14話:聞けます読めます書けません
「おいアイサカ、なんだこの文字は?」
「はい?」
放課後、俺は担任のミーナに呼び出されていた。
先生が手に持っているのは、今日俺が提出した寮の使用申請書だ。
「字が汚いならまだ分かるが、お前のこれは原形を留めていないぞ」
「・・・ああ、そうか」
申請書に書かれているのは日本語だ。
この世界に日本語があるわけもなく、先生が読めないのも無理はない。
「はぁ・・・。期限は25日までだ、“ちゃんとした”文字で提出するように」
ちゃんとしたを強調すると、申請書を押し付け、先生は机に向き直って事務作業を再開した。
まさか、ここで言語の壁にぶち当たるとは・・・。
仕方なく、俺は図書館に向かい言語の勉強をすることにした。
ーーーーー
「・・・言語ってのは、昔からやってないと身につかないんだな」
本に書かれていた文字をあらかた写し終え、そんな当たり前のことに気付く。
大体、何で読めるのに書けないんだよ。そこは書けるようにしておくか言語統一しておくべきだろ神様さんよ。
ノートに写した自分の汚い文字と本の文字を見比べてみる。
ヤバイ、これゲシュタルト崩壊するわ。
「おや、ユウマ君じゃん」
「あ、ストリエス先輩」
背後からストリエス先輩に声を掛けられた。
「クルーシャでいいってば。で、何してんの?・・・って、何このノート」
「あー・・・、これはですね」
なんと説明すればいいのだろうか。さすがに文字が読めないから勉強してました、なんて言えない。
「もしかして、文字が書けない・・・とか?」
「そ、そんなことないですよ」
「ふ〜ん、じゃあなんで?」
「・・・あ、あれです!文字が汚すぎると言われたので練習してるんです!」
「図書館でやる必要、ある?」
「落ち着くじゃないですか」
「へぇ〜、まあなんでもいいけど」
どうやら諦めてくれたようだ。
「どれどれ、お姉さんが教えてあげよう」
そう言って、先輩は隣の椅子を俺の隣に持ってきて腰掛けた。
「ほぉ〜、確かにこれは少し汚いな〜・・・」
ノートの文字に一通り目を通して、先輩のレクチャーが始まった。
「ユウマ君、ここはちゃんとこう、丸みをつける感じで・・・ー」
先輩のレクチャーは、閉館まで続いた。
ーーーーー
「先輩、今日はありがとうございました」
「いいよいいよ、どうせ暇だし」
学校からの帰り道、先輩と二人で商店街の大通りを歩いていた。
いつも通り、街中は食事を楽しむ人達の声や、吟遊詩人が謳う音などで賑わっていた
「この国はいいよね、平和だよ」
先輩が寂しそうな口調で呟いた。
最初は聞き流そうかと迷ったが、口にするということは聞いて欲しいという解釈で聞いてみる。
「他の国は違うんですか?」
「さあ、少なくとも私のいた土地よりは大分平和だよ」
寂しげな表情は消えず、先輩の声は少し小さい。
「・・・なーんてね!折角可愛い後輩とこんな楽しい所にいるんだから、暗くしてたら駄目だよね!」
かと思うと、先輩は顔を上げていつもの明るい声に戻った。
「なんか、感情の浮き沈みが激しいですね。先輩って」
「浮き沈みじゃないよ、常に浮いてるよ」
さっき沈んでたんですが。
「ユウマ君、折角だからどこかで一緒にご飯食べようよ。わたしが奢るからさ」
「え、いいですけど・・・。金なら俺が出しますよ?」
「いいっていいって!後輩に奢られる先輩ってなんかヤだし」
先輩は俺の手を取って、突然歩き出した。
「ちょ、先輩・・・」
「丁度あっちに良さげなお店があるからあっちにしようよ!どうかな?」
「べ、別にいいですよ」
俺と先輩は少しオシャンティーな店の中で夕食を取ることにした。
ーーーーー
「さて、好きなの注文するといいよ」
「・・・本当にいいんですか?じゃあ・・・」
-一通り注文し終えると、ストリエス先輩の方から話を切り出してきた。
「・・・ユウマ君、後輩の君にこんな話をするのもなんだけどさ・・・」
「いいですよ、奢ってくれる分の仕事はします」
大体の予想はしていた事だ。おそらく何か人に言えないことをさせられるのだろう。
とは言ったものの、先輩がそんな人には見えないけどなぁ・・・。
「別にそんな何かさせるわけじゃないよ。ただ、私の話を聞いて欲しいだけ」
話を聞く?
何かさせられると思ったけど随分と拍子抜けだ。
「昔話だよ。ある1人の人間の」
「はぁ・・・、聞くのはいいんですが・・・」
どうして俺にそんな話をするのだろうか。愚痴ぐらいなら他の友人にも出来るだろうに。
「良かった、断られたらどうしようかと思ったよ」
「減るもんじゃないですから」
「そう、じゃあお言葉に甘えて。どこから話そうか・・・」
そして、ストリエス先輩の話す一人の忌み子の話が始まった。




