12話:四面楚歌~ユウマ・アイサカの場合①~
洞窟に突入してから五時間程だろうか。
もう洞窟の中を大分歩いた。が、人はおろか、生き物と出会うことも無かった。
「・・・はぁ」
さっきから、溜め息をついてばかりだ。溜め息は幸せが逃げる、とは言うが、どうにもさっきから無意識に出してしまう。
・・・精神が参ってきているのかもしれない。独りでこんな暗いところに潜っていたら、不安になってくるのも頷ける。事実、今の状況に若干ビビっている。
大分前だけど、爆発音も聞こえたし・・・。
俺自身はそう思っているつもりは無いが、意識は勝手にそう感じているのかもしれない。
「せめて、弱そうな魔物ぐらいなら独り言を呟くことも出来るんだけどな」
そんな事をするイッてる奴なんていないとは思うが、今の心境だと、そんな事をしてしまう可能性もゼロではない。
・・・いや、さすがにしないだろう。そこまで参ってはいない。
「・・・分かれ道、か」
そんなこんなで道を歩ていると、岩壁で出来た道に分岐があった。
・・・困った。
ゲーマーとしては、どちらも探索してみたいもんではあるけど。流石に、こんな状況ではそんな事は言ってられない。
ここは、直感で選ぶとし
「グルルゥ・・・」
「・・・」
・・・右側の道から、犬のような鳴き声が聞こえる。それも一つではない。
ヒタヒタと、足音がこちらに近づいてくる。
もしかすると、まだこちらに気付いていない・・・?
道の僅かな窪みに隠れて、息を殺して鳴き声の主の様子を伺う。
「・・・」
ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ・・・。
耳を澄まして奴らの足音を聴く。どうやら、ここに来る気配はない。
「グルルゥ・・・、スンスン・・・」
・・・スンスン?嫌な予感が・・・。
「・・・ガウッ!!ガウガウッ!!」
と思ったら、急に吠え出す。足音の間隔が短くなる。足音がこちらに近づいてくる。
間違いない。これはバレた。
「ガァウッ!」
「へぁ!?」
こちらを捉えたワン公が、噛み付くように襲いかかってくる。間近でその姿を見て、驚愕した。
ガブ、ガブ、ガブ、と、右腕と右肩、横腹の右の方に噛み付かれた。
「ケルベロス・・・!」
一つの体から生えている三つの首。一つ一つの顔は、狂犬そのもの。
俺が知っている言葉で言うと、『ケルベロス』が一番しっくりくる。
なんて冷静に分析している場合ではない!右上半身が噛まれているのだ。傷は治るといえど、痛いものは痛いのだ。
「っ、『炎針』!!」
フリーな左手で針状の炎を作り、横腹のケルベロスの顔にぶっ刺す。
「ギャウンッ?!」
反撃に怯んだケルベロスは、耐えられずに残りの二頭も俺の腕から離れる。
「痛っつ・・・!やってくれたなワン公」
かなりの力で噛み付かれたせいで、即座に回復しない。痛みも引くのが遅い。
いつもなら、噛まれたぐらいならすぐに痛みは治まるんだけどな・・・。
「さて、どうするか」
ケルベロスは、残りの二頭が魔術で潰された頭を回復させようとしている。
そんな事されたら、また不利になるな。
「させるか、『火炎弾』!」
左手で拳銃の形を作り、人差し指の先から魔力を込めた炎の弾丸を何発か撃ち出す。
それをケルベロスは、軽快な動きでヒョイヒョイ避けていく。
なんてすばしっこい・・・!
「グルルァウ!!」
そうやってじゃれついている間に、ダメージを与えた頭が完全に回復してしまった。
「グルルゥ・・・!グルァ!!」
警戒を見せた後、ケルベロスの咆哮と同時に、奴の足元に魔法陣が浮かび上がる。
その周りに岩石が何個か出現し、同時に、こちらに向けて射出された。
「『煉獄弾』!」
迎撃用に、煉獄弾の威力と速度を弱め、代わりに弾数を多くする。
このような魔術は、一個一個の弾に魔力と意識を込めないといけないから、かなり苦手な部類の魔術なんだけど。
土壇場では割とどうにかなるもんだ。
ドッ、ドドドドッ!!
ケルベロスの岩石と、俺の煉獄弾が次々と衝突し、辺りを爆風が覆う。
今なら、逃げ出せる。そう思って爆風の中を、ただ闇雲に突き進む。
「ガアァッ!」
「え?!」
考えてみれば、相手は犬だ。辺りが見えなくても、聴覚と嗅覚は人間とは比べ物にならない。
相手が魔物であるなら、尚更だろう。
ケルベロスが、爆風の中でも見えるぐらいの距離に近づいてきた。
・・・仕方ない。
「・・・遠隔、『火炎弾』!」
左手で魔力を振りまくイメージをしながら、術式を唱える。
炎の弾丸が色々な方向から、俺を巻き添えにケルベロスを撃ち抜く。
「ギャウッ・・・!」
「ぐっ!」
何発かは外したけど、ケルベロスを倒すまでのダメージは与えたはずだ。倒せていなかったとしても、俊敏性は大きく削がれたはず。
・・・しばらくして、爆風が晴れる。
ケルベロスの体には、七発分程の弾痕がある。俺の足元で、先程までの活発さが嘘かのように、野垂れていた。
「・・・はぁ、はぁ・・・」
終わった。
魔物との戦闘。何とか勝てた。
「・・・奥の手を仕込んで置かなければ、喰い殺されてたかもな」
最初の火炎弾に、あらかじめ余分な魔力を仕込んで置いたのが勝因だ。植え付けられた魔力が、俺の魔力によって術式を発動させた。
自分の体を囮に使った、ある意味特攻のような作戦。
やり方は、会長にみっちり叩き込まれた。
まったく、会長はこんな事まで予測しているとは・・・。
「・・・それにしても」
体のダメージに耐えきれず、俺もその場に倒れ込む。
「・・・もう少し上手く、立ち回れたら、無駄な、被弾、は・・・」
駄目だ、このままだと気絶してしまう。こんなとこで無防備になるなんて、「殺してください」って言ってるようなもんだ。
ああ、でも。少し眠いな・・・。
せめてもの、俺の傷が回復するまで襲われない事を祈りながら、その場で眠りについた。
---
「・・・」
・・・。
柔らかい。頭の部分に、何か柔らかいものが敷かれている。
おそるおそる、目をそっと開けてみる。
「・・・あ、起きた?」
目の前に映るのは、女の人の顔と二つの谷。
二つの谷、というのは分かりづらいか。おそらく、この状況を察して考えるとするなら、それは-。
「っ痛つぅ?!」
なんて考えていると、体に激痛が走った。
「ああ、まだ動かないほうがいいよ?傷は完治してないから」
「・・・そう、だな」
少女の言う通り、今は体の回復に意識を回すとしよう。
「・・・足、疲れないのか?」
「別に?わたし、これでも鍛えてるから」
「そうか・・・」
なら、このままの状態を維持しててもいいのか。ここは少女に甘えさせてもらおう。
-程なくして、意識も覚醒し始めてきた。周りの状況を音で確認してみる。
「・・・焚き火?」
パチパチと、炎が燃え盛る音が聞こえる。
「洞窟の夜は寒いからね~。別に洞窟に限った話じゃないけどね」
洞窟。という事は、この少女は冒険家なのだろうか。
「それにしても、何の装備も無しによくケベスを倒せたね~。それも1人で」
ケベス。あの三頭犬の事だろうか。
「ケルベロスって名前じゃないんだ」
「ケルベロスは、多分あれよりももっと強いよ。それに、ケルベロスっていうのは神話上の生き物でしょ?」
そうだったのか。てっきり、普通にケルベロスが生息しているものなんだと思っていたけど・・・。
てか、ケベスて。「ケ」ル「ベ」ロ「ス」をとって付けただけじゃないか。
「呪術も受けたから、君の回復までにはまだ時間が掛かりそうだ」
呪術か。道理で回復が遅すぎるわけだ。
「なんか、退呪系の魔術とか無いのか?」
「生憎、わたしは系統外魔術は専門外なんだ」
「そうなんすか・・・」
まぁ、そう都合よく覚えているわけ無いよなぁ。正直、こうやって助けてもらっただけでも感謝なわけですし。
「呪いって、自然に治るもんなのか?」
「ん~。
術にもよるけど、術者が死んでから早ければ5時間くらいで解呪されることが多いよ?」
「・・・なぁ。俺が倒れているのを発見してから、大体何時間経った?」
「3時間くらい?」
三時間か。という事は、このダンジョンに突入してから大体八時間が経ったのか。
確か、ダンジョンに入る前は昼前ぐらいだったよな・・・。
・・・アスモとかは、無事かなぁ。
「心配事?」
「・・・女の人って、読心術でも習得してるの?」
なんか、この世界に来てから女性に心の中を見透かされている気がする。
俺って、そんなに分かりやすいかな?
「わたしで力になれるか分かんないけど、遠慮なく言ってご覧?」
「・・・実は-」
---
「・・・へぇ。学校の生徒会のメンバーで来てるんだ?」
「・・・もしかしたら、今頃どこかで倒れ込んでいるかもしれない」
一通り、少女にこちらの事情を話した。少女は、こちらの話を静かに聞いていた。
「・・・生徒会のメンバーは、何人で来たの?」
「・・・俺を含めて、六人と一匹です」
「そっか。なら生き残ってる人もいるかも」
人数を聞いた少女は、少し安堵して笑みを漏らす。
「なんで言いきれるんだ?」
「このダンジョンの転移トラップの行き先は、4箇所に絞られてるんだよ。
君が1人でここに転移させられたって事は、他の5人と1匹は残りの3箇所に行ってるよ」
「詳しいんだな」
「そりゃあ、ここに入る前に入念に調べたからね」
調べたのか。てっきり、ここは未開のダンジョンなのかと思っていたけど。そんな事は一言も言ってなかったな。
「均等に分けられるなら、二人ずつだけど・・・」
「もちろん、ダンジョンのトラップに均等性なんて無いよ?」
「ですよね」
・・・まぁ、とにかく。皆が生き残っている可能性があるだけでも、収穫もんだ。
後は、この呪いと体が回復すれば・・・。
「・・・よっ、と」
膝枕から起き上がり、今度は視界で周囲を確認する。
周りは、岩壁でドーム状に囲まれた大きな空間。
隣には、燃え盛る焚き火。
小柄な体に、白銀の髪をツインテールに纏めた、青眼の少女。体のサイズに反してデカい。ナニがとは言わない。
そして、辺り一面に広がるケベスの死体の群れ。
「・・・んんんん??????」
あっるぇぇ??
確か、上の三つは特に違和感は無いもののはずだよなぁ・・・?
そうか。呪いのせいで幻覚を見せられているんだ。きっとそうに違いない。
目を擦って、もう一度、周囲を見渡す。
周りは、岩壁でドーム状に囲まれた大きな空間。
隣には、燃え盛る焚き火。
小柄な体に、白銀の髪をツインテールに纏めた、青眼の少女。体のサイズに反してデカい。ナニがとは言わない。
そして、辺り一面に広がるケベスの死体の群れ。
_人人人人人人人人人人人_
> 死 体 の 群 れ <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
え、何これは・・・。
「・・・全部、一人で?」
「うん。だって危険でしょ?」
いやいやいやいやいやいやいやいや。だったら他のとこ探せばいいじゃないですくぁ。
「・・・ここを拠点にする必要、ありゅ?」
「ここはこのダンジョン全体の通路に繋がってるからね。ここを拠点にすれば、動きやすいから」
な、なるほど・・・。確かに、岩壁には無数の穴が開拓されている。全部と繋がっているというのは、あながち嘘では無さそうだ。
かと言って、さすがにケベスを全滅させるのは、ちょっとやり過ぎでは・・・?
ていうか、一人でこの量を相手に勝つって。あなたどんだけ強いんすか。
俺なんか、自分の体を犠牲にしてやっと一匹だったのに・・・。
「もしかしたら、君の友達とも合流出来るかもね」
・・・確かに、ここが全てと繋がってるなら、あいつらもいずれここに辿り着く。
いつになるかは分からないけど・・・。
「・・・全部と、繋がってる、か・・・」
「どうしたの?」
「・・・ていうことは・・・」
「?」
もしかしたら、俺の目の錯覚かもしれない。そうであって欲しかった。
「・・・なんか、洞穴から色んな生き物が顔を出してるように見えるんですけど・・・」
「ん、そうだね~」
そうだね?!
この人、こんな絶望的状況を「そうだね」の一言で片付けましたよ!
「君は、死なないように自衛しててね。ちょっと片付けてくるから」
「え、おま」
呼び止める前に、少女はぞろぞろと出てくる魔物の群れに突っ込んでいった。
「・・・こマ?」
オソルオソル、ウシロヲフリカエル。
「◼◼◼ー!!」
あ、これ死んだ。




