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ブルーブラッド  作者: 人間性限界mohikan
序章『生存者たち』
1/97

一話、救出作戦

自分の趣味全部乗せ作品です。

Falloutやそれらに近い作品群のリスペクトが多いので序盤の主人公は弱いです。

序章以降は暫くクソザコナメクジです。

俺ツエーは起きるとしても一章以降になります、でも所詮は一兵士としての頑張りが精々なので無双系では無いのでご注意ください。

序章は完成済みですのでそこまでは早いですが、それ以降の更新速度は頑張りますが多分遅いです。




それはまだ夜が明ける直前の事だった。

太陽がまだ顔を出す前の薄暗い、苔むした建物や機械の残骸が散らばる草原をスラスターを吹かして宙を跳ぶ4つの大型の人型が駆け抜けていく。

全長3m程度の人間を縦に押しつぶして頭部を排除した様な形状のその人型は、やはり人に近い見た目でありながら、人のそれとは大きく離れたいでたちをしていた。

所々に太い動力パイプが姿を見せている武骨なカーボンと鋼鉄の複合された骨格と装甲版で覆われた三本爪の逆関節の脚は、機体が速度を失って地に着地する度に衝撃を受け止め、同時に力強く地面を蹴って機体を跳躍させる。

背部にはその跳躍に合わせてエーテルを含んだ緑の炎を噴くメインスラスターが搭載され、機体を加速させて跳躍距離を稼ぐ手伝いをしている。

樽の様な不格好な胴体には子供が好みそうなガシャポンのカプセルの様な半円の透明な防弾ガラスで作られたキャノピーが被せられ、その中にはヘルメットを被った人の頭だけが機械から飛び出て露出していた。

その光景は見方によっては顔だけ残して地面に生き埋めにされる拷問を受けている人間の様にも見える。

太い胴体に負けず太く、だが短い腕部もまた人のそれとは大きく逸脱し、手や指といったマニピュレーターが存在せず、腕の先には直接武装がマウントされている。

肩には各武装の弾薬を搭載した複合弾薬庫とそれぞれの機体に異なる大型兵器がマウントされている。


言うまでも無く、これらの物体は生物ではない、人の操作する乗り物だ。

れっきとした人類の保有する標準的な戦術兵器である。

最も、世界が壊れてしまう前のという枕詞が付いてしまうが。


搭乗式二足歩行型火力支援用重強化外骨格、通称は『マトリョーシカ』もしくは『ヘビーアーマー』、それがその鉄塊の正体であり、名前だった。


4機のマトリョーシカは各々が連続跳躍を繰り返しながらもダイアモンド状の陣形を乱す事無く草原を突き進んでいく。

一定の動作を規則正しく行うその外見とは裏腹に、その体内に包まれた兵士は機体の衝撃吸収機構と搭乗員保護機能を持ってしても抑えきれない多大な負荷の連続に耐えねばならなかった。

地面への着地で生じる衝撃に全身と脳を揺さぶられ、上昇時の加速に体を押さえ付けられ、そして失速後の降下時には内臓が浮き上がる不快感が込み上げてくる。

それを4機の搭乗員は半日近く繰り返していた。

かつて存在したというマトリョーシカ用のフライトパックやホバーユニットは戦後の混乱で失われ、唯一残された訓練機向けの汎用ジャンプユニットだけがこの大型兵器の機動力を支えている。

それ故に長距離移動の際にこの不都合には常に直面する、そしてそれに耐えられてこそマトリョーシカを駆る機動歩兵を名乗る事が許されるのだ。


しかし、流石に半日は長すぎる――と、その内の一機に乗る兵士、R1039伍長は考えていた。

規定の哨戒任務を終え、帰路に付いたいた筈の自分の所属する第10機動歩兵大隊第2中隊麾下の遊撃小隊『ハスカール』は急な任務の変更と称して母体の中隊から離脱してこうして代り映えのしない無人の荒れ野を跳び続けている。

おまけに無線封止で会話も出来ないとくれば、この終わりの見えないジェットコースターで精神が参ってしまいそうだ。


「隊長、いい加減何の任務かぐらいは教えて欲しいんですけど。つーか糞真面目に無線封じる必要なんてないでしょ今のご時世で」

「ハスカール04より03へ、軍規違反ですよ。通信を切ってください。敵に傍受されます」

「出来る奴がいるなら会ってみてーよマジで。地上にそんな技術のある連中が残ってたらこんなんなってねーってんだよ」


そんな折だった、長く続いた沈黙を破って仲間の一人が無線越しに口を開き、それを窘める様にもう一人も声を出す。

ぶっきらぼうな口調で不平を述べているのは自分と同じ小隊の古参で同じ階級の同僚で同期でもあるL2044軍曹だ、コールサインは『ハスカール03』。

口は悪いが気は良く、回りくどいのが嫌いで直球を好む男だ、今も小隊全員が知りたい事を端的に述べている。

一方でそれに異を述べているのは新参のS1856上等兵、コールサインは『ハスカール04』。

まだ小隊に配属されて日が浅く年も若く実戦経験もまだそう多くは無い。

彼の前任者は、前回の地上任務で戦死した。


「こうして半日も休憩抜きで跳んでるんだ。説明があってしかるべきだと思いますけどね、隊長?」

「……良いだろう03、そろそろ頃合いだしな、状況説明に入るとしようか」


そんな不遜な口調に渋い男の声が答える。

編隊の先頭を往く小隊長のジョンソン少尉、コールサインは『ハスカール01』。

危険な地上での任務に10年以上従事するベテランであり、優秀な兵士だけに許される名前持ち(ネームド)の精兵であり、自身の直掩部隊を持つ事を許された存在だ。

ハスカール小隊は大隊司令部直轄の機動予備戦力であり、今回は第二中隊に支援として派遣されている。

中隊の戦力というよりは少尉の護衛の為に編成された部隊と言っても良い。

故に危険な状況が発生した場合や任務には真っ先に投入されることが多い。

自分で言うのもアレだが、そこそこ優秀な兵士が揃っている。

新入りのSを除けば、だが。

口も素行も悪いLも少尉には従順でその指揮に全幅の信頼を置いている。

故に、その言葉を聞いた時点で既にLは黙り込んでいた。

これから出てくる言葉を一言も聞き逃さない為に。


「我が小隊の任務は単純だ、間もなく到達する旧市街地で消息不明になっている友軍部隊の捜索と救出を行う」


その言葉に合わせる様に視界の一部に作戦概要と工程が表示される。

装着した装甲ヘルメット本体に映る本来の視界と網膜投影でその視界に上書きされる様に追加されたマトリョーシカの各種計器表と機体、そして搭乗者のステータス画面に更なる情報が加えられたところで少尉は説明を継続する。


「一週間ほど前、市民軍一個大隊と中隊規模の科学班からなる調査部隊がこの近辺に投入され、消息不明となっている。事態を重く見た司令部は遠征軍と守備隊合同で救出部隊を編成することになった。我々の任務は救出部隊の先鋒として市街地に突入、情報収集を行いつつ後続の主力を乗せたヘリが着陸できるポイントを確保する事だ、質問はあるか?」


「……なんでうちらだけなんすか?救出作戦、それも大隊規模が消息不明ならば最低でも機動歩兵一個中隊規模の戦力必要ってのが通例でしょう」

「良い着眼点だ03、全員で強行軍して荒野で仲良く路頭に迷いたいか?つまりはそういう事だ」


隊長の言葉は事実だった。中隊は既に予定していた長期にわたる哨戒任務を終えて基地への帰途に入っており、弾薬と燃料にはさほど余裕がない状況であった。

全員で動けば市街地までは辿り着けたとしても燃料の少ない機体から脱落し、殆どの機体は基地に帰れない事は必然だった。


「周辺で一番近いのが我々で、こういう時の為の遊撃部隊だ。使い潰される事こそが我らの本懐だ諦めろ」

「了解です隊長、取りあえずはそれで納得させて貰いますよ」


それ故に小隊には中隊各機からの燃料と弾薬の融通が行われている。

この様子では中隊主力は残った燃料で基地まで可能な限り行軍し、行動限界点で基地からヘリで補給を受ける手はずになっているだろう。


だが、それでもいくつかの疑問は残る。

Lもそれには気付いているようだが、それ以上追及する気は無いようだった。

まあ、いつもの駆け込みの仕事みたいなもんだ。と、R1039伍長は考える事にした。

自分は所詮は下位の兵卒に過ぎない。

戦う事が仕事であって任務の裏に何があるかを読むのは仕事ではない。

同胞の為に自分の与えられた命令と役割を完璧にこなす、それだけが伍長の常に中にある規範だった。



そして、部隊内に再び沈黙が訪れる。

一人は任務だけに集中し、一人は疑問の答えを得て満足し、一人は規則違反を極度に嫌うがゆえに。


そうして再び幾ばくかの時間が過ぎ去ると、草原を踏破すると放棄されて長い年月を経たと思われる市街地が鮮明にその姿を晒し始めた。


多少の丘や窪などの起伏は有れど変わり映えのしなかった草原に草木の浸食によって自然に還りつつある崩壊したビルの群れが幾重にも立つ人類の繁栄の残滓が今も確かに残されている。


「全機行軍停止!集結!」

市街の手前にいたり、少尉の号令で小隊はようやく行軍を停止した。

ダイアモンドを形成していた各機はそのまま小隊長機を起点に横一列に陣形を再編する。


「ハスカール01より各機へ通達、あれが目標の都市だ。各機状況を報告せよ」

「02、機体に異常なし。推進機関及び全兵装オールグリーン」

「03、右に同じ。いつでも行けますよ隊長」

「04、異常なし。い、いつでも行けます」


各機の返答に満足した様に少尉はうん、とつぶやくと言葉を続ける。


「04、気を楽にしろ。持たんぞ」

「りょ、了解です!」

「さて、これより作戦開始だ。まずは友軍が用意していたというランディングゾーンに向いその有無と周辺の確保を…」


そう話を始めたジョンソン少尉の初期目標の説明の最中だった。

少尉とは異なる通信がノイズ交じりで無線機に飛び込んできた。


「……!至急!こち…市民…C中隊!レム…と遭遇…!他の…司令…でもシティ3コント…答えてくれ!誰か助けてくれ!」


それは紛れもない救援要請だった。

ただし発信しているのは二線級部隊である市民軍らしく、目当ての化学班ではなかったが。

大半がノイズにかき消されて詳細は分からないが敵と交戦中らしい。


「おう、まだ生き残りいるじゃねぇか。一週間前じゃもうくたばってると思ったけど頑張りやがるな。どうするんすか?」

「彼らは市民軍でしょう、救出対象じゃありませんよね?状況が分からない以上ここは慎重にいくべきかと」

L2044伍長の問いに答えたのはS1856上等兵だった。

ある意味当然の反応ではある。

彼ら市民兵は二等市民権を得る為に軍に参加した地上人達だ、自分たち正規軍の盾として消耗される存在にわざわざリスクを冒して救援する必要などない。

そう上等兵は暗に言っているのだ。


だが、そうするべきではない。と、R1039伍長は考えていた。

ここでするべきことは見殺しではない、と。


「02より01へ、意見具申」

「許可する、言ってみろ」

「自分が先行して敵を抑えます。小隊各機はその間に敵の分析と作戦の策定を」

「つまり奴らを助けたい、という事だな?」

「肯定します」


救出を提案したことに対して小隊長の反応は静かな物だった。

そこには理性があり、思慮があった。

それこそがRが少尉を信頼する最大の理由だった。

他の同胞達ならばこういった反応はされない。

そう――


「なぜですか伍長!地上人なんかの為に命を張る価値なんてありませんよ!?」

そう、普通ならばこういった反応をされるからだ。

自身の提案にそう抗議をしたのは04、S1856上等兵だった。



「彼らもArkの大事な資産だ、無駄に消費させて良い物じゃないよ。それにここに至って尚、生き残ってるならば何かしらの情報を持ってる筈だ、やる価値はあるよ」

「良いだろう02、貴様の案を採用する。先行して市街に突入して敵の頭を押さえろ。我々もすぐに行動を開始する」

「了解!02前進します!」


『ハスカール02』、R1039伍長の乗るマトリョーシカは再びジャンプユニットのスラスターを吹かしながら地面を強く蹴って飛翔した。




―――



打ち捨てられ崩壊の進む廃墟化した都市の一角、かつて都市の交通網を支えていた大通りの一つに粗末な軍服を着た小隊規模の兵士の一団が、瓦礫や廃車に土嚢と鉄条網を敷き詰めて構築した急造陣地に身を隠す様に潜んでいた。

片側二車線、合計四車線であったかつての大通りの車線をすべて塞ぐ様に前後に幅を取って築かれたその陣地の周囲には銃弾で撃ち抜かれ事切れた異常な体躯をした動物や奇形化した人だったと思しき死体が積み重なる様に転がっている。

市民軍第二大隊C中隊、かつてそう雇用主達に呼ばれていた彼らは本隊である大隊から分断されて数日が経ち、物資の欠乏と度重なるミュータントの襲撃で全滅の危機に有った。

彼らは通りの前後から押し寄せるミュータントの群れを急造陣地による防護と残存火器の集中運用によって撃退し続けてきたが、その度に犠牲者を出し、いよいよ限界が近づきつつあると言った様子である。

この陣地の構築を命令し指揮を執っていた中隊長も既に戦死し、重機関銃と迫撃砲の弾は最早無く、無線通信には雑音ばかりで交信もままならない。

増援の見込みのない既に終わりの見えた籠城に有って、だが脱出も不可能という状況に彼らは陥っていた。

状況を確認する為に送り出された伝令は一人として帰ってこず、脱走を試みた者は近くでミュータントに食い散らかされているのが確認されている。

そんな中であって兵士達の顔色は皆軒並み暗い。

死の恐怖と疲労と空腹に苛まれ、だがそれ以外の何かにも多数の兵士達が怯えている様であった。

それはまるで何かに見つかりたくないと言った様に見える表情だった。

その原因は時折聞こえる巨大な咆哮のせいである、こうしている合間にもそれは遠吠えを行い、邪魔する物を破壊しながら徘徊しているようだった。

「おい、また聞こえたぞ…」

「ああ、戦闘をする度に近づいてる…このままじゃもうすぐ…」


本来歩哨の順番が回って来るまで休まねばならない状況において兵士達は眠る事も出来ずに何かについて囁き合う。


「あれが聞こえてから他の中隊と連絡が取れなくなったんだろ…?」

「らしいな、救援も来そうにないし俺たちももう終わりかもな」

陣地の中は既に諦めながらも死を先延ばしにしたい敗残兵の巣窟と化していた。


そんな中、歩哨に立つ一人の兵士が声を小さくしてつぶやく。

「通りに人がいる」

その言葉に陣地内にいる兵士のほぼすべてが一斉に血走った視線を向ける。

ある者は土嚢の上に顔を出し、ある者は廃車の陰からその姿を覗き見る。

まだ薄暗い通りではあったが、確かに人型の黒いシルエットが廃車や道路の分離帯をかわしながらフラフラと向ってきているのが目視出来た。

だが様子がおかしい、やたらと体をグネグネと揺らして動いているし、服とは思えない何かがヒラヒラとはためいている様にも見える。


「助けるべきか…?」

歩哨の男が更に言葉を続ける。

それは男が仲間へ発した無意識の質問だった。

彼らは出来れば可能な限り音を出したくなかったからだ。

戦いたくも無ければ助ける為に声を出す事もしたくない。

そもそも助けても水一杯分けてやる余裕はないのだ。


だが、その質問に先に答えたのは人型の何かだった。

まるで顔見知りに親しげに振る舞う様に大きく手を振りながら陣地に向って早歩きで進んできたのである。

その姿は近づいてくるにつれて徐々に鮮明になっていく。

結論から言うとそれは人の様で人ではなかった。

男は既に事切れていた。

白目をむいた虚ろな瞳と半開きの口からだらりと垂れた舌、腕や足から飛び出た無数の巨大な白い触手の様な蛆虫型の何かが飛び出したその姿は、まるで虫に操られた人型の自走する巣の様であった。

フラフラしていたのは虫に無理矢理動かされていたのだろう。

足は常に倒れそうなほどにもつれさせ、それでもなお強引に前に踏み出している。

こちらに振っていた腕も蛆虫が絡みついて無理矢理振らせているようだった。

動き度に大きい蛆虫がボトボトと地面に落ちていく。


「なんてこった…こんな事が有って良いのかよ!?」

「あ、ありゃあA中隊のケッセルだ!」


顔見知りらしい何人かの兵士が絞り出すように恐怖の混じった声を絞り出す。

その声に反応する様に化け物は脳天に空いた穴から新たな触手を生やすと歓喜とも悲鳴ともつかぬ金切り声を上げて全力疾走を開始した。


「ミツケタ!ミツケタァァァァ!」

「く、来るな!来るなぁぁぁ!」


ぐんぐんと迫ってくるそれに兵士達は叫びながら手に持つ旧世代のカービン銃の様な形のコンバットライフルやグリースガンの様な形状の短機関銃の引き金を引き一斉射撃を加える。

一瞬の出来事ではあったが、轟音と共に濃密な鉛玉の弾幕を受け、紫色の血をまき散らしながら化け物は地に伏せる。

だが、なおも立ち上がろうと親指程の大きな蛆虫をまき散らしながら叫びもがき続ける。


「ナンデ…!ナンデナカマ…!」

「火炎瓶を使え!焼き殺せ!」


誰かの叫びに反応する様に火のつけられた火炎瓶が投擲される。

ガラス瓶の割れる音と共に内容されていた可燃燃料が炎に引火し化け物が炎に包まる。

暫くの間、人だった何かは絶叫を上げながらのた打ち回ってはいたが、やがて動かなくなった。

もはや指揮官など存在しないが故に指揮系統など残ってはいないが、生への執着が彼らの統率を保っていた。

だが、その小さな勝利に誰も喜んではいなかった。

あれだけ出したくなかった大きな音を立ててしまった事に皆が恐怖していた。


そして、彼らの絶望に答える様にようやく夜明けの太陽が昇ろうとしていた廃都に歪んだ咆哮と地響きが響き渡った。

兵士達の顔が絶望で引きつり、絞り出すような悲鳴が漏れる。

恐れていた者に見つかってしまったのだ。


「こっちだ!こっちにいる!」

先ほどの化け物と対応していた陣地の反対側から叫び声が響く。

警戒の為に反対側に張り付けられていた中隊の仲間からだった。

大通りに合流する別の道路の曲がり角からゆっくりと歩み出てくる巨大な何かを視認し、兵士の一人が叫ぶ。

「レムナントだ!」

亡霊と呼ばれたその主は半ば干からび、或いは腐り落ちた体を引きずりながら動き回り続ける、過去の大戦で猛威を振るったドラゴンの成れの果て、ドラゴンゾンビだった。

動く度にその体にこびり付いていた肉がこぼれ、体の至る処から黒い膿を垂れ流しながら「それ」は兵士達を見つけると既に死んだとは思えない速度で巨体を揺らし、進路を阻む建物の瓦礫や遺棄車両を破壊しながら獲物に向って突進する。


そして、その突進を食い止めようと試みた反対側の兵士達の銃撃をものともせずドラゴンゾンビは陣地を踏み砕きながら走り抜け、通りに面する建物の一つに激突して動きを止める。

だが、それも一瞬だ。


建物の崩壊で立ち上る煙も消えぬ間に方向転換したドラゴンゾンビは、近くにいる轢かれずに生き残っていた幸運な兵士― この場合は不幸と言った方が良いのかもしれない― にその腐った大口を開く。


顔を引きつらせ、声すら出ない兵士や悲鳴を上げ腐りきった化け物に命乞いをする兵士達を無視するかの様に口からかつてドラゴンの内臓だった物が変化して出来た無数の赤い触手が伸び、兵士を絡め取って次々と口の中へと引きずり込んでいく。

そしてドラゴンゾンビの口に引きずり込まれた兵士たちに変化が起きる、体が急速に腐敗し始めたのだ。

皮膚は言うまでもなく、衣服やヘルメットやボディーアーマーと言った防具すらも朽ちて風化していき、完全に口の中に入る頃には茶色い土塊の塊の集まりになった「兵士だった物」をドラゴンゾンビは口を閉じて旨そうに咀嚼する。

既に干からびて部分的に白骨を覗かせる、目玉すらも無くなった虚ろな顔が愉悦に歪む。


「畜生!」


仲間の惨状に奮起した数名の兵士が叫びながら屈めていた身を起こして手に持つコンバットライフルをドラゴンゾンビに向け、頭部を狙い発砲する。


続け様に連射された7.62mm小銃弾の群れがドラゴンゾンビの頭部に迫り、その腐った肉を貫こうとしたその瞬間、その手前の空間が歪み半透明の球形の障壁がその行く手をさえぎる様に発生した。


音速を超えて飛翔する銃弾が不可視の障壁に激突し赤い火花を上げる、だが貫けずにその度に障壁から発せられる青い燐光と共に跳ね返されあらぬ方向へと逸れていく。


「撃ちまくれ!こうなったらもうあの腐った頭をぶち抜くしかねぇ!」

「頭部に攻撃を集中しろ!」

「仲間の仇だ!ぶっ殺してやる!」

「腐った死体の癖に動くんじゃねぇよこの化け物!」


攻撃が全く通じないという絶望的な光景を前にしても兵士達は口々にドラゴンゾンビを罵りながら射撃を継続する。

それに釣られ、突撃を免れた他の生き残り達も手に持つ小銃や短機関銃で攻撃に参加する。

絶望の感情とは裏腹に体は訓練で染みついた動作を行う。

遮蔽物に身を屈め、弾倉を交換し、ボルトをスライドさせて弾丸を再装填し、敵に狙いを定めて射撃を継続する。

小銃に加えて火力支援用の短機関銃が9mm拳銃弾を連射し弾幕の密度を濃くしていく。


降り注ぐ銃弾の赤い曳光弾の火線とドラゴンゾンビを守る魔法障壁―― 兵士達はバリアと呼んでいる― が銃弾を弾く際に発する青い燐光が瞬き、一瞬の膠着状態が生み出された。

この程度で押し留められる筈の無いドラゴンゾンビが何を思ったのか動きを止めたのだ。

射撃が継続される中、生まれた一瞬の平穏に釣られて数人の兵士達が再び騒ぎ出す。


「至急!至急!こちら市民軍第二大隊C中隊!レムナントと遭遇した!他の中隊でも大隊司令部でもシティ3コントロールでも良い答えてくれ!誰か助けてくれ!」

無線機を装備した兵士の一人が半狂乱になりながら相変わらず雑音しか発さない無線に向けて救援要請を叫び続ける。


「大隊主力はどこにいるんだよ!?救援は!?」

「とっくに全滅してるに決まってるだろ!死にたくなかったら撃ちまくれ!」

射撃を続ける兵士たちが口々に絶叫する。

「逃げようぜ!勝てるわけがねぇ!」

「逃げ切れるわけないだろ!あんな見てくれであの速さだぞ!?」

「逃げるたってこの陣地から出たらミュータント共に八つ裂きにされるんだ!踏ん張れ!」


逃げたいという本能的な意識を先の突進の速度、そして周囲の状況から判断して逃げる事も不可能だという理屈が、理性が本能を抑え込む。


目の前の敵を倒すか来るかも友軍の到着まで粘る、最早それだけが生き残る道であり、突進で潰されるか、あの触手に捕まって食われるか、それともこちらの銃弾の雨が敵の食い止めるかの勝負だと兵士達は腹を括る。

かつて、そして今も人類を苦しめる敵の魔法障壁は強力だが、その守りにも限度がある。

弾丸を受けた際に発生する青い燐光は魔力を消費して攻撃を防いでいる証だ。

あの守りは完全でもなければ、無制限でもない。

かつては強大だったとはいえ、零落したドラゴンゾンビともなれば防壁の出力も落ちている筈だ、こちらが全滅する前に殺しきれる。

根拠など無かったが、それにしか縋れない兵士達の顔に悲壮な決意が浮かぶ。

だが、その覚悟ををあざ笑うようにドラゴンゾンビは再び大口を開ける。


「触手が来るぞ!」

兵士の一人が叫び、それに応じて他の者は体を完全に隠し、銃だけを突き出して遮蔽物越しの射撃に移行する。


「同じ手なんか食うかよ!」

一部の者は触手に備えて既に銃剣を装着している者もいる、準備は万全だ。

だが出てきたのは触手では無かった、紫色の瘴気とも言える煙が口から溢れゆっくりと大通りを覆っていく。

次に映されたのは阿鼻叫喚の光景だった。

最前列で射撃を続ける兵士達がその煙に触れた瞬間に、次々と生きながらに腐り崩壊していく。

絶叫を上げる間もなく肺が腐り、喉に穴が開き、舌は溶け、下顎が顔から脱落し茶色い土塊の様に変質していく。

かつて敵を大空を飛び、戦車すらも焼き尽くす炎のブレスを吐いていたドラゴンは今や地を這い全てを腐らせる毒ガスを吐くだけの存在へと落ちぶれていた。


だが、その効果はいまだ絶大だった。


「畜生!俺はずらかる!後はお前らで好きにやれ!」

「待ってくれ!置いていかないでくれ!」

「死にたくない奴は脱出しろ!急げ!」


見込みのない救援の可能性、効果の無い攻撃、そして防ぎようがない毒のブレスの前に士気が崩壊した兵士達は蜘蛛の子を散らすように陣地逃げ出す。

ある者は身を軽くする為に防具を脱ぎ武器を放り投げて全力疾走し、ある者は瘴気を防げる密閉された空間が残っているという僅かな可能性に賭けて建物に逃げ込み、またある者は逃げ遅れ猛毒の瘴気に飲まれて崩壊していく。

その光景に満足したのかドラゴンゾンビは再び咆哮する、かつての大戦でもそうしていた勝鬨の雄たけびを上げる様に天を仰ぎ吠える。


「あ…あ…」

その惨劇を地面にへたり込んだ兵士が見続けていた。

彼我の圧倒的な差に心を折られ、腰が抜けて動けない様子である。

彼はこの部隊の中では非常に幸運な部類に入っている男だった。

瘴気が発せられた時に部隊の最後列、つまりドラゴンゾンビと会敵した際には最前列に陣取っていた為に轢殺と捕食、そして瘴気という幾度もの死の危機から逃げおおせていたからだ。

だが、ここにきて腰の抜けてしまった男の目の前まで瘴気は徐々に迫りその幸運が尽きようとしていた。

男の中でここに至るまでの走馬灯が脳裏に浮かんでくる。


「畜生…畜生…!」

声は上擦り、目と鼻からは汁を垂れ流し、男は全てを呪う様に言葉を絞り出す。

そしてそうしている間にも瘴気はすぐそばにまで迫って来ていた。


男はある組織に所属していた。

彼だけではない、ここで先ほどまで戦っていた兵士達は皆同じ組織に所属している。

その組織はこの戦争で汚染された地上世界から逃れるために地下シェルターに逃げた純粋人類の末裔で、自身をArk5臨時政府と名乗り、地上世界と人類の復興を謳っていた。

男はその政府の保有する正規軍の下部組織である市民軍に所属していた。

エーテル汚染を受けた自分達地上人が彼らの保有する安全で快適なシェルターになど一生入れないのは理解していた。

だが、それでも彼らに協力すれば軍役と引き換えに二等市民権の権利を与えられ、その援助でこの荒廃した地上の他の地域よりはマシな居住地と生活が与えられるはずであった。

生きる為に、そして家族を養う為に選択の余地などは無かった。

今回の任務も上司である正規軍の補助として整地作業、そして市街地の探索と簡単な掃討作戦を行うだけの筈だった、そして途中までは実際に上手くいっていた。

あの化け物が出て来るまでは…。


「ち、畜生…こんな仕事やはりやるべきじゃな…」


そこで不意に今まで聞いた事の無い音が男の思考を中断した。

ジェットエンジンの様な轟音と機関砲の射撃音だ。

次の瞬間、空から赤い曳光弾の雨が降り注ぎ、ドラゴンゾンビの姿が土煙と爆炎の中に掻き消える。

そして眼前に姿勢制御スラスターを吹かしながら大型の二足歩行兵器が着地する。

全長3m程のそれは瓦礫や乗用車の残骸、そしてアスファルトを踏み砕きながら、しかし兵士を踏み潰さず、スラスターの炎にも巻き込まずに着地し、右腕のガンポッドによる射撃を継続しながら左腕に固定された大型のシールドを構えると機体に内蔵されたスピーカーから若い男の声が鳴り響く。


「君たちの通信のおかげで位置を特定できた。ディフレクターを起動するから早く下がれ!」

「せ、正規軍なのか!?」


日の出とともにその機体の全貌が浮き彫りになって行く。

逆間接に箱型の胴体が特徴的なオリーブグリーンで塗装された機体はよく見ると腕部が武装だけが取りつけらえた武器腕であり、右腕に機関砲と機銃をまとめた複合ガンポッド、左腕には大型シールドを備えている。

更に右肩にも何か見慣れない短砲身砲の様なものが搭載され、左肩から背中全体にはスラスターと武装の冷却装置や弾薬が詰め込まれているらしきコンテナが搭載されている。

コクピットは防弾ガラスで出来たキャノピーで守られているはいるが、装甲ヘルメットで覆われた搭乗員の頭部が機体から剝き出しになっていた。

一部では『マトリョーシカ』とも称される正規軍だけが装備を許されている大型の重強化外骨格だ。

機体側面にはかつて存在したという国連と言われた組織の旗に十字の姿勢二つの人間が重なる人体図、俗にいうウィトルウィクス的人体図が合わさったエンブレムの下側にArk5という刻印が施されている。

見間違えようの無い正規軍のマークだ。

歓喜の色を帯びる男の問いを無視するかのように機体が構えたシールドが青く輝き、不可視の何かを発生させ様と駆動する。

なおも右腕に搭載されたガンポッドからの射撃を継続する機体から再度男の声が響く。


「急げ!巻き込まれるぞ!」

「わ、分かった!」

「後はこちらで引き受ける!隠れていろ!」

「言われなくてもそうしますさ!」


兵士が立ち上がり後方に走っていくのを確認するとその機体は射撃を中止し、シールドに貯め込まれた不可視の力を解放した。

そしてそれに合わせる様に盾から発生した斥力場が目前まで迫っていた瘴気を押し返し紫色の煙が薄れていく。

それまでの銃声はすべて止み、荒れた大通りには一機の重強化外骨格(マトリョーシカ)とドラゴンゾンビ、そして人間だった茶色い破片だけが残されている。

距離は500メートルほど、静寂の中、お互いが睨み合う様に相対する。

その一瞬の静寂を先に破ったのはドラゴンゾンビの方だった。

ブレスを無力化された事を怒る様にもう一度大きく吠えると仰け反り、腹を見せたかと思うと、その腹を割いて黄色く変色した肋骨が複数飛び出し、重強化外骨格目掛けて飛翔する。

「っ!?」

その動きに重強化外骨格(マトリョーシカ)内のR1039伍長は目を疑った。

肋骨にもまた触手化した赤い内臓がこびりつき、それをしならせ上下左右にうねらせながら突っ込んできたのだ。

その動きはまるで自立回避を行いながら目標を狙う対艦ミサイルの様ですらあった。

総数は8本、徐々に速度を加速しつつ重強化外骨格(マトリョーシカ)に殺到する。

貧相な見た目に反して行く手を阻む障害物を次々と貫き、腐らせながらつき進む肋骨の群れを見て機体を駆るRの中の危機感が高まっていく。

一人では抑えきれないと。


「ハスカール02!後退して後続と隊列を組め!03と04は02を援護!こちらはガウスキャノンの射撃体勢に入る!」

「り、了解!」

「状況はデータリンクで把握している、このまま火力戦に持ち込んで押し切るぞ!」


不意に無線に入った小隊長の通信に反応してR1039伍長の重強化外骨格 (マトリョーシカ)はスラスターを点火して後方へと50m程後退し着地する。

それに合わせる様に二機の重強化外骨格(マトリョーシカ)がその両脇に並び立つ、機体制御システムの一部を兼任する装甲ヘルメット内に網膜投影されたHUDには機体の所属と搭乗員の名称が表示される。

同じ小隊のハスカール03『L2044伍長』とハスカール04『S1856上等兵』だ。

三機の重強化外骨格(マトリョーシカ)は横一列に並び、互いを庇う様にシールドを構えて右腕のガンポッドの射撃を開始する。

マウントされた20mm機関砲一門と二基の12.7mm重機関銃、そして一基の7.62mm機関銃が轟音と共に一斉に火を噴き、銃弾のシャワーが肋骨を迎撃する。

脆弱部を狙えば戦車すらも容易に貫通する大口径機関砲弾とその隙を埋める三基の重機関銃弾が肋骨と正面から激突し、4本の肋骨を砕き割る。

なおも迫る肋骨を撃ち落とす為に小隊はガンポッドの連射を続けながら肋骨を狙いつつ薙ぎ払うように徐々に射線をずらしていく。

だがそれを察知したドラゴンゾンビも触手を操作して肋骨の回避行動を激しくする。


「骨を狙うな!後方から伸びる触手を撃って切り落とせ!」

後方から響く小隊長の指示に従い、こちらを狙いつつも鋭角を描く様に上下にそして直進すると見せかけて斜めにと縦横無尽に動く肋骨の撃墜を諦め、その後ろに繋がる触手へ目標を変更する。

機関銃弾が触手を切り裂き、推進力を失った肋骨が地面やビルの外壁に深々と突き刺さる。

だが速度の乗り過ぎた肋骨の一本がRの乗る重強化外骨格(マトリョ-シカ)に飛来し、隊列を組んだシールドの隙間を抜けて防弾キャノピー右端に命中し、中ほどまで突き刺さる。

12.7mmクラスの徹甲弾までならば確実に耐える筈の防弾ガラスをただの肋骨が貫通する事にRは冷や汗が出そうになる。

その上、その肋骨は徐々にキャノピーの一部を溶かしつつある。

放置すれば機体本体や自分の顔すらも溶かしかねなかった。


「キャノピー強制パージ!」

咄嗟に叫ぶと音声入力に反応した機体の爆発ボルトが起動し、肋骨の突き刺さった防弾キャノピーがはじけ飛ぶ。


「R!無事か!?」

「大丈夫だ!損傷軽微!」


L2044伍長の問いに力強く答えるとRは目先の危機が去った事に安堵すると共に機体の体勢を立て直しドラゴンゾンビへの攻撃を再開する。

僚機を合わせ合計3基のガンポッドが火を噴き、多量の大小を含む各種砲弾が吐き出される。

先の戦闘で投射された以上の火力が投射されてそれに合わせて大量の青い燐光を吐き出しながらも防壁は砕ける素振りも無い、思った以上に守りが硬い。


「01より各機へ散開しつつ後退しろ!ガウスキャノンをぶち込んで糞野郎のバリアを叩き割る!」

「「「了解!」」」


小隊長の命令に従い三機の重強化外骨格(マトリョーシカ)は射撃を継続しつつ各個に分散して後方へとジャンプする。

それに合わせて開いた空間に後方に鎮座する小隊長の重強化外骨格(マトリョーシカ)から発射されたガウスキャノンの青い光弾が通り過ぎていく。

音速を超え、プラズマ化したガウスキャノンの砲弾がドラゴンゾンビの魔法障壁に命中し、甲高い音を立てて砕け散る。

そして、それにつられるかの様に遂にドラゴンゾンビの障壁にも亀裂が入った。


「01より小隊各機に通達!全兵装使用自由!焼き尽くせ!」

「「「了解!」」」


機体を大通りに面する公園跡地と思われる場所に着地させるとRは右肩に搭載されている単砲身プラズマランチャーを起動し、ドラゴンゾンビに狙いをつけ、三連射する。

短い砲身から青い燐光を放つ球状の青いプラズマ弾が発射され、お世辞にも早いとは言えない速度で弧を描いてドラゴンゾンビの障壁に着弾し青い閃光をまき散らしながら炸裂する。

抑圧から開放されたプラズマ弾の高温が周囲の残骸や建物ごとドラゴンゾンビを焼き尽くそうと暴れ狂い、遂に障壁が砕け散る。


「Rの仇だ!ぶっ殺してやる!」

「03、彼はまだ死んでませんよ」


一瞬だが命の危機を感じていたこちらの焦りなど知らぬ様に僚機の二人が漫才の様な会話をしている。

障壁が破れ、勝利を確信した二人に緊張感は無く、しかし油断はせずに攻撃を続行する。

03はこちらと同じプラズマ砲を最大仰角まで上げてオーバーヒートするまで乱射し、迫撃砲の様に降り注がせて周囲毎ドラゴンゾンビを焼き尽くしていく。

反撃の為に再度口から放たれた触手を04の右肩に搭載された長砲身のレーザー砲から放たれる赤い閃光が撃墜して、腐った臓物を灰や粘液へと変貌させていく。

言うまでもなくガンポッドによる射撃の手も緩めてはいない。


「こちら死人より、ハスカール03へ。援護するよ」


既に攻撃を阻んでいたバリアが破られた事で勝利がほぼ確定した状況に若干浮かれたRは二人に合わせる様におどけた口調で漫才に便乗しつつ、二人の作り出した赤と青の閃光が煌めく地獄絵図に自身の武装の火力を追加していく。

プラズマが腐肉を焼き尽くし、レーザーが僅かに残った外皮を溶断し、炸裂する20mm機関砲弾が骨肉を砕き、重機関銃弾が肉を細分していく。

不死の化け物が真の死を予感したように最後の断末魔を上げ、その咆哮が終わる前に再度発射されたガウスキャノンの次弾がドラゴンゾンビの体を口から入って背中に貫通し、遂に不浄の化け物は地に倒れ、遅れて着弾したプラズマ弾の青い閃光の中に消えて行った。



―――



「あー、終わった終わった。疲れたぜ全く」

戦闘が終わり、安全が確保されたと判断したL2044伍長は機体から降りて早々に地面に胡坐をかいて座りながらそう吐き捨てた。


彼の背後、戦闘が行われた大通りに面する公園跡地に4機の重強化外骨格(マトリョーシカ)が前傾姿勢で並んでいる。

周囲には上官や同僚の姿も存在している。


かつて噴水か溜め池だったと思われる石製のオブジェやプールは長年の風雨と植物の浸食により朽ち、泥沼の様になっている。

一方で生い茂っているであろう木々や雑草は綺麗に刈り取られ、整頓されていた。

事前情報では市民軍がここを物資集積地や友軍の集結地点として整備していたらしかった。

部隊が全滅し潰走した今となっては真偽は分からない話ではあるが。

重強化外骨格(マトリョーシカ)のコクピットは解放され、兵士達は各々地面で座り込んだり、或いは重強化外骨格に寄りかかって各々休憩を行っているようだった。


「各員、良い仕事ぶりだったぞ。これでお前達も立派なドラゴンスレイヤーだ。帰ったら酒をおごってやる」


ジョンソン少尉は短く、だが重い言葉で小隊の兵士を称えた。

ドラゴンスレイヤー、それは敵文明の強力な生体兵器であったドラゴンを撃破した兵士だけが名乗る事を許される称号だった。

その栄誉はこの終わった世界の、腐ったドラゴンが相手でも変わらない。

腐って尚ドラゴンはドラゴンなのだ、あれを倒すには戦車か重強化外骨格(マトリョーシカ)の火力が必要になる。

どう足掻こうと、歩兵でどうこう出来る相手ではないのだ。


「ハスカール03より小隊長殿へ、俺とRは酒が飲めんのでコーラを所望します、以上」

「仕方ない奴だなお前らは、了解した」


大通りには今も残るドラゴンゾンビだった物体の腐臭と炭化した肉の、そして高温のプラズマ弾の巻き添えで溶けた建物やアスファルト等の匂いが合わさり周囲は呼吸すら困難なほどの異臭が立ち込めていた。

だが大気中に含まれるエーテルによる汚染から身を守る為に宇宙服を思わせる内部循環機構の付いたパワーアシスト機能付き装甲強化外骨格(エクソスーツ)によって守られた彼らにはそれらは問題では無かった。


彼らは増援の到着が決まっている事、そしてこの異臭で人もミュータントも寄り付かない事を良い事に各々寛いでいる。

彼らの乗りこなす重強化外骨格(マトリョ-シカ)は実際に強力な兵器だ。

その姿は外からは勇ましくも見えるだろう。

だが、機体の腹の中にいるとなると話は別だ。


戦前から使用されていたそれは歩兵用の強化外骨格(エクソスーツ)の更なる戦闘力を謳ってはいたが実際には搭乗者をも部品の一つとして酷使する存在だった。

重強化外骨格(マトリョーシカ)への搭乗には機体に接続する為のフレームパーツとして別途に歩兵用の強化外骨格(エクソスーツ)が必要であり、搭乗するとまず搭乗者は首以外の身動きが全く取れないという不快感と戦わなければいけない。

そして戦闘や行軍時の起動で生じるGや振動を緩和するシステムも不十分であり、搭乗者を疲弊させる。

センサー類も通常の戦闘車両に比べれば貧弱で、視界に至っては歩兵用の装甲ヘルメットを介した目視に頼っており、頭部が防弾キャノピーで守られているとは言え装甲の外に剥き出しになっているという致命的な弱点を持っている。

更には動力やスラスターの燃料、プラズマランチャーやガウスキャノンなどの先進兵器には人体に有害なエーテルを利用した技術が用いられ、搭乗者を常に汚染の危険と隣り合わせに置いている。


そんな制約の多い、だが強力な重強化外骨格(マトリョーシカ)を装備し、更にそれに搭乗する自身も通常の歩兵部隊の着る装甲車並のパワーと装甲を持つ強化外骨格(エクソスーツ)を重ね着する。

それ故に決戦兵力として酷使されるのが機動歩兵であり、付けられたあだ名が『マトリョーシカ』なのだ。


酷使される事が決まっている分、戦闘時や行軍以外は搭乗者は機体から離れて休息を取るのが前線部隊の間でも慣例となっていた。

だが、本来4人いる筈の兵士の内、一人の姿が含まれていなかった。


「隊長、02はどちらに」

「探し物だそうだ、助けた市民軍兵士が近くにいるらしくてな。こちらとしても情報が欲しいので許可した」


大人しい口調のS1856上等兵に対して小隊長は答え、上等兵はその言葉を訝しんだ。


「先程も言いましたが、連中は市民兵とはいえ地上人ですよ?我々の弾除けみたいなものですし、我々の任務は同胞の救出だけですよね?なんで彼はそんな無益な事を…」

「どうもあいつは連中も我々と同じ人類の為に戦う同志だと思ってるようだな。価値観の違いって奴だ、問題行為を起こさん内は許容してやれ」


「そうだぜS、隊長の言う通りだ。それに今回あいつが先に突っ込んだおかげで楽に陣形を組めたし悪い事ばかりじゃないぜ」

「……分かりました」


小隊長との会話に割り込んできたぶっきらぼうな口調のL2044伍長も擁護の側に回った事で上等兵はしぶしぶ会話を打ち切った。

納得はしていないが、自分が少数派である以上不利な論戦を続ける意思は上等兵には存在していなかった。


「さて、一段落した事だし第二段階に入るとするか」

そこで二人との会話を切り上げた少尉は寄り掛かっていた重強化外骨格(マトリョーシカ)から離れると腰の収納ボックスに入っていた円筒状の物体を取り出し、ピンを抜いて整地された地面に放り投げる。

円筒状の物体は僅かに転がったのちに緑色の火花と白い煙をまき散らしながら煌々と光り始め、それを確認した小隊長は無線機を操作して友軍との通信を試みる。


「ハスカール01からランサー01へ、通信範囲内にいるならば返答されたし。敵性生物の排除を完了し、誘導フレアを設置した。繰り返す、聞こえているならば返答を願う」

「こちらランサー01、誘導フレア確認、これより降下する。降りやすそうな良い場所だ。感謝する、交信終了」


通信が終了するかしないかの間にヘリ特有のローター音が周囲に響き渡る。

その方向に目をやると高度を取って飛来する四機の武装した汎用中型ヘリに護衛された二機のタンデムローター式の大型輸送ヘリがビルの合間から姿を現し、確保した公園跡地に着陸しようと急速に高度を降ろしてくる。

だが完全に着陸する事は無く、低空でホバリングしつつ腹の中に納まっていた強化外骨格(エクソスーツ)を纏った歩兵二個小隊と支援の重火器小隊で構成された中隊を吐き出す様に降ろすと、仕事を終えたとばかりに再び飛び立ち、空中待機していた護衛のヘリと陣形を組み直して素早く市街地の外へと離脱していった。

音は暫く響き渡っていたが、その姿はビルに遮られてすぐに見えなくなってしまった。

まるで物の投げ捨てていく迷惑な客の様にも見える乱暴さではあったが無理もない、今ではまともに稼働するヘリはここに降りたった全員の命と装備よりも価値があるのだから。


降下部隊の中に上官の姿を見出した少尉はそこで思考を切り上げ、部下の方に体を向ける。

「さて、中隊長と今後の打ち合わせしないとならんな。お前らはそのまま休んでおけ」

「了解です隊長、朝飯食っておいていいすか?」

「ああ、構わん。水分補給もしておけ、これからが本番だからな」

その言葉を待ってましたとばかりにL2044伍長はそのまま地面に大の地になって横になった。

そして次の瞬間には寝息を立てて眠り始めていた。




―――



「さて、さっきの奴はちゃんと生き残ってるかなぁ…」


先刻助けた男が逃げ込んだと思われる路地の一角を宇宙服を思わせる重厚な強化外骨格(エクソスーチ)を着込んだ一人の兵士が気の抜けた声を出しながらゆっくりとした足取りで歩む。

青い燐光を放つ奇怪な形状の拳銃をアンダーバレルにマウントした、― 今となっては古臭い西側規格のM4カービンに似た― アサルトライフルの銃口を上に向けて担ぎ、警戒している素振りは無い。

既に脅威を排除され、戦闘の余波で付近に潜んでいたであろうミュータントや現地人も逃げ出している筈だからだ。

仮にいたとしてもヘルメットの収音センサーがその兆候を教えくれるし、身に着けた強化外骨格(エクソスーツ)の格納兵装とアサルトライフルで対応出来るという自信もあった。

崩れた建物の瓦礫を乗り越え、周囲を見渡しながら進み続ける。

朝日に照らされる視界にところどころ崩れ、植物に飲み込まれつつあるアパートや小さいビルが映っては消えていく。

既にこれらも見慣れた光景だ、差異は有れど外の文明の痕跡は皆ボロボロに朽ちてしまっている。


(景色ももう気晴らしにはならないか…)


かつては地上に出た時に空き時間を利用してこうして旧市街地や荒れ地などを散策するのが好きだった。

しかし、代り映えのしない風景に最近は飽きてしまっていた。


「世界がこんな風になる前の地上ってどんな所だったんだろうな…」


自然とそんな言葉が口から洩れる。

戦前の事を考える事がここ最近の気を紛らわす手段になりつつある。

夜も煌々と光る林立した高層ビル群、道路を走る自動車の群れ、通りを埋め尽くして行き交う人々…

そして、汚染の無い、日々敵と戦う必要のない安全な地上という概念そのものが脳を刺激し、過去への想像の旅を駆り立てる。

地下シェルター育ちの自分には想像もつかない世界がそこにはあったのだろう。


「そんな世界が全部戦争で無くなってしまったとはな…」


100年と少し前、世界を滅ぼす程の戦争が起きた。

ぼかしたのは明確な開始の時期と終結した時期が曖昧だからだ。

だが、戦争は実際に起きたのだ。

それは人類が想定していたの大国間の核戦争でもなければ、資源の枯渇による最後のパイの奪い合いによる自滅でも無かった。


科学万能の時代に突入したのも遠い昔の人類の前に立ちはだかったソレはあり得る筈が無いと嘲笑してきた魔法の力を持った異文明だった。


彼らはマナ― 人類側はエーテルと呼称している― と呼ばれる人類の感知しえない、保有しえない力と技術でもって次元門を形成し異次元より転移、それ自体によって多数の人類が犠牲になるという悲劇的な初期遭遇を経て戦争状態へと移行した。


現在使用している重強化外骨格(マトリョーシカ)やそれらが搭載する先進兵器も戦後の混乱を経て尚、失われずに残されたその時代の遺物だ。


戦いは20年以上に渡り戦い続け、追い詰められた人類は速度は遅くあっても着実に版図を拡大し、侵攻の手を休めない敵文明を押し留める為に敵技術であるエーテルを利用した空間破壊兵器を開発、決死隊を突入させ次元門の破壊、同時に全世界規模での陽動を兼ねた反抗作戦を行う事で敵を世界から完全に駆逐する事を目的とした最終決戦を実行に移した。


自分が歴史の授業で教えられたのはそこまでだ、その結末は今目の前に広がる廃墟の群れが雄弁に語っている。


敵は去った、だが人類が勝利する事も無かった。

次元門崩壊後の事は今や断片的にしか伝わっていない。

分かっているのはその後の世界が黙示録もかくやという状況に陥ったと言う事だけだ。

地は裂け海は干上がり、空からは炎が降り注ぎ、多くの土地が異空間へと沈んだと言われている。

そして今や猛毒の瘴気と言っても過言ではないエーテルが全世界の大気に蔓延し、地下に逃れた純粋人類は防護服無しに地上に出る事は出来ない状況が続いている。


戦前に建造された人類存続用の地下シェルターである「Ark」は他にも複数存在しているが、そのいずれとも未だに連絡すら取れていない所を見ると、自分達が真の意味で最後の人類では無いと思ってしまう時すらもある。

自分の意見としては地上人も汚染されたとはいえ軽度汚染者は治療の見込みがあると思える分、まだ同じ人類なのだと考えれば、まだまだ大勢残ってはいるのだが。


「んっ」


何かが動き瓦礫の欠片が崩れる僅かな音をヘルメットの収音センサーが拾い上げ、思考が兵士のそれに切り替わる。

音の先は右側前方の家の半ばまでが崩れた木造の一軒家の様だった。

かつてはその家の敷地の境界として立っていたであろう塀に身を低くして移動し、アサルトライフルを構えなおす。

そして一軒家に向けて大声で叫ぶ。


「自分はArk5臨時政府正規軍第10機動歩兵大隊所属のR1039伍長だ!誰かいるならば出て来てくれ!攻撃はしない!」


一瞬の静寂、そして僅かな間を置いて手を頭の後ろに組んだ一つの影が一軒家からゆっくりと歩み出てきた。

暗がりで見えづらいが、その顔と服装から見て先ほど助けた兵士のようだ。

若い筈だが無精ひげを生やし、泥と土で薄汚れたその顔には疲れと怯えが浮かび、一回り老けた様にすら見えた。

無理もないとR1039伍長は察した、彼の戦友のほとんどは死に、自身も死にかけ、今も理不尽な理由による処罰を極度に恐れているからだ。


「心配するな、君は兵士としての義務を果たしたんだ。処罰なんてさせないよ」


Rは兵士をなだめる様に優しい口調で話しかける。


「他に生存者は?あと何人か逃げてたのは見てるんだけど」

「分かりません、あの時皆バラバラになってしまって…もう食われてるかも…」

「落ち着いて、君だけでも無事で良かったよ。助けられて本当に良かった。あ、そうだ」


Rはそう言いつつアサルトライフルの銃口を兵士から逸らして左手でスーツに付けられた収納ボックスの一つをまさぐり、一本の包装されたシリアルバーを取り出した。


「腹減ってないかい?こんなので良かったらあげるよ」

「い、良いのか?あんたのは?」

「僕達はここじゃ外骨格もヘルメットも外せないから食べれないんだ。気にしないで、ほら」


Rはシリアルバーをぶつけない様に気を付けつつ、左手でコツコツとヘルメットを叩き、おどけた様子で肩をすくめて再度シリアルバーを差し出す。


「あ、ありがとう」


足元に転がる瓦礫に四苦八苦しながら兵士はRにゆっくりと近づくとシリアルバーを恐る恐る受け取った。

そして慣れない手つきでプラスチックの包装を千切る。

出てきたのは麦や雑穀、ドライフルーツを砂糖で固めた本物のシリアルバーだった。

思わず男は息をのむ。


「ほ、本当に良いんだな?」

「良いよ、毒とかも入ってない。保証するよ」

促された男はシリアルバーを一口分嚙み千切り咀嚼する。


「うめぇ…」


穀物とドライフルーツの豊潤な風味と砂糖の甘さに男は目を見開き感嘆の言葉を絞り出した。

そして、飢えに促される様にそのまま残った一気にシリアルバーをほおばって貪り食う。


「気に入ってくれたならば幸いだ。そうだ、君の名前を教えてくれるかな?」

「フランシス、フランシス・フィンチ二等兵です。伍長殿、いや旦那」


フランシスの歯の抜けた笑顔がヘルメットのレンズに反射する。

完全にこちらの事を信用したらしかった、餌付けの様に良い気分はしないがR1039は短いながらも地上で行ってきた任務の中で政府側の地上人との付き合いでは嗜好品や甘味を与えるのが信頼構築の一番近道だという経験を積んでいた。

それに加えて今回の相手は物資の欠乏で飢えているようだった。


「僕はさっきも言ったけどR1039って言うんだ、親しい人にはRって言われてる」

「R?10…?それは地上で使うコードネームか何かですかい?」

「いや、本名だよ。うちの決まりで20年以上職務に従事するか短期間に著しい功績を上げないとちゃんとした名前は貰えないって制度があってね」

「へぇ、そりゃあまた変な制度もあったもんだ」

「聞いた事無いの?」

「ええ、他の地下の人は旦那みたいに我々とおしゃべりするのが好きじゃないみたいでしてね」


一通り喋り終えるとフランシスは最後に残ったシリアルバーの一欠片を名残惜しそうな口の中に押し込んだ。


「やっぱり地下の人は良い物食ってますなぁ、俺たちはいつも味の無いゼリーみたいな流動食か不味い固形のエネルギーバーばかりで嫌になっちまう」

「そうでもないよ、地上にいる時は僕たちも味の無いゼリーと水だけさ、ヘルメットの中にストローが付いててそれで吸い出すんだ」

「へぇ、そりゃあやっぱり防護服を外せないからで?」

「それもあるね、ただまあそれは半分ぐらいの理由で、味が良いと必要以上に摂取するからわざとまずい味にしてるっていうのがあるらしいね」

「ひでぇ話だ」

「ああ、全くだよ。君らの食事に至っては全部それで賄ってるんだから始末が悪い。出世したら改善する様に上申するつもりだよ」


食事と上層部への文句を肴に談笑は和やかに進んでいく。

機を見てRは本命の話題を切り出す。


「シリアルバーもう一本あるんだけどさ、あげる代わりにちょっと手伝いをして欲しいんだ」

「良いですけど、何をすれば良いんで?」

「ちょっとうちの小隊まで顔出してさ、状況説明と道案内をして欲しくてね」


フランシスの表情が一気に曇る。


「さっきも言ったけど、君は義務を果たした。僕が到着するまでしっかり現場に留まって陣地を維持してたじゃないか、絶対に処罰はさせない」


強い口調で説得を試みる、上位者として命令して連れていく事も出来たが、それは最後の手段だ。

信頼関係を結んだ方が何事もスムーズにいくとRは考えていた。

他の同僚達はそう思ってはくれていないようだったが、少尉と同期のLだけは自分の考えにも一定の理解をしてくれている。

他者が鞭ならば自分は飴なのだ、少なくとも友人たちはそう思っているのだろう。


「分かりました、旦那の頼みですからね。自分の持っている情報はすべて正直に話します」

「助かるよ、それじゃあ一緒に行こうか」


Rはフランシスを引き連れ路地を再び引き返す。

そしてライト以外にも複数の装置が付けられたヘルメットを弄って通信機を起動する。


「こちら02より01へ、生存者一名を発見。ただちに帰投します」

「お手柄だ伍長、コーラにアイスも付けてやるから早く戻ってこい」

「……?よく分かりませんが了解しました、帰ったら一番高いアイスを貰いますよ」


通信を切ったRはそこで不意に収音マイクが拾った微かな音と何かの別の気配を感じて振り返る。


「旦那?」

「静かに、何かいるかもしれない」


アサルトライフルを構え直し、フランシスを庇いながら周囲を見渡しながらゆっくりと後ずさる。

そこには相変わらず崩壊した建物の瓦礫と都市を侵食する木々しか映っていない。

視界をサーマルセンサーに切り替え、更に探索を試みるが、生物の痕跡らしいものは見いだせなかった。

それ以上何も異変を見つける事が出来ずにサーマルセンサーを解除して銃を降ろした。


「気のせいだったみたいだね、行こう。ジョンソン少尉が待ってる」

「隊長さんは名前があるんで?」

「ああ、優れた兵士で何度も勲章を貰ってる凄い人だから怒らせない方が良いよ、基本的に優しいけどね。あ、あと合流した部隊の隊長とかも同席するかも」

「御手柔らにお願いしますよ旦那…」


Rは再びフランシスを引き連れて歩き出した。

最初は101のあいつや111のおっちゃんを目指して作ったのに気づいたらエンクレイヴソルジャーになってたのは秘密だ。


場面転換で良いのが思いつかないので―――で誤魔化してます。

PIXIVだと場面転換で改ページして誤魔化してたから勝手がまだ分かってないので申し訳ないですが暫くこのままです。

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