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16話:マジックレッスン

「・・・ふむ、まあ読めない文字ではなくなったか」


 教卓の前でうちの教師が、足を組みながら俺の提出した紙をヒラヒラさせている。


「よし、確かに受け取った。寮は5月頃に開放するから、今の内に引越しの準備を済ませとけ」


 ここ数日の訓練が功を奏したのか、申請は受理されたようだ。

 この世界で生きるのだから、文字はちゃんも習得しとかないとな。


 ヤバイ、思い出しただけで気分が・・・。


 と、朝のHRの開始を告げるチャイムが鳴った。


「ではお前ら席につけ、重要なことを話すぞ」



 ―――――



「ヤベェよヤベェよ、どうしよう」


「一体何を悩んでんだコイツは?」


「そっか、確かシルジアルはその時まだいなかったか」


 今日は土曜日(にあたる日)、授業はいつもより早く終わる、いわゆる半ドンとか言う奴だ。

 だが、朝に担任から聞かされた連絡に俺の気分はドン底に落とされていた。


「コイツ、魔術の腕が絶望的だからな」


「あー、テストでこうなってんのか」


「やめろ、それ以上頭痛を起こさせるな」


 そう、ウルスの言う通り来週の月曜、二十二日には魔法のテストがある。

 あの腕でテストを受けるとなると、やはりあの先生にはなんか言われるし、クラスでは笑いものにされるだろう。

 別にそんなの気にはしないけどね。


「そんなに気にすることはないと思うけどな」


 リーナがフォローをしてくれているが、俺が気にしているのはそういうことではない。


「次に学校の備品壊したら弁償代が来るんだよ・・・」


「・・・まあ、どうにかなるさ」


 ウルスが肩をポンと叩いてくれる。


「・・・富豪、そんなに心配なら明日あたしに付き合え」


「・・・へ?」


 ―――――


 翌日の日曜日(この世界に曜日の概念は存在しないが)。


 俺はリーナと商店街の本屋で待ち合わせをし、合流した後に冒険者区に来ていた。


「で、なんで冒険者区に?」


「魔術の練習と言ったら、当然魔物退治だろ?ついでに金も稼げるし」


「まもっ・・・」


 魔物狩りとな。


「さ、さすがにトーシロのわたくしめにそのようなことが出来るとは思えないのですが・・・?」


 魔物狩りなぞしたことないし、そんな俺が戦場に出たら即死する未来しか見えないが。


「安心しろ、いざとなったらあたしが助けるし、そんな危険な依頼クエストを受けるつもりもないぞ」


 素人の俺にもできるクエストって、一体何があるんだよ・・・?


「っと、着いたぜ。ここが冒険家が集まる場所、通称『ギルド』だ」


 リーナと会話をしながら歩いていると、いつの間にか目的の場所に着いていたようだ。


「はえ~・・・、立派な建物だな」


 そこには、周りの建物と比べて一回り大きい煉瓦造りの建物が建てられていた。

 屋根に取り付けられた看板には、『冒険家ギルド エニストル支部』と書かれていた。


「んじゃ、依頼(クエスト)取ってくるから少し待ってろ」


「りょーかい」


 そう言って、リーナは建物の中に入っていった。




 ーーーそれから数分後。


「ーまぁ、炎属性の魔術だったらスライムが丁度いいな」


 リーナがギルドの建物から出てきた。


「なぜにスライム?」


 もっと他に、ゴブリンとか色々いるはずでは?


「スライムは炎属性の魔術に滅法弱いんだ。蒸発するから分裂することもないからな」


「ということは、水系統の魔法とかは逆効果とか?」


「そう、水属性は吸収してしまって逆にスライムが大きくなってしまう」


 なるほど。どっかのRPGではスライムに水系の魔法撃つけど、この世界ではそれダメなのか。


「なら水属性でなければいいか、と言うとそうでもない。スライムの特徴は無限に分裂することだ。スライムの個体数が分からなくなったが最後、あいつらに隙を突かれて取り込まれてオシマイだぞ」


「・・・スライムって、怖いな」


 ちょっと、スライムのイメージが塗り替えられたわ。

 こんな世界でなら、スライムは初級モンスターのようなものだと思ってたんだけどなぁ。


「・・・あと、『魔法』じゃなくて『魔術』だ」


「なんか違うのか?」


 そう聞くと、リーナは肩をガクッと落とした。

 なんか、聞いてはいけないことだったか・・・?


「・・・もういいや、とにかく日が暮れると活性化するから早く行くぞ!」


「お、おう」


 リーナはやや早足で北にある門へと歩き出し、俺もそれに続いた。


 この世界の常識って、分かんねぇなぁ・・・。



 ーーーーー



 この世界では、死んだ生物の蘇生は出来ない。ということは無いらしい。


 リーナからの情報によると、生物が絶命してから一定時間はその場に生命の残滓というのもが残るらしい。

 その生命の残滓に蘇生魔術、または『生命の雫』と呼ばれるアイテムを使うと生物は蘇ることが出来るとか。

 しかし、その蘇生魔術は習得するのがほぼ困難と言われ、生命の雫は超高額だと言う。少なくとも、どちらも俺たちのような一学生が手にすることは無いレベルらしい。


 取り残された生命の残滓はと言うと、この世で彷徨い続ける悪霊と化すか、魔物が凶暴化する原因となる『狂霧(マドミスト)』となるかのどちらかである。

 なので、大抵の冒険者グループは、死んだ仲間の魂は浄化することがほとんどらしい(浄化と言うが、ただ炎熱系の魔術で残滓を燃やすだけ)。


 今までのは道中リーナから聞いた話だ。

 なぜ唐突にこんな話をするのかと言うとー。


「くっそ、こっちに来るなよ!」


 俺がそうなりそうだからだ。


「・・・一体何をしたらそうなるんだ」


 俺にも分からんよ。

 炎が弱点言うから火炎球(ファイアボール)乱射してたのに、なんで最初より増えてるんでしょうかね?


「・・・ったく、しゃーないな」


 岩の上で足をブラブラさせていたリーナが岩の上から飛び降りると、突然奇妙な行動を取り始めた。


「ん゛ナニソレ?」


 リーナは右手で銃の形を作っていた。こんな時に遊ぶとは、随分と余裕だな。


 そう思って少し嫌味を言おうとしたその時ー。


発射(トリガー)


 リーナがそう言うと、拳銃の先から小さな火炎球が連続で打ち出された。


「うえ、ちょ、熱っ!」


 飛び火がこっちにも降りかかる。スライムの近くにいると危険だ。

 後ろに飛び退いて、リーナの魔術を観察する。


 ー数秒後には、スライムは最初の数ぐらいにまで減少していた。


「ん〜、やっぱまだ魔力の消費がダメか」


 リーナは少々不満げに人差し指に息を吹きかける。


「な、なんだよ今の魔術!」


「ん、火炎球だけど?」


 いやいや、サイズも全然違うし。あんなに連発出来るもんなのか?


「ここまでやれなんて言わないが、少なくともこの数ぐらいは富豪の火炎球で飛ばさないとな」


「・・・と、飛ばせるの?」


「さあ?あたしなら出来るけど」


 リーナは両手を上げて、分からないのポーズを取ってみせる。


 スライムは、小さいと言えど何をしてくるか分からない。

 俺が燃やしても何故か効かない。


「・・・ちゃんと詠唱してからやってみたらどうだ?」


「え?」


 岩の上で、今度は頬杖をしているリーナから提案が出た。


「詠唱短縮なんて、慣れてからするもんだぞ。ちゃんと詠唱しないから、魔術が変になる」


 そんなのがあんのか。詠唱の役割って大きいんだな。


「・・・えー、我が血のもとに、精霊よ集え。大地は自然にくぁwせdrftgyふじこlp《火炎球(ファイアボール)》」


 あんな長いの覚えているわけないじゃないですかヤダー。


 すぐに右手に炎の球が出来上がった。今回は前みたいに大きくなるような暴走はしないようだ。


「・・・え、これ投げていいの?」


「嫌ならそれで直接殴ってみたら?」


 右手を一回転させて、スライム目掛けて火炎球を投げる。


 すると、先程とは反応が変わり、スライムは煙を発してみるみる小さくなり、最終的には跡形もなく消滅した。


「・・・死んだ?」


「いや、まだ残滓が残ってるから死んではないな」


 そっか、確かにスライムも生命の一種だもんな。

 ・・・一種なのか?


「早く片付けないと、死ぬかもしれんぞ」


「なんで?」


 リーナは上を指さした。


「・・・あー」


 気づけば、もう夕方になろうとしている。

 確か出る前に、夜は魔物が活性化するとか言ってたな。


「じゃあ、手早く片付けるか」


 スライムに向き直って、右手に火炎球を作り出す。

 そして、その火炎球をスライム目掛けて投げる。


 今度は、詠唱無しでもスライムが完全に消滅しきった。


「あれ?さっきまで増える一方だったのに・・・」


 スライムは残り三匹。さっきまでならこれが五匹になっていたはずだけどなぁ。


「ま、いいか。この調子で片付けるか」


 照準を付けてトリガー、照準を付けてトリガーを三回繰り返すと、スライムの群れはは完全に消え去った。



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