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ブルーブラッド  作者: 人間性限界mohikan
一章『流されるもの』
17/99

八話、血の色

投稿が遅くなって申し訳ありません。

仕事で土日にしか書けないのと疲労と暑さにやられてすっかり捗らなくなっていますが、エタらない様にかんばっていきたいと思っています。

書きたいネタは沢山あるから時間かけても進めていく所存です。

あと後書きではネタバレし過ぎないようにしないといけないと思いつつも補足ついでに設定とか今後の構想とか垂れ流してます。

味覚のへの暴力に満ち溢れた食事を幾ばくかの時間で終えたRは机の上に陸に打ち上げられた魚の様に項垂れていた。


「俺たちの飯の味はどうだったよ、おっさん」

「率直に言って、これが標準的な食事ならば今後は光合成でもして生きていきたい気分だよ」


ニシの笑いを押し殺した様な口調で放たれた問いに対してRは不条理に対する唯一の抵抗とばかりに皮肉を吐いた。


「ひでぇな、一緒に食う為にあんたが起きるまで俺だけ我慢してやったっていうのに」


文句とは裏腹に、ニシは最早我慢の限界の様で声を押し殺し、体を揺すりながら笑い続けている。

どうもRが食事中に見せた反応が尽くニシの笑いのツボに入ったようだった。


なんとか食べ終えたが、地上での最初の食事は苦痛の伴う物となった。

パンは硬く、かび臭く、そして何よりも酸味と渋み以外に形容のしない非常に粗悪な物だった。

口に入るや否や口の中の水分を奪い、強制的にスープや酒もどきの使用を強制してくるのも難点だ。


スープはスープでネズミ肉のせいか非常に生臭く、岩塩が使われているという味付けは文字通り塩味しかしない。

これが非常に辛かった、何と言ってもスープ自体にに生臭さが混じってしまっているので飲み干そうとする度に生臭さに邪魔されてえづきかけてしまう。


ハーブが入ってるとは言っていたが、量が少ないのかはたまた肉の下ごしらえが悪かったのか、匂い消しにはなっていない。

何より飲んだところで塩味しかしないのだ、肉の旨みも無ければ調味料による調整された味わいも有った物ではない。


思えば、故郷たるARK5で供される肉は基本的に大豆をベースに作られた疑似肉と別途生産された合成たんぱく質を組み合わせた合成肉で実際には本物の食肉ではないのも実際の肉への拒絶反応に大いに影響しているのかもしれない。


いや、単に下処理の不足と食するには不適格な肉のせいだろう。

そうで有って欲しい、本物の牛肉ステーキに対する夢と憧れが壊れる。


「これは肉じゃない、動物の死骸の煮込みだ」

「は?肉ってのはどれも死骸だろ?」


真顔でよく分からない事を言い始めたRにニシは若干困惑しているようでもあった。


Rの故郷では、遠征軍は地上任務完了後に中隊や大隊でバーベキューパーティーをするのが定番なのだ。

今は無き友と合成肉に文句を言い合いながら食べた事も無い本物の肉の旨さについて延々議論したものだ。

その夢を、憧れを、決してこの様な粗末な物に打ち砕かれてはならない。


Rは脳内でネズミ肉を静かに肉というカテゴリーから削除した。


最後に、飲み物だ。

砕いたパンを入れて作ったという酒もどき、これも酷い物だった。

なんと、茶色いこの物体は微妙に炭酸風味なのだ。

恐らくは発酵とかそういった反応によるものなのだろう。


まるで気のほぼ抜けかけたコーラの様な僅かながら刺激を感じ程度の物ではあるが、炭酸の刺激が存在し、だが味はそれには遠く及ばない。

まるで、砂糖を加えた麦茶の様な味だ。

炭酸の含まれた甘さの混じるぬるい麦茶、旨い筈がない。


可能な限り譲歩するとして、古代人ならば喜んだかもしれないという部類に属するとしか言えない。

彼らの中でも評判は悪いのかこれは泥水と言われるらしい。

アルコール度数が低いのか全く酔いが来ないのは幸いではあった。


いずれにしろこんなものは食事ではない、食べられる虚無だ。


果たして、自分の胃腸はこれらの異物に耐えられるのだろうか。

栄養補給の為に選んだ行為だが、失敗だったかもしれない。

これで腹を下しでもしたら笑い話にもならない。

戦闘中に催して戦いながら垂れ流す程度ならばまだ良い、いや良くないがまだ許容出来る。


これで赤痢などの慢性的な病気を患えばそれこそ命に関わるのだ。

下痢による脱水や食中毒による生命への危機など、本当に笑い話で済まないリスクは実際にあるのだ。


旅行者が旅先で慣れない水を飲んで腹を壊す、などという話が故郷の図書館に収蔵された旅行ガイドやそういった類の書物に書いてあったというのをRは思い出していた。


実際、何を血迷ったか研究用に地上から持ち帰った旧時代の保存食品を食べて病気になったアホなどの例も過去に存在していたりする。


だが、現状手持ちの水と食料が無い以上は選択肢は無い。

この危機を脱したらまともな糧食を常に得られるように心掛けねばならない。

記録機材の事と言い、これからの行動を起こす為の最低限の物資や装備のハードルは高そうだ。

服や運搬用具も新調しないといけないだろう。


「ピザが喰いたい…。いや、戦闘糧食で良い、まともな物が喰いたい…」

「ピザってなんだ?食えるのか?」


地上の食事がここまで酷い物だとはさすがのRも思わなかった。

ゼリー型や固形ブロック型の栄養価は高いが味のほぼ無い戦時標準食が市民兵への給料代わりに配布される事、そして彼らがそれに文句を言わない事の理由が全てここに集約されていたのだという事実にただただ打ちひしがれていた。


まさか味や匂いが無い方がマシな食事が存在するとは、そんな事は知りたくなかった。

この様な状況では不味くない飯が食えればそれだけで幸せと言えてしまうかもしれない。

或いはこれを他人に転売するだけで相当な利益を上げられるかもしれない。


もし、都市などの彼ら地上人のまともな文明圏でも食事の水準がこれと大して変わらなかった場合、自分は戦いや病気で死ぬ前に餓死してしまうだろう。

などという思いが徐々に強くなってくるのをRは抑えられずにいた。


もう良い、この話題は一回忘れよう。

事前の予定通りに情報収集だ、気分を変えねばこの口内の地獄からも逃れられないだろう。


「ところでさ、なんで君はずっとターバン被ってるんだ?流石に食事する時は外した方が楽なんじゃないかな?」


話題を変えるべく身を任せていた机から起き上がり、Rは対面に座るニシに話しかけた。


「それ聞くかあんた?察して貰えると思ったんだけどな…」


それに対するニシの返答はこれまでの彼に比べると幾分か感情の温度が下がった様に感じられた。

何かしらの地雷を踏んだのかもしれない。

そこで顔に何かしらの病気や怪我の跡があるのかもしれないとRは思い至り、自分の失態を犯した事に気が付いた。


「気を悪くしたならばすまない、単純に好奇心が湧いただけなんだ。不快ならば忘れてくれ」


関係が拗れるのはよろしくないと判断し、即座に謝罪の弁を述べる。

今は少しでも周辺状況の把握に努めなければならない、相手が乗り気で応じてくれている好機を無意味に失うのは痛手だ。


だが、そんなRの思惑とは裏腹に、ニシはすぐにまたいつもの挑戦的な口調に戻りRに告げた。


「いいさ、見たいなら見せてやるよ。だけどビビるなよ?すげぇぞ俺の顔は」


どこか悪意のある口調と共にニシはターバンをほどいていく。


そして、ターバンの下から出てきた顔は10代後半程度あろうか、その年相応の少年の顔だった。

少なくとも左半分は。


顔の右側の皮膚はまるで樹皮の様に茶色く、分厚く、そして乾いていた。

それだけでなく、その樹皮からは細い枝が生え、緑色の葉まで生えている。

明らかに異常だ。


そしてもう一つ、目につく特徴があった。

ニシの右目には一つの眼球に二個の瞳が並んで存在していた。


「見ての通り俺の右目は多眼病だ、まあこっちはまだマシさ。ちょいと視界が二重に歪んで見えるぐらいだからな」


本気なのか冗談なのか分からない言葉にRは言葉に詰まった。

いや、何か下手な事を言って機嫌を悪くされる事を恐れたのだ。


「問題は肌の方だ。樹木病って奴でな、こいつはまだ顔の半分だけだが、いずれは全身に回って俺を殺すだろうな」


そんなRの気持ちを知ってか知らずか、ニシは言葉を続けた。

口ぶりからして彼はどうやら自分がそれほど長くは生きられないと悟っているようだ。


「完全に変わっちまってはいるが、まだ綺麗に変異して理性も残ってるプーミの野郎はまだ幸福なのさ、俺みたいにひでぇ症状の奴に半端に憑かれちまうよりはな」

「憑かれる?どういう意味だい?」


聞きなれない言葉にRの好奇心を掻き立てた。

自分の関わってきた市民兵からは聞いた事が無い単語だったからだ。


「悪魔憑きさ」


ニシは自嘲する様に言葉を続ける。


「人のあるべき姿からかけ離れた性質を持ってたり、そういう体質になった奴はこう言われるのさ、悪魔に憑かれたってな」


それはつまるところ、肉体の変異が起きているニシ本人に向けられているのだろう。

Rの見立てではニシは中度汚染者、それも重度化の一歩手前の状況だ。


これ以上進行すれば命か自我のどちらかは失う事がほぼ確定している状況だ。

どこか気だるげな語りは、本人も理解しているからこそだろう。


ニシの口ぶりからして汚染による変異にも種類があるようだ。

ニシの症状は見慣れた奇形ミュータントへの変異に見える。

ならばプーミという獣人に起きている変異は何なのか、変異はしているが奇形にしては綺麗過ぎ、理性も失っていない。

自分にはそういった事を調べる能力は無いが、興味深いのは事実だ。


そしてもう一つ、彼らがエーテル汚染についての詳しい知識を喪失しているという事がその語りから察する事が出来た。

市民兵にはそういった事を口走る者はいなかった事から、実戦投入前の教育隊での啓蒙が上手くいっているのかもしれない。

前線勤務の自分達にそういった情報が共有されていないのは不要と判断された為だろうか。


「俺はこれでも昔は安全な都市国家に住んでたんだ。それなりに裕福な家庭だったんだが、見た目がこうなったんで追い出された」


国籍不明の―――そもそもかつて存在した国家群などもはや残っていないが―――ゴミ漁り(スカベンジャー)達の中で唯一英語を使えた理由はこの出自故だったのだろう、となればやはり友好的に振る舞うべきだろう。

会話を進める毎にRの知りたい事が増えていく。


都市国家、噂には上る事は多々あったが、少なくともARK5の勢力圏にはそう呼べる規模の地上人の居住地は存在しなかった。


現在ではこちらで用意した居住区で一元管理しているが、地上進出初期から現在までの探索においてARK5の兵士達が遭遇したのはせいぜいが部族単位の村や集落と呼べる程度のいつ滅ぼされてもおかしくない、拠点とすら呼べない場所ばかりであった。

だからこそ、彼らはこちらの兵士供出の要求に応じる見返りにARK5に恭順を示して庇護を求めているのだ。


それを除くと定期的に流入してくる流浪の民―――或いは難民の群れと呼んでも良いかもしれない―――なども一族の財産や生命の保証と引き換えに兵士として参加する事も多い。


しかし、考えてみればこの状況で大量の難民など発生する原因など早々ある筈が無いのだ。

彼らの大半はそういった都市国家や勢力圏から何らかの追い出された行き場のない者達なのではないだろうか。


そうなるとARK5は運用している地上人兵士の素性調査すら上手くいっていない事になる、ゆゆしき事態だ。

外に出たからこそ見えて来る物もあるのだな、とRは改めて痛感した。


「おい、おっさん。話聞いてるか?」

「ああ、すまない。ちょっと驚いてしまってね。悪魔憑きについてもっと教えてくれると助かるね」

「俺らにとっては常識でも情報として売れるならタダじゃ無いんだぜ?また弾で払ってもらおうか?」

「この調子で持ってかれるとここから脱出する前に丸腰なってしまうよ、勘弁してくれ」



逐次、手に入れた情報を整理しそこから推測を重ねる作業をしていた結果としてニシに話を聞き流されていると思われてしまったようだ。

素直に謝罪し、話を続けて貰う様に頼み込む。


「はは、それじゃ俺も困る。まあ、あんたはお上りのぼっちゃんっぽいしな。じゃあ続けるぜ?」

「頼むよ」

「うし。さて、どっからだったかな?血の純血の話だったか」


気を良くしたニシは再び説明を続ける。


「この世には二種類の血が有る。清浄な純血たる紫の血と、悪魔に侵された証である青い血だ」

「赤は無いのかい?」

「赤?赤い血なんて聞いた事無いぞ?」


真っ先に浮かび上がった疑問をRは口にし、ニシはそれを否定した。


「そうか、すまないね。続けてくれ」

「……?まあいいや」


これで確認は済んだ。

Rは確信した。

彼らはかつての人類の知識を失っている、と。


「悪魔に憑かれて魂が汚れると体の表面と血液に変化が生じる。俺の顔みたいにな」


そして、正しい知識を失った代わりに憶測と迷信を元にこうした教えをでっち上げたのだろう。

確信が深まっていく。


「血が青くなったらもう完全に終わりだ。悪魔による血の穢れが起きたとして『人の世』から排斥される」


ニシの講釈をここまで聞き続けてきたRはこの様な考えがまかり通る地上世界の文明の水準に徐々に不安を覚え始めていた。


悪魔だの魂や血の穢れだの、そこからは薄っすらとではあるが宗教的な匂いが感じ取れる。

下手すると中世暗黒時代の様な世界観が外の世界では広がっているのではないかという疑念と不安が生まれ始めていた。


「清浄なる紫の血を悪魔に青く汚された者はもう人に非ずって奴さ」

「君はどこまで信じてるんだい?その話の真偽をさ」

「さぁな、まあ大体は合ってるんじゃねぇの?少なくともこの糞ったれのせいで俺の命が短いって事だけは確かだぜ」


ニシはRの問いに樹皮の様に固くなった右頬を掻きながら答える。

そこからはおよそ皮膚らしい物とは思えぬカリカリという音が響く。


「なるほど、興味深い話だね。ありがとう」


そう答えて会話を終えたRはその説明の数々に少なからず衝撃を受けざるをえなかった。

それらの症状は悪魔だとかそんなオカルトとは関係が無い。

純然としたエーテルというエキゾチック物質による人体と遺伝子への汚染の結果発生する奇形化の症状に他ならないからだ。

これは何もARKの間だけで独占されてきた知識ではない。

世界崩壊前ならば国家機関だけでなく、広く一般の民間人にも広く周知されていた事実だったからだ。


むしろ、こうした敵文明(ヴィジター)による環境改変によってもたらされる生物種の大量虐殺と遺伝子汚染を糾弾し戦意を高揚させる為のプロパガンダに広く用いていたほどだ。


何よりも驚いたのは彼らは既に人の本来の血が赤であるという基本的な事実すらも忘れてしまっている事だった。

どのような経緯を経て今の状況になったのか、もしそれを知る機会があったならば調べてみるのも悪くないかもしれない。

当然、自分自身の体と理性のタイムリミット次第だが。


「さて、辛気臭い話題はここまでにしようぜ。今度はお前の話をしてくれよ」

「そうだね、何から知りたい?」

「どっからきたんだ?」

「遠い所だよ。そう、ずっと遠い所から来たんだ」


ここまでRの問いに答え続けてきたニシが今度はRにアレコレと質問を投げかけてくる。

親睦を深めつつ、情報を収集して次に生かす為にRはニシとの会話をそれからも暫く続けてる事にした。

二度目の夜はまだまだ続きそうだ。


地上世界が汚染されつくして百年近くが経過しているので地上の人々は紫色の血が普通だという常識が既にまかり通っています。

内臓とかの色はあんまり変化してません。というかエーテルが混じってる以外は実質元の血液のままです。

エーテルは濃度が濃くなると基本青い色になり、赤い血と混じって紫になってるわけですね。

つまり青に近い程化け物になるというわけです。

青い血は殆どの場合致命的な変異を引き起こしますが、中には人の原型を保ったまま青い血を持つ者もいるかもしれないですね。

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