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「ねぇ、ウィン課題やった?」
「うん、でも見せないよ」
「けち!」
「…自分でしないと意味ないじゃん」
師匠の家から魔法学園までは、馬車で1時間かかる。
学園は都のど真ん中にある。
馬車に乗る場所は家から徒歩で20分の峠にあり、サマとウィンは峠に向けて走っている最中だった。
学園への通行手段は決められた時刻に出発する馬車のみで、もしも、時間を逃してしまうと都まで行く手段が無くなってしまう。
問いかけに冷たい返事を返すウィンの態度に、サマは敏感に気づいた。
「…ねぇ、何怒ってんのよ?」
「別に…」
「言いたいことがあるならハッキリいいなさいよ!」
「…今は急ごう?馬車に乗れないと困るから」
逆切れしたサマに、ウィンは動揺もせず、馬車の待つ峠まで急ぐことを促した。
「えぇ…」
ふてくされた表情で返事をするサマの瞳の中に、動揺の色をウィンは見逃しはしなかった。
あえてそれは見ない振りをし、ウィンは黙々と目的地へと急いだのだった。
馬車といっても、王様や貴族の乗る天蓋付きの立派なものでなく、農作業用の木製でできた、荷台である。
山で取れた野菜、薬草などを都まで売りに行くついでに、サマとウィンを乗せてくれるよう師匠が話をつけくれたのだった。
約束の場所へ行くと、一服を終えた、馬車の持ち主「クレス」がこちらを振り向くところだった。
「おはよーさん。サマちゃん、ウィンくん、今日も時間ぴったしやな~」
2メートル近くある身長に、筋肉質とまでは行かないが鍛えられた腕を惜しげもなくあらわにした薄着姿の男は自称永遠の20歳、年齢不詳の商人だった。
野山で取れた野菜や薬草、師匠の調合した怪しげな薬を都で売っているらしい。
らしいというのは、サマもウィンも、都にある学園まで毎朝送り迎えを行ってもらっているが今まで一度もクレスが商人らしく商売を行っているところを見たことがないのだった。
荷台につまれた商品の数々は、二人を家へ送る時には綺麗になくなっているため、朝、サマたちを学園に送った後に市場かどこかで売りさばいているのではないかとサマとウィンは考えていた。
クレスの顔をよくよく見ればそれなりに整った男前の顔立ちであるが、本人は全く外装に気を使っていない。
真っ黒で短めの髪は寝癖でぼさぼさ、不精ヒゲをはやし、左目まぶたには切り傷の跡がうっすらと残っている。
まだ、春先だというのに、袖の無い服に、ダブダブの汚れたズボン。
商人というよりは、職人のような軽装。
本人的には爽やかに笑っているつもりなのだろうが、片方だけの口元を上げて笑う姿は、商人というよりは裏稼業のヤクザものに見えなくもない胡散臭さが漂っている。
「おはようございます。クレスおじさん。あいかわらず悪人づらよね」
歯にモノをかぶせて話したことのない、サマが言う。
「おっ、おい…朝から喧嘩売ってんのかこのガキわ…(汗)」
俺は結構繊細やねんで、おっさんちゃうねん、まだ若いっちゅーねん…とがっくりしながらも、馬の手綱をもち出発の用意をする。
「後ろのったか?2人とも?」
「おはようございます。クレスさん」
荷台に乗り、ウィンがクレスの後ろからまともな挨拶をする。
「おはようさん。あぁ、ウィンはえぇこやな~ごっつ癒されるわ~」
作られた怪しげな笑顔でなく、自然の笑顔で、かわえぇな~と頭なでなでするクレスの姿を見ていたサマが警戒しながら、ぼそりとつぶやく。
「私の弟に、手ださないでよね…」
「出すわけあるかいっ!」
サマの呟きを、聞き逃さなかったクレスが怒鳴るようにして即座につっこんだのだった。