20話:遠征攻略反省会
陽射しが照りつける荒野の真ん中を、アイク先輩が操る馬車が蹄を鳴らしながら、馬車を揺らしながら駆け抜ける。
「あってぃ〜…」
馬車の中には、俺と(アスモと)テールナー兄妹の三人がギュウギュウ詰めになって乗っている。
そりゃあ、ダンジョン内で使うと持ってきていたあれだけの大荷物を、殆ど使わなかったのならここまで窮屈にはなるだろうが。
「そんなに暑いなら、お前だけ馬車の上に乗ってもいいんだぞ」
「ははは、先輩もブラックジョークがお上手で」
そんな事したら丸焼けになっちまうよ。
「ジョークのつもりでは無いのだがな」
冗談ではなく本気で言っていたようだ。
…結局、ダンジョンを生き残って多少は絆が深まったと思っていたんだけど、そんな事を考えていたのはどうやら俺だけらしい。
何でここまで風当たりが強いんだろうなぁ?
「暑いぃ〜…」
「焼けるぅ〜…」
テールナー兄妹も、馬車内のムンムンした空気にあてられてダウンしている。
やっぱり、獣人といってもこの暑さには耐えられないか。
「2人とも、バッグの中に保冷剤があるぞ」
「マジですか!」
「やったぁ!」
アイク先輩が言う通りに、二人が大きなバッグの中を探ると、冷気を放つのが視覚でも確認出来るほどに冷えた小さな保冷剤が二つ出てきた。
二人はそれを、額に当てたり首筋に当てたりして火照った体を冷やしていく。
…アッレェェェェ?????
なんかすごい、扱いに差がありませんかねぇ?
「俺の分は無いんですか?」
「その2つで最後だ。貴様は自分で氷でも作ってろ」
「…俺、炎以外苦手なんで放火するかもしれませんよ?」
「…」
俺のちょっとした脅しに、先輩は少したじろぐ。
「…俺の分の1個を貸してやる」
そして、馬車の手綱を持つ手を放して、ポケットから保冷剤を取り出して俺へ投げる。
やっぱり持ってんじゃねぇか…。
先輩から受け取った保冷剤を、首筋へ当てる。
「あぁ^〜…、ってくっさ!」
めちゃくちゃ汗臭かった。
「貴様、人から借りておいて臭いとは何事か!!」
「いや臭いもんは臭いんですもん」
第一の感想に上がってくるぐらいには臭い。
この人、見た目では汗かいていないように見えるけど、実は背中とかめっちゃ汗をかいているんじゃないのか?
直射日光が当たってるんだから、仕方ないかもしれないけど。
「ええい、やはり返せ!貴様にはもう何も貸さん!」
「そんなー」
ちょっとぐらい、ええじゃないか。減るもんじゃああるまいし。
―行きの旅路とは打って変わって、帰りの旅路はみんな、何処か安堵しているような、そんな雰囲気が伝わってきた。
そして三日が過ぎて、俺たちは会長の根城へ帰ってきた。
―――
「ではこれより、『遠征攻略反省会』を始める」
アルラトス城、その謁見の間にて。
俺たちは大きなラウンドテーブルを囲んで、今回の遠征の反省会を行うことになった。
いやね、びっくりしたよ。
だってさ、急に全員謁見の間に連れてこられたと思ったら、会長がどこから持ってきたのか、ラウンドテーブルを片手で支えて入ってきたんだもん。
そっから手際よく人数分の椅子を並べ始めて、謁見の間があっという間に会議室みたいになっちゃった。
会長が、腐っても一国の領主なんだなぁと実感すると同時に、こんな領主でこの国大丈夫なのかなぁ?とかも思ったりした。
「…で、何で私まで参加してるのかなぁ?」
何故かこの場には、生徒会でもなければうちの生徒でもないエリーがいた。
―ダンジョンを脱出した後、会長はエリーにご馳走したいということで、彼女にも同行してもらうことになった。
エリーは最初、その誘いを遠慮していたが、会長の持ち前の強引さと、生徒会メンバーによる説得に押し切られて、最終的にその誘いに乗る形になった。
…やっぱり、同じ部外者にしたって扱いの差が酷い気がするんだが。
まぁ、エリーは生徒会各員にとっても命の恩人みたいなもんだしね。しょうがないね。
「もちろん、貴公の証言も反省点にふまえたいと考えたからだ」
「証言って…」
裁判じゃあるまいし。
「何より、最もユウマとダンジョン内で行動したのもまた貴公だからな。その点で、ユウマの成長ぶりを聞いておこうと思ってな」
確かに、エリーとはダンジョンで一番長く時間を過ごしたかもしれない。
だけど、ダンジョン内ではエリーが殆どの魔物を倒していた。
俺に成長する余地があったかどうかは、定かではない。
「はぁ…。まぁいいですけど」
釈然としない様子のエリーは、めんどくさくなったのか適当に納得する。
この会長と下手に会話をしようとしたら話が拗れることが多いからな。対処法としては、それが一番だ。
気を取り直して、遠征攻略反省会が始まった。
「ではアイク・ノルド。先ずは貴様の報告から聞こう」
「ああ。俺は目的地に着いた後―」
―アイク先輩の状況報告から始まり、シーナ、アルト先輩、ソーマ、シルヴィ、エリーの順番で、次々とダンジョンでの出来事を説明していった。
俺が知らない場所で、みんなも死地を乗り越えていたんだな。
特にアイク先輩なんかは、ドラゴン、もとい龍種とも戦って、しかも一人で生き残っている。
まさか、先輩の実力がそこまであるとは…。
といっても、あの龍種は元々、本来の実力を発揮出来ていなかったらしいし。
アイク先輩が戦う以前にも、アルト先輩とソーマがダメージを与えていたみたいだし、勝てないことは無いのかもしれない。
…となると、俺が戦ったあの龍種は、二組との戦闘によって相当手負いの状態だったのか。
それだけダメージを負っておいて、よくエリーとアルト先輩の攻撃を凌いだものだ。
「―では、最後に貴様の報告だ。ユウマ」
俺以外の全員の手番が終わり、俺の報告の順番が回ってきた。
みんなの報告を聞く限り、ありのまま起こったことを話せばいいようだが。
「あ…ありのままダンジョンで起こったことを」
「ああ、やはり貴様には質問に答えてもらうことにするか」
ええ…?今渾身のネタを使おうと思ったのに…。
この世界にこのネタが通じる奴なんていないけどな。
「ユウマ、その指輪の使い心地はどうだ?」
「―」
やはり、何か知っているのか。
というより、今の発言で殆ど確信した。
「暴食、ベルゼブブの言っていた『マブダチ』というのは、会長なんだな」
「うむ。どうやら、少しは話を聞いているようだな」
会長は仁王立ちのまま、至って冷静にそう答える。
なるほど。仁王立ちの所とか、大胆不敵な所とか、見れば見るほど暴食の面影がある。
「封印したのも、会長か?」
「そうだ。
160年ほど前か。『大罪戦役』の終わりかけの頃だ。
其奴は自分自身の為に魔神と戦っていた。
その為の暴食も、完全に使いこなせていたと思い上がっていた時だ。
其奴は、いや、英雄たちは大罪の力に飲み込まれ、理の破壊者と成り果ててしまった。
英雄たちは最後に残った自我で魔神を討伐したが、其奴はその直後に自我を失い、見境なく世界を破壊した。全く、他の6人は自分自身で封印を施したというのに…。
しかし、我の元にやって来たのが早い時期だったのがせめてもの救いだ。
我は其奴と死闘を繰り広げ、最後にその指輪、『烙印の指輪』に閉じ込めたというわけだ」
突然の昔話に、皆も唖然としていた。
まさか、大罪戦役にそんな結末があったなんて…。本にはそんな事は書いていなかった。
というより、会長今何歳なんだよ…。
「…つまり、ユウマ君が今している指輪には、七つの大罪のうちの1人、『暴食』が眠っているという事ですか?」
先に声をあげたのはエリーだった。
確か、エリーは暴食を求めてあのダンジョンに潜り込んだんだったな。
「そうだ。しかし眠っているわけでは無いぞ?
…いい加減、黙っていないで少しは口を開いたらどうだ、メニット」
俺に向けて、いや、俺の指輪に向けて会長は語りかける。
その声掛けに暴食は。
【ハッ、ようやく会えたなぁ!!?
久しぶりじゃねぇか、キュリィィィィ!!】
と、あの時と変わらぬうるささで、頭に響くような声をあげた。
「相も変わらずうるさい奴だ…。少しは慎んだらどうだ」
【ようやく因縁の相手に出会えたんだ、これが黙っていられるかよぉ!!】
「うるせぇ」
因縁かどうかは知らんが、俺の指にハマった状態で大きな音を出すな。腹に響く。
【おうユウマ!殴れ!今すぐあいつ殴れ!!】
「だから黙れって!外にまで響くだろうが!」
なんか、俺と会った時よりテンション高くないか?
それもそうか。ようやく親友と再開出来たんだもんな。
「ていうか、お前喋れたのかよ…」
【ああ。
一応、お前の耳に入ってきた音や、視界に入った物は全て俺にも分かるようになってるんでな】
「僕のプライバシーはどこですかー?????」
それってつまり、コイツをつけている限り俺のやる事成す事全てが共有されるってわけだろ?
それってつまり、俺が将来ギシギシアンアンすることになっても、コイツには筒抜けってこったろ?
もし、そん時になってコイツに喚かれてみろ。
その場のムードとかテンションとか、全て吹き飛ぶぞ。
【安心しろ!
お前がリンクを解除している時、つまり指輪を外している時は何も聞こえないし何も見えない!ついでに喋ることも出来ないからなぁ!!】
「なんだ、ビクビクさせんなよ…」
もうコイツずっと外してようかな。どこかに捨てるのもいいかもしれない。さすがにしないけど。
「…あなたが『暴食』、なんですね?」
エリーも、会長と同じように俺の手元を見て話しかけてくる。
【ああそうだけど?】
「だったら、一つ聞きたいことがあります」
今までに見たことが無いほど、とても険しい表情でエリーは指輪を見つめる。
「“四つめの禁忌”というのは、実在するんですか?」
「禁忌…?」
エリーの問いに暴食は答える。
【ハッ、それはどこから得た情報だ?】
「大分前に、情報屋から聞きました」
【そうかい。
…お嬢ちゃんとキュリー、それとユウマ以外は部屋から出ていってくれ。話はそれからだ】
「待て」
と、会長が制止を掛ける。
【んだよ?】
「まだ『遠征攻略反省会』が終わっていないではないか」
「「「「「…….」」」」」
あ〜、そういえば途中だったなぁ…。
「…皆の時間をあまり取る訳にもいかん。簡潔にまとめることにしよう。
ご苦労だった。我が不在であり、加えて例年よりも厳しい環境下で、よくぞ欠けることなく帰ってきてくれた!
前年から生徒会にいる2人は、今回の遠征を通してより実力を身につけたことだろう。
新入生にとっては、今回の遠征で得た経験を思い出せば、どんな逆境も乗り越えていけるはずだ!
貴様らは、他の生徒には出来ない得難い経験を積んだ!この日を糧にして、これからの人生を力強く歩んでいって欲しい!
帰るまで合宿は完了ではないが、ひとまずこれで『遠征攻略反省会』は閉会とする!以上、解散!」
その言葉で、反省会は終わりを迎えた。
「1ついいですか?」
「む、なんだシーナ」
直後、シーナが会長に問いかける。
「会長は一体、何処に行っていたんでしょうか」
そういえば、会長の行き先については何も聞かされていなかったな。
遠征出発直前になって、急にどこかへ行ってしまったし。一体何をしていたんだろうか。
「なに、北の大陸に野暮用だ」
とだけ答える。
「そうでしたか。ありがとうございます」
シーナも疑問が晴れたのか、そう言って謁見の間を後にした。
―――
「…さて、と」
「私とユウマ君、会長さんの3人だけになりました」
先程とは打って変わって、本来の姿を取り戻した謁見の間。
そこには、先ほど指定された三人だけがその場に残っていた。
【お前も聞いていくか?会長サンよ】
「聞くのではない。一緒に説明してやらねばならんだろう。
…何より、玉座の間に王が不在で、他の者が立ち入るなどあってたまるか」
【フッ、そうかよ】
暴食は一拍置いた後。
静寂に包まれた部屋に、音を響かせた。
【―じゃあ、“禁忌”について説明してやる】




