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~ 第六話 報われた努力 ~

 自力でマッドラビットを倒した事で、良い意味で緊張が解けた俺は、次に見つけたマッドラビットをさほど苦労する事無く倒した。

 振り返ると、少し離れた所でセリスがもう一匹のマッドラビットにトドメを刺していた。


 次の瞬間、俺の手の甲の水晶が一瞬熱くなった。

 何事かと水晶を見ると、2という数字が浮かび上がっていた。

 特に強くなったようには感じないが、レベルアップだ。

 思わず飛び上がって喜びそうになったが、グッと堪えてセリスに伝えた。


「俺、レベル2になったみたいだ」


 ばつの悪そうな顔の俺を見てセリスはすぐに察した。


「レベルアップした人の顔じゃないよ。レオ、私は大丈夫。だから普通にして? 」


「そうだね、今からこんなんじゃ駄目だね、ごめん。」


「もうっ、謝らないでよ。それより私、お腹すいちゃった。チョット早いけどお昼にしよー」


 セリスのお陰で変な空気はすぐにかき消された。


 セリスって凄いな……もし逆の立場だったら……すぐに挫折しただろうな。

 そんな事を考えながらマッドラビットの串焼きを頬張った。


 食事を終え、火の始末をした後すぐに狩りを再開した。

 探すのに少し手間取ってしまったが、残りの五匹も陽が傾く前に倒す事が出来た。

 そして俺はレベル3になった。

 やはり強くなったようには思えないが、レベルアップは素直に嬉しい。早くセリスにも味あわせてあげたいものだ。


 さて、クエスト達成の報告だ。

 受付にあの綺麗なエルフのお姉さんがいたので、毛皮と依頼書を渡して完了報告をすると、初クエスト達成おめでとうと、俺の手を握ってきた。


 隣で完了報告をしていた獣人の冒険者がその様子を見て俺を睨んできたが、それよりも突き刺さるような視線を浴びせてくるセリスの方が恐かった。

 報酬の200クルネを受け取り、早々にギルド会館を出た。


「なによあの人、手なんか握っちゃって!」


「ま、まぁまぁ、きっと俺の事からかってるんだよ。そんな事よりさ、初クエスト達成のお祝いって事で、美味しい物でも食べに行こうよ」


 俺がそう言うと、すぐにセリスの機嫌が良くなった。


「じゃあ私、一旦宿に戻って着替えてくるね。水浴びもしたいから少し時間かかかるけど、レオの家に迎えに行くね。」


 そう言って手を振りながら走っていった。

 そういえば俺も着替えが無いな……ふむ。

 まだ時間もあるし、買いに行くか。

 知らない店は面倒臭いので、セリスに連れていってもらった服屋に行く事にした。


 お、今日もあの時の女の子がいる。そろそろ店じまいなのか、片付けをしている。


「こんにちは。もう終わっちゃったかな?」


「あ、えっと、全然まだ営業中だよ! あれ、今日は一人?」


 俺が一人で来たと言うと、嬉しそうにモジモジしている。セリスが見たらまた喧嘩になりそうだ。

 とりあえず、何着か合いそうな服を選らんで欲しいと頼むと、あっという間に三着用意してくれた。

 これで暫くは着替えにも困らないな。

 支払いを済ませて急いで家に帰り、水浴びをして着替えを済ませてセリスの迎えを待った。


 外が暗くなってきた頃、呼び鈴が鳴った。

 ドアを開けると、いつもとは違った雰囲気のセリスが立っていた。なんというか、ふわっとした女の子らしい格好だ。

 実に可愛らしい。


「あ、この格好、変かな?」


 上目遣いで恥ずかしそうに俺を見るセリスに、思わず眼をそらしてグッと親指を立てるのが精一杯だった。

 顔がイケメンになっても中身までは変わらないのさ……


 俺達が向かったのは、エストレアの街で美味い酒と飯といえばここっ。と評判の酒場、狐の尻尾亭だ。

 店に入ると、厳つい冒険者や鎧を着た衛兵、派手な服を着た貴族と思われる者、種族関係無く酒を酌み交わし、豪快に楽しんでいる。


 店員に案内されて、俺達は窓際のテーブルについた。

 座るとすぐに威勢の良い人属のウェイトレスさんがジョッキを二つと、豆の入った小皿をテーブルに置きながら話しかけてきた。


「おや、お客さん、見ない顔だけど、ここは初めて?」


 突然置かれたジョッキに驚きながら、俺はうんうんと頷いた。

 するとウェイトレスはニカッと笑い、話しを続ける。


「オッケー、なら説明するね。まず料理はお任せコースのみで、酒は最初の一杯はサービスだけど、おかわりは別料金ね。あと、店の中で喧嘩はご法度、破ったらこわーい店主にお仕置きされて出入り禁止になるからご注意を。はい、それじゃ楽しんでいってねー」


 そう言ってウィンクしながら離れていった。

 なんというか、格好いいな。


 ウェイトレスの背中を見送っていると、セリスがツンツンと俺の手を突っついてきた。


「さ、レオ、乾杯しましょ」


「ああ、そうだね、では改めて、初クエスト達成を祝して、乾杯!」


 木製のジョッキのため、合わせた音こそ洒落てはいないが、気持ちは上がる。

 一口煽ると、想像していた物とは違い、芳醇な香りと、柔らかな甘味、最後に残るほのかな渋みがウンタラカンタラ……

 どこかのソムリエ辺りならそんな感想を言うのかな。


 ぶっちゃけ、俺の感想は、ちょっと渋めのブドウジュースってとこだ。

 プハーっと同時にジョッキをテーブルに置きながら、二人顔を見合わせて笑った。と、次の瞬間セリスの顔が曇った。


 セリスの視線の先を見ると、奴らだ、ギルド会館で俺にセリスとパーティーを組むなと言ってきた、あの感じの悪い男と取り巻きだ。

 何か嫌味の一つでも言ってくるのかと思ったが、男はフンッとそっぽを向いて、それ以降こちらを見る事も無かった。


 さっきのウェイトレスが言っていた、ここで揉め事を起こすと出てくるという、恐い店主ってのが相当効いてるみたいだな。

 なんにしろ、せっかくの楽しい打ち上げを邪魔されないのはありがたい。素晴らしい店だね。


 その後、次々と出てきた料理も素晴らしく美味しかった。

 ひとしきり、飲んで食べて大満足で店を出た。

 少し飲み過ぎたので、夜風にあたって酔いを醒まそうと言う事になり、広場のベンチに二人して腰かけていた。

 ふとセリスが話し出した。


「私、レオにお礼言わなきゃと思ってたの」


「え、突然どうしたの?礼なら俺の方がよっぽど……」


 突然の事に、慌てる俺を見てクスッと笑って話しを続ける。


「実はね、前に私がここに座ってた時に、レオが起こしてくれてありがとうって、話しかけてくれたでしょ? 実はあの時、もう故郷に帰ろうかと思ってたの……」


 セリスが下を向いてポツポツと語る。

 なるほど、前のパーティーの奴等に嫌な事を言われて落ち込んでただけじゃなかったのか。


「あぁ、母様の言ってた通り、冒険者になるのは厳しいのかなって。もう誰もパーティーに入れてくれないだろうなって……でもレオが現れて元気をくれた。もう一度頑張ってみようって思えるくらい。だから、レオ、ありがとう……」


 包み隠さず感謝の気持ちを伝えてくれるセリス。人の言葉とは、こんなに心を揺さぶられる物なのか。

 俺は今まで極力他人に関わらないよう生きてきた。それが一番楽だ。と思っていたのに……俺は……


 その後暫く雑談をして、明日もクエスト頑張ろうと約束をし、別れた。


 その夜、ベッドに潜った後もなかなか寝つけなかった。元世界での17年を振り返っていた。

 情けない事に胸に残るほどの物は何も思い浮かばなかった。エルフィエールの言う、輝き満タンは伊達じゃないって事だ。

 変われるのかな……俺……変わりたい……な……

 珍しく夜の長さを感じながら眠りについた。


 次の日も同じようにマッドラビットの毛皮集めクエストを受け、無難にこなした。

 俺のレベルは6になったが、セリスは1のままだ。

 うーん、どうすればセリスのレベルは上がるのだろうか。


 本来であればセリスの母親に聞けば良いのだろうが、ここからは歩いて一ヶ月もかかるそうだし、手紙を送ろうにもセリスの一族は外界との接触を断っているので難しい。

 一応ギルドにも情報が無いか聞いてみたが、レアエルフの冒険者なんて聞いた事が無いと言われた。


 次の日、いつものようにギルド会館で駆け出し用掲示板見ると、至急と書かれた依頼があった。

 内容は、本日中にロックマンティスの羽一枚。と書かれている。


 ロックマンティスとは。

 大きさは人よりも少し小さく、岩のようにゴツゴツした表皮からそう呼ばれている。気性は荒く、攻撃力は高いがHPは低いので、一匹であれば駆け出しでも倒せるとの事。


 初めての敵に少々不安を覚えたが、これを受ける事にした。

 ロックマンティスは、その名の通り岩場に生息する。

 基本的に群れを作らず、単体で行動するとの事なので、囲まれたりする心配はない。


 ということで、一時間ほど歩くと街道を少し外れた先にゴロゴロと大きな岩があちらこちらにころがっている。

 どうやれここが狩場らしい。


「ロックマンティスは岩に張り付き擬態して獲物を待ち伏せしてるの。だからこうやって……」


 えいっ!とセリスは拳大の石を投げて少し離れた岩にぶつけた。

 セリスが言うには、擬態したロックマンティスはとても見つけにくい為、石を岩にぶつけて驚かして擬態を解かせるのだそうた。


 そういう事なら、と俺も石を投げる。

 結構離れた岩に見事カツンと命中した。すると、デカいカマキリが両手、いや、両鎌を振り上げ飛び出した。

 キチキチキチと嫌な音を鳴らしながらジリジリと近づいてくる。


『私が後ろから気を引き付けるからトドメはレオがお願い。』


 セリスの声が頭の中に響く。やっぱイヤリング便利だな。


 俺がロックマンティスの正面で、剣を振り回し引き付ける。その間にセリスが後ろに回り込み、ロックマンティス目掛けて思いきり石を投げる。見事に背中に命中だ。

 反射的に後ろを向いたロックマンティスの首めがけ剣を振り抜く。

 会心の一撃だ。ロックマンティスの首がボトリと落ち、暫くして動かなくなった。

 俺の手の甲の水晶が暖かくなる。レベル7になった。


「ナイスアシスト!」


 気持ち良く連携が決まり、セリスに声をかけると……

 ん?セリスの様子がおかしい。震えている……

 ロックマンティスの攻撃を受けたのかと慌てて駆け寄る俺に、セリスはゆっくりと手の甲の水晶を俺に見せた。


 なんと、セリスの水晶にはゆらゆらと10の数字が浮かび上がっていた。


 俺は思わずセリスの手を取ってマジマジと水晶を見る。

 間違いなく10の文字が浮かんでいる。


「やった……レベルアップだよセリス!」


 思わず大声を出してしまう。


「えぅぅ……良かったぁぁぁ……」


 セリスは泣きながらその場にペタんとへたり込んでしまった。

 なるほど、レベルアップしない訳でも上がりにくい訳でもなく、セリスの母親が言ってた通り、上がり方が【特殊】なのだ。


 セリスがレベルアップの喜びに浸っている間に、俺は依頼品の羽を切り取って紐で縛った。

 帰りの道中、セリスはずっと笑顔で、いつになくお喋りになっていた。


 そんな他愛ないお喋りの中で、これからの職業の話しになった。この世界ではレベル10になると、駆け出しを卒業して基本職に就く事が出来るようになる。


 冒険者としての基本職は次の通りになる。

 * 剣士 ~ 剣や槍等の力や素早さの上がる武器、軽盾、軽鎧を装備可能。直接攻撃に加え、剣技を習得する。


 * 闘士 ~ 棍等の打撃武器、籠手、軽鎧を装備可能。己の肉体を鍛え上げ素早さを活かした攻撃で敵を翻弄する。


 * 魔術師 ~ 杖等の知力が上がる武器、ローブを装備可能。様々な攻撃魔法を駆使する。


 * 治療術師 ~ ロッド、杖等の精神が上がる武器、軽盾、ローブを装備可能。回復魔法でパーティーの生命線。


 * 盗賊 ~ 短剣、弓等、素早さが上がる武器、軽盾、軽鎧を装備可能。


 * 鍛治師 ~ 槌、斧等、力の上がる武器、重鎧を装備可能。


 以上が基本職となり、基本職で更に経験を積む事により派生する様々な二次職に就く事が出来るようになる。


 ちなみに、俺は剣士、セリスは治療術師に就くつもりだ。

 俺達は足取りも軽く街への帰路についた。

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