読書感想文 ペトロス伯父の生涯
読書感想文 ペトロス伯父の生涯
私は趣味で抽象代数学を学んでいる。家族には全く理解されていない、きわめてさみしい趣味だ。振り返ると、中学校の数学ではいつのころからか、素数という数を授業で扱うようになった。1とそれ自身でしかわり切れない数(ただし1を除く)という至極単純そうに見える世界に宇宙があるということを、私はこの本で知った。私がこの本をどのようにして知ったかはもう覚えてない。あまりにも昔過ぎることだから。この本は小説なので主人公のペトロスは実在の人物ではない。しかし、実在しそうな実在の人物ならいただろう。数学者の藤原正彦先生もドキュメンタリー番組の中でフェルマーの最終定理を証明しようとして失敗し歴史から消え去ったことすら消え去ったという人がいることを話していたからだ。
この本は3部構成になっている。第1部は主人公のペトロスのおいの「私」の少年時代。第2部がペトロスの生涯、第3部がペトロスの行きついた先、という感覚である。「私」は家にギリシャ数学教会から電話がかかってきたことから、なぜだろうと感じ、ペトロスが実は数学者だったことを知り、「ぼくも数学者を目指してみようかな?」みたいなことを告げるとペトロスは「私」に対して以下の問題を解くように命じる。すなわち、
4以上の偶数は2個の素数の和で書き表せることを証明せよ。
という、問題だった。しかし、学校の数学と違い、どのように取り組めばいいのか検討がつかないまま時間切れとなり、数学者になるな! とペトロスから強く言われる。そして「私」はアメリカの大学に入学して、同級生から上記の問題が実は数学の世界では知らない人がいないレベルの超有名なゴールドバッハの予想と知る。ここから、なぜペトロスがなぜそのような問題を出したかギリシャまで帰って問い詰めるところからペトロスの回想が始まる。
「博士の愛した数式」の小川洋子氏とは違い、著者自身も数学者である。従って細かいリアリティーも十分読み応えがある。
ペトロスはなぜ転落したのか?
そこに人類が絶対にたどり着けない世界が人類は作り上げたということを、この本で読者は知ることができる。
それはもはや神しか知ることのできない世界なのだろう。
従い、人は神を作ったようなものだと私は思うのだ。




