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ブルーブラッド  作者: 人間性限界mohikan
二章『自由の荒野』
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六話、密談

今回はおっさんたちが会話してるだけです

イナゴレイダーが正義の道を爆走している頃、イドの農園ではようやく追撃部隊の本隊が出撃の準備を終えようとしていた。



「イド殿、時間はかかったがようやく軍勢の準備が整った。明日の朝には出立するのである」


イドの邸宅、その応接間で鋼鉄の車椅子に乗るイドと机を介して相対する本隊の指揮官ゲネラル・シュワンツは外の光景を見ながら時が来たことを告げた。


シュワンツ直属の部族兵800に加え、族長の率いてきた軍勢、そしてエンキを信奉する狂信者や集まった傭兵の代表を選別した総数3000程度の大軍勢が明日の日の出と共に亡き王の仇討の為に出撃するのである。



外では今も共闘体制にあるモルフォライダーたちが次々と離発着を繰り返している。

偵察と伝令、情報収集と他勢力や中立都市への協力要請の為に彼らはひっきりなしに飛び立っては戻って来る。


時折、本来の予定には含まれない複数での編成で出撃を行うモルフォライダーたちが見受けられるのは未帰還が発生したが故であろう。


現状で既に三騎が未帰還であり、撃墜されたか事故かは不明である。

問題対処の予備隊を用意しているのも今や薄れつつある軍事的な知識がある故であろうか。



「ズィロ殿はよく働いておられる、他の族長共とは大違いであるな」


シュワンツの蔑みを含んだ目線が行きかう航空部隊の脇で机を囲んで縮こまり、相談を続ける自称武闘派の族長たちを捉えた。



「でかいのは図体ばかりで心は小物。勢い任せで迫れば勝てると過信し、想定外が有れば右往左往。あの体たらくでイド殿を脅すとは、全く以て思い上がりも甚だしいというものである」


族長は実際、本来の想定から外れた事態に戸惑っていた。

ここまで派手に弔い合戦など実際にはやる気など無かったのだ。


数を頼って押し寄せて適度に騒ぎ、敵を追いかけ、十分に気概を示したと判断したところで撤退する。

その間にイドをとっちめて自分達の誰かが新しい王である事を認めさせる、その筈であった。


彼らの興味があったのは実際の所は空いた玉座、そこに収まる為の示威行為でしかない筈であった。


しかし、実際に事を起こせば扇動役であったズークとホアは乱入した少女に殺され、退路は更にあとから入ってきたシュワンツに塞がれた。



彼らの軍団も既にシュワンツの部隊の中に再編されているのだ。


娯楽が少ない終末後の世界では噂は枯れ木についた火の如く広がっていく。

悪い噂ならば更にガソリンをぶっかけた様な勢いともなるだろう。


女に負けて丸め込まれたなどという醜態をさらして成果も無くおめおめ帰れば部族内の対立派閥から何を言われた物か、下手すれば族長から引き摺り下ろされる。


無理にでも手柄を立てねば逃げられない。

族長たちはそれが故に必死に最小の犠牲と出費で手柄を得られる逃げ道を探して益も無い談合を繰り返しているのだ。


族長、そう持て囃される者達ですらこの体たらく。

この程度の脳みそであっても部族の頭に立っても問題がない程度にはエンキは強大な存在であったのだ。


こびへつらい、言い訳せずに求められただけの貢物を差し出している限りは頭を握り潰される事は無かったが故に、これまでの優秀な族長の定義とは下々への苛烈な搾取を行える才能と良識の欠如があるか否かであったのだ。



むしろ、一般的な意味での『優秀』である場合は嬲る獲物を常に求める偉大なる王の目に止まって死よりも惨い目にあいかねないとあれば上に据えられるのは無能となるのは明白な話である。


その希少な優秀の部類に入る希少な存在が元は合衆国陸軍の流れを組むアミ族の族長たるシュワンツであった。



だが、イドは外の族長たちと同様にシュワンツにも信用などしていなかった。

こいつも所詮は外の族長共とは同じ穴の貉。


これまでも全権委任の下に統治を進めてきたイドに対してシュワンツは幾度となく支配の方針を巡って争い、要求を飲ませてきた過去がある。

今回も武力を傘にこちらに面倒を吹っかけて来る、イドがそう身構えていれば予想通りの行動が起きた。



「ところで話は変わるのであるが、我が部族の兵達は高ぶっている。これより先に命を賭けた戦いが待っている故、分かるであろう?」


イドは舌打ちを抑えつつ努めて冷静にどう返答するかを考える。

既に農園を補給拠点として利用し、物資と燃料を補給する事を約束している。


これはその上での更なる要求であろう。

この場合は要は兵隊殿も性欲処理をさせろとでも言っているのだろう。



「……なるほど、今すぐ人数分の女を用意しろと?」


共通通貨の消え去った世界であろうと奴隷とてタダでは無く、無計画に消費できるものではない。

むしろ、農園で働いている以上は重要な労働力であり繁殖計画もしっかりと立てているのだ。

イドはエンキと違い、浪費家ではなく生産者であった。


この世界では人などすぐに死ぬ、寿命もすぐに来る。

だからと言って常に人であふれた城砦都市から無作為に引っ張って来ても良い農奴は育たない。


何事も一から仕込む事が重要なのだ、それには農園の中で繁殖させて育てるのが一番。

従順で外の世界を知らぬが故に脱走も試みない質の高い農奴を作るにはとにかく計画通りに物事を進める事が肝要なのだ。


それを乱される事がイドにとっては一番の不満であった。



「否である。男で良い」

「は?」


しかし、シュワンツの否定の言葉に思わずイドは素っ頓狂な声を上げてしまった。



「何?今なんと?」

「男で良いと言ったのである。我が兵は800、奴隷の中から200人も用立ててくれれば問題ない。一人に四人の相手をさせれば十分行き回る」


女ではなく男をよこせという意味が分からない要求にイドは困惑した。

混乱が故に何と返せば良いのかすぐには思い当たらない。



「戦いに赴く際には勝利を祈念して男のケツを掘り、凱旋の暁には生還の悦びを女の体で味わう。それが我が部族の伝統である」

「そ、そうなのか。ワシには理解できない風習だな…」


何がどうなると栄光ある合衆国陸軍の残党にこんな珍妙な伝統が生えるのか、イドの理解には遠く及ばぬ事であった。


推測するならば、国家崩壊時の無秩序の混乱の際においても部隊が維持されるに至った過度な綱紀粛正がこの様な歪みとなり、温存されたのかもしれない。


あっけに取られるイドに組んだ両手の上に顎を乗せたシュワンツがイドの顔を覗き込みながら話を続けてきた。



「吾輩はな、男が男のケツを掘るというのは人生の縮図だと考えている。死よりも厳しい責め苦、尊厳の凌辱、男という性別としての死、すなわち敗者の末路そのものであるからだ」


真顔でそう告げる立派な軍服を着た白髪の老兵の目がイドをまっすぐ捕らえている事にイドは狼狽を隠せない。

比較的まともだと思っていた男が、こいつもまた狂っていたという類の驚愕だ。



「勝利者は蹂躙し、降伏した敗者は尊厳を破壊される。これこそが世の理である。それを戦いに赴くに当たって兵士達に今一度理解させる。これはその為の大切な儀式である」

「ま、まさか貴様…!ワシにもそれを…!」


体を狙われている、そう判断するしか無かった。


イドは醜悪な成り損ないの男である。

下半身は木の根の如く無数にねじくれ、体は肥満体のそれ、しかして一度その恐怖を味わえば客観的な判断など出来はしない。


イドが恐怖で引き攣った顔をして自分でも何を言ってるか理解できない言葉を口走る中、背後に控えていたギンが素早く前に出て立ち塞がる。


遅れて部屋の隅に控えていたベアも巨大な大盾に手をかけてシュワンツを睨んだ。

一方、小人症のショウは即座に定位置である車椅子の後ろへと隠れたのであった。



張りつめる空気、しかしてそれを和らげたのはシュワンツ本人の言葉であった。



「心配めされるなイド殿、吾輩は既にしなびた老体。それに―――」


目を瞑り、片手を上げてギンらを制止するとシュワンツは溜息をつき、覚悟を決める様にゆっくりと呼吸をする。



「それに吾輩はエンキ様に臣従を申し込んだ折、手向かった事への詫びとしてあの御方の御前にて去勢を断行しているのである」


それはイドすらも知らぬことであった。

反抗を続けていたシュワンツがエンキの下へと直接赴いて臣従を誓った。

その際の詳細を問うてもエンキは笑みを浮かべるばかりで語る事は無かったからである。



時は未だ、教会が辺境に送り込んできたクトーことマクトー・ヤヴァ男爵の軍勢が健在であった頃である。

アミ族、48th(フォーティーエイツ)はその頃にはまだ独立勢力の一角としてエンキと対等の立場を主張し、その勢力と争っていたのだ。


最も、そんな事が許されたのはエンキが48thに対してさしたる興味も持たなかったが故であった。

だが、48thがマクトー・ヤヴァの主導の下に反目していたモルフォライダーとも手を結んで周辺を併呑して東部辺境領への参入を図るに至るとエンキはその重い腰を上げてこれを瞬く間に粉砕した。


果実が熟すのを待っていた果樹園の主の如く、一度武器を持って立ち上がったエンキの行動は素早かった。

待ちに待った収穫祭を大いに楽しんだのだ。



領域拡大を図るべく送り込まれた教会の誇る原始的なパワーアシスト機能付きの騎士甲冑と自走突撃砲で構成された装甲軍を単身で瞬く間に撃破すると、その足でモルフォライダーの拠点とした旧空軍基地を強襲、この戦いで多くの乗騎と熟練パイロットを失ったモルフォライダーは現在からみて先々代の族長の首を手土産に完全なる服従を強いられることとなった。


教会探索隊は壊滅し、首領にして同盟の盟主たるマクトー・ヤヴァ男爵も生死不明、ほぼ死んだと思われる状況であり、協働する航空戦力を先に潰された。


次は自分たちの番となった48thを率いていたシュワンツは先手を打って僅かな供回りを連れてエンキの元へと自ら赴き、無条件降伏と隷属を条件に部族の存続を願い、玉座にもたれかかるエンキの目の前でその覚悟を示したのだ。


他人に頼る事のない自力での断種、既に孫すらもいた身であるシュワンツにとって種の素を失う事は生物的には問題の無い事であった。


だが、それは今まで積み上げてきた男の誇り、尊厳、矜持の全てを激痛の中で命がけで投げ捨てる行為であった。


その光景をエンキは獣めいた笑みを浮かべて最後まで見届け、嘲りの笑い声を上げながら部族の存続を許したのであった。


誇りある老いた男が惨い有り様となって苦しみ、尊厳を失う様が心の琴線に触れたのかもしれない。

全ては王の胸の中である。



まず始めに罪があり、罰を自らに課し、許しが与えられた。

この瞬間、シュワンツにとってエンキは対抗すべき敵から仕えるべき神へと変わったのだ


隷属の代償は厳しく、しかし同時に甘露でもあった。

エンキの手を下すまでもないと判断した雑事をこなす一方、自分達では対処できない問題は全て偉大なるエンキの狩るべき獲物として報告し、褒美すらも貰えたからである。


部族の誇る精鋭と最早維持すら出来ない聖遺物と呼んでも相違ない大戦期の兵器を用いても倒せぬミュータント、会話が出来ても対話は出来ぬ発狂した悪魔憑き、そうした化け物をエンキは次々に滅ぼしてシュワンツが治めていた地に平和をもたらした。



自由を求める意志などはすぐに霧散し、己に巻かれた奴隷の首輪こそが誇らしくなっていく日々。

それでも得られた平和と安全に比べれば惜しくは無かったのだ。



しかし、その神はもうこの世には存在してはいない。



「貴殿ならば分かるであろう。今起きているのはただの後継者争いの如き児戯ではない。このトウカイの地に生きる全ての人間の今後に関わる問題である」


個人の力で与えられた太平は、その個人がいなくなれば即座に失われる。

それを理解している者はあまりにも少ない。


この農園内において明確に理解しているのは主たるイド、そしてそれに応じた軍の末裔たるシュワンツとズィロのみであろう。


自然、シュワンツは年相応に憔悴した様な雰囲気を纏いだした事をイドは感じた。

シュワンツは未だに精力に満ちているようではあるが既に40の半ばに達している。


寿命の50歳は目前、油断すればそのまま老け込んで死に至っても何もおかしくはないのだ。



「このまま行けば、我らは皆死ぬであろうな」


静かに、短く、しかしはっきりとシュワンツは言った。

一同の間に嫌な沈黙の空気が流れる。


誰もが予感し、これまで言えなかった事であった。



「エンキ様は他者から命や尊厳を奪うという悪癖を持っていた。だが、奪うにはまず与えねばならないという大前提をも理解している脳みそも筋肉もある貴人。『脳筋』であったのである」


シュワンツの言にイドは黙って頷いた。


エンキは奪うにはまず奪う為の物が無ければ話にならないという基本的な事を理解していた。

そして、それこそがエンキを支配者たりえる器の礎であった。


すなわち、酒を奪おうにも酒が無ければどうにもならないのである。

無い物は奪えない、奪うにはまず奪えるだけの物がある状況を作り、育まねばならない。


その為の農園、その為のイドという雑役夫、ボースやイナゴレイダーという玩具だったのだ。

己が永遠に他者から奪い続けるという快楽を得続ける為、好きな時にその苛酷な要求に耐えうる哀れな犠牲者を生み出し続ける理想の閉じた箱庭。


それを作る程度の先を見通す才覚がエンキにはあった。

欲望に正直な男は、欲望を満たす為の環境を最低限整えるという事にも真摯であった。



強大な力など、エンキの一側面に過ぎない。

ただ、その力に魅入られて『正義』などと叫んで真っ先に突っ走っていったイナゴレイダーの如き発狂せる悪魔憑きにはそんな思考は無い。


更に言えば全く以てそれ以外の事には無関心であろう。

悪魔憑きとは人から外れた怪物、社会も文明も彼らを縛る鎖とはなりえない。



己の中にある欲望と衝動、それだけが悪魔憑きを縛り走らせる。

至高の基準が内にある悪魔憑きは自然、他者に対する物の見方が視野狭窄となり、興味も共感も薄くなるのだ。



『奪う』という他者に依存した衝動を持つが故に、エンキは最後にすべてを刈り取る者として収穫物が最高の状態になるまで待つ、或いは育つまで守るという視野を得たに過ぎない。


だが、だからこそエンキは悪魔憑きとしては異常な程に理性的であったのだ。



「今まではエンキ様にお縋りしていれば良かった。正面からぶつかれば我が部族…否、あの御方の配下である部族の兵士を集めてなお太刀打ちできぬ剛の者であった」


シュワンツが知る限りで最強の人類勢力と言えた教会の軍勢を殲滅し、その後にぶつかった同程度の技術力とそれ以上の物量を誇った不死の魔王の軍勢すらも蹴散らした最強の化け物がエンキである。


自分達に圧倒的な絶望を与えて降伏以外を選ばせなかった神の消滅。

これ以上の絶望など無い、シュワンツの言葉にはそうした意図が込められているのだ。



「ただ従い、怒りや寵愛を受けぬ様に首を垂れて祈っていれば平和が得られた時代は既に無い」


神は消え、平穏は崩れ去ったのだ。

この仇討ちすらもこの地の人類の最後の輝きとなりえる中でまだ現実が見えない族長たちのバカ騒ぎにシュワンツが感じた絶望感はどれ程であったであろうか。


イナゴレイダーのバイクから降り、仇討ちの開始を告げた時点でシュワンツは笑みの裏に悲壮な覚悟を既に決めていたに違いなかった。



「神無き後の世界、そう言えば聞こえは良い。だが、我らにとってそれは絶望と同じこと。最早誰も、我らを守ってくれる者はいないのである」


そこには既に先程まで男のケツを掘る事の重要性を力説していた変人の姿は無かった。

力無き者たちの中で、しかしその中では力を有している側に立つ者として責任を取る男としての顔がそこにはあった。



「エンキ様が抑えていた全てが荒れ狂う。愚かな族長ども、配下や在野を問わぬ悪魔憑きども、イナゴレイダーの暴走も始まりに過ぎない」

「確かにな、あの騎士気取りと頭のおかしい女の様な乱入者に不死の魔王の先触れ…。もう始まっているのだな…」

「道中においても多くの発狂せる悪魔憑きと遭遇することになるであろう。加えて、我が部族の部隊は合流までに五度もミュータントの襲撃を受けた。エンキ様がいた頃は無かった事、奴らも既に感づいている」



正直な所、バイクに乗せて貰えるともシュワンツは思ってはいなかった。

弱者であるシュワンツを乗せたのは同じ王に仕える者のよしみであったのかもしれない。


結局のところ、あの悪魔憑きはそれ以降、全く話を聞かずに自らの衝動と信仰に従って敵に向かって飛び出していったのだ。


ただの無力な地上人である彼らにとって、悪魔憑きとは同じ言語を用いるだけで対話は出来ない制御不能な危険なミュータントなのだ。



だが、それ自体は問題であっても本題ではない。

言葉に詰まったシュワンツは置かれていたぬるま湯の入った木のコップを握ると一気に飲み干した。

それが終わると共にシュワンツは言葉を続ける。



「あの御方を討った下手人が真実、実力で以てエンキ様を滅したならば我らがどれだけの戦力を流し込もうと、燃える石に雫を垂らすも同じことである」


自ら仇討ちを掲げた物がおおよそ吐いてはならぬ言葉、しかしこの場にいる全員が共有しているであろう事をシュワンツは敢えて口に出した。


イドも顔を深刻そうに顔をしかめて続く言葉を待つ。



「だが、だからこそ此度の出兵は必要なのである。我らは今後、意思を統一して生存の為に足掻かねばならない。それには『武闘派』なる者達は無用。有害ですらある」

「……そこまで理解しておられるか、シュワンツ殿」


自らの存在意義すらも否定するその言葉にイドはシュワンツの意図する事を察した。

その覚悟をも含めて。



「あの者達がかつてなんであったか、貴殿も知っているだろう?」



シュワンツは再び外を眺め、イドもそれに合わせた。


机を囲んで密談を続ける族長たち、農奴を足蹴にするエンキ像の周囲で未だに自決を続ける狂信者たち、出撃を続けるモルフォライダーたちを興味深げに眺め続ける狂った女の片割れたる騎士気取りの変人。


ズィロの配下以外はお話にならない地獄絵図である。



「終末思想のカルト教団の成れの果て、略奪を楽しんでいた暴徒の末裔、無力に右往左往してきた難民流民ども、どれもこれも碌な物ではない」


それが外にいる『武闘派』を名乗る族長たちの源流、人類を守る為に最後まで戦った正規軍であったアミ族とは出自も背景も全く以て異なる唾棄すべき者達。


シュワンツは敢えてそれらを武闘派と自分を同列に置いているのだ。



「吾輩は、覚悟を決めて付いて来てくれた精兵たちと共に死地へ向かい、そこで死ぬことになるだろう。だが、武闘派の族長共、あやつらも一緒に地獄に連れて逝く」

「ワシはどうやら見当違いな印象をシュワンツ殿に持っていたようだな…。貴公もワシと同じ物を見ようとしていたとは…」

「吾輩とイド殿はこれまで何度もエンキ様の下での統治のあり方について反目しあってきた。だが、今ならば同じ思いがあったが故であると信じたい」

「……うむ」


移動手段がまばらな各族長の部隊を48thの戦車(チャリオット)で曳航し、シュワンツは文字通り彼らを逃がすことなく地獄へと連れていくという宣言。


歴戦の指揮官が冷静に状況と戦力差を理解した上で不要な者を道連れに死にに行くという覚悟を知ってイドはシュワンツへ抱いていた猜疑心が全く以て見当違いであった事を知り、恥じた。



「もっとも、まかり間違ってあんなのが勝利してエンキ様の後釜になる可能性があるが…それならばそれで問題はあるまい…。いや、あるか…?我らにアレを制御できるか…?多分、大丈夫……であろうか…?」

「ああ…敵が検討違いに弱かった場合はそうなるのか…。それはそれで厄災となるのではないか…?」

「うーむ……」

「ぬぅ……」



あんなの、アレ、そう言われてイドはすぐに合点が行った。

イナゴレイダーである。


アレが新たな王、そしてトウカイの神とになって君臨するというのはある意味で悪夢であると言えよう。


だが、それでも誰もいないよりはマシ…。

いや、むしろいない方がましであろうか…?

イドとシュワンツは答えを見つけられず、互いに頭を悩ませるように項垂れ、そしてこの話題を無かった事にした。



「ま、まあともかくである…。吾輩の子や孫らにはイド殿に従う様にしっかりと言い含めている。武闘派の残党も吾輩の部族が制圧する。以後はイド殿がトウカイの地を導いて欲しい。『穏健派』の面々とズィロ殿にもよろしく伝えてほしい」


穏健派、つまりは今この場に来ないで静かに情勢を見守りつつ嵐に備えている先を見据えている者たちとイドに全てを託す。


シュワンツはイドの意図や行動を全て読み切っているのだ。

自分が同じ立場ならばそうする、ただそれだけの理由があるが故に。



「ああ、そこまで見透かされていると陰謀をやる甲斐が全く以て無いな。むしろしっかりと話し合ってもっと話を詰めたかった」

「これから死人となる者に未来の話は不要である。これからを生きる者として貰いたい」

「あい分かった。後は任されよ、シュワンツ殿」


イドは委細承知したとばかりに大きく頷くと車椅子から身を乗り出して手を差し伸べた。

シュワンツもそれを見て身を乗り出し、二人は強い握手を交わした。


自分も既に老いている部類、しかしまだまだ生きねばならぬ。

なんとか自分が生きている間は持たせるという覚悟はイドにも存在していた。



「さて、互いに腹の探り合いは終わりである。我が兵の為に男を用立てて貰うのである」

「ぬぅ!冗談ではなかったのか!?」

「無論、吾輩は種なしでも兵は元気であるからな」

「分かった、出来れば壊さないで貰いたい」


イドは背後に控えるショウに取り掛かる様に手で指示すると犠牲になる農奴を悼むように両目を閉じた。


その夜、農園は一種の地獄となり、夜明けとともに死出の旅路に出る兵士達は出立していった。


戦闘を書くといったな?あれは嘘だ

戦闘前にそろそろ放置している奴らのシナリオを進めようとしたら一場面で一話が終わってしまった塩梅です


48thは大戦時に重強化外骨格 (マトリョーシカ)を主力装備として編成された歩兵師団であり、戦車部隊と協働してその盾となって来訪者(ヴィジター)の騎士との不利な近接戦闘を担当していました。

その役割上消耗率は非常に高く、戦車がいかに早く仕事をしてくれるかが彼らの生存率を変えるとすら言われているほどでした。


大戦後、人類の文明が崩壊していく混乱状態の中でも部隊は解散する事無く、秩序の回復と非戦闘員の保護の為に努力し、しかし結局は失敗して今やかつての残骸に依存した軍閥の一つ程度まで落ちぶれています。

強化外骨格は言うまでも無く、重火器や通常火器すらも希少になりつつある中、それらを装備する事が許された精鋭は部族の中でも勇者として扱われている塩梅です。


今回はここまで

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― 新着の感想 ―
[良い点] アミ族ってARMY族だったのか…… ネビ族とかマリ族とかも居るんですかね
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