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4話:幻覚魔法




「やってしもた」


 意識を覚醒させて、真っ先に認識したことが「やらかした」である。


 ん?何をやらかしたか、だって?

 入学式にやらかす事なんて、一つしか無いじゃないか。




 俺が寝ている間に、いつの間にか入学式が終了してたわ。






 ――――――――――






「どうしたものかなぁ……」


 講堂に留まっておくのもマズイので、とりあえず外に出てから、これからどうするか考える。


 てかなんで誰も起こしてくれないんだよ。普通、教員とかが起こすもんじゃないの?

 え?寝てる方が普通じゃない?


 その通りでございます。




 陽の昇りを見る限り、時間的には正午をまだ過ぎていない。まだ教室でLHRでもしている頃だろうか。



「――お」


 しばらくしてから、本校舎であろう建物の入口付近に、一枚のホワイトボードを見つけた。

 そのホワイトボードには、それぞれに三枚ずつの厚紙が、マグネットで留められている。


 厚紙に書かれた内容は、クラス分けの詳細と担当教師の説明だった。

 異世界でも、クラス分けのやり方は元の世界と似てんな。


「俺のクラスは……、と」


 最初の厚紙から順に、上からサッと確認していく。

 1-A、1-B、1-C……。


「……1-Dか」


 四枚目の上ら辺に、『ユウマ・アイサカ』と書かれてある。出席番号は二番か。

 俺のクラスも分かった事だし、クラスの教室に向かうとするか。



「それにしても、やっぱりデカいな」


 正面玄関の前に立って、改めて校舎周りを見渡す。

 正門からでも大きいと感じていた通り、そんじょそこらの学校の敷地の大きさとは比べ物にならない。


 ……こんなヤバそうな学校で、やっていけるんか?

 てか一年生に逆戻りしちゃったよ。ほんの二、三日前までは二年生だったのに。

 三年間の最初からまた履修を終えないといけないのか……。面倒だなぁ、憂鬱だなぁ。


 しかしまぁ、こんな事になってしまった以上仕方ない。奇跡の二度目の生が与えられたんだ。精一杯生きてやろう。

 そうだな。せめて学校生活ぐらいはマトモに送っていくことを、最初の目標とするか。


「そうと決めたら、早く行かないとな」


 目標を定め、最初の一日を始めるために、校舎の扉の取っ手に手を掛けた。






 ――――――――――






「……」


 それから早十分。


 各教室では、既にLHRの盛り上がり的な状況に陥っていた。

 もちろん、俺が所属するであろうD組も例外ではなく、クラスメイトの自己紹介で多少の盛り上がりを見せていた。


 そんな中に入るのも……、ねぇ?




 というわけで、現在校舎の二階を散策中です。

 外から見ていたから分かってはいたが、いざ中に入るとほんとに広い。


 廊下の幅も、人が七人並列で歩いてもまだスペースが余るぐらい広い。なんでこんなに無駄に広いんだ。

 踊り場に至っては、詰めればクラス単位で二クラス分ぐらいは入る広さだ。なんでこんなに(ry


 それに反して、教室のサイズはそこまで広くは無い。

 ちゃんと約四十人分ぐらいの机に、若干の余分スペースがあるぐらいの広さだ。

 廊下とかじゃなくて、教室を広くしろよ……。


 ちなみに、二階は三年生の教室が並ぶ階層らしい。

 入学式だからか授業は行われていないが、どのクラス表示プレートにも『3-〇(クラス名)』と書かれていた。



「……ん?」


 なんて悠長に考えながら散策していたら、先程までとは何か雰囲気が違う教室が多く見られる。


 これはあれか。所謂『特別棟』とか言う奴か。

 確かに、本校舎の両脇にはそれらしいものが建てられてはいたけど……。

 普通、そういった目的の建物って、旧校舎だったり、古かったりするのが一般的だと思ってたな。

 俺の元の学校がオンボロだったからか。それが当たり前だと思ってた。


 特別棟に並ぶ教室群の中にも、人の気配は全くしない。今日は二、三年生は終日休校か?

 入学式の時も、新一年生だけだったみたいだし……。



「……?」


 特別棟を何気なく進んでいると違和感に気付く。


 外から確認出来たサイズの割に、やけに教室が多くないか?

 というより、いつになったら階段が出てくるんだ?


 手前の奧から、一室ずつ後ろに数えていく。

 ちょうど俺が立っている地点の教室をカウントに入れて、後ろを向いた時。


「?!」


 廊下が、後ろ側に無限に続いている光景を目にした。



 余りに異様な光景に最初は何が何だか分からず、パニクって窓から外に飛び降りようとした。

 窓の鍵に手を掛けて、外の景色を見たことでふと我に返る。


「……さっきと景色が変わっていない?」


 特別棟に来て最初に見た窓の景色とさほど、いや、全く変わらない景色が見える。

 いやいや、特別棟に来てから少なくとも百メートルは歩いたぞ。床がランニングマシンでもない限り、景色が変わらないなんてありえるか。



 平静を取り戻し、もう一度歩いてきたであろう道を振り返る。


「普通になって……」


 なかった。


 教室の数こそ普通の数になった(であろう)ものの、今度は本校舎との渡り廊下が消失していた。


 何かおかしい。流石にそう考えざるを得ない。

 一体何が原因かと試行錯誤したが、よくよく考えたらここは未知の世界だ。

 大規模領域に侵食する幻覚とかがあってもおかしくはないはず。


 となると、やっぱり魔法?ファンタジー要素?

 学校生活一日目から魔法に出会えるとは、ツイてるねぇ。


 でも根源がどこにあるるのかが分からない。魔法の発生場所が分からない以上、俺にはこの状況をどうにかすることは出来ない。


 助けを待つのもいいけど、折角の機会だ。このままこの特別棟を探検することにしましょう。

 オラより強ぇ奴と会えると思うと、オラワクワクすっぞ。




 まぁ魔法を使えない俺は多分、この学校どころかこの世界で最弱なんだけどね。





 ――――――――――






 それから特別棟を歩き続けること約二十分。



「開いてる……」


 三階にて、一箇所だけ教室の鍵が掛かっていない教室を見つけた。

『魔術実験室』。それがこの教室の名前だ。教室の中は、黒いカーテンで遮られて全く見えない。


 ……細かい説明は省くが、ここに来るまでに大分摩訶不思議な体験をさせられた。

 一階に降りた、と思ったらまた二階の廊下だったり、三階に上がった、と思ったら屋上だったり。

 法則無視の滅茶苦茶な道のりを超えて、ようやく開いている教室を見つけることが出来た。


 ……さっきまでこの教室も開いていなかった気がするんだけどなぁ。


 きっとこの中に魔法の根源となる物、あるいは者が存在する。

 引き戸を開けた途端に何をされるか分からないが、何もしなかったら永遠に帰れないかもしれない。


 おそるおそる取っ手に手を掛け、そっと引き戸を開ける。




「……誰?」


 扉の先には、一人の少女が何やら、机に怪しげな魔法陣を広げていた。

 とても高校生とは思えない、小学校高学年くらいの身長に、長いオレンジ髪をサイドテールにまとめた小柄な少女。

 おそらく、この少女が幻覚魔法を引き起こしている張本人。


「……え〜」


 とりあえずなんて説明したものか。

 もっと禍々しい何かが潜んでいると内心ビクビクしてたから、正直拍子抜けである。


 まさか、こんな小柄な少女が幻覚の原因だとは……。


「……そのネクタイ、一年生だよね?LHRはどうしたの?」

「いや、それは……」


 そうか。すっかり忘れていたが、今はまだ新入生歓迎会的な催しが各クラスで行われている最中だった。

 そんな状況でこんな所にいたら、LHRをすっぽかしてきたと思われてもおかしくはない。


 先生にチクられたりするのだろうか……?


「……とりあえず、立ち話もなんだし、あがって?

 あ、扉は閉めてね」

「それじゃあ、お言葉に甘えて……」


 若干下手に出て、教室の中に入る。

 出入口を閉めると、魔法陣がほんのりと淡い紫色を放っているのが良くわかる。


「はぇ〜……」


 暗闇の中に放たれる魔法陣の光は、どこか別世界に来たような感動さえ覚えるほどに綺麗だった。


 これが魔法か。なんだか、異世界って感じがするな。



「私の魔術に興味があるの?」


 魔法陣に見とれていたせいか、少女が後ろに向かっていた事にも気付かず、急に声を掛けられたと思ってビクッとなった。


 教室の電気を付けた少女は、再び魔法陣が描かれた席に座る。


「幻術なんて、学習してもなんもいい事無いんだけどね」


 幻術。つまり幻覚魔法ということか。


「この校舎一帯を覆うレベルなんて、すごいですね」


 魔法に関してはまだサッパリだけど、とりあえず適当な賞賛の言葉を述べる。


「ううん、これでもまだまだS級の足元にも及ばないよ」


 ???


 よく分からんが、S級ということはとにかくヤバそうな雰囲気のある言葉だ。

 それの足元にも及ばないとは……。S級ってどれだけすごいんだ?


「……で、君はどうしてここにいるの?」

「……実は――」




 説明割愛。




「ふーん……。入学式で居眠りしてたら、ねぇ」


 ほんとに恥ずかしい限りである。

 居眠りで置いていかれることになるとは……。


「ということは、会長の挨拶も聞いてないんだ?」

「はい」

「勿体ないなぁ。魔術師だったら、誰もが一度は憧れる人なのに」


 そんなに有名な人なのか。誰かは知らんが、さぞ有難みのあるお言葉を述べてくれたのだろう。

 俺には特に関係ないけど。


「うん。まぁ、混乱させたことに関してはごめんね?今は部活生もいないし、ちょっと練習してみるつもりでやってたから」

「は、はぁ」


「ちょっと練習」のつもりであれだけの幻覚を見せられるのは流石にヤバくないか?


 戦闘に応用したら、とんでもない魔法になりそうだ。


「でもね?流石にLHRを抜け出してくるのは、お姉さんいただけないなぁ〜、と思うんだ」

「それは……、まぁ」


 この少女の言う通りである。何も反論が出来ない。


 だけど、流石にあんな空気の中で入室しても、確実に俺が浮いた存在になってしまうしなぁ。

 あそこはあそこで、入らなかったのが正解だったような気がしなくもないような。


「……とりあえず!

 放課後になったら、担任の所に行ってから事情を説明すること!いい?」

「……分かりました」


 それはともかく、この少女やけに威圧感があるような気がする。

 なんというか、優しいんだけど、何か指示されたら逆らえない感じ?


 俺より先輩なのは確かみたいだけど、こんな小さい女の子に言うこと聞かされるとはなぁ……。



 ――キーンコーン……



「ん、授業が終わったね」


 少女の説教が終わったと同時に、タイミングよくチャイムが鳴った。


「これは何のチャイムですか?」

「多分、放課後だと思うけど」


 そうか。ならばもう校内を自由に出歩いていいという事だな。


「では、お世話になりました」

「うん、またねー」


 少女にお礼を言ってから、魔術実験室を後にする。



 ……さて。担任に報告だったか。


「気が乗らないなぁ……」


 LHRをサボった生徒として、担任に目を付けられている可能性だって無くはない。それなら、明日また出直してくるのもアリだとは思うが。


 少女に念を押されてしまった手前、行かないわけにもいかないんだろう。


 なんとなく重く感じる足をどうにか動かして、職員室へと向かうことにした。

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