1起床
春の気配もすぐソコに感じる爽やかな朝。
いつもと同じ場所、いつもと同じ時間、いつもと同じ会話。
いつもと変わらぬ、平和な一日が今日も始まると、誰もが信じていた。
「しっしょう!師匠ってば?!」
毎朝の日課である、「師匠を起こすという作業」は、一番弟子のサマが行うことになっていた。
できれば、あまり行いたくない作業であるけれどもこれを行わなければ何も始まらない。
多大な労力を使うため行いたくないのだが仕方が無い。
ベッドの上で毛布を被りなかなか目を覚まさない師匠に声をかける。
「もぅ、朝ですよ!いい加減に目をさましてください!」
少女特有のキンキン声でどなっても、毛布をポカポカと殴っても、全くベッドの上の師匠は起きる気配がない。
「しーしょーうぅぅ」
サマの燃えるように赤い髪がふわっと中に浮いたように見えた。
「うーん。サマぁ。あと、十分寝かせてくれ…」
毛布の端から顔をだし、師匠が言った。
サマは師匠と比べて、気は短い方だ。
その一言により、サマの堪忍袋はぷちっと音をたてて切れたのだった。
「この、ボンクラ魔法使い!いぃ加減にしろー!!!」
声と共に師匠めがけ、炎を塊が中を舞った。
ドォォォン。
「あーぁ、またやっちゃった、、、、」
半壊した部屋を眺めて言ったのは、2番弟子のウィン。
部屋の扉にもたれかかり、ベッドのそばで肩で息をするサマと、あぁぁ、また部屋の修理しないとぉぉと嘆く師匠を見て軽く溜め息をついた。
サマは主に火属性の魔法を得意とする。
魔法使い見習いであるにせよ、先ほどの攻撃を素人が受けたら即死は無いにせよ、大怪我を与えることは間違いない。
師匠が、瞬時に保護魔法をかけていなければ、この部屋も半壊どころでは済まなかっただろう。
その注意をサマに今行ったら余計に話がややこしくなる。
ひとまず、ウィンは伝えるべきことを二人に言った。
「師匠、サマ、朝食できたよ」
「やぁ、ウィンおはよう!今日も良い天気でよかったね!」
ウィンの一言で、機嫌を取り戻した師匠は、さぁごはんだ☆と1階へ向かおうと立ち上がった。
「ちょいまち!師匠は先にこの部屋、魔法で治してからよ!」
ビシィッと半壊した部屋を指差し、サマが言った。
「えぇぇぇ。部屋壊したのって、サマ…」
「なぁんか文句でもあるんですか?!あぁん?」
どすを効かせて師匠につめよる姿は師弟関係というよりは、どこかのチンピラと一般庶民の図に見えなくも無い…
「…は、はい。修理させていただきますぅぅ」
「よろしく」
にっこりと微笑み、ウィンの前を通りサマは階段をおりていった。
「…師匠もこりないよね…、いい加減ちゃんと起きないと」
手伝うと後でサマに怒られること間違いないので、もちろん手伝いは行わない。
師匠に一声かけてウィンもサマの後を追った。
二人が1階へおりた後、半壊した部屋を眺め、つぶやくように師匠が言った。
「二人とも随分と成長しましたね。」
「師匠!早くこないと、師匠の分なくなるからね!」
1階からのサマの怒鳴り声で、ふとわれに返る。
「えぇぇ?! ちょ、ちょっとそれば無いですよ~、すぐ行きますんで、ちゃんと残しておいてくださいよ!!!」
サマに返答しながら、とても、幸せそうに、嬉しそうに微笑む師匠の姿を弟子の2人は、まだ、知らない。