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詩*祈りのようなもの*

長い散歩

作者: a i o



あれは

海を望む小山ひとつ丸々

公園にした所で

手入れが行き届いているとは

言い難い人気(ひとけ)のない遊歩道を

木漏れ日を浴びながら

あなたと歩いた


はじめの内は

何度も行き交った言葉も

鬱蒼と生い茂る緑と

起伏の多い道に

次第に鳴りを潜め

わたし達は互いの足音と

ぶっきらぼうな風の音、

そして短く鳴く鳥の声を

静かに拾い集めた


あの時、

明日の話を

していたのかもしれない

固いコンクリートに覆われた

生活の話を


だけれど

滴る汗で張りついたあなたのシャツは

とてつもなく野蛮で

立ち上るような木々の枝は

それぞれに乱暴に美しかったから

わたし達は言葉を忘れ

獣のように黙々と歩き

目に映るものすべてを

分け合おうとし

満遍なくそれを伝えようとした


息遣い

ふとした目配せ

土の湿り気を含んだ匂いと

乱れた生け垣の膨らんだ蕾


もうすぐ秋だというのに

随分暑い日で

燦々と降り注ぐ陽射しは

いつも(すさ)んで疲れていたわたし達を

容赦なく追い詰めた


荒っぽく入れ換える呼吸の中で

次々と生み出される気配が

あなたとわたしの間を

雄弁に横たわり


むせかえるような緑

とげのある幹

上下する肩

熱を発しながら歩む真下の影


閉じ籠る日々の中で

さみしさだけを温めていたから

ふたりに射す陽は

こんなにも眩しい


湧き出るように

紡いだのは言葉ではなく

額縁のない剥き出しの気配で


さらりと乾いた部屋の床よりも

強く踏み締める

石ころだらけの道の中

散歩と称するには

あまりにも敬虔な気持ちで

わたし達は祈った


ひりひりと焼けた肌の痛みに

羽ばたきだけを残す鳥の姿に

踏みつけた小枝の高い()


組み込まれるように

隅々まで

溶け合うように

余すことなく


揺れるお喋りな梢も

点々と落ちる日溜まりも

靴底にこびりついた落ち葉も


触れているのではなく

触れられているから

こんなにも尖ってしまう

そんなわたし達もどうか

意味を問わずとも在ることが

豊かな色彩となりこの世界に

いつまでも絶え間なく吹かれるように


















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― 新着の感想 ―
[良い点] 「意味を問わずとも在る」、当たり前なのに難しいです。浮遊感や没入感、なんというか、つまり、すてきな散歩だな、と感じました。
[良い点] 美しき詩とは、かくの如くという風情で、情景から心が溢れているのがどこまでも素晴らしかったです。 [一言] 触れられるから尖ってしまうという言葉の、その深みに酔いしれました。
[良い点] 自然描写が工夫されてて、よかったです。 祈りが込められているように思いました。
2017/11/11 07:12 退会済み
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