~ 第九話 さぁ帰ろう ~
んん……、朝から騒がしく鳴る呼鈴の音で目が覚めた。
眠い眼を擦りながらドアを開けると、金色の眼をキラキラ輝かせ、アイラが笑顔で立っていた。
「おはようレオ! まだ寝てたのか?寝坊助だなー」
そう言って俺の腕に絡んできた。
「あら、レオ、随分親しげですが、いったい何処のどちら様ですか……」
背後からゴゴゴゴ……と音が聞こえそうな程の殺気を放ちながら、セリスが俺とアイラの間に割って入る。
「ま、まった、とにかく説明するから、二人とも中に入ってくれ」
不機嫌そうな二人を前に据えて椅子に座った。
「さて、バラバラに話すとまとまらない。二人の紹介も含めて俺が話すから二人とも聞いてくれ」
誤解が無いよう俺がセリスとパーティーを組んだ時のことから、昨日のアイラとの出来事まで二人に説明した。
「……と、いう訳で、色々と展開が急だった事と、タイミングが合わなかっただけで、今日二人にはちゃんと話すつもりだったんだよ。俺が早起きして先にセリスに話しをするべきだったな、ごめん」
飲み過ぎて寝坊してしまった俺は、反省の念も込めてセリスに頭を下げた。
「あわわっ、やめてよレオ! 私そんなつもりじゃ、昨日は私がいなかったんだから仕方ないよ」
「大丈夫だレオ、アタシはいつでもレオの味方だからな」
アイラはフサフサ尻尾をブンブン振りながら腕組みをしてドヤ顔を見せる。
「なっ!? ちょっと何言ってるのよ私だって!」
「まったまった、これから勇者になって大魔王を倒さなきゃいけないんだからさ、仲良くしてくれよ」
「え?」
「え?」
「あ……」
あ、勢いで言ってしまったよ俺……うわぁ、二人とも呆気に取られてるし……
と、すぐに口を開いたのはアイラだ。
「さ、さすがレオ! 目標は大きく持たなきゃな、アタシはどこまでもついてくぞ!」
「わ、私だって頑張るんだから!」
「あ、あはは……ま、まぁなんだ、そういう事だから、二人ともよろしく」
ふぅ、こんなタイミングで言うつもりはなかったんだけど、まぁいいか、いずれは言わなきゃだったし。
話しがまとまったところで、正式にアイラをパーティーに加入させた。その時、アイラが首を傾げて不思議そうな顔をしている。
「どうした、アイラ」
「あ、あぁ、それが、パーティーに入った時、レベルアップした感じがしたんだよ……でも上がる訳無いしなぁ……」
アイラはギルドカードをマジマジと見ている。
「あれっ? 加護が増えてるぞ……アタシの加護は風だけだったのに、雷の加護が増えてる! ラッキー!」
ふむ、これもエルフィエールの支援の影響なんだろうか、なんにせよ仲間の強化は素直にありがたい。戦闘を行うにあたり、加護の影響はかなり大きいのだ。属性攻撃に対する耐久性も上がるし、攻撃技や魔法にも作用する。
ちなみに、炎、風、水、地、が基本四属性で、雷、闇、聖は結構なレア属性らしい。俺の天という属性に至っては、ギルド職員すら知らなかった。
俺達が加護の話しで盛り上がっていると、不意に呼鈴が鳴った。
この二人の他に来客とは珍しいな、ドアを開けると、ギルド職員の制服を着た若いホビット属の青年が立っていた。
「レオ・ファルシオン殿にギルドより召集通達です。至急お越し下さい。」
ホビット属のギルド職員は通達状を俺に渡し、丁寧に一礼して去っていった。
とりあえず急いでギルド会館に行ってみるか。
「うーん、ギルドから直々に召集か……なんだろうな」
「何か心当たりはないの?」
「これといって全くだなぁ」
「食い逃げでもしたんじゃないのか?」
「そんな訳ないだろ、アイラじゃあるまいし……」
そんなやり取りをしている内にギルド会館に着いた。中に入り職員に通達状を見せると、待合室奥の別室に通された。
「よぉ、待ってたぜ、レオ」
そこには見知った顔が待っていた。アイラの兄でギルド職員のガウラさんだ。
「え、召集通達って、ガウラさんからですか?」
「まぁ立ち話もなんだ、とりあえず座れって。ん? そっちの嬢ちゃんはお初だよな?」
「初めまして、私はレオの一番目のパーティーメンバーで、治療術師のセリス・ミーティアと申します。以後お見知りおきを」
セリスは自己紹介をしてちょっと不機嫌そうにソファーに座った。
「おし、それじゃ今回の指名依頼の内容を説明するぞ」
「え? ちょ、ちょっと待ってください。指名依頼ってどういう事ですか?」
「ん? あぁそうか、悪りぃ悪りぃ、普通は指名依頼なんてもんはベテラン冒険者にしか来ないもんだからよ、つい分かってるつもりで話しちまった。」
うん、俺が思うに獣人属という種族は事務系には向いていないと思うんだ……
「んじゃ基本的なところから説明すっか。まず、ギルドからの召集通達は二種類あってだな、例えば、大がかりな捜索や、強力な魔物、魔族の襲撃等、大勢で速やかに対処しなければならない緊急クエストだ。これを受け取ったパーティーは、余程の事情が無い限り断る事は出来ない」
ギルドの恩恵を受けるからには、何かあれば手伝えってことか、なるほど。
「そんで二つ目が、今お前達に来ている、依頼主がギルドを通して直接個人、又はパーティーに依頼をする指名依頼って事だな。これに関しては、依頼内容を聞いた上で断る事が出来る。そして断った場合はフリークエストとして掲示板行きって訳だ」
そこまで話すと、ガウラさんが何枚か束ねた書類を俺に差し出した。
「さて、それじゃあ本題に入るぞ。まず、依頼主はエゼル村の村長からだ。次に依頼内容だが、先日お前とアイラが帰った後すぐの事らしいんだが、村の裏山で規模は小さいが土砂崩れが起きて、そこの斜面から人が一人ようやく入れる程の横穴が見つかったって事だ。」
「その横穴を俺達に調べて欲しいって事ですか……」
「ま、そういうこった。んで、どうする? もしかすると未開の迷宮発見で、お宝ザクザクの可能性もあるが、高難易度のヤバイ迷宮って事もある。まぁ殆どの場合、只の洞窟でしたってオチだがな」
なんだよエゼル村、イベント盛り沢山だな、村長呪われてるんじゃないのか……
うーん、どうするか……
「セリスとアイラはどう思う?」
「これは行くしかありませんよ。勇者を志す者が困ってる人を助けなくてどうするんですか!」
「そうだぞレオ!勇者になるなら人助けして宴だ!」
「ちょ、二人とも待った!勇者連呼しないでくれっその、なんだ、そういうのは胸に秘めておくもんだろ!」
「ぶっ、ダーハッハッハッハッ!いや、スマン、レオ、お前勇者目指してんのか、クックック、いや、いいんじゃないか? 男は夢を大きく持たないとな!」
くっ、何だこの公開処刑は……あぁあれだ、家に帰ったら隠しておいたエロ本がベッドの上に綺麗に積まれていた時の気分だ……
「兄貴笑いすぎだぞ! レオはいつか必ず勇者になる! この程度のクエストなんかちょちょいと解決してくるから話しを進めろよ」
アイラ、なんていい子……セリスもウンウンって頷いてるし、プレッシャーが半端ないぜ。
「あぁ、すまなかった。決して馬鹿にしたつもりは無いんだが、もう何年も勇者なんて言葉すら聞かなかったもんでな、嬉しくなっちまってよ。んじゃま、この依頼は正式にレオが受けたって事でいいな、気を付けて行ってこい!」
全ての話しを終え、部屋を出たところでガウラさんに呼び止められた。
「レオ、これを持ってけ」
そういって紫色に淡く光る小さな水晶玉をくれた。
「そいつを敵に投げつけると、どんな強い奴でも暫く動けなくなるレアアイテムだ。一度しか使えねぇから使い所を間違えるなよ。」
「こんな貴重なアイテム、いいんですか?」
「あぁ、妹を助けてくれた礼だ、気にすんな。ほら、行った行った」
そうして、ガウラさんに追い立てられるようにギルド会館を後にした。
「よし、それじゃ急いで準備して、今日中にエゼル村に向かおう。」
まずは武具屋でアイラの装備を整えるか……
「おっちゃん、今日は闘士用の装備を買いに来たんだけど、掘り出し物ないかな?」
「おぅ、お前さんか、闘士用の装備ねぇ、使うのは……そっちの獣人の嬢ちゃんか、加護の属性は何だ?」
「アタシの加護属性は風と雷だ。イケてるだろ」
「ほぅ、風はともかく雷たぁ驚いた。ふむ、もっとレベルが上がれば雷を活かせる武具もあるんじゃがのぉ……お、そうじゃ武器なら風を活かせるとっておきがあったわい。」
そういうと、おっちゃんは高そうな武具の並んだ棚から一つを持ってきた。
「こいつは鎌鼬の爪といってな、風の魔力を宿しておる。使い手が上手くコントロールしてやれば、真空波を飛ばして離れた敵にも攻撃出来る優れものじゃ」
「なんだよおっちゃん、杖とか爪はそんなにいい装備があるのに何で剣はないんだよ」
「剣は需要が多いからのぉ、すぐに売れてしまうんじゃ」
まぁ無いものは仕方ない、とりあえずアイラの装備を揃えよう。
「んじゃ闘士用の装備を一式、おっちゃんのオススメで。あ、武器は鎌鼬の爪で」
「……お前さん、どこぞの貴族かなにかか?」
結構な金額をポンっと支払う俺におっちゃんとアイラが呆気に取られていた。
アイラ現在の装備
鎌鼬の爪
鋼のハチガネ
鋼の胸当て
鋼の腕輪
「レオ! なんかアタシ三倍くらい強くなったかもだ!」
「そりゃ頼もしいな」
アイラは新しい装備が気に入ったらしく、嬉々として色んなポーズを取っている。その隣ではセリスがやれやれといった表情だ。
この二人は本当に対照的だなぁ。
さて、後は道具類だな……
念のため、三人で持てるだけ各種ポーションを買い込んだ。
その後少し遅めの昼食をとり、エゼル村に向かって出発した。
途中アイラが新装備に慣れておきたいと言うので、少し街道を外れて戦闘をこなしていった。
それでも暗くなる前にエゼル村に到着できた事で、着実に強くなってきていると実感できた。
村に入るとすぐに村長の家に通された。
「おぉレオ殿、こんなに早く来てくださるとは。皆さんお疲れでしょう、食事でもしながらゆっくりと話しましょう」
「やったー! 飯だ飯だー!」
「ちょっと、アイラってば静かにしてよ!行儀がわるいんだから」
「そんな事言って、セリスだってさっき腹の虫鳴ってたの聞こえてたぞ」
「なっ!鳴ってないもん!聞き間違いだよ!」
やれやれ、仲が良いんだか悪いんだか……あれでいて二人とも戦闘中はキリッとするんだから面白いよなー。
俺が騒がしい二人を眺めていると、不意に村長が話し出した。
「さて、依頼した横穴の件ですが、村の若い衆に調べさせたところ、横穴は奥に進むにつれ広くなってゆき、突き当たりには扉があって開けたところ、魔物の唸り声のようなものが聞こえたので、すぐに引き返してきたそうですじゃ」
「なるほど、何かある事は間違い無さそうですね……」
「ですな、手付かずの迷宮かもしれぬゆえ、お宝が眠っておるやもと思い、まずはレオ殿達にと」
「あ、ありがとうございます!」
「なんだかドキドキしてきたよ、レオ、頑張ろうね」
「フフフ……レオ、アタシに任せろ! サクッと魔物を倒してお宝は頂きだ!」
「ほっほ、喜んでもらえたようで何よりですじゃ。部屋を用意してあるので、今日はゆっくり休んで明日より調査されると良いでしょう」
村長はブラッドウルフの件のお礼と言ってたけど、何から何まで至れり尽くせりで申し訳ないな……
それから暫く村の人達と酒を酌み交わし、明日に備えて早目に部屋に案内してもらった。部屋割りは俺が一人、セリスとアイラが同室だ。まぁ当然か、ちょっとドキドキしてたのは内緒だ。
その夜、明日への期待と緊張からか、俺はなかなか寝付けなかった。
……思えば今までこんなに深く人と関わった事、無かったなぁ。本当のところ、今だって面倒臭い、出来れば何も考えずにノンビリ生きていければそれでいい。なんて思っている自分も残っている。
だけど、そんな生活じゃ一生感じる事が出来なかったであろう想いが、怠惰な俺を驚くほどの勢いで変えてくれてるのも事実だ。
あぁ、これが楽しいって事なのかな……
うぅ、何か気持ち悪いな、そんなに飲んでないはずなんだけど、便所行ってから……あれ、体が痺れて起き上がれない……くっ、頭もボヤける……助けを、呼ばなきゃ……
俺は必死に叫ぼうとしたが、声もまともに出す事が出来なかった。
何とかしなければともがいている内に、ベッドからずり落ちてしまった。その時、ドアが開いて誰かが入ってきた。
「あ……た、たす……け……て」
俺はその誰かに向かって必死に手を伸ばした。
「ハッ、まーだ意識があんのかよ、鬱陶しい奴だ」
霞む眼に映ったのはあの男だ、セリスとパーティーを組むなと言い、厚かましくもパーティーに勧誘してきたあの男が何故ここに……
「ふんっ、納得がいかねぇって顔だな、まぁいい、冥土の土産に教えてやるよ、お前はな、ここの連中に売られたんだよ、村長の娘と引き換えにな!」
「ぐぅ……ど……どうい…う…ことだ」
「なーに、別にお前らに大した恨みがある訳じゃねぇんだがよ、問題はお前らが受けた依頼の洞窟だ。ちょいと調べたが、ありゃ本物だ、手付かずの迷宮なんてお前らにゃ勿体ねぇ」
くっ、不味い、セリスとアイラは無事なんだろうか……痺れが酷くなって……駄目だ……
「それでな、村長の娘を返す代わりにお前らを始末して、ギルドには洞窟には何も無かったと報告する。お前らは三人揃って村には来てない。行方不明だって筋書きだ」
くそっ、こんな事が許されるのか……
「俺も色々と入り用でな、仲間もすぐに行かせてやっから、悪く思うなよ。じゃあな!」
やめてくれ……いや……だ……
俺の眼に最後に映ったのは、あのクソ野郎の剣を振り下ろす姿だった……
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……………………
………………
…………
……
…
どれくらい眠ってたのかな……とても長い夢を見ていた気がする……
どんな夢だったっけ……楽しかったような、いや、悲しかった?それとも……
ふぅ、もういいや、考えるのも面倒臭い……というか、ここは…
青白く光っている見覚えのある天井と壁、振り返るとエルフィエールが不機嫌そうに近付いてきた。
「やれやれじゃの」
「俺は……死んだんですね……セリスとアイラは無事なんですか!?」
「ふん、お前よりも先に殺されたようじゃ」
「くそっ!なんなんだよあの野郎!」
「お前を殺した男、元はそれなりに名の通った貴族の出だったんじゃが、今はすっかり没落してな、今回も野盗共と結託しての事じゃ。相当金に困っておったようじゃのぉ」
「だからって……だからってそれが人を殺していい理由になんかなる訳がない!」
「ほぅ、お前は実につまらん事を言う」
「どういう事だよ!」
「ふんっ、頭に血の上った小僧が……では問うが、如何なる理由であれば人を殺してよいのじゃ」
「なっ!理由も何も、人を殺していい訳がないじゃないか!」
「そうかそうか、ならばその言い分を好きなだけ説いてくるがよいのじゃ」
エルフィエールが杖をかざすと、俺の体は一瞬で光に包まれた。
光が消え目を開けると、そこは中世ヨーロッパの騎士のような格好をした兵士達が争っている、戦場のど真ん中だった。
兵士達は目を血走らせ、雄叫びを挙げながら剣で斬り、槍を突き出し、まるで獣を思わせる形相で戦っている。
俺はその只中で、数分と経たずただの肉塊になっていた……
気が付くとまたあの部屋だ……
エルフィエールが腕組みをしてしてこちらを見ている。
「どうした? お前の崇高な理由とやらは通じなかったのか」
「……何が言いたいんですか……」
「よいか、お前とお前の仲間は死んだ。理由などお前の都合に過ぎぬ。 甘え、油断でしかないのじゃよ。お前ごときが今更、人が人を殺す理由を唱えたところで何になるのじゃ。今お前がやるべき事を間違えるでない!」
「今俺がやるべき事……」
「ふんっ、我にここまで言わせて解らぬようならその無駄に輝く魂を浄化してやるから、そこへ直るのじゃ!」
「……エルフィエールさん、もう一度あの世界に行く事はできますか」
「……ふむ、行くのは構わぬが、本気で勇者となり大魔王を倒す気はあるのか? 今のように呑気にやっておったら100年経っても叶わぬぞ」
「いくら平和ボケしてた俺でも、毒を盛られて首を落とされた上に、仲間を殺されたら本気にもなりますよ」
「そうか、ならば死んだ仲間の為にもやってみせるのじゃ」
「え、セリスとアイラは戻してもらえないんですか」
「無理じゃな、新たに仲間を探すのじゃ」
「そ、そんな……俺を戻せるんだからセリスとアイラも……」
「なんじゃ、何故そこまであの二人にこだわるのじゃ」
「……あの二人に出会ってなければ、こんなに短期間で俺の中に人間らしい感情が湧く事は無かったと思うし、何より一緒にいて楽しかったんですよ! 甘っちょろいと言われるかもだけど、上手く言えないけど……俺自身不思議に思ってますよ、でも……仲間なんです……」
「ふむ、あぁそうじゃ、一つ言い忘れておった、お前が大魔王を倒した暁には褒美を用意しておったのじゃ。」
「褒美……ですか?」
「そうじゃ、大魔王を倒した褒美として、今の記憶を持ったまま、というのは無理じゃが、お前の望むままの願いを叶えた状態で新しい世界に転生させてやろうぞ。」
「じゃ、じゃあ元いた世界に金持ちイケメンで戻れるんですか」
「いや、一度魂が存在した世界を15日以上離れると、二度とそこへは戻れぬのじゃ」
「そうなんですか……」
「それでも悪くない報酬じゃろうが、好きな世界へ好きなように転生できるのじゃからな。」
「そうですね……でも何故急にこの話しを?」
「うむ、ここからが本題じゃ。お前の仲間二人を生き返らせる事は可能じゃ。」
「えっ、それじゃあ!」
「まてまて、そう急くでない。よいか、お前の仲間二人を生き返らせる事は、あの世界を救うという意味では、さほど必要性が無いのじゃよ。つまり、お前に協力するなら誰でも良いのじゃ。それは分かるじゃろ?」
「まぁ、俺の感情を抜きにすれば……」
「うむ、という事はじゃ、お前があの二人を指名して生き返らせるという事は、お前に対して報酬の先払いという事になるのじゃよ。更にお前の魂には制約がかかり、今の世界以外への転生は一切出来なくなるが……どうじゃ、それでもあの二人と戻るか?」
「そうですね、いくら無敵状態で転生出来ても記憶が無いんじゃ今の俺には関係無い話しです。って事で、報酬は二人の復活でお願いします!」
「そうか、分かった。もう何も言うまい……」
「あ、それから聞きたい事があるんですが」
「なんじゃ、言ってみるがいい」
「俺達が元の世界に戻るにあたって、もう少し支援をしてもらえませんか、最初の転生の時はあまりに急すぎて、まともに考える事すら出来なかったので……」
「あぁ、そ、そうじゃな、確かに少しばかり転送が早かったような気がしないでもないのじゃ。と、特別に許可してやるのじゃ」
「ありがとうございます。ではそうですねぇ、レベルとステータスがイジれないとなると悩みますね……」
「うぬ? それも可能じゃぞ」
「えっ、だって前に出来ないって言いましたよ?」
「うむ、確かに言ったが、それは今の世界にとってのお前は、我が無理やりねじ込んだ異物だったからであって、今回あの世界の完全な住人になるのなら、突然強大な力を持ったとしても異物とはみなされないのじゃ」
「よし、それなら勇者になるのも大魔王討伐も楽勝ですね」
「そうとも限らんのじゃ。いくらレベルやステータスが最高値になったとて、所詮は人の身、限界値はそれなりじゃ。まぁそれでも今の大魔王は覚醒してさほど時が経っておらぬ故、一人でも討伐可能なはずじゃ、たぶんな」
「なるほど、なら俺達三人のレベルとステータスを限界まで上げて下さい」
「なっ! お前という奴は……ぬぅ……半分じゃ。 仲間の二人は限界値の半分程度までしか上げられぬ、当然他の支援も行えぬぞ」
「何か制約でもあるんですか?」
「……我の限界じゃ! 我の支援を顕現させるには天力を使わねばならぬ。つまりそういう事じゃ!」
なるほど、見習い天使の限界か、これ以上何か言うとよろしく無さそうだな。
よし、これでいい……覚悟を決めろ!
「わかりました。色々とありがとうございます。」
「まったく、ここまで手がかかる奴は初めてじゃ」
そう言いながらエルフィエールがパチンと指を鳴らすと目の前に二つの魂が浮かび上がった。次に杖をかざして呪文を唱えると、みるみる内にセリスとアイラの姿になった。
だがセリスもアイラもピクリとも動かない……失敗したのか?
「心配するでない、この二人にはここで話した内容を記憶の中に刷り込んでおいた。感動の再会とかいう茶番はあっちの世界でやるのじゃな。では送るぞ!」
俺達は魔方陣の輝きに包まれ、再び異世界へ、いや、自分の世界へ戻るのだ。