一話、結集
マジカルビームは破壊力
レオらが瓦礫の王が支配していた都市鉱山を後にした翌日、その一部始終を見届けてから入れ替わる様に宮殿へと侵入したイドの偵察部隊が目撃したのは悪意に満ちた者たちによって荒らされ、蹂躙の限りを尽くされたエンキの宮殿たる廃ビルの姿であった。
いまや隣接する奴隷の寝床に奴隷たちの姿は無く、宮殿を守る兵士達の雑踏は消え去り、周囲にはミュータントが闊歩している。
武器庫からは兵器と弾薬が消え、半壊した宝物庫の扉は開け放たれまま外から入り込む風に揺られて開閉を繰り返し、玉座の間は焼き払われた材木の残骸が転がり、王の威を示した刈り殺した獲物を飾った剥製群は地面に乱雑に投げ捨てられて冒涜の限りを尽くされている。
王の玉座に主は無く、あってはならぬ王の死を告げる神器の残骸が転がり、壁には乱暴に書き殴られたKilroy was here『キルロイ参上』 の文字。
瓦礫の王、討ち滅ぼされたり。
その報は砕かれた鉄砕きの残骸と共に偵察隊によってイドの元へと持ち帰られ、衝撃と共にトウカイ全体に瞬く間に知れ渡っていった。
王の死が告知されてより3日、イドの農園にはエンキの旗の下に臣従した有力者とエンキを信仰する信奉者たちが結集しつつあった。
「イド様、有象無象どもがどんどん集まって来てるんすけどこれ、呼んだ以上に来てないですか?」
自身の邸宅が置かれた農園中央の小高い丘から周囲を見渡すイドの隣で台の上に乗った小人症の付き人であるショウが呆れた様に問いかける。
「あの馬鹿どもめ、最低限の護衛と従者は許可すると言ったが…」
「あれどう見ても軍勢で来てますがな、ここ占領する気満々なんじゃ?」
無神経なショウの言葉にイドは怒りで目をひきつらせた表情で睨みつけ、これ以上はヤバいと理解したショウは視線を逸らして口笛を吹く。
エンキ死亡の報を受けたイドは即座にエンキの影響下にあった有力諸侯へと遣いを出し、今後についての議論を行う旨を伝えた。
その会議に際し、諸侯に許したのは最低限の護衛と従者だけであったが、エンキという権威を失ったイドの要望は早速無視され、周囲には諸侯の軍勢が絶賛大結集といった様相である。
大雑把に見ても千人単位の武装した雑多な群衆が集まり、個々に野営を開始し始めている。
その数は今も徐々に増え続けており、農園外周を守る防壁の外にちょっとした町が出来た様な状態になりつつあった。
有象無象がひしめく大地を睨んでいたイドはふと鳴り響く銅鑼の様な薄く大きい鉄板を叩く腹に響く重い金属音を耳にして空を見上げた。
「どうやら、律儀に応えてくれた奴もいるみたいだな」
飛行種の接近を告げる警報が鳴り響く中でイドは飛来したモルフォに乗る人間達を見て険しい表情を僅かに緩めた。
―――――
飛行種警報を告げる銅鑼の音が鳴り響く中、三匹のモルフォが群衆のいない開けた平地に優雅に着地するとそこに乗っていた奇妙な風貌の人間達が颯爽とモルフォの背から飛び降りる。
彼らならばそのままイドの農園の内部へと着陸する事は容易であり、その方が手っ取り早く平時ならばそうしていたであろう。
だが今は非常時であり諸侯が集まる場面であるから他人の目を気にして農園外部の平地、それも人気の少ない場所へと彼らは着陸した。
アミ族、世紀末の世においても高い戦闘技能を持ちそれを商売道具として日々を生きる者たちの中でも珍しい飛行種ミュータントであるモルフォを飼い慣らして航空兵器として運用する彼らは自らをモルフォライダーと呼称し、周囲に恐れられていた。
旧時代のフライトジャケットを思わせる茶色の皮の衣服を着こみ、頭に旧文明の空軍が用いていた戦闘機パイロット用ヘルメットを付けた三人の男は地面に降りたつと同時に早歩きで集まる。
「ゼケ、お前はついてこい。ハムプは蝶たちを見張れ、誰にも近づかせるな」
最初に降り立った隊長と思しき若い男は脱いだヘルメットを留守を言いつけた部下に押し付けながら素早く指示を出してイドの農園へと向けて歩き出す。
「まあ、気楽にいきましょうや若。拳銃の安全装置だけは外しとくとしてもね」
同じくヘルメットを外したゼケと呼ばれた中年風の髭面の男が闘争心を隠さぬにやけ面をしながら若い男に追随し、ハムプと呼ばれたパイロットはヘルメットを着けたまま姿勢を正して二人に敬礼を行う。
「はッ!若、お気をつけてッ!」
若と呼ばれた若い男は堂々と背筋を伸ばして、年のいったゼケは猫背でハムプの敬礼に後ろ手で手を振って雑踏へと紛れていった。
――――――
「荒くれ者大結集って感じですな、若」
「周囲の連中をよく見ておけよゼケ、今回はこいつらと仕事しなきゃならんのだ」
「確かに、変なのも結構混じってやがりますな」
若い男はあくまでイドの農園の城門を目指して整然と歩みながら目だけを動かして周囲を窺い、ゼケはぼさぼさの頭をかきながら遠慮する事無く周囲を見渡して集まった不愉快な仲間達の品定めを行っている。
大半の者達は雑多な装備で統一感が一切ない彼らの大半はこの場に連れてくるために急ぎ揃えた雑兵であろう事が窺えた。
中には仕事を求めて勝手に集まってきた傭兵達やエンキの信奉者たちも多くいるのだろう。
腕利きはそう多くは無い印象が強い。
ひたすらに泣き叫び、両手を組んで祈りを捧げている集団がエンキの信奉者たちであろうか。
彼らもまた武装しており、仇討の為に集まってきたのかもしれない。
この農園を守る48thの様な同業他社のアミ族の如く訓練された兵士や主に仕えていたキドの様な職業としてまっとうな傭兵をやっている者達ではない。
この苛酷な終末以後の世界においては戦闘技術を維持している事すらも贅沢の一つであるのだ。
普段は大麻窟の用心棒や下民相手の略奪で生計を立てている様な質の低い者たちであり、秩序も何もあった物ではない。
だがその数は決して侮れる物ではない、少なくとも彼らがその気ならば農園は一日で陥落して更地に戻るだろう。
もはや兵団というよりは少しだけ統制の取れた暴徒の集団といった様相の者達が農園の外で起こしている乱痴気騒ぎは酷くなる一方である。
殺気だった荒くれ者たちは自然と小競り合いを始め、殴り合いや袋叩きといった場外乱闘も珍しい光景ではない。
そうであるからこそ逆に異様さを放つ集団を二人はすぐに発見するに至った。
「ゼケ、気付いたか?」
「ええ、気持ち悪ぃのが60人ばかしってところですかね」
二人の視線の先には休めの姿勢で直立不動の指揮官らしき人物と捧げ銃の姿勢で同じく身じろぎもせずに整然と四列縦隊で待機している異様な集団の姿があった。
雑多で雑然とした周囲の荒々しい人間達と対比する様に整った統一されたくベージュ色の制服と赤く塗装された強固な防具、統一された銃器、そして統一された立ち振る舞いの集団が身じろぎもせず静かにその場に待機している。
あまりにも場違いなその者たちに気圧されて周囲の者達も自然と距離を取り、その周囲だけは人混みがさけられており嫌でも目につく。
「あれ、あいつら持ってるの全部突撃銃と軽機関銃じゃねぇですかい。大筒まで持ってやがる」
ゼケが注目したのはその集団の装備であった。
旧時代の二線級装備、すなわち人間が人間を殺していた平和で気楽だった時代の主力装備である小口径弾をばらまく高精度の銃器の群れ。
今となっては整備や再生産する事も弾丸を製造する事も困難なそれらを60人近い兵士全員に持たせているという事、それ自体が一種の異常であった。
更に言えば大筒、戦車や構造物を破壊するための携行式無反動砲までも装備している。
最早、今の人類にとっては神話の時代の兵器と言っても遜色ない装備の山を集団は見せびらかす素振りすらみせずに保持している。
明らかに周囲との技術水準の違いにゼケはにやけ面から一転、顔をしかめて訝しがる。
「あんなに装備しても弾ねぇだろうに、まあ、有ったら有ったで恐ろしい連中ですがね」
「それも異常だがよく見ろ、奴らの顔を」
仕える主にそう言われたゼケは武器に次いで集団を構成する兵士達の顔を見、目を大きく見開いた。
「こいつぁ…顔が一緒ときてらぁ。あいつら、顔が二種類しかねぇですぜ…」
列ごとに男と女に分かれて整えられた完璧な隊形を維持する彼らの整った美しい顔は全て同じであった。
男は清潔感のある髭の無い端正な顔立ち、女は凛々しさを感じる若干きつめな細めの顔立ち。
全員が赤い瞳とショートヘアに刈り揃えられた金髪に健康的な白人風の白い肌、同じ体格で同じ身長、全員が同一人物である様にすら見える差異の無い無機質な顔たちが無表情で並んでいる。
例え、全員が兄弟や親戚でもここまで同じにはならないだろう。
そう断言できるほどに集団は皆、同じ顔と表情をしていた。
「パイロットは目が命だぞ、耄碌したんじゃないか?」
「へへ、なまじ目が良いと視野狭窄になるんでさぁよ若。貴方は良い族長になれそうだ、期待してますよ」
若き族長に窘められたゼケは頭をかきながら曖昧に笑って誤魔化し、若もそれを良しとして微笑んだ。
「して、あいつら何だと思います?」
「分からん。だが、噂には聞いた事があるだろう?エンキ様とかつて争い、破れて身を隠した不死の魔王の噂を」
「まさかあの無限増殖マンですかい!?いや、でもそれなら確かに…」
不死の魔王、ゼケがそう呼んだ者はかつてトウカイ全土を苛んだ厄介な悪魔憑きにつけられたあだ名である。
曰く、その者不老にして不死なり。
銃弾で撃ち抜かれようと、剣で切られようとも死に至る事無し。
むしろ細断すると増えるので関わると碌な事が無い。
増えた自分で徒党を組み、今や己一人の為だけの国家を作り運営する狂気の人間プラナリア。
瓦礫の王によって一度はトウカイの表舞台から駆逐されて隠遁した異形が、王の死によって舞い戻ってきたのか。
何の意図を持ってここに居ついたのか、報復ではないだろう。
報復ならばもう行動は開始されている筈だ。
相手の意図が分からないからこそ、その行動の真意が見えずに不気味である事は仕事をする際には多々存在する。
少なくともゼケは既に今回の仕事が大荒れの嵐になるであろう事を感じずにはいられなかった。
「若、外に着陸したのって礼儀だけじゃないでしょ?」
「高い空からでは地上のアレコレは案外見えん」
投げつけた問いに対する明確で見識ある回答。
今代の族長が先日、病で亡くなった先代と同じく聡明である事を理解したゼケはこいつが無事である限りは部族は安泰だと満足し、護衛として喜んで盾になる事を決意した。
――――――
農園内に通されて若き族長が最初に行った事は暫定的な指導者であるイドへの謁見であった。
「モルフォライダーズ族長ズィロ、ただいま到着いたしました」
護衛を務めるゼケにも促して片膝をつき、臣従の意を示してイドの前で礼節に則り首を垂れる。
「よく来てくれた、ワシの指示を守ってくれたのは君が始めてだ。先代族長についてはお悔やみを申し上げる」
「この世界ではよくある事です。先代に引き続き、イド様には微力をお貸しいたしましょう」
王の死でざわめく外から律儀にも指示を守って少人数でやってきた空軍の長をイドは笑顔で歓待した。
本来は手を差し伸べてやりたいところだが、安全の為に鋼鉄の車椅子に乗るイドには言葉を掛ける事で精いっぱいだ。
そして若き族長ズィロもそれ以上を求めない。
一族はイドに大きな借りと恩義がある。
イドの助力と嘆願が無ければ一族はエンキの楽しい射的玩具として攻め滅ぼされていたのだ。
各拠点の防衛戦力として力を振るい、そして一族の征服記念日ごとにエンキに対して曲芸飛行を行いその目と心を楽しませる事を誓う事で一族は滅びをギリギリのところで免れる事が出来た。
無論、慈悲ゆえではない。
イドは航空戦力という存在そのものの希少性を買ってくれたのだ。
領域が拡大するにつれて機動力の高い兵力は必須となっていく。
だからこそ、イドはエンキの意思を曲げる程に働きかけを行ってくれたのだ。
イドには先を見据える力と能力があり、それが枯れぬ限りは見捨てる事はない。
それがズィロと先代が最後にかわした共通の認識であった。
「ところで、他の諸侯のお姿が見受けられないようですが?」
立ち上がり、周囲を見やって先に来ている筈の者達がいない事にズィロが疑問を呈した時、背後から大げさなぐらいの叫び声が上がった。
「間違いねぇ!これはエンキ様の鉄砕きだッ!あの凶報は真実だったんだッ!」
エンキを模した石像の足元に安置された鉄砕きの残骸を目の当たりにしてガタイと身なりの良い強面の男が速足で歩み寄りながらわざとらしく叫んでいる。
それに合わせる様にぞろぞろと集まってきた似たような人相と体格の取り巻きたちが像の前に走り寄り、まるで事前に打ち合わせていたと言わんばかりに叫び出す。
「うぉおおおおぉッ!兄貴ィ!嘘だと言ってくれぇえええッ!」
「エンキの叔父貴は俺たちの太陽だった!世界を救う秩序の担い手ッ!誰がこの様な悪辣な仕打ちをッ!」
「エンキ様こそが俺たちの長ッ!最高の『脳筋』だったッ!」
「そうだッ!あの御方こそ『脳みそも筋肉もある』貴人だったッ!」
「復讐だッ!我らには復讐しかないッ!仇を取らねばあまりにも王の無念が報われないッ!」
腕を組んで農奴を足蹴にするエンキの石像の前でわざとらしい身振り手振りを行いながら号泣し、泣き叫ぶ強面の男達。
男達の正体はエンキの力と恐怖に屈してその配下に甘んじた都市国家の王や部族長、その中でも即座に軍勢を引き連れて参集できる武闘派で鳴らした者達である。
彼らこそがイドが呼んだ有力者たちであり、外にひしめくは彼らの『護衛と従者』たち。
権力の後ろ盾を失ったイドを脅すべく集めた軍勢で無理難題を吹っかけてくるのは目に見えている事もあり、イドの頭痛は酷くなる一方だ。
その彼らが口々に死した王を讃え、復讐と報復を叫んで最後には皆で武器を掲げて雄叫びを挙げている。
ご丁寧に農園への入場も全員揃ってであり、この演出も彼らなりに何かしらの打算と意図があっての事であろう。
恐らくはしょうもない事を企んでいるであろう事は明白。
この図ったような登場の仕方から見てイドとズィロ双方に何かしらを行う目的があると思われた。
だが、こいつらはまだマシな方だ。
武闘派と言う名の『脳みそまで思考しない筋肉』連中がここに集った目的は正義の報復などでは決してなく、空いたエンキの玉座に座って新しい支配者になりたいという欲である以上は立ち回りさえ間違えなければ対処はどうにでもなる。
問題児はその隣にいた。
「神は闇の世界にお隠れになられたッ!我らは神と共に殉じ、その偉大な御霊を慰めんッ!エンキ様ッ!万歳ッ!」
「万歳ッ!エンキ様万歳ッ!我らの命は偉大なる神と共にッ!」
族長たちが報復を叫ぶ横ではエンキを神として信奉する教団の信徒たちが石像を前に一斉に自らの首を刃物で深く抉り切って紫色の血をまき散らしながら倒れ伏していく。
ズィロらが農園に入場した際にはいなかった集団である、いつ入って来たのか。
恐らくは後から入った族長たちに便乗したのだろう。
溢れる血を口から吐き散らしながら、しかしそれでも爛々と輝かせた目を、或いは尊ぶべき者を慈しむような眼差しをエンキの石像に向ける事を止めようとしない。
ある者は両手を握りしめて祈る様な仕草をし、ある者は血の付いた手を伸ばして懇願するような姿を晒しながら次々と失血と呼吸困難で息絶えていく。
傍から見ても異様なその光景を信徒たちは列を作って待ち、自分達の番が来ると同時に躊躇なく行い果てていく。
神無き狂った世界では尚の事信仰は強く、そして歪んだものとして形成されていくのだ。
「狂信者どもめ…ッ!これならばあのバカ騒ぎしている族長どもの方が遥かにマシだ…ッ!」
許可も無く農園に侵入し、勝手に自殺して作物を育てるべき土を汚し、屍者の発生を気にすることなく好き放題を行う狂信者の集団にイドは憎々し気に罵る事を止める事が出来ない。
「エンキ様もあんな事されても喜びなんてしな…いや、しますね。アホがバカやってるって腹抱えて大爆笑でしょうや」
彼らは彼らの神が喜ぶ行いを的確に行っている。
それだからこそ始末に負えないとイドの隣でショウは力無く頭を振った。
「よく分かってるじゃないかショウ」
「まあ、付き合い長かったですからね」
「ああ、長かった。あの御方のおかげでやっと平和が出来つつあったってのに…」
共に五体不満足な主従はほぼ同時に溜息を吐いた。
エンキの支配は好き勝手にやる為の支配であり広域の統治には一切興味を示さず、むしろ嫌悪していたのはこの主従にとっては共通の理解である。
だが、そうであるからこそ自分より目立つ相手にはきっちりと狩りと懲罰による制裁を行い、一定の秩序を作り上げていたのだ。
「我らとしては曲芸飛行で死人が出なくなって幸い…。おっと失言でした、お忘れくだせぇ」
うっかりと口から出た本音を仕舞い込み、ゼケは口を閉じた。
派手さを求めるエンキの要望に応じた曲芸飛行は戦闘機動よりも危険であり、失敗して死ぬ者が後を絶たなかった。
そして、エンキはそうして地面に落ちてシミになった間抜けの姿をこそ大笑いして喜んでいたのだ。
苛烈なる恐怖の支配はある程度の弊害を持ちながらも着実に進んでいっていた。
東に強大なミュータントが生まれれば剥製コレクションに加えるべく狩りに赴き、西に新興の勢力が躍進している噂を聞けばシバキ倒しに出向いて臣従させ、最大規模を誇ったマクトー・ヤヴァ男爵の探索隊の撃滅とその救出部隊を殲滅するに至って強大な武力を持つ教会の東部辺境伯領の拡大すらも阻止して見せた。
臣従した配下には季節ごとの貢物と引き換えに広範な自治、すなわち好き勝手にやる事を許して緩やかな連合を作り出す事に成功していた。
貢物が足りなければその族長の頭を文字通り握りつぶし、面白半分に都市国家を焼き払って見せるその苛烈さは自然、エンキに直接支配されぬ勢力をも平伏させるに至り、小競り合いはすれども目立った騒乱は減りつつあった。
エンキがその力で恐怖の伝説を打ち立て、強固にする程にトウカイには平和が広まっていった。
あと数十年…いや、十年もあればトウカイはエンキという存在を絶対の神として崇める緩やかな宗教連合として再編されていただろう。
エンキの支配は新たな国家を作り出す事は無かった。
古き文明を蘇らせる事も無かった。
だが、無法地帯に一定の秩序を生む事には成功しつつあった。
イドもまた、諸侯の貢納品がエンキの要求する水準に達しているかを監査する役目を得てから広範な采配を振るう立場を得るに至った。
このまま行けば緩やかな歩調になるとはいえ、地域の再興は狙えるところまで来ていた状況でのこの悲劇。
必然的にその下で押さえ付けられていた族長たちは荒ぶり、息をひそめていた者達も蠢動を始め、世界は元の木阿弥へと戻りつつある。
それはつまり、イドらの破滅と同義でもあった。
しかして王の死など隠し通せる物ではないが故の即座の開示、イドにとって今日が正念場であった。
「ところでショウ、シュワンツはまだ到着せんのか?」
「ええ、今日中には来るって聞いてるんですがね」
ズィロと同じくエンキに仕えたアミ族の族長の名を出して問うイドにショウは首を振って応えた。
彼が今ここにいないのは非常にまずいと言えた。
武力を持たぬイドには族長らを統制する能力が無い。
「まずいな、族長共がそろそろこっちに来るぞ」
石像を見つめる主に合わせる様にショウが視線を移すと各々武器を握りしめて意気軒高な族長たちが興奮気味に丘を登って迫ってきているのが見て取れた。
「イド様、後は任せますよ。俺はピエロ役なんですから戦いなんて出来ませんわ」
「分かっている。さっさとギンの後ろにでも隠れてろ」
ショウは台から飛び降りると鋼鉄の装甲車の如きイドの車椅子を後ろで沈黙したまま待機するギンの背後へとそそくさと入り込む。
「イドォ!おめぇの権勢も今日までだなぁ!エンキ様がお亡くなりになられた事をどう責任取るつもりなんだ!?」
直後に響くのは族長たちの一人が放つ挑発めいた大声であった。
一人が罵ればもう歯止めは効かない、残る者達も口々にイドを罵り始める。
彼らの目的は言うまでもない、五体不満足の癖に『脳みそも筋肉もある』自分達を差しおいて好き放題に差配を振るっていたイドへのお礼参りである。
それぞれに数発も殴られれば満足するだろうとイドは覚悟を決める。
「全権代行様よぉ!おめぇの目が節穴だから兄貴がくたばっちまったんだろうがよぉ!」
「てめぇ分かってたんだろ?ボースが裏切るつもりだってよぉ!」
「くせぇ虫使い呼んだのは逃げる算段だったんじゃねぇのかてめぇ!?おぉん!?」
「まずはてめぇを剥製にしてエンキ様のみもとに送っててやろうかぁ!?」
「だから俺は日ごろから言ってただろうが!出来損ない野郎が脳みそだけまともな訳がねぇってよぉ!」
手に手に銃や刀剣を持って振り回しながらイドを貶す言葉をまくしたてるその有り様はまさしく蛮族と呼ぶにふさわしく、その言葉の数々にギンの眉間に皺がより、言葉を発せぬ口は唇をかみしめる。
この程度の言葉と態度を自然と出していけねば全てが自由な死と暴力に満ちた荒野で勢力の頭など張ってはいられない。
だが、だからこそ侮辱は死で持って償わねばならない。
特に主を愚弄されて黙っている従者などいてはならないのだ。
自然、ポケットへと手が伸びようとしたギンをイドは左手を横に出して制する。
「よせ、彼らは必要な者達だ」
少なくとも今はまだ、という言葉をイドは飲み込んだ。
その言葉にギンは表情は崩さないままに手を定位置たるイドの車椅子の持ち手へと戻す。
その様子を見てゼケも腰の拳銃に伸ばしていた手を元の位置に戻して後ろ手に組む。
主であるズィロもいつもの毅然とした態度で静観を決めている以上はまだ早い。
「そうさ!俺らがいないとおめぇは何も出来ねぇ!よくお分かりじゃねぇか!これからは俺が新しい頭になった暁にはこの農園にはたっぷりと貢いでもら……なんだ?」
族長の中でも頭一つ体格が良く顔に深いひっかき傷を持つ男、ズークが愉快そうにイドの首を掴もうとしたとき、彼らの背後で重たい何かが着地する音がし。一斉に振り返る。
「着いたー!もう体がバキバキだよぉ~」
そこにいたのは俗にいうお姫様だっこという形で抱きかかえられたセーラー服姿の少女と黒い羽根の様なマントを羽織り、古めかしいローマ風の甲冑の如き鎧を装着した銀髪の騎士風の男。
対空警戒班は何をやっていたのか、警報一つ発する事無く、世紀末を生きる族長たちのすぐ近くに場違いにもほどがある異物が二体、たたずんでいる。
族長たちが騒然とする中、ズィロは咄嗟に空を見上げた。
それはエンキの空軍を担ってきた航空指揮官の直感故だった。
案の定、空には何かが飛んでいる。
羽の生えた四足獣の様な何かが空を優雅に滑空している姿をズィロは目視したのだ。
豆粒ほどに見えるあの場から飛び降りて来たならば目視に頼る対空警戒部隊の目を欺くのは容易だろう。
だが、それ程の高度から降りて来て無事なこの二人は果たして人間か?
ズィロの背筋に冷たい悪寒が走り、知らず自身が死地に迷い込んだことを悟るに至る。
それを同時に理解した様にゼケがズィロの前に出て盾となり、ギンもまた同じくイドの前に立ってに二人の闖入者の前に立ち塞がる。
遅れて族長らも武器を構えて臨戦態勢を取る中、周囲の事などはどうでもいいとばかりに騎士の懐から地へと降りた少女が手足を伸ばして体をほぐす。
少女の体が見た目に似合わずバキバキと骨を鳴らす大きい音を立てるのを見て銀髪の騎士は困った様に微笑んだ。
「空の旅はまだ慣れないか?それともちょっとばかり飛ばし過ぎたか?」
「長距離移動はいつも機関車か自力だったからねぇ~」
驚愕する周囲を無視した他愛ない会話を続けながら騎士もまた軽い柔軟運動を行う。
あくまでマイペースを崩す事の無い二人からは周囲の存在達を脅威として見ている様子は一切ない。
その姿はまるで無害な小動物の前で笑い合う恋人たちの様ですらある。
敵意が含まれている素振りは無いが目的が分からぬ以上、イドには成り行きを見守るしかない。
見守っている、筈であった。
「貴方がイドちゃん?エンキちゃんの腹心だったんだっけ?」
「ッ!」
ふと気づけばイドのすぐそばに優し気に微笑む青髪の少女の顔があった。
気を緩めたつもりはない、それはギンもイドも同じであった。
だというのに、少女は盾として立ち塞がるギンをすり抜けてイドのすぐそばまで肉薄している。
敵意や殺意が無いのが逆に不安感を抱かせる、そんな雰囲気を纏った少女にイドはしぶしぶ答える。
「そうだ、ワシがイドだ。何の目的があって許可なくワシの農園に侵入しておるのか聞いても良いか?」
「うんうん、そうだよねぇ~怒るよねぇ~。私たちはねぇ―――」
イドの返答に満足した様に少女は笑顔のまま頭を二度上下させてから要件を伝えようとし、乱暴に服の胸元を掴まれて体が宙へと浮かされる。
「おいてめぇ!何勝手に話進めてんだオイ!えぇ!?」
見ればそれは先程イドに掴みかかろうとした顔に傷を持つ男、ズークであり話を中断された少女の表情に明らかな嫌悪が浮かび始める。
「離してくれる?今イドちゃんと大事なお話をしてるんだよ?」
「ふざけんじゃねぇぞ、誰の許しで仕切ってんだ?てめぇよぉ!」
己の領地では族長を張る男として、『商談』の最中に割込みで邪魔をされてメンツを傷つけられたからにはズークも後には引けない状態であった。
この様な世界においては舐められたら終わりなのである、誇りは命よりも重いのだ。
どの様な理屈や道理や理念思想よりも重い。
故にこの世紀末の世では争いが絶える事は無い。
泥と埃に塗れた汚れた手でシミ一つ無い白と紺のセーラー服を乱暴に掴まれている事を理解した少女の顔には静かな怒りの感情が満ち、メンツに泥を塗られた族長の一人である男も頭に青筋を立てて更に怒鳴りたてる。
「今ここに入って良いのは俺たちエンキ様配下の族長と神官だけって決まってんだよ!何様だてめぇは!」
「だからそれをイドちゃんに説明しようとしてるんだってば、邪魔しないでくれる?」
「てめぇッ!ぶっ殺してやる!殺してくれって懇願するまでなぶ―――!」
双方が我慢の限界、そう思えた時にそれは起きた。
「こ…ッ!か…ッ!」
「駄目だよぉ~。軽々しく『殺す』なんて言っちゃあ。言葉には呪力があるんだから、最初からやる気が無いのに決意の言葉を使ってたら価値がどんどん軽くなっちゃうんだよ?」
男が少女の服をを離したと思いきや、口から血の泡を吹いて地面へと倒れ伏して腹を抑える様に丸くなって痙攣を始めたのだ。
よくよく見れば男の腹には深々と短剣―――いわゆるスティレットと称される刺突剣―――が突き刺さっており、的確に内臓を刺したその一撃は一目見て致命傷である事が見て取れた。
少女の白いセーラー服は紫色の返り血で染まり、誰がそれを為したかを明確に伝えている。
「ぶっ殺すなんてのは軽々しく使っちゃ駄目だよぉ~。それを言って良いのはねぇ~」
少女が服の下に隠した二本目の短剣を抜いて振り上げ―――。
「本気で狩るって決意した時だけェッ!」
なんら躊躇する事無く振り下ろした。
「救済ッ!」
二本目の短剣が首へと突き刺さり、ズークは一度大きく痙攣するとそのまま絶命する。
突き刺さる短剣を両手で二本とも引き抜くと少女は立ち上がってイドらの方向へと向き直る。
少女はイドと会話した時と同じ笑みを浮かべていた。
吹き出る血しぶきで服はおろか、顔や全身を紫に染めて少女は笑みを絶やさない。
そこに殺意や敵意はやはり無い。
そこでイドは理解した。
この少女にとって自分達はその程度の存在しかないのだと。
人間が食事をする時に皿の上に置かれた肉や野菜に敵意を向けるだろうか、そんな事はない。
精々が嫌いな食材に顔をしかめる程度の事、それが今の自分たちの立場なのだと。
この重圧感の正体を自分は知っている、これはエンキと同じ部類の―――。
イドがその理解に達した時、従者たるギンや他の主だった族長たちもほぼ同時に同じ答えへと辿り着いていた。
だが鈍感な族長の一人は違う答えに至ったようであった。
そして、それぞれの行動は素早かった。
「ああ、やっぱり綺麗だよねぇ~。どんな命でも終わりの時には綺麗な色が溢れて輝く…」
温和な表情の少女が言葉を続けようとする最中、イドは身をかがめ、ギンは持てる力で車椅子を押し出して退避を図った。
ゼケは己を盾としつつゼィロに後退を促した。
聡明な族長たちは素早く退避して距離を取り、そうでない愚かな者が反射的に手に持つ銃を少女に向ける。
銃を向けたのはズークに最も歩調を合わせていたホアであった。
どちらもエンキが貢物に『誠意が無い』としてそれぞれの部族の族長を潰した際に近くにいたので『お前、次の族長な』と適当に選ばれた者たちである。
ただその場にいたが故に選ばれただけの凡人、しかしてエンキに選ばれたという事で人一倍自尊心の高い二人は今回の件で自分達こそが後継者に相応しいと信じきっていた。
他の者達はイドを追い落とすために同調しつつ担いでいた面があるが、この二人の愚か者は本気であった。
本来であれば、次の貢物を捧げた際に死んでいたであろう二人はエンキの死で命を拾い、しかして無能が故に自ら死に向けて突撃する事となった。
「う、うおぉああああぁッ!」
ホアは叫びながら、手にしたリボルバーの引き金を乱暴に引いて乱射。
余分な力の入ってブレた銃身から吐き出される鉛玉の大半は少女に当たる事無く空を飛ぶ、その筈だった。
愚かな族長が引き金を引く直前、族長と少女の間に黒い何かが幕を張る様に広がった。
「つっ!」
放たれた銃弾がその黒い何かに当たると少女の相方である騎士が苦痛を感じた様に小さく呻いた。
少女とホアの間に割って入ったのは騎士のマント、いや黒く大きい鳥の翼であった。
騎士が羽織るマントだと思われていたのは腰から生えた巨大な鳥の翼だったのだ。
有翼の悪魔憑き、誰しもが騎士の正体を理解した瞬間に少女の怒りが爆発した。
「リュナちゃん!?このッ!」
自分をかばった相方が撃たれた事を悟った少女は眉間に深い皺を寄せながら銃を持つ族長に右手を向ける。
銃を模したような三本の指が族長をしっかりと捉える。
撃鉄の様にサムズアップされた親指、族長ホアに示し合わされた中指、そして中指と間を空けて少し上を向く人差し指。
出来の悪い手で作った銃の様なそれは親指が撃鉄を落とす様に人差し指と密着した時に光り輝いた。
人差し指と中指の間に光が走り、空気を裂くスパーク音が鳴り響くと同時にそれは発射された。
『本気狩殺光線!』
轟音と共に放たれた雷光の如き一線がその場の全員の網膜を焼き、世界が白く染まった。
一瞬の後、雷光が迸った跡地には砕け散ったホアだった何かが残っていた。
飛び散った破片の中でも最も原型を保っているそれは拳銃を握る一部が完全に炭化した焼け爛れた右腕。
生き残った者達がそれを少女に弾丸を放った族長ホアの成れの果てである事を理解するにはそれ程の時間を必要とはしなかった。
「リュナちゃん大丈夫!?駄目だよ装甲の薄い部分で受けちゃあ!腫れてきてるじゃん!」
次は自分達か、そう覚悟したイドらを無視して少女は有翼の騎士に駆け寄り、盾となった黒い翼をさする。
銀髪の騎士は痛みで若干顔をしかめながらも少女の無事を確認してか、笑みを絶やさない。
「咄嗟に間に合わせるにはこれしか無さそうだったからね、怪我は?」
「火薬使われたせいでくしゃみ出そう!しかもよりにもよって黒色火薬だよ!一番嫌いなのに!」
「そうかそうか、ならば良し!ただくしゃみは向こうでして来るんだ」
言葉に従って少女が離れていくのを見届けると銀髪の騎士は羽根を畳むとイドに向き直って恭しく右手を胸において首を垂れた。
「とんだ失礼をしてしまい申し訳ない。我が伴侶が貴方の従者を二人も殺してしまった」
「いや…あいつらは従者ではなく族長たちでな…」
礼節に乗っ取った丁寧な口調と態度。
しかしその実、イドらはこの二人組に生殺与奪を握られている。
故にイドはしどろもどろに言葉をひねり出すので精いっぱいであった。
他の者達も意気消沈し、文句を言う度胸も残ってはいない。
女の方が化け物である事は嫌でも理解できた。
ならば、その相方である騎士も間違いなく化け物であろう。
迂闊な事を言えば今度は自分達が肉塊にされかねない。
そんなイドらの思惑に気付かぬのか、気にしないのか騎士はよく通る力強い声で話の流れを自分の元へと引き込んでいく。
「なんと!エンキゆかりの方々であったとは!加勢に来たつもりであったのにとんだ御無礼を!」
「加勢だと?ワシらをぶっ殺しに来たんじゃないのか?」
「彼女は無礼な奴と火薬が大嫌いでしてね、悪い子じゃないんですよ。ちょっと容赦がないだけで…」
騎士は中途で言葉を止めると視線をイドから農園の外へと移した。
釣られてイドもそちらへと視線を移すと、地平線から土煙をあげながら此方に迫る何かが見て取れた。
見る見る間に迫ってくるそれは珍妙な音楽とエンジン音を響かせている。
「ブォン!ブォンブォン!ブォオオオオオオッ!」
いや、それは声だった。
誰かが大型バイクにまたがり、エンジン音を模した叫び声をあげて迫ってきている。
鳴り響くのはノリの良い軽快な音楽―――過去においてそれは良く知られた物であった特撮ヒーローのOP曲―――をバイクに無理矢理括りつけたラジカセから最大音量で響かせながら口から迫真のエンジン音を鳴らす。
それは前方に布陣する族長の軍勢や職を求める傭兵達の野営地を前にして、減速するどころか更に加速した。
「行くぞローカスター!目標前方の『弱い奴ら』の集団!アクセル全開ッ!」
まさか自分達に向けて突撃をするなどとは思わぬ群衆の中に全速力で突入したバイクは紫の土煙をまき散らしながら減速する事無く肉の道を突き進む。
人間だった物体と設置されたテントや備品が砕け散りながら宙を舞い、バイクの疾走を阻むいっさいが打ち砕かれていく。
「分厚い陣地だ!だが俺のローカスターは決して『弱い奴ら』には屈しないぞ!ブゥオオオオオンッ!」
響き渡る悲鳴と絶叫とそれをかき消すエンジン音を模した声と軽快な音楽が混沌を生み出し、唐突に終わりを告げる。
「とぅおおおッ!」
野営地に破壊と殺戮を引き起こしていたバイクは突如、宙へと飛んで農園の堀と防壁を大きく飛び越えるとエンキ像の前で礼拝を行う信徒を引き潰しつつ着地し、イドらのすぐ近くで停止する。
バイクに乗るはイナゴそっくりの顔をした硬質な昆虫を思わせる緑色の外骨格の肉体を持つ異形の悪魔憑き。
「『強い奴』の味方、イナゴレイダー!見参ッ!」
イナゴレイダーと名乗った異形の悪魔憑きはバイクから降りると前面に張り付いてまだ息のある雑兵を蹴り落とし、その頭を踏みつぶしながら両手を斜め45度に掲げる独特なポーズをしてイドらの前に立つ。
「イドッ!エンキのおやっさんがやられたってのは本当なのか!」
ポーズを維持しながらイナゴレイダーは表情の読み取れないイナゴ顔でイドに向って叫ぶ。
『強い奴』に媚び、『弱い奴』を虐げる世紀末バイク乗り。
エンキが殺すには惜しい玩具として配下に組み込んだ昆虫人間型悪魔憑きは正義の死を知って義憤に駆られているようであった。
「事実だ、だがお前にはまだ通達してない筈…」
「吾輩が教えたのだ」
こうなる事を予想して通達していなかった相手の登場に狼狽するイドに応えるようにイナゴレイダーの背後に隠れていたバイクの同乗者が顔を出す。
「イド殿、遅くなってすまぬな。吾輩の精鋭800名は既に準備を終えている。半数程度はあと数刻でここに来るはずだ」
「おお、来て下さったかシュワンツ殿!イナゴレイダーのバイクを使うとは!」
ベージュ色を基調とした補修を繰り返して痛んだ迷彩服に古代の勲章を複数つけた精悍な顔つきの白髪の老人にイドは歓喜の声を上げた。
武闘派の中で一番まともな奴が来てくれたという純粋な歓喜であった。
彼こそがイドの待ち望んだ48thの族長、ゲネラル・シュワンツであった。
迷彩服の腕章にあるのは強化外骨格歩兵のヘルメットのエンブレムと48thの文字。
アメリカ合衆国陸軍第48装甲化歩兵師団、かつて世界を守る為に戦った人類の防人の末裔たるアミ族の族長は快活な笑みを浮かべながら叫んだ。
「さぁ!敵討ちを始めるぞ!まずは編成状況の確認会議を行う!異存は無いな!」
イドとズィロの両名、そして族長たちに異論を唱える者は無く、二名の部外者もそれに応じて騒ぎはひとまず収まる事となった。
それぞれの思惑の下に事態は進展しつつあった。




