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ブルーブラッド  作者: 人間性限界mohikan
一章『流されるもの』
15/99

六話、トンネルの先

実は二週間前にほぼ出来てたんだけど、校正する時間と投稿する時間が取れなくて投稿遅くなってしまいました。

すまぬ…すまぬ…

古い時代の誰かが書いた言葉にこういう物がある。

曰く、『明けない夜は無い』だとか『終わりの無いトンネルは無い』と。

だが、明けた夜の先に、或いはトンネルを抜けた先に、輝く朝日が待っているなどと誰が保証してくれるというのだろうか。


そう、地下より続く階段から這い出した一人の若い男、R1039は眼前に広がる黄色く濁った曇り空と荒廃した市街地を目にしながらそんな取り留めの無い考えを一瞬ながら抱いた。


どうやら、地下から出るまでの間に天候が変化したようだ。

地上の天気は変化が激しい。

戦前もその傾向であったというが、その変化はより顕著になったと言われている。

朝晴れていたのが昼には嵐になり、夕方にはまた止んでいるなど日常茶飯事だ。

安定した信じられるものなどこの地上には数えるほどしかない。


「急がないと、日が暮れ始めたら夜がすぐに来てしまう」


もうあんな夜の大運動会は御免だとばかりにRは背負っていたアサルトライフルを手に取り、安全装置を解除するとゆっくりとかつて栄えていた都市の残骸の中を歩み始めた。


ここからはアノマリーと通常のミュータントの他に飛行種のミュータントも警戒せねばならない。

音によるミュータントや人間の誘引を考慮して使用は極力控えるつもりだが、襲われてから準備していては間に合わない。


「早く、どこか落ち着ける場所を見つけないとなぁ…」


そうRはため息交じりでぼやく。

まだ一日が始まって半分が過ぎた程度だが、Rは既に疲弊していた。


帰還不能になったと悟った際に確実に死ぬ為に行った自爆は無為に終わり、目が覚めた時にはこの地上に一人取り残された。

昨夜はミュータントの集団への対応で碌に眠る事も出来ず、先ほどまでは気を抜けば命を奪ってくる生きた地雷原の様な残留思念漂うアノマリー地帯を突き進んでいた。

悪夢の様な世界で最後の最後で亡き友に救われ、別れを交わす事が出来た。


そうしてようやく出てきた地上ではあるが、ここはゴールなどではない。

むしろスタート地点なのだ、この場に至るまでに本来の自身の実力ならば最低でも3回は死んでいただろう。


ここに今、自分が立っている事、それこそが異常なのだ。


どうやら今のところ運だけは良いらしい、まるで悪意ある存在に何か良からぬ事でもされている様な出来過ぎたぐらいの運の良さだ。


だからこそ、早く安全な場所と物資を確保して現状の窮乏から脱出しなければならない。

こういう幸運の後にはしっぺ返しが来るというのがジンクスという奴だからだ。

少なくとも、もう通常分の幸運のストックは切れているだろう。

ここから先はは自分の実力と意地だけが全てを左右する。


「まあ、少なくとも暗くないだけ地上の方がマシかね…」


首から下げた戦死した友のドッグタグを左手で握りしめながらRはもう一度、雲に覆われた黄色く濁った空を仰ぎ見る。


ここにまだこうして生きていられるのは彼のおかげだ。

最早残留思念すらも無くなり、完全にこの世から消えたであろう友の安息を願う。

どうか、地獄なり天国なりという場所に囚われて永遠に意識が続くなどという拷問を受ける事無く、死という安息の中で静かに平穏に無へと還らん事を、と。


そして祈りを終えると次に荒廃した過去の残骸とも言うべき廃墟がひしめく大地に視線を降ろす。


ここが、これから自分の生きていく場所だ。

ここが、自分の死にゆく場所だ。

例え、それが正気を失うか命を失うかの違いがある程度の僅かな短い期間であろうとだ。


そう、自身の心に、瞳に、脳裏に強く焼き付ける。


「よし、行くか」


そうしてRは銃を構えて歩き出した。


砕けたアスファルトの大地を踏みしめ、乾いた清浄とは言い難い埃の匂いの混じった空気を肺一杯に満たし、吐き出す。

故郷( シェルター)のフィルターで浄化された無臭の清潔な空気に比べると様々な匂いの混じった不快感を伴う空気を、しかし他に方法も無いので甘んじて受け入れる。


「いつか生身で外の世界の空を見て、呼吸してみたいと思ってたけど、とても良い物とは言えないね。こりゃ」


Rは期せずして叶った自身の願いがとても満足出来るとは言い難い事に落胆していた。


―――



「畜生ッ・・・!いきなりこれかよ…!」


大雨が降りしきる中、Rが廃墟の一つに身を寄せていた。

雨が降る事は想定出来ていた。

それ自体には問題は無かった。

だが、今回降ってきた雨にはある問題が含まれていたのだ。

その証拠として、ミュータントに切り裂かれつつも未だに防護服としての機能をぎりぎり維持しているインナーからは嫌な匂いを発する湯気が立ち上り、水滴を浴びたRの腕や顔の所々が赤く腫れている。


「よりによってしょっぱなから酸の雨かよッ…!」



酸の雨、それは世界がおかしくなってからは特に珍しくも無い気象現象だった。

ちなみにこの酸の雨は公害などによる自然環境の悪化による酸性雨とは性質が違う、もっと悪質な存在だ。

空から降ってきた雨が空中においても不規則に発生するアノマリー、その中の酸性アノマリーと称される分類の異常空間内を通り過ぎる事で水滴にアノマリーと同じ酸が混入して地上に降り注ぐという今の世界では割とよく遭遇する、そして危険な天候だ。


とはいっても、他に比べればという割合でそう頻繁に遭遇する物でも無かった。

不運には不運が重なるとはよく言ったものだ。


最初に降ってきた数粒の雨粒が砕けたコンクリートの地面にぶつかった途端に白い煙を出した光景を見た瞬間に雨宿りを試みたが既に遅く、いくらかは浴びる事になってしまった。


今や外の野ざらしにされた石壁や地面は、雨に打たれてインナーから立ち上っているのと同じ嫌な刺激臭のする薄い白い煙を上げている。

それを見てRは煙を吸い込むのはまずいとばかりに廃墟の奥へと後ずさる。


あれを吸い込んで肺をやられた市民兵をRは何人か見ていた。


「銃は無事か…?」


切迫した声でRは懐に抱きかかえていたアサルトライフルを取り出した。


雨が降ってきた時に咄嗟に纏っていたボロの中にしまって庇いはしたが、これが駄目になっていれば最早生存の可能性は0になったと言っても過言ではなくなってしまう。

何と言っても現状でまともに使える装備がほぼこれだけなのだ。

機動歩兵は武装の殆どを生命維持装置の役割をも担う強化外骨格とその強化装備である搭乗式二足歩行型火力支援用重強化外骨格、通称マトリョーシカに頼っている。


そのどちらも喪失している上にアサルトライフルとセットで運用される筈のプラズマピストルもまた戦闘によって失われている。


ライフルの喪失はミュータントに対抗する為の火力を完全に失うという事だ。

外骨格に装備されたモーターブレードならばともかく、人が持てる程度の小型ナイフなどで勝てる類のミュータントは群れでの狩りを基本とした小物かそもそも好戦的では無い種程度なのだ。


遠征軍の装備ならばライフルにも対アノマリー対策が施されているが、ニコイチしてでっち上げたこの銃には当然それらの処置がされていない守備隊のライフルの部品も使われている。


だが、幸いにも外見に異常は見られない。

確証は無いが内部も恐らく無事であり、正常に動作するだろう。

いつどこで何が有るか分からない以上は、ここで確認の為に分解はしたくない。


「ああ、強化外骨格があればなぁ…」


Rは立ったまま廃墟の壁にもたれかかりながら、かつて保有していた装備を懐かしむように口にする。

アレさえ有ればそんな危険地帯だろうと、強大なミュータントが相手であろうと、文字通り最後の瞬間まで立ち向かう事が出来た。


この雨も装甲に施された対アノマリー防御処理によって影響を受けず、迅速に突破出来ただろう。


「っ…!畜生、水が無いと洗い落とす事も出来やしない…」


体を苛む酸による炎症にRは舌打ちをする。

本物のアノマリーに比べれば濃度は遥かに低い物の、適切な処置をしなければ確実に寿命を減らす厄介な存在が酸という物質だ。

種類によっては洗い流したり中和しない限り長期に渡って人体を侵すものもある。

場合によっては治療の為に皮膚を削がねばならなくなる。


体が変異して再生力が高まっているとはいえ、これを放置するのは危険だ。

最低でも水で患部を洗う程度の応急処置は施しておきたい。


だが、洗い流そうにも外の酸の雨によって周囲の水は全て駄目になってしまった。

言うまでもなく、その辺の生水を使う事自体がリスクの塊という事も忘れてはいけない。


「あいつに行ける所までは行ってみるって啖呵切ったんだ、こんな所で終わりたく無いんだけどな…」


そう、ぼやいてみるが雨は勢いを増すばかりで当面止みそうには無い。

最悪の場合はここで夜を越す事になるかもしれない。

たった一日経験しただけで既に満身創痍のあの夜をだ。


「もっと奥に行くか、ここじゃ雨漏りしそうで怖いし」


雨の際に咄嗟に入り込んだ廃墟は大きな駅の跡地には割とよく見る大型の商店の様だった。

とはいえ、三階より上は崩壊して完全に消え去っていたが。


「物資は…まあ、期待は出来ないけど何もしないよりはマシか」


籠城できる場所があれば、そして万が一にも体を洗える清潔な水があれば儲けものだ。

そう思いながら男は百貨店の奥へと入って行った。



―――



「うん、やっぱ何もないな。知ってたよ、畜生」


埃をかぶった雑誌やごみを蹴とばしながらRは吐き捨てる様に呟いた。


一階と二階の複数のエリアを歩き回り、結果として分かった事と言えば、この百貨店も既に略奪が行われ、めぼしい物資は残ってはいないという事だけだった。


それも最近ではなく、遥か昔の事だろう。


何しろ、目についた棚を片っ端から開け、引き出しという引き出しを引っ張り出し、籠という籠をひっくり返しても缶詰の一個すらも出て気はしないという状況だ。


そもそも、先客達にひっくり返されていない棚や籠というのが少なかったのだが。


各商品コーナーを閉鎖する防犯や防火用のシャッターの類は尽く破られており、破損しているか鍵が駄目になっていて籠城にも使えそうにもない。


残っている物と言えば空になった商品棚やショーケース、床に散乱した木材やコンクリートの破片といったゴミ、中身が空になった缶詰や菓子の袋、そしてかつて人であったと思しき大小形の崩れた骨の残骸と不造作に散らかされた衣服だったボロ布、そして地面の染みに変わり果てた体液の残滓だけだ。


これまでに通ってきた地下鉄の状況と合わせて考えるに、どうやらこの近辺は大戦終結直後に大規模な暴動と略奪が横行したと推測で来た。


文明が崩壊してから既に100年以上が経っている、物資など最初から期待する方がおかしいのかもしれない。

今でこそ誰もいないこの地にも、かつては地上人達のコロニーが有ったのかもしれないのだから。

めぼしい資源はもうこの廃墟には残っていないのかもしれない。


ならば、物資が残っている方が逆におかしい。


仮に物資があれば、ブービートラップや何かしら物資を置いていかねばならなかった『トラブル』に警戒せねばならないからだ。


そう判断し半ば諦めつつも探索を続けようとしている時だった。

背後で僅かに何かが動く物音の様な物をRの耳が聞き取った。


「誰だ!」


素早く振り返ると同時に片膝をついた状態でしゃがみ込み、銃を構えて膝撃ちの体勢を取って周囲を見渡す。

視界内には閑散とした雑貨品コーナーの空になった棚とショーケースが存在しているだけだ。

建物の壁や天井は所々が壊れており、外からの雨水と共に明かりが入ってきているものの、照明が既に死んでいる室内は薄暗く、雨音によって小さい音は消えてしまいそうだ。

気のせいだったという可能性もある。


だが、Rは銃を構えたまま立ち上がるとゆっくりと警戒しながら前進を開始する。

昨夜の小人の様な小型種がこちらを尾行している可能性も考えねばならない。

前回遭遇した種は夜行性だったが、別にそれは昼にミュータントが出てこないという事を意味などしない。

基本的に野生生物と同じで時間帯ごとに活動時間に入った種が地上や地下を徘徊しているのだ。


先手を取られては確実に命を獲られる、最悪を想定し一切の慢心と出し惜しみを捨てて事に当たらねば生き残れない。


酸の炎症の痛みと緊張からか、苛立ちと共に自然と心臓の鼓動が早まり呼吸が荒くなっていくのをどうにか理性で抑え込みRは叫ぶ。


「人ならば武器を置いて出てこい!そうすれば撃たないと約束する!」



やはり返答は無い。

あくまで隠れているつもりなのか、そもそも人ではないのか。

気のせいであるという可能性は既にRの中にはなかった。

そう断じて良いのははこれから周囲をしらみつぶしにしてからだ。


「5秒以内に出てこなければ手榴弾を使う!これは脅しではない!」


Rはそう言いながら右手で銃を保持しつつ腰の収納ボックスに手を伸ばす。

そして、おおよそ五秒ほど無言で待ち、反応が無い事を確認すると着火した棒をおおよそ見当を付けていた棚の裏に投げ込んだ。



「ウワァッ!」


果たして、その火のついた棒に驚きの声を上げると共に物陰から何かが飛び出てきた。

想定通り小柄な、だがミュータントではない人間と思しき者がフレアを手榴弾或いはダイナマイトの類と誤認してこちらに身をさらす形で転がり出てきたのだ。


流石にここで虎の子のプラズマグレネードを使う気にはRはなれなかった。

それ故に着火したフレアを手榴弾と偽って投擲したのだった。

そして、その目論見はおおよそ成功した。


「子供か」


小柄な体格にボロボロになった茶色く変色したフード付きの小汚い外套を羽織った子供と思しき存在を確認し、Rはそれだけを短く言うと銃を子供にしっかりと合わせてゆっくりと歩みよる。


だが、近寄り過ぎる事はよしとせず、銃に相手の手が届かぬ様に一定の距離を保つ。


そこに何かしらの感情や油断などはありはしない、当然だ。

こんな危険な廃墟に子供がいる事がそもそもおかしいのだから。


そして、やはりと言うべきか。

その子供は右手にナイフを握りしめていた。



「武器を置いて跪け!両手は頭の後ろだ!抵抗する場合は発砲する!」

「ア…?エ…?」


Rが真剣な口調で警告を発する中、その子供はどこかきょとんとした表情に言葉を聞き流している。

それはまるで男の言葉を理解していないようだった。

声は子供特有の高い音程で男か女かは判然としない。


「跪いて武器を置け!死にたいのか!?」

「英語…?私英語喋レナイ」


Rの警告に子供が返してきたのは片言の英語だった。

要するには男の警告に対してI can't speak Englishという定型文を返してきたのだ。



「……武器を置け、地面に伏せろ、動くな」


それを理解したRはゆっくりと短い分かりやすい単語を選んでジェスチャーを交えて相手に指示を出す。

だが、左手で行動を促す一方で、右手に握ったアサルトライフルの銃口は決して外す事は無かった。


演技である可能性をRは捨てきれなかったからだ。


「腕は頭の上に置け、動くなよ」

「オ願イ撃タナイデ」


単語を理解したのか地面に座り込んだ子供が捨てたナイフを遠くへと蹴り飛ばし、膝をついた子供に銃口を向けつつ、フードを被った頭を左手で押さえ付けてそのまま地面にうつ伏せに押し付ける。


「動かなければ撃たない、他に武器は持ってるか?」

「英語喋レナイ、撃タナイデ」

「くそっ…!」


日用会話未満の発音も怪しい片言の単語と短文で返答を行ってくる相手と上手く意思疎通出来ない事に苛立ちつつも子供を跪かせたRはそのまま武装解除を行うために外套を脱がそうとフードに手をかけて頭から脱がし、そこで驚いたように数歩後退った。


「お前、重度汚染者か!」

「…ッ!待ッテ!オ願イ!」


構え直した銃口を子供に向けつつRは怒鳴り、危機を悟った子供は膝立ちの状態で起き上がると手を頭で組んだまま必死に片言で命乞いを行う。

その子供の顔は人のそれでは無かった。


灰色の瞳を持つ目を持ち、顔は茶色い毛に覆われ、太い鼻は突き出しており、その輪郭は人というよりは犬に近い様にも見える。

或いは人間サイズの熊のぬいぐるみの様に見えない事も無い。


よくよく見れば、本来耳のあるはずの場所にある物も毛に覆われた犬の様な垂れた大きな耳になっており、手足もまた同様に長く伸びた茶色い毛に覆われている。


口には鋭い牙が並び、手にもまた人よりも凶悪そうな鋭い爪が生えている。

その姿は人と犬を合わせて割った様な獣人とも言うべき物であった。


「動くなと言っている!」

「ガッ!?」


縋りつこうと立ち上がろうとした子供に対してRは機先を制して接近し、銃床で殴って地面に倒れさせる。

そしてそのまま仰向けに倒れた子供の胸倉を掴んで引き起こし、その眼前で叫ぶ。


「答えろ!なぜそこまで重度の汚染が進行して会話が出来る!」


重度汚染者、汚染が最終段階まで進行した結果として人からミュータントに変異した存在を指すその言葉が子供に当てはまる言葉だった。


汚染は進行する毎に人を異なった存在に変貌させていく。


猛毒の瘴気と言っても良いエーテルを含んだ大気に暴露し肉体の変異の開始する初期汚染、これは大気中から体内に入り込んだエーテルによって肉体が汚染され、大半の耐性を持たない人間はこの時点で拒絶反応を起こして死亡する事になる。


このエーテルという物質の性質によって、敵文明『ヴィジター』との初期遭遇期において敵が前線において大規模に化学兵器を使用していると誤認されたという記録も残されている。


拒絶反応に耐えて肉体がエーテルに順応し、ある程度時間が経過した状態を軽度汚染と呼称している。

Rが接してきた地上人は全てこの状態にある者達だ。

この時点では血液が混じり込んだエーテルの影響によって紫色に変色する以外には見た目に変化はなく、ほぼ人間と同じ状態を維持している。

ここから中度汚染、重度汚染に至るまでは個人差が激しい。



汚染されてから寿命が来るまで軽度汚染のままでいる者もいれば、汚染されてから数日の間に急速に重度汚染まで進行する者もいる。

その差については研究を続けている現在においても原因が解明されてはいない。

強いて言うならば体質の問題、というべきなのだろうか。


その中で自分は既に中度汚染に突入しているとRは判断していた。

それは自分は変異が早い方の分類であるという事も意味していた。


汚染が中度に移行すると徐々に汚染された肉体が本来人にあるべき姿や有り方から逸脱し始める。

肉体の身体能力が強化され傷の再生速度が早くなったり寿命が延びる、或いは逆に肉体が脆くなり短命になる事もある。


人体の奇形化が促進され、個体差によって様々な変化がもたらされる。

骨格が変化し、四つ足で歩き回る人だった何かに変貌する者もいる。

筋肉が肥大化した頑丈な肉体になる者もいれば、体組織が劣化して脆弱な肉体になる者もいる。

耳が尖るだけで済む者もいれば、顔が豚面に変化し、体の皮膚の色が緑や青色に変色したりする者もいる。

人にはない尻尾や角が生えてくる事もあれば、鱗が生え牙が鋭くなる者もいたりする。


もたらされるのは人類の後天的な、そして永続的な奇形化だ。

往々にしてそれら汚染者は重度化するに従って知能と理性を喪失していくとされていた。


重度になると既に大半の者は変異の進行で人の様で人でない何かへと変わっている事になる。

今目の前にいる子供の様に人と犬の中間の様な姿になる者もいれば、これまでに遭遇したミュータント達の様に完全に人から逸脱した人もどきになる者もいる。


教本によれば重度まで進行した者は肉体が変異しきって心身共に完全にミュータントと化す事によって理性を失い、手当たり次第に周囲の生物を襲う危険な存在に変化するとされている。


だからこそ、目に見えて人から逸脱した見た目の者、又はそういった変異が発生し者は任務中に発見した者であろうと、味方の市民兵であろうと、撃ち殺す様に繰り返し教え込まれ、そして実行してきた。


それが戦場であろうと市民兵やその家族が生活する居住区であろうと、中度・重度汚染者が出た時点でARK5の兵士達は被害が発生する前にそういった個体を処理をしてきた。


そうする以外に方法は無いと思われていたからだ。

それが子供や赤子であろうとだ。


基本的に汚染された地上で生を受けた者はその時点で軽度汚染者と同じ状態で生まれてくる事になる。

これは当然の話だ。

エーテルに汚染された親から汚染された環境に生み出されるのだから、その子が汚染されていない訳がない。


まれに初期から重度の汚染状態で生まれて来る者も存在していたが、Rの所属するARK5の勢力圏内においてそれは死を意味する。


良くてその場での殺処分、悪いと研究サンプルとして拠点たるホームに持ち帰られてサンプルとして解剖される未来が待っている。


軽度汚染者であっても危険視する故郷の同胞達からすれば重度汚染者など、赤子であろうと脅威以外の何物でも無いからだ。


自身としては研究が進めば軽度汚染者程度ならば救えるのではないかとも思っていたが、仮にそうだとしても最早自分がその光景を見る事は出来ないだろう。


こういった問題があるが故にARK5の構成員達はかつての同胞であった、そして軽度の汚染で踏みとどまっている地上人達すらもミュータントとして扱い、協力者であっても汚染根絶後、つまり最終的には絶滅させねばならないという結論を導き出したのだ。



だが、現実として今目の前にある者は一体何なのだろうか、重度の変異を起こして尚、目の前の子供は理性を保っているようであった。


Rにとって、それは新しい事実との遭遇の瞬間であった。

恐らく、あのまま兵士として生きていれば出会う事が無かったであろう。

出会ったとしてもこうして会話をする前にマトリョーシカのプラズマ砲で焼き払っていた事は想像に難くない。


この人としての自我と理性を保った異形という存在が自分、いや人類にとって福音となるのか、或いは更なる絶望への入り口なのか、Rには判断が尽きかねた。

それ以前に本来ならば、それらを判断する事などしない立場だ。


所詮は軍の下士官、それもまだ兵卒に近い存在だ。

自分の役割、つまり持ちうる知識と経験は与えられた任務をこなす為に使う物であって、大局を判断するための物ではない。


考え付いた事が有るとすれば、それは目の前の脅威を鎮圧する事、そして可能ならばこの特異なサンプルから情報を収拾し、検証し、その記録を同胞達に伝えるという事だけだった。

それが兵士であった時ならば行いうる最善の選択肢だったからだ。

その結果を脅威と捉えるか好機と捉えるかは上層部の仕事だ。


距離の問題上、基地に帰る事は困難だが遠征軍の長距離哨戒部隊と遭遇出来る可能性は残っている。

もしかすれば、この地の残留物を全て焼却する為の特務部隊が送り込まれてくる可能性もある。


どうにか身分を証明して彼らに自身が得た成果を引き渡す。

その後に汚染者としてかつての同僚達に処刑されたとしても悔いは無い。

この新しい情報が同胞達の前進を助け、人類の選択肢が増やしてくれるならば、既に半ば死んでいる様な命の最後の使い道としては有用な部類だろう。

例え、この事実を上層部が知った上で握りつぶしている等という陰謀論などではよくある話が有ろうとと知った事ではない。

徒労に終わろうと義務を果たして死ぬならば兵士としては上等な死に方だからだ。


既にRには死ぬ覚悟が出来ている。

元より、あとどれ程の間、正気のまま生きていられるかも分からない身だ。

だが、不本意ながらも生き残ってしまったからには、何かしらの成果を出さねば先に死んだ戦友達に申し訳が立たないという義務感もまた、強く持っていた。


だから、意義のある何かを最後にしたいという気持ちが強かった。


問題は、この事実に対する物的証拠をどうやって手に入れるかだ。

この子供を生きたまま引き摺って行くというのは現実的では無い。

このまま捕まえていても十中八九、隙を見せた時にこちらの寝首を掻いてくるだろう。

だが、殺してしまっては元も子もない。

このサンプルは生かしておいてこそ価値がある。


記録保存用のカメラやボイスレコーダーの類すらも喪失している事が致命的と言えた。

メモ書きや口頭だけでの説明など、ただの命乞いと受け取られても相手を責める事は出来ない。


「その姿になってどの程度の時間が経過している?」

「降参スル!撃タナイデ!」

「お前と同様の症状の仲間は他にもいるのか?答えろ!」


そこで、まずは情報収集に努めようとRは考え始めていた。

こういった症例はどの程度の頻度で発生するのか。

この個体だけの希有な例なのか、ある程度ありふれているのか。



ありふれているならば、この子供は解放するか始末して、次回に回す事が出来る。

どうにかして機材を準備をした上で別の個体を捕獲ないし任意による協力でもって確保して証拠となる資料作りを行う。


もしそうではないならば、どうにかこの子供と話を付けねばならない。


そうして銃を突き付けて言葉の通じない相手に実りの少ない問答を繰り返しているRの背後でカチャリ、と銃の撃鉄が起こされる音が響き渡った。


Rは廃墟の中でやけに大きく響いたその音が耳に入った瞬間、ほぼ反射的に目の前の子供に頭突きを食らわせて昏倒させ、胸倉を掴んだまま持ち上げて背後に振り返り、子供を即席の盾にして音の聞こえた方向に視線を移す。


自身もまた頭突きの痛みと振動で一瞬視界が歪むが、お構いなしだ。

耐久力と再生力が上がっている事は薄々理解できていた。

あらゆる意味で不利な現状ではそれを活かす事でしか優位に立てる部分は無い。


それはそれとして、子供とはいえそれなりの重量のある人間を抵抗抜きとはいえ、片手で持ち上げ素早く盾に出来た事にR自身も驚いていた。


傷の再生力に加え、聴覚が良くなっている様にも感じていたが、筋力も強化されているのかもしれない。

それはつまり、自身の肉体が人から逸脱していっているという証左でもあった。


あとどの程度自分が正気のままでいられるかは、正直な所分かりかねる所だ。


そんなRの目前には先の子供と同じ程度の年齢と思われる子供が三人、横一列に並んで武器を構えてこちらを伺っているのが見えた。


それぞれ、ターバンやフード付きのボロで顔を隠しているが、体格と声の雰囲気から彼らもまた子供であるという事が察せた。


幸か不幸か、互いに周囲には散乱したゴミや陳列棚がある程度で即座に身を隠せる安全な遮蔽物は存在していない。


数歩走れば空になった商品棚などがあるにはあるが、その程度の物では相手の視界を塞げても弾丸は防げない。

銃の弾丸を確実に防ぐには最低でも建物を支えている様な鉄筋の入ったコンクリートの柱が欲しい所だが、そちらは距離が有り過ぎた。


こちらに子供という盾が有るとはいえ、三人が一斉に撃ってくれば何発かは致命打を受ける事になるだろう。

そして向こうもこちらの反撃で全員被弾は免れない。


撃ち合えば双方ともに、相打ちだろう。


先制して撃ってこなかったのは仲間の子供に万が一にでも当たらないように配慮したためだろうか、子供達の持っている武装は粗末な物ばかりだった。


一人は薄暗さで判断がつかないが、おそらくはアサルトライフルと思しき形状の長銃を装備している。

だが、残りの二人は見た目からして粗末な短機関銃と思しきものを所持している。


その片割れが持っている銃は、あえて似た物を挙げるとすると大昔の大戦で使われてたステンガンに近い、と言えるだろうか。


最低限の機能を持たせられた円筒状の銃身にほぼ鉄の棒と呼んでも良い簡素な銃床、そして殆ど有ってない様なグリップと引き金という粗末な作りは近いというよりも本物を思わせる物だった。

おまけにマガジンも横付けとくればもはや本物と呼んで良い物かもしれない。

マガジンがフレームだけで保弾板の如く銃弾が露出している点はある意味で元祖以上に簡素化されているとも言えそうだ。


解せないのは、そんな博物館に収蔵されているであろう骨董品がこの時代に使われている事だが、実際に敵が持っているのだから仕方がない。


もう一人は更に劣悪な装備をしており、ライフルでも無ければ短機関銃でも無いリボルバー式の不格好な拳銃であった。

世が世ならば劣悪な安物の代名詞であったサタデーナイトスペシャルと揶揄されても仕方がない様に見えるデザインだ。


はっきり言って、どれも性能が良い物とは思えない。

しっかり狙ってもまっすぐ飛ぶか怪しく、下手に撃てば味方に当たると考えても仕方の無い装備にRには思えた。


そうして、短いにらみ合いの末、アサルトライフルらしき物を構えた子供がいら立った口調でRを怒鳴りたてた。


「プーミを離せ!」

「君は英語が話せるようだね」


銃を向け合った状況でありながら、三人組の真ん中に陣取るライフルを構える年長らしい子供と会話が成立する事にRは安堵の気持ちを覚えた。

なぜならば、今まで話していた異形の子供と違ってその人物が英語を使えたからだ。

言葉が通じるという事は、少なくとも交渉は可能という事だからだ。


「銃を降ろしてくれ、そうすればこの子供を解放する」

「お前ら外の人間の言う事なんか信じられるか!」

「よせ、全員死ぬ事になるぞ」


仲間を暴行され、興奮状態の子供達を相手にRは諭すように口調を柔らかくするように努めながら交渉を試みる。


ここで撃ち合えばRのアサルトライフルから放たれるであろう数度の三点バースト射撃が確実に三人の子供を撃ち抜き、一方で彼らの三丁の雑多な小火器の乱射は盾にした異形の子供ごとRを蜂の巣にするだろう。


待っているのは共倒れだけだ。

銃の最大の利点は引き金を引くだけで発射される自動化された火力投射手段によって本来勝負にならない子供と大人の対格差を容易に埋めてしまう事だ。

それが良い事であるか悪い事であるかは別として現実的な問題としてそうなっているのだ。


技量差すらも発生しない至近距離での撃ち合いは双方に悲劇的な結末しかもたらさないだろう。


「彼に暴行を加えた事を謝罪する。君達に敵対するつもりもない。手持ちの物資は多くないが、謝罪として幾らか融通しよう。そちらが良ければこちらとしては協力し合いたい」

「……そこまで俺達に譲歩する理由はなんだ?」

「命も銃弾も有限だ、こんなくだらない事で無駄に消費したくない。君たちもそうだろう?」

「……分かった」


説得が功をを奏したのか、ライフルを構えた年長と思しき子供は左右に立つ仲間にハンドサインらしき仕草をして武器を下げさせた。


「こっちは誠意を見せたんだ、あんたも武器を降ろしな」

「ああ、だがこの子供は最後に解放させて貰う。こちらが武器を収めたら君も収めるんだ。その後に解放する」

「分かった」


了承を得たRはアサルトライフルを肩に背負い、それを確認した年長の少年も安心した様に溜息を吐きながら構えていたライフルの銃口を下に降ろし、そのまま肩に背負い直した。


「無駄に血が流れなくて幸いだ」


Rはその光景を確認すると微笑みながら盾にしていた子供を解放して地面に降ろした。

そして崩れ落ちそうになる子供を支えてやり、せき込む背中を擦って落ち着かせると子供たちの側へと送り出した。


「あんた、何者なんだ?ゴミ漁り(スカベンジャー )か?」

「清潔な水を探してるって意味では有ってるかな。もしあるならば少し分けて欲しい」


顔に巻いたターバンの裏で怪訝な表情をしているであろう年長の子供に対してRはあくまでお互いに対等であるという風な口調で会話を試みる。


威圧してもまずいが、だからと言って下出に出るのもまずい。

市民兵との関わりの中である程度は地上の人間の精神性をRは理解していた。


彼らは全体的に猜疑心が強く、高圧的に接する者には面従腹背する性質がある一方で、自身よりも弱い者には容赦が無いという傾向がある。


少なくともRの関わった事のある市民軍に参加する者達はそういうのが主だった。


「タダじゃやれない。欲しいならあんたの物資と交換だ」

「分かった。だけどさっきも言ったけど大したものは持ってない」


その言葉に年長の少年は一瞬だけ無口になると、今度は呆れた様な口調でRに話しかけた。


「物資が無い?はっ!冗談きついぜおっさん。あんたはフレアも持ってるし、アサルトライフル( 人殺し専門の銃)も持ってるくせによ。そいつの弾でも良いぜ」

「銃弾だけ?それで君らに何のメリットがあるんだい?」

「はぁ?物々交換で一番信用できるのが銃弾ってのは常識だろ?」


Rはその言葉に自身が選択を誤った事を理解した。

基本的に地上の人間とは嗜好品や食料でやり取りをしていた為、他の物々交換のレートについては知識が無かったのだ。

彼らの間での有力な貨幣が無い事は理解していたが、どうやら普通は弾薬の方が使い勝手が良いらしい。

或いは価値が有ればなんでも良いのかもしれないが。


「ああ、そうか。いや、すまない。ちょっと精神汚染地帯を突破した来たんで頭がまだしっかりしてなくてね」

「おっさん、おつむは常にしっかりさせてないとここじゃ長生き出来ねぇぞ?」

「実はもう二、三回は本来なら死んでる感じでね…それで、相場は?」


Rは取り繕う様に実際の事実を織り交ぜながら誤魔化すと話題を逸らそうと会話を続ける。


「水筒一個分の水で弾10発」

「ちょっと多過ぎるよ、こちらに選択肢が無いとはいえ勘弁してほしい」

「プーミの慰謝料込みだ」

「……なるほど、それならば仕方ないね」


門外漢にしても法外と思える値段に対し、Rは僅かな間を置いて了承の意を示した。

必要に迫られている以上は選択肢は無いし、これで表面的にでも禍根が解けるならば安いものだが、少し時間を空けたのは駆け引きの真似事も必要だろうと判断したためだった。


「ほらよ、こいつはおまけだ」


受け取った水筒の水で焼けた部位を洗おうとしていたRに対して年長の子供は比較的清潔そうな布切れを投げつけた。

これならば布を湿らせて拭う事で直接かけるよりも少量で目的を達せそうだ。

残りを飲料水に回せるのは現状プラスになる。


「ありがとう、君の名前は…」

「俺はニシ、あんたは?」

「僕はR1039だ、暫くの間だがよろしく頼むよニシ」

「R103…?なんつった?」

「はは、君らに名前を言うといつもそういう反応されるよ…」


それからしばしの間、濡らした布で赤く腫れた後を拭き、気休めながら付着した薄い酸の除去に勤めながら、Rは若干のデジャブを感じる会話を楽しんだ。


―――


「それで、今後君らはどうするんだい?」

「雨も上がらねぇから足止めだ。仲間と連絡も取れないし、ここじゃ収穫もねぇ。商売あがったりだ」


ある程度の会話を経てニシが警戒を若干ではあるが解いたと判断したRは残った水筒の水を飲みながら、それとなく彼らの素性と今後の予定を聞き始めた。

彼らは『外』で戦前の遺物や売れそうなガラクタを回収して生計を立てているゴミ漁り( スカベンジャー)と言われる者達であるという事、そしてどううやら彼らも突然の雨でここに逃げ込み、足止めを食らっていたらしいという事をニシの口から聞き取る事が出来た。

そして、待機するついでに最悪に備えて夜を越す為の籠城場所と残っているかもしれない物資の探索を主なっていたらしい。

そうこうしている内に仲間の一人が予定時刻になっても戻らず、警戒の為に全員で出張ってきた結果として今の状況に至るのだそうだった。


雨が降らねばこの遭遇も無かったかもしれない。


そして、肝心の雨はようやく止む気配が出てきたが、既に太陽は傾き始めて、周囲は暗くなってきている。

また、夜が来てしまったのだ。


「まだ仲間がいるのか?」

「ああ、アスマっていう俺たちのリーダーが率いてる本隊がいる。合流予定だったんだけどこの雨のせいで足止めだ」

「……」


Rはしばしの間うつむいて考え込んだ。

彼らだけならばともかく、彼らの仲間までも信じられるのか。

数が増える事で形勢が逆転してこちらに危害を加えてこないか、思案のしどころだ。


「僕も暫く同行して良いかな?」


そうして思案を重ねた結果、出した答えは同行の申し出だった。

単純に、周辺の地理が分からない為だ。

このまま外を宛ても無く彷徨うよりも多少賭けでも現地人に協力者を得て安全な拠点を目指すべきだろう。


水も食糧も余裕などない故に行動に選択肢を持てない為の苦肉の策だ。


「目的は?」

「最寄りの人のいる街を教えて欲しい、取りあえずはそこに向いたい」

「分かった。ただこのままじゃ今日はここで野宿になるだろうからな。明日の事はお互い明日まで生きてたら、だな」


そう言うとニシは肩にかけていたライフルを手に掛けた。


「籠れそうなところに移動する、ついてきな」


仲間にも移動を促しつつ、建物の奥へと向かうニシを追ってRもまた歩き出したのだった。


せめて今夜は眠れれば良いな。

彼らの前では誤魔化していたが、いい加減空腹と睡眠不足で限界が近かったRはぼんやりとそう考えていた。

作中での会話から察していただけると思いますがRくんの故郷の基本言語は英語です。

ARK5は箱舟計画で建設された大型シェルター群の一つ、ヴィジター襲来の最前線となったアメリカ合衆国本土で建設されました。

新大陸北部中央、つまりは合衆国の中心部に出現した彼らの第一陣に対して本土攻撃にアレルギーすら持っていると言われる米軍の核を含む全力攻撃がはじき返された衝撃は大きく、その時点で当時の人類は滅亡を覚悟したと言われるほどでした。

それを防ぐ為に長い戦いの末に開発されたのが時空門破壊兵器『ゲートバスター』であり、実際にはどれほどの影響を地球内外の空間に与えるか未知数の状況で実戦投入され、結果として今の世界が完成したという流れになっています。

ちなみに米国が原典なのに大型歩行兵器にマトリョーシカなんてついてるかというと最初にこれを開発したのがヴィジターの直接侵攻を受けずに余裕があったロシアだったりするからです。

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