十七話、二人の男・前編
前半部分として書いてたら無駄に文字数が増えたので単品として投下する事になった回。
(今回、主人公の出番は)ないです
虜囚となったRが覚悟を決めつつあったのとほぼ同時刻、都市全体がスラム街と呼んでも決して文句など言えない終末後の街に複数の男達が訪れていた。
その身なりは薄汚れた都市迷彩服であり、珍しい戦前の服装といった体ではあるものの、それ自体は特別希少な物でも無い。
しかし、その上に着こんだ装備は他者よりも格段に優れた物であり、彼らがただ者で無い事はよほど鈍感である者でもない限りは理解出来る、そんな集団である。
身に付けられた厚い革製の手足までしっかりと守られた皮鎧、木綿を詰めた簡易式の防弾衣、鋲打ちされた頑丈な作りの長靴に加え、膝、肘、脛、肩などの軽視されがちな部位にもしっかりと革製の追加装甲が施されており、顔を隠すと同時に守る目出し帽とゴーグル、現在となっては貴重な強化繊維入りのプラスチック製戦闘ヘルメット、指ぬきされた手袋といった風に全身をきっちりと守る為の防具で守られている。
そこには少なく限られた資源と資材で兵員の生存性を上げる為の可能な限りの努力をした結果であろうと窺う事が出来る。
要は二束三文で使い捨てられる人間と違い、しっかりと金を掛けた装備を彼らは整えているという事だ。
更に、その集団は全員が全員、腰には鉈を携え、銃剣を取り付けたポンプアクション式散弾銃やレバーアクション小銃を肩に掛けて装備し、動きもまた統率の取れた動きをしている。
それが合計で四人、周囲の雑踏などまるで気にする素振りなどせずに歩いている。
火力面では若干の不満は残るが最低限の要件を満たし、しっかりとした訓練が行き届いているであろうその集団は先頭を歩く二人の男に追随している。
その雰囲気は明らかに軍隊のそれであり、周囲から大いに浮いていて目立っている。
その集団を先導する二人もまた個性的だ。
一人は装備はほぼ後ろの者達と同じではあるが、目出し帽は被っておらず、ゴーグルもしていない。
日焼けした赤みがかった肌の、眉毛などまで全てを剃り上げたスキンヘッドで筋骨隆々としたガタイの良い男。
この男は後ろからついてくる男達よりも頭一つ分大きい体を持ち、全身を守る皮鎧にも更に鋼鉄のプレートや肩のパットにはトゲなどが追加されていて、見るからに隊長格と呼んでも遜色がない雰囲気を周囲に醸し出している。
元から強面と言っても良いその表情は現在、機嫌が悪いのか更に歪んだ恐ろしい物となって通行人たちを恐怖され、その男の周囲では混雑する人の海が男との接触による『不幸な事故』を避ける為に寸での所で素早く避けてに周囲へと散っていく。
まるで海を割るモーゼだ。
そしてもう一人は彼らの装備とは大きくかけ離れた、大男に比べれば背は低く、ついでに言えば配下の兵達よりも若干背が低い、こけた頬に手入れもされずに伸ばされた顎髭が目立つカウボーイ風の男。
皮鎧は身に着けず、はだけさせた黒のレザージャケットの下には両肩から掛けられた二つのガンベルトがあり、そこには複数のリボルバー拳銃がホルスターに入った状態で収められている。
腰にも同じくガンベルトとホルスターが巻き付けて有り、更にはおまけとばかりに丈夫そうなジーンズを履いた脚にも拳銃を収めたホルスターが左右それぞれに一つずつ巻きつけられている。
更に肩は最早小銃と呼んだ方が早い大型のリボルバー銃がスリングに繋がって揺れている。
言ってみればこの男はリボルバー銃のみ構成ではあるが、全身武器庫の様な状態だ。
体には当然と言って良い様にチェック柄の長Tシャツを着こみ、頭にはカウボーイハット、首には赤いスカーフが巻かれ、どこに出しても恥ずかしくないカウボーイのコスプレイヤーといって良い程にカウボーイの衣装を着こなしている。
一つ本家と違いがあるとすれば、サングラスを付けているという事。
そして、その人物が黒髪、黒目の東洋人顔で有るという事だろうか。
そんなどう見ても兵士というよりも荒くれ者と言った方が近い二人組は配下の兵士を引き連れながら、乱雑に行きかう民衆とそれらを轢き殺す事も厭わないという体で突き進んでくる馬車によってまともにまっすぐ歩く事も難しい自称『大通り』に辟易しつつ、とある店を目指して進んでいた。
「どけ!屑共が!」
「大声出すなよ、あんたの顔見りゃ皆どく」
不満を隠さず怒鳴り散らし、通行に邪魔になる他者を威圧しながら進むスキンヘッドの大男に対してカウボーイ風の男はさして気にしないという素振りで男の隣で周囲を警戒しながら歩いている。
「ったく!相変わらず汚ねぇ街だなここは!」
「トウカイの支配地域なんてどこもこんなもんだろ。まともな奴らは教会と貴族どもが仕切ってるターミナルに住むに決まってる」
機嫌悪く怒鳴り散らす大男にカウボーイ風の男がまるで分かりきった事であるという風にそっけなく答える。
実際にそれは事実だった。
結局のところ、トウカイはゴミ漁りや野盗、棄民者などの壁の外の世界で生きる事を余儀なくされたアウトローの寄り合い所帯であり、詰る所烏合の衆である。
彼らの都市は襲撃部隊が補給や休養を行い、略奪品や回収品を持ち込んで売買する為だけの拠点として運営されていると言っても過言では無く、寄り合い所帯故に統治者はおらず、腕っぷしが強いか口が上手い者が顔役として必要な時だけその役目を果たすに留まっている。
各々が自身を一国一城の主と自負する彼らは、自身が支配されるという事を好まないが故に、トウカイの支配地域は無法地帯で荒む一方だ。
教会というしっかりとした統治機構と貴族という支配者たちが存在しているターミナルに比べれば、その技術力も統率力も雲泥の差があり、ある程度の勢力圏を維持している彼らと違ってトウカイの陣営は日に日に衰退し、破滅の坂を緩やかに転げ落ちて行っている。
ターミナル側からすればトウカイはいわゆる『蛮族』と呼ばれる程度の存在に過ぎないのだ。
だが、そんな当然の指摘が癇に障ったのか、更に大男の機嫌が悪そうに顔を歪め、相方の背の低いカウボーイに自身の腰を曲げて顔を同じ位置にしてから間近で叫ぶ。
「キド!少しは礼儀ってのを弁えたらどうだ!?ここでは俺がリーダーだ!」
「キッドだ」
「あ!?」
「俺の名はキッドだと言っている。キドではない、キッドだ」
だが、それに臆する事無くカウボーイ風の男、キドはすぐ隣にある大男の顔を無視して周囲に目を配りつつ、あくまでマイペースに名前を訂正する様に求めた。
どんな状況であろうと自身のスタイルを崩さない、それがキドのポリシーだ。
この大きそうな頭に反して中身が通常の半分ぐらいしか無さそうな筋肉だるまに仕方なく従っているのは、こいつの上司に金を貰っているからであり、本来自分は孤高のガンマンなのだ。
正直な所、『金が溜まったらさっさと辞めたいよこんな職場』というのがキドの本心だ。
だが、『カウボーイのガンマン』という概念をやるにはとにかく金が掛かるのだ。
衣装、ガンベルト、銃、弾薬、その他諸々の必需品、ある程度は自作で頑張っているがどうにもならない物は職人に特注で作って貰っている。
当然だが、戦闘になれば惜しみなく銃をぶっ放すので弾薬代も馬鹿にならない。
そんなスタイルであるから普通の警備や都市内の雑多な仕事では赤字になるばかりで最低限の生活費の捻出すらも出来ず、手持ちの銭代わりの物品は常に枯渇気味だ。
だからこそ、こういう傭兵まがいの危険で嫌な仕事をせざるを得ないのだ。
ちなみに言えば、今回の雇い主から請け負った仕事はこの蛸坊主の御守だ。
守る対象は言うまでも無く、坊主ではなく坊主に突っかかられる無辜の被害者の方だ。
こんな野蛮な大男に護衛など必要ない。
というか護衛は別途に四人もいる。
あいつらだけで威圧効果は十分だ、まともな脳みそしてればスリだって寄り付かない。
むしろこの野蛮人がこれから関わる案件の荷物が、この生きたミンチもしくはスクラップ製造機に破壊されるのを防ぐ事が当座の仕事だ。
つまりは一番面倒で疲れる役回りだ。
こいつと組むと碌な事が無いからさっさと終わって欲しいという気持ちでキドの脳内はいっぱいだ。
ここまで切羽詰まるくらいならば、そんな事を辞めてしまって普通に生きれば良いと人に愚痴れば言われるだろう。
だが、それは論外だ。
なぜならばキドにとってカウボーイ衣装のガンマンという存在こそが至高であり、追い求めるロマンだからだ。
こんな世界では己の信じる美学に従って生きるのが人生を楽しむコツだとキドは信じている。
ただ生存して存在し続ける事ならば誰でも出来る。
それこそ路肩で大麻を吸ってる浮浪者にすら出来る事だ。
自分はそんな『ただ生きる為に生きる』などという不毛な行為をしたくない、それがキドの行動原理だ。
キドはこれまでの日々を伊達と酔狂だけで生きてきたのだ、それを今更やめる事は出来なかった。
そんなキドは見た目に反して割と臆病ではあるが、その銃の腕と大抵の事ではポーカーフェイスを崩さないという特技によって周囲に一目置かれてきていた。
故に内心でどんだけビビろうとも決して顔に出してはいけない。
取り乱すというのはカウボーイ的に見てクールではない。
この蛸坊主みたいな万年キレてる屑は凄い怖いが絶対に顔には出さない。
いや、出せない。
キドは平静に見えて割とこの暴力的圧迫面接に対していっぱいいっぱいだ。
だが、その様な圧迫状態でもしっかりと周囲への警戒は怠ってはいなかった。
「黙れこの腐れ東洋人が!ガンマン気取りもいい加減に…!」
「ボース、左だ。あんたの財布が冒険に出そうだぞ」
「ッ!っらぁ!」
キドの言葉の意図を理解した大男のボースは反射的に左手を握り、裏拳の要領で大きく薙ぎ払う様に横へと振りかぶった。
「ぎゃっ!」
ボースの腕に肉と骨を叩く確かな感触と、それによる痛みが伝わると同時に若い男の短い悲鳴が通りの雑踏の中で響いた。
スリだ、ボースがキドと口論しているのを隙と見たのだろう。
まともな奴ならば隙があろうとこんなヤバそうな男相手にはやらないだろうが、こんな町中スラム街の様なこんな町ではまともな奴の方が少ない。
そんなまともではない枠の筆頭たるボロの外套を着た痩せ細った浮浪者然とした男が太い腕の裏拳を叩き込まれて宙を舞い、顔を抑えながら地面に倒れ伏す。
だが、ボースの行動はそこで終わらなかった。
倒れた男に向って歩み寄り、男の右腕を掴んで引っ張り上げると、腰から抜いた鉈でその腕を力任せに切り落とした。
案の定、紫色の血が飛び散る中、腕を切られた男の叫び声が大通りに響き渡る。
周囲の群衆がざわめき、物流は止まり、通りは一時的に渋滞状態に陥る。
背後の兵士達はそれが当然の行為であるとでもいう様に静かに待機し、何も語らず、何も行動を起こさない。
スリの腕を切り落とす事など最早、見慣れた日常だからだ。
周囲の反応を警戒し、武器を構えるなどといった行動は一切取っていない。
至る所から反響してくる囁き合う声、好奇心を満たそうとする視線、周囲を囲う様に取り巻く群衆に向けてボースは今まさに切り落としたばかりの紫の血の滴る腕を掲げながらは叫ぶ。
「黙れ屑ども!盗人は腕を切り落とされるのがここの掟だろうが!異議のある奴はさっさと出てこい!無いなら散れ!」
まともな治安維持機構が残されていれば即座に警察官が飛んできてボースを逮捕したであろう。
しかし、そんな物はとうの昔に消滅しているのがこの世界であり、それも掃きだめと同義のこの様な場末の都市では複数のギャングが地区ごとに領主を気取って仕切っている事もあって支配者すらも定かではない。
結果として残るのは自己防衛、そして自力救済を是とする弱肉強食の世界。
圧倒的なまでの自由な世界、故に何者も庇護などしてくれぬ無秩序の荒野。
葬儀屋や処刑人たちが面倒を見るのは死体だけ。
生きた人間は自らの価値を己で証明出来なければ路地の隅に打ち捨てられるのみ。
それを弁えている群衆たちは自分が次の暴力の対象になる事を避ける為、そして見世物が終わった事を理解して再び混沌とした流れの中へ、日常へと戻っていく。
腕を切られた男もふらふらと雑踏の中へと逃げ込み、残された腕はボースに力任せに投げ飛ばされて通りの隅のゴミの山へと壁に激突した後に落ちていく。
それを待っていたとばかりに飢えた餓鬼のような子供たちがひったくる様に回収するとそのまま駆け足で路地の裏へと消えていく。
後の事など語るまでも無い。
「さっきの続きだが、所詮俺は雇われだからな。さっきみたいに仕事さえしてりゃ文句は無いだろ?」
「チッ!てめぇなんざさっさと野垂れ死んじまえ!」
ボースは吐き捨てる様にキドに暴言を投げかけ、キドはそんなボースの言葉を聞き流して目的地に向けて前進を再開する。
数十分後、まるで噛み合わない水と油の様な二人が部下たちと共に訪れたのは、Rがアスマに売り飛ばされた石造りの奴隷販売店であった。
前回出せなかった分の世紀末成分の補充回という感じになってます、次でまた主人公視点に戻る予定なので新キャラの顔見せって感じで見て頂けると幸いです。
トウカイについてはstellarisでいう所のマローダー文明、Falloutで言う所の拠点持ちレイダーみたいな枠なので数は多く、技術も最低限残ってる物の、全体としてはジリ貧で技術も衰退傾向という感じの勢力となっています。
まともな法も無く、彼らの間でだけ通じる『常識』の範疇で秩序が維持され、違反者は苛烈に処罰されます。
詰る所、こんな所に着た時点でRくんは現状どう足掻いても詰みというのの補強回ですね。
こっからは胸糞andサバイバル重点の展開が続くと思うのでお楽しみください。




