程度で怯むなど人を超えた化け物たる悪魔憑きの名折れだ。



腹部が酷く痛む、内臓か骨か、体を駆動する度に違和感と激痛が止まらない。

うっかり20mm徹甲弾の連続直撃を受けた時ですらもう少しマシだった気がするほどだ。


だが、戦える。

否、殺してやる。


残してはいけない。

絶やさねばならない。

死なせてやらねばならない。



悪魔憑きとは人が一度しか迎えられない特別な死を掌からこぼれ落とした見捨てられし者どもだ。

こうして戦いの中でしか他者から死を押し付けられなければ終われない存在だ。

だからこそ、その命を奪う事こそ最も尊く喜ばしい。


何かを殺す為に生まれてきたのが己であるならば、最高の死を与える大役を前にして腹や腕の傷がなんだというのだ。


命を懸けた戦いが徐々にクロエから理性という拘束具を奪い、本来の闘争と殺戮を好む獣の本性をむき出しにしていく。


悪魔憑きはすなわち、死に狂いなり。



「ほう…ッ!」


顔面目掛けて投擲された大型片手剣を左の拳で要撃したレオは四足にて迫るクロエの姿に瞠目する。

本来手に持つべき剣を大口にて加えて保持し、レオであればスラスターによる加速を用いねば即座には接近できぬ距離を純粋な脚力のみで駆け抜けてきたのだ。



「ぬぅ…ッ!?」


剣を突きつけ、火球を放とうとしたレオの視界が突如として歪む。

エーテルを使い過ぎたことによる反動が来たのだ。

配分を見誤った、だがまだ補給の手段はある。


レオは銃身を再展開した左の掌をクロエに向けつつ、右手で持った剣を己の眼前へと近づけた。

主の意思を理解したように、強固であった赤い剣が僅かに溶けだし、幾筋もの蒼い血がその表面より流れ出す。


牽制である凝血弾の発砲と同時にレオは剣と一体となっていた己の血を一気に啜る。

砕けた剣に己が血を混ぜて再構築した剣であるからにはそこにもまた膨大なエーテルが残存している。

剣としての機能を保持しつつ、必要分を摂取する。


減った分はまた補充すれば良い。

丁度良い獲物は眼前にあり。


レオの緊急補給と同時に乾いた血の散弾が狙いをたがわずクロエの眼前にて一斉に爆裂する。

地面に散乱した血肉が蒸発し、炭化した残骸が空から降り注ぎ、煙幕の如き土埃が舞い上がる。


一瞬の沈黙に間を置いて爆煙の中より飛び出したるは全身の体毛雷撃によって発光させた四つ足の獣。


偏向力場(ディフレクター)、中型ミュータント以上が自重の制御と防御に用いる能力と純粋な身体能力でもって爆撃を突破し、クロエが一撃を叩き込むべくレオへと迫る。



「ふんッ!」

「ガァアアアッ!」


低姿勢のクロエを迎え撃つべくレオが突きを放ち、それをクロエが四足獣にのみ許される稲妻の如き鋭角な軌道で回避。


勢いよく後背へと回ると同時に四つん這いの姿勢のままに口から左手に持ち替えた片手剣を横薙ぎにてレオの足元へと叩き込んだ。



軌道を低く、足を狙った一撃がレオの赤黒い西洋甲冑の如く形成された片足を斬り飛ばし、安定を奪う。

だが、転倒するよりも先に地面に剣を突き立てて支えとしたレオが左の掌をクロエへと指向した。


瞬時に掌より出現した銃身が乾いた血の散弾をまき散らすのとクロエが四足のまま横跳びで回避するのはほぼ同時であった。



炸裂する緑の閃光の中、四足であった黒い獣がいずこかへと手を伸ばす。

それに答える様に宙を飛んでクロエの元へと飛来したのは先にレオへと投擲した両手剣の片割れ。


主の元へと片割れが帰還すると同時にクロエは二本の剣を再び再結合させ、鋏型の特大剣へと作り変える。


全身を駆け巡ぐる雷光が裁断刀(シザーブレード)へも伝播し、巨大な雷を握りしめたようにクロエが任せに振り回す様に特大剣をレオ目掛けて叩きつける。


だが、その剣が届くよりも先に足を再構築したレオが疑似スラスターにて姿勢を強制的に立て直し、渾身の一撃を赤い剣で防ぎきる。


だが、クロエは止まらない。

一振りする毎に全身と剣に纏う雷光の光と密度を濃くしつつ、クロエは全力にて連続斬撃を繰り返す。



横薙ぎ、袈裟切り、逆袈裟、止まることなく連続で放たれる大ぶりの一撃を一つずつ防ぎながら、レオは適切な反撃を思考する。


あえて防ぐ必要もない、不意に浮かんだ考えが即座に実行される。



「シャアアアッ!」


横薙ぎに振るわれたクロエの一撃をレオは己が胴体にて受け止めた。

裁断刀(シザーブレード)が半ばを超えて深く食い込み、甲高い金属音と閃光が迸る。


だが、レオは平然とした素振りにて片腕で裁断刀(シザーブレード)の刀身を掴むと胴体へと更に押し込み固定する。


切断面は硬質に、しかして溢れ出す血は高い粘土を持つ接着剤の如く。

胴体と腕を用いた裁断刀(シザーブレード)の完全固定。

人の形をしつつも人から逸脱したからこそ許される冒涜的な防御。

最早心臓すらなくなった胴体にバイタルパートなど存在しないのだ。



そして、そのまま一歩ずつクロエに向けて歩み出す。

相手の得物が特大剣であるが故に、距離が足りない故だ。



「ぐぅううう…ッ!」


引き抜こうにも手に戻ってくるのは硬く固着したようだ感触だけだ。

それでありながら、レオ自体はまるで剣が突き刺さっているとは思えぬように進んでくるのだ。

その肉体の有様は固体でありながら、まるで液体の様でもあった。



胴体をほぼ切断するほどに剣を食い込ませたレオがおぼつかない足取りで迫ってくる。

胴体と片腕で刀身を抑え込み、前進によって少しずつ肉体を破損させながら、レオは決して止まらない。


青白い幽鬼の様な顔が不気味に歪み、牙に満ちた大口が開けられる。

食われる…!


本能でそれを理解したクロエが剣を手放すか考慮し、即座にその考えを捨てる。

丸腰ではどうにもならない。


剣が無ければ延命にもならない。



「ガァアアアアアッ!」


肉体の破砕を狙い、クロエは残った筋力の全てで持って裁断刀(シザーブレード)の刀身を押し広げようと力を籠める。


だが、びくともしない。

通常種ミュータントであれば多少の抵抗はあれど肉を裂きながら刀身が開いていくというのに、レオの肉体は頑強すぎる。


この時点で、クロエに行える対処が尽きた。


こうなれば仕方ない、自爆前提で奥の手を―――――。

覚悟を決めたクロエの眼前にレオが迫り、だが唐突に放たれた氷の槍によってその背を貫かれた。



「ババァあああああ!決めろォオオオオオッ!」


聞き覚えのある声と同時に蒼い氷の槍が小規模エーテル爆発を引き起こして砕け散り、不安定な構造と化していたレオの人体が上下に分割される。

馬鹿な子だ、逃げろと言ったのに。


殺意に染まっていたクロエが僅かに頬を緩ませた。

これで勝ったという確信と共に。



―――――――――――――――




投擲による援護を行ったのは飛翔能力によってアノマリーを回避し、高所にて潜伏して状況を見守っていたデュラであった。


デュラは二体の悪魔憑きが幾度か斬り結んだ時点で自分が割って入っても足手まといになるだけであると確信した。


腐っても熟練の古参たるクロエが敵わぬならば若輩の己では話にもならぬだろう。

だが、あの悪魔憑きもクロエに夢中で周囲に気を配る素振りは無い。


そこまで思案し、デュラはただ一度きりの奇襲に全てを懸ける事を選択した。


そしてそれが今、実を結んだのであった。

罵倒し合う事が許されるほどに気安い付き合いをしてきたが故にデュラはクロエに勝つ算段があり、隙を作ればそれを達成できるであろうと理解していた。


敵を倒す、家族も連れて帰る。

敬愛する父親からの頼みを達成するにはこれしかない。


剣はまだまだ父に及ばない。

だが、投げ槍ならば話は別だ。

必ず当てて見せる。


その意思の下、狙い通りに突き刺さった氷の槍を自爆させデュラは勝利を叫ぶ。



拘束が緩んだ瞬間、裁断刀(シザーブレード)が再度分離され一対の片手剣へと変じる。

同時に二本の剣は地へと落ちたレオの上半身、その両肩へと突き刺さった。


想定外の死角からの攻撃に一瞬、いくつもの可能性を検討する思考がレオに絡みつき、対応が一手遅れたのだ。



まるで昆虫標本の如く、地面に縫い留められたレオに対して今度はクロエが大口を開いた。

クロエの全身でたけっていた雷光が瞬時に消え去り、明滅に満ちていた世界が闇へと回帰する。


否、一拍の間をおいて全ての光が大口を開けたクロエの口腔内に集まっていく。

集まったそれは最早雷光ではなかった。


光だ。

膨大な閃光がクロエの口腔内で渦巻いている。


レオの変異した眼球もまたその異様な光景を捉えていた。

眼前に迫るクロエの姿が見えない。

目の前に移るそれは最早視界全てを染める濃く輝く青一色であり―――――。



「ババァ!決めろぉ!本気狩壊光線(マジカルブレイカー)をぉおおおお!」


デュラの叫びとほぼ同時に、クロエは体内の全エーテルを収束させた高出力レーザーを口から撃ち放った。




いつも更新が遅くなり申し訳ありません。

今回は書きたかった冒涜的人外アクションが多めにかけたので個人的には満足しております。

クロエの実力は全体的な身体能力はエンキくんに一歩及ばない、夜戦能力と雷撃能力、そして四足形態時においては肉薄して良い勝負するぐらいの塩梅で書いています。

エンキくんをトップクラスとして指標に概ね書いているので、クロエも割とトップエリートの部類ではありますね

そろそろ作品の方向性を出していける段階まで話が進んできたので毎度達成できてませんが出来る限り早く作っていけるように頑張りたい所存です。


なお今投稿分の自己満脳内主人公側BGMが聖職者の獣

https://www.youtube.com/watch?v=xHHYs14hNPg

クロエ側がthe Hunterとなっております

https://www.youtube.com/watch?v=kA614N3IHD4

今回はここまで



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