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ブルーブラッド  作者: 人間性限界mohikan
二章『自由の荒野』
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十九話、決裂

PC回線が無いと人生の八割が死ぬと悟る今日この頃


鼻歌混じりにクロエは逆手に握った刺突剣(スティレット)を目の前の灰色の壁に叩きつける。

鉄筋の入った今の世では豪勢なコンクリート壁に細く薄い刀身の刺突剣が火花を散らしながら食い込み、クロエの横暴な要求を見事に達成する。


対重度変異者、屍者を想定してクロエの為に鋳造されたそれには人類には生産不可能な『来訪者(ヴィジター)』の用いる生体金属ミスリルが含有されている。


少量のミスリルと人類が運用する鋼鉄を混ぜ合わせたそれは教会では劣化ミスリル合金、通称『アマルガム兵装』と呼ばれる教会の誇る聖遺物の一つだ。


装備者のエーテルを吸収し、折れず、欠けず、記憶した形状に再生する化け物が持つべき最良最高の装備。

それをクロエは惜しげもなくコンクリートに叩きつけてはピッケル代わりに体を預けて防護壁を上に上に登っていく。



「んー、たまには登山みたいなのも乙だねぇ~」


余裕ありげに片手を離して背後を見やれば、規模だけは相応に大きい寂れた木造住居の群れが視界に入る。

どこまでも陰気で、退廃的で、灰色にしか映らないその街並みをクロエはいつもの微笑みで眺める。


これまで色々な街を伴侶に選んだ者と観光気分で冷やかしてきたが、どこもかしこも活気や覇気というものが無い。

ついでに言えば、食事も美味しくないし、店のサービスも悪い。



この街も例外ではなく、持ち出してきた教会の糧食にまた手を出してしまった。

こんな街でデートなんてした日にはその日の内にカップルの破局は確定だろう。


多少好き放題に人を殺せるという利点を差し引いても、この手の短所とは釣り合いが取れないというのがクロエの中での結論だった。


殺しはどこでも出来るが、美味しい食事と綺麗な服はどこにでもある物ではないのだ。



「本当に、教会の外ってつまらないよねぇ…。ここの防御装備はちょっとアスレチックみたいで楽しいけど」


壁に突き立てた刺突剣一本に体を任せ、額の汗をぬぐいながら下を見れば壁の間際に構築された深い堀が見て取れる。


中にはしっかりと先端を尖らせた杭があり、手前に構築されたコンクリート製の不格好な三角錐『竜の歯(ドラゴントゥース)』を超えた相手に対する最後の守りが今もしっかりと残されている事が窺える。


崩壊前の技術や知識を失っても、この手の防御設備の手入れだけはしっかりと維持してきたらしいことは対戦車障害物の手前には住居や設備の類を置かない様に平地を整備している事からも察する事が出来る。



「まあ、要するにこの中以外はどうでも良いって事だよねぇ~」


先行して街に入って外周と外壁内居住地は見て回り、下見を済ませた上でクロエはそう結論を出した。

結局のところはこの壁の内側だけが本来のこの街であり、外は半ば捨てられた放置区域だ。


己の目には灰色にしか映らないのも頷けるとクロエは壁に向き直り、刺突剣を叩きつける。


「よっと!」


刺突剣を叩きつけて体を引き上げるというルーチンを幾度か終えたクロエは最後に一声かけながら城壁の上に飛び上がる。


そして、今しがた乗り越えた外壁から身を乗り出して下を見る。

ここまでピッケル代わりにこきつかってきた二本の仕事道具が今もしっかりと壁に食いつているのを確認して両手を伸ばす。


当然、届かない。

筈であった。



「ほら、おいで」


クロエがそうつぶやくが早いか、二本の刺突剣が震えて壁から離れて宙を飛んでクロエの両手に収まった。



「うーん、いいねぇ。まるで魔法だぁ」


うんうんと納得気に頭を縦に振りながら帰還した刺突剣を鞘に収め、周囲に視線を向ける。


城壁上部は遮蔽と銃眼を兼ねる凹凸の胸壁で構築され、一定間隔に軽砲や重機関銃が配置された防衛拠点が設置されており、その全ての砲口と銃口が城下へ向けてられている。


一部の対空機銃を除けば、側面からの攻撃すらも想定していないようだ。

ある意味では当たり前であろう、ここに登られて白兵戦が起きている時点でもう都市は陥落が決まっている様な物であるから。



「この程度じゃ、ミュータントも悪魔憑きも止められないねぇ」


それ故に、クロエが出す答えも自然と辛口だ。

化け物相手に合理など通用しない。

必要なのはどうなろうと最後まで戦い続けられる陣地と装備、そして狂気的な敢闘精神だ。


そういう意味で、この城壁上陣地はクロエにとっては落第であった。

『その時』がくればこの町は滅びる。


救いようがない。

これが救うべき対象でない事こそがクロエにとっては救いであった。



「まあ、今回は偵察だしねぇ。さっさと終わらせ―――」


今回の目的は中に入り込んだ集団の数と配置、そして王殺しをしたとされるボースが存在するかの確認。

故に夜まで戦闘を仕掛けるつもりはなかったクロエの耳が接近してくる複数の雑踏と声を聞きとがめた。



瞬間、自然と低くした姿勢を雑に積み上げられた木製の弾薬箱に寄せて神経を集中させる。

聞こえてくるのは男達の抗議が混じった罵声の数々だ。



「あんな奴らに大事な機銃と弾薬を渡すって本気かよぉ!?」

「警備隊長が言われたもんはなんでも渡せってうるせぇんだ!しゃあねぇだろうがよ!ったく…」


声は徐々に大きく、鮮明になり尚も近づいてくる。

どうやら、防御設備から何かを運び出すらしい。


手前で止まる可能性はある。

しかし、確証は一切ない。


幾らこの体を小柄に調整しているとはいえ、複数の人間に脇を通られて気付かれないなんてことはあり得ないだろう。

計画を変更し、ここからは勢いと流れで行くしかないだろう。


悪化した状況に反してクロエの顔には本性である肉食獣の様な笑みが浮かび、手には白い光が音を立てて流れ始める。


五本の指の間で細く白い電流が生物の様にのたうち回りながら、徐々にその出力を上げていく。



「なんでわざわざ遠い奴を外せなんて言うんだよ!あのカスッ!」

「工具箱、誰か持ってきてるよな?無くても俺は戻らねぇからなっ!?」


やると決めたならば、後は引き付けるのみ。

対応できぬ距離かつ、こちらに気付かれないギリギリ。

幾度となくこなしてきたクロエにだけ分かる確実に死に至らしめる間合いまで衝動を抑え、待つ。



「まあまあ!そう言うなよ兄弟たち!俺があっちに帰った後にはちゃんと価値に見合った謝礼はたんと弾むさ!俺の名誉に賭けても良いぞ!」


誰かが彼らを取りなしているのか、彼らの関心は前方よりも後方に向かいがちだ。



「本当に渡すもんに見合った報酬くれるんだよなぁ!?おい―――」


ここだ、そう頭が考えた瞬間には既に体が動き出している。



弾薬箱の影から一切の物音を立てずに飛び出し、姿勢を低くして一番近い男めがけて急接近。

気付き、武器を向けようとしても既に手遅れだ。



「『本気狩(マジカル)―――』」


この距離、間合いまで入った時点で既に詰んでいる。

驚愕する男の顔とクロエの牙を剥いた狂暴な笑みが向かい合い、見つめ合う。


恐怖に歪んだ黒く濁った瞳と、狂喜に苛まれた澄んだ青い瞳。



死、その恐怖を感じる間もなく男の顔にクロエの右手が生物の様に絡みつき、破裂音と共に稲妻が駆け巡った。



「『連鎖雷撃(チェインライトニング)!』」


男の顔と脳を焼き尽くした雷撃はそれに満足する事無く、周囲の兵達に次々の伝播してその体を焼き、内臓の機能を停止させていく。



あたかも、雷を受けた人間が周囲の人間すらも巻き込むがごとく。

一瞬にして8人もの人間がクロエの雷撃の餌食となり、生命活動を停止した。



否、一人生きている。

距離が他人より遠かったのか、複数人を相手にして出力が不足していたのか。


苦痛を感じる事無く死の苦しみから救済する筈の雷撃が哀れな者を一人、取りこぼした。



「う~ん、連鎖雷撃(チェインライトニング)したのに一人生きてるねぇ。腕、鈍ったかなぁ?」



頬をかこうと近づけた右手から走った雷撃がクロエの頬に走った。

あたかも、静電気の凶悪版の様であった。



「いてっ!やっぱ腕鈍ったかも…」


落胆しつつ、しかしクロエの歩みは止まらない。

起き上がろうともがく男の顔面を右手で掴み、そのまま膝立ちの状態まで持ち上げる。



「ぐっ…!」

「せっかくだから、貴方はこのままゆっくりと頭を握り潰して殺すね」


言うが早いかクロエの右手に力が入り、万力の如くゆっくりと男の頭を握り潰していく。

雷撃で死なないならば、それがこの男の運命なのだろう。

相応の方法で始末するのが礼儀だ。


あがく男は両手でクロエの右手を掴み、爪を立てて抵抗しようとそんな事はまるで意味を成さない。



「グッ…!ガッ…!ハッ…!」

「うーん、貴方結構頑丈だね?やっぱり人の命はこうやって一人一人、こやって大事に潰さないと味わいが足りないよね」


少しずつ、しかし確実に強くなる握力が男の頭蓋を圧壊へと導いていく。

しかし、軋む骨が最後の断末魔を上げて砕け散ろうという間際、男は最後の力を出し切る様に声を絞り出した。



「クロ…エ、か…?」

「む?」


己の名を出されたクロエが力を抜くと、重力に敗北した男の顔がコンクリートの地面と熱いキスをするべく地へと落ちていく。



「げべっ!」

「貴方、なんでクロちゃんの名前知ってるのかなぁ?もしかして、ファン?」


地面に顔を打ち付けて潰れたカエルの様に声を上げる男の後頭部をクロエは怪訝な表情で眺める。


絵面にするとヤンキー座りしたセーラー服の少女が地面に倒れ伏した男を見下しているという中々にシュールな光景である。



「クロエ・ノワール…だな?俺だ、クトー…。マクトー・ヤヴァだ…!」

「む?むむむ?」


今度は本名を当てられ、更には知人の名を出されて眉間に皺を寄せて小首を傾げる。

そしてふと気付く。


その男がやけに整った身なりをしている事に。

背後の男達を見、そして目の前の男に視線を戻る。


まず頭がさっぱりしている。

べとついた一週間洗ってません!という不潔さを隠さない兵士達のそれと違ってこの男はしっかりと清潔さを維持しているのが分かる。


そして、如何にして手に入れたかは分からないが整髪料でしっかりと髪をオールバックに整えているのが見てとれる。


服に至ってもそうだ。

周りが雑多な服というにはあまりにも粗末な布切れを巻いてる様な部類であるのに対し、この男は汚れが目立つが黒のスーツをしっかりと決めている。


どこかで見覚えがある様な気がする。

もしかして本当に―――。

いや、彼は死んだ筈―――。


クロエは今度は両手で優しく男の顔を持ち上げて眼を合わせた。

そこには知った顔があった。



「あぁーッ!クトーちゃん!?くたばったんじゃなかったのぉ!?」


驚愕した少女、クロエが信じられない!とばかりに手を離して驚くながら両手を頬に当てる。

顔を持ち上げられていたクトーは再び、重力に敗北してしたたかに頭をコンクリートに打ち付けた。



「ぐべっ!」

「やだもぉ~!死んだ子が現世彷徨ってちゃ駄目でしょ~!?なんなら送り返してあげるよ!?今すぐ!」

「待て、待て待て…!勝手に殺すな…!俺は生きてる、お前に殺されそうになってる…!」


死んだ筈の知り合いとの遭遇。

それによって若干錯乱したクロエが指で電流を迸らせながら銃を模した指を、向けて来るのをクトーは必死に手で制止する。


だが、それを無視してクロエの指がクトーの首に触れた。

思わず説得失敗かとクトーは体をこわばらせるが、来る筈の衝撃が来ない。



「確かに、これは生きている人間の脈だねぇ。クトーちゃん」

「今まさに、止められかけたがな…」



首筋から離れた手を差し伸べてクロエは優しく微笑み、クトーは頭から血を垂らしながら虚勢を張る様に強面の顔で笑いながらその手を取った。


今度の手には殺意や力は無く、ただ優しさと柔らかさだけがあった。



――――――――――――



今日は古い馴染みの顔に何度も会う。

クトーは遠い眼をしながらクロエに渡された『鋼鉄』と言われる乾パンを奥歯で嚙み潰しながら胸壁に両腕をついて景色を眺める。


その横で嬉々として刺突剣を振り下ろして犠牲者たちの首を刎ねているクロエの事は取りあえず置いておいて、クトーは久しぶりの故郷の味に深い溜息を吐いた。



「クトーちゃんお菓子ちゃんと食べた?はい、喉渇くでしょ?」


横から紫の血に塗れたクロエの腕が伸びて来る。

その手には小さい水筒が握られていた。



「ああ、助かる」

「や~、大事な知り合いを()りかけちゃったからね!これぐらいは出さないと」


香りの良い紅茶を数杯も飲めば気持ちも落ち着いてくる。

いずれも故郷の外には無い良質な食糧だ。


痛む体と荒んだ心にひとここちつけるには十分過ぎる癒しだった。



「場所、変えるか」

「そだね、クトーちゃんのお友達も見たいし」


犠牲者の首を刎ねたので屍者として復活する可能性は低いだろう。

しかし、その内に腐って腐敗臭がまき散らされる事は確実だ。


掃除を頼まねばならないし、現状は友好的なクロエが心変わりして攻撃してくる可能性が残っている。

今は世間話でもしつつ時間を稼ぎ、レオと合流するべきだとクトーは判断した。



「しかし、なんでお前さんがこんな所にいるんだ?まさか『仕事』か?」

「いやいやぁ~。観光みたいなもんだよぉ。っていうかクロちゃんねぇ、仕事辞めたよ?」

「はぁ!?おまっ…。マジか?」

「うん!アイドルと魔法少女は恋愛したら退職ってのが相場だからね!」


相変わらずこいつの頭の中は意味が分からない。

しかし、クロエが冗談でも嘘をつくような存在ではない事は確かだ。

変な所で馬鹿正直、それがクトーの中でのクロエへの評価だ。



「そうか、俺が虜囚になってる間に世界ってのは変わるもんだな…。あの教会の『黒き雷獣』がね…」

「ちょっとぉ!それ嫌いだってクロちゃんいつも言ってるでしょ!魔法少女クロちゃんって呼びなさい!」


クトーの前に回り込んだクロエが中腰込みに前傾姿勢になって人差し指を立てて注意する。



「おっと!肉斬り鋏の方が良かったか?」

「それはもっと嫌い~!」


おちょくるクトーにクロエは両手をバタバタと振り回して抗議する。

変わっていないなとクトーはいかつめな顔を緩めて笑う。



「すまんすまん、久しぶりにまともな知人に会えたからな…。つい、からかっちまう」


そう、こいつは変わらない。

クトーが常に口を半開きにして将来の事なんて考えていなかった鼻たれ小僧だった頃から容姿もおつむも変わっていない。


何十年経とうとクロエはクロエだ。

教会の守り手だ。


いや、仕事を辞めたのであるならばもう守り手ではないか?


城壁を進みながら、クトーとクロエの会話は止まらない。

見知らぬ街で予期せず馴染みの旧友と再会した。

それが今の二人に一番近い状態だ。



「でさぁ、ここもそうだけど教会の外ってご飯美味しくないんだよ!?信じられないでしょ!?」

「いや、昔言ったろうよ?外の飯はゲロまずぅ!だって」

「貧困層のご飯以下ってのはクロちゃん想定外なんですけどぉ!?」

「いやだってな、腐っても文明国家だぞ?教会って…。貧民用に混ぜ物したって喰えない物は入れねぇし、最低限食える味付けになるように料理人だって苦心してんだぞ?」


他愛ない外の世界の悪口を言いつつ、最寄りの下り階段を見つけてクトーはクロエに促しながら先に降りていく。


教会の底辺貧困層が食う混ぜ物の入った低品質な黒パンや薄く屑野菜でかさましされた麦粥とて、ここで言えば上流階級の食事だ。


毒が入っている事に怯える必要も無ければ、消化出来ない砂や砂利、粘土が混じっている事もない。



クロエにとって外は地獄だろうになんで出て来たのか、恋人とやらのせいか?

ゲットワイルドな外の世界に飛び出しても、舌がお嬢様になっているこいつには別の意味で耐えられないだろうに。



「そういえばそもそもの話、なんでクトーちゃんこんな所にいるの?クロちゃんの葬式にも出ちゃったのに」

「エンキの野郎に取っ掴まっててな、最近脱獄したのさ」

「へぇ…。……もしかしてボースちゃん、いる?」



クロエの声が低くなり、雰囲気が変わっていくのを感じつつもクトーは会話をあえて途切れさせない。

ここで会話をやめれば敵対行動に移りかねない。

逃げきれずに即座に始末されるだけだ。



「いるぞ?なんであいつの名前知ってるんだ?」

「エンキちゃんの仇討ちに有象無象が動いてるって話、知ってる?」

「ああ、旅の途中で聞いてはいる。だから最近も近くの都市で一戦やった所だ」

「イナゴちゃん、強かったでしょ?」

「あいつ、お前の知り合いかよ…」



僅かに崩壊前の雰囲気すら残した道を進み、ようやく停車場が見えて来る中でクトーはクロエを懐柔するべく言葉を続けた。


クロエとは敵対したくない。

古い知り合いであるという事もあるが、何よりも敵に回した時の厄介さをクトーは理解しているが故に。


純粋な殴り合いによるタイマンならばクロエはエンキには遠く及ばないだろう。

だが、総合力で言えば厄介さは同等程度だ。

クロエは馬鹿だが頭がキレるタイプの馬鹿であるからこそ厄介だ。



「なぁ、クロエ。帰らねぇか?教会にさ。俺は悪魔に魂売ってでも帰るつもりで今地べたを這いずってんだ」

「うーん、魅力的だけど好きな人が出来たから魔法少女辞めます!って辞表置いてきちゃったんだよねぇ…」


隣を歩くクロエが両手を頭の後ろに回して視線を逸らす。

非が自分にしかない事をやらかして困った時の仕草だ。


本当は帰りたいのだろう。

ここらの飯は不味いし、服もまともな物は残っていないから。



「んなもん、俺と一緒に帰ればヤヴァ男爵救出に出向く方便でした!で済むってもんだろ」

「おっ!やっぱ頭良いねぇクトーちゃん。だったらさ…」


再びクロエはクトーの前に立ち塞がった。

スカートを翻し、両手を腰の後ろに回したクロエが取れる最大限の友好の姿勢。

顔には優し気な満面の笑みすら浮かべている。



「もうちょっとこの町で待ってくれない?そろそろ定期連絡が来るからさ。それでちょっとリュナちゃんに連絡とってね、追撃部隊なんて私とリュナちゃんで始末出来るからさ。皆で教会まで行こうよ」



どうやら、待ち人が一人追加されるだけで平和的な解決が出来そうだ。

実際、その辺の悪魔憑きや武装した人間の集団程度はクロエの敵ではない。


クロエが評価する程の存在が加勢するならば、こちらから戦力を提供する必要すらないかもしれない。



「良いのか?」

「うん、エンキちゃんに会って友達に出来たら一回教会に帰るつもりだったから!」


意外にもクロエの目的は本来エンキであったらしい。

もしかするとレオがいなくてももう少し粘れば助けて貰えたかもしれなかったのかと一瞬湧く思いをクトーは投げ捨てる。


結果的に脱出できたのはレオのおかげだ、可能性よりも今の事実が重要だ。



「おいおい、それってよ…。侵略じゃねぇだろうな?」

「違うよ~!もぉ~!」

「まあ、ともかく一緒に来てくれるならば俺に文句は―――」


ようやく到着、という所でクトーはクロエがついて来ていない事に気が付いた。

振り返れば、険しい顔をしてこちらを睨みつけて来るクロエの顔が見える。


先程までの笑みと違って能面の様な冷たい表情と目線がクトーを射抜く。

否、自分に対してではない。

更にその先、車列に向けてクロエは敵意に満ちた眼で何かを凝視している。



「おい、クロエどうし―――」

「クトー、血の匂いがするぞ。怪我したのか?」


己を呼ぶ声に振り返り、クトーは理解する。

クロエが睨みつけているのがレオである事に。



「ごめんね、クトーちゃん。さっきの話だけど、やっぱ無しだわ」


クロエの両手に電撃が走る。



「そいつ、何?そんなの教会に連れていく気なの?」


向けられるのは撃鉄を落とした銃を模した三本指で作られた二つの銃。

既にクトーなど眼中になく、狩人の眼に戻ったクロエがレオを見据える。



「貴方、名前は?」

「レオ・キルロイだ」

「レオちゃん、ね。私はクロエ・ノワール。引退した身とはいえ、元は教会の処刑人(フィクサー)、流石に化け物がむざむざ故郷に行くのを見過ごすってのは、ないかな」



クトーは片手で頭を抱えた。

今日は多くの旧友と出会い、破局する日だったからだ。

それも最も古い友にして、教会最古にして最良の処刑人と仲互いして敵対するなど最悪にも程がある。



「待て、クロエ。あいつは―――」

「あんなに真っ黒なのになんで気づけないの?精神汚染には強い部類だと思ってたのにさ、幻滅だよクトーちゃん」


交渉は決裂し、クロエの雷光が両手から放たれた。

海底ケーブル御臨終でPC回線が安定してないので投稿優先です

しばらく後書きもないかもしれないです

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