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~ 第五話 戦闘開始 ~

 今日の俺はいつもと一味違うのだ。

 ん? 何が違うのかって?

 フッフッフッ、今日はセリスが迎えに来る前に起きて、出かける準備もバッチリなのだ。

 優雅にモーニングティーと洒落込む為に、初めての釜戸に四苦八苦しながらお湯まで沸かしてしまったよ。


 何をそんなに張り切ってるのかって? フフフ……今日は、初めてクエストにチャレンジするのだ!


 あ、いや、別にクエストが楽しみという訳じゃない。

 なんというか、毎日クエストをこなしてレベルアップするという、この異世界でのルーチンが手に入る事が嬉しいのだ。

 あれやこれや考えなくても、依頼さえこなせばいい。そんな平坦な日々が大好きなんだ!


 俺は片足を椅子の上に乗せ、右拳を高々と突き上げ心の中で力説していた。

 ふと視線を感じ、入り口の方を見ると、ドアの横の窓からセリスがジーっとこちらを見ていた。


 うん、死にたい。


 俺は必死に平静を装い、何事も無かったかのようにドアを開けた。

 セリスは俺に背中を向けて下を向いて肩を震わせながら挨拶をしてきた。


 笑えばいいさコンチクショー。

 俺の買い物リストにカーテンが追加された。


 家の中に入り、椅子に座ったセリスは謝りながらもまだ笑っている。よほどツボに入ったようだ。

 記憶消去の魔法とか無いものかね……


 とりあえず落ち着いてもらおうと、昨日買った紅茶を淹れる。

 優雅じゃ無くなったけどね。

 淹れたての紅茶をセリスに渡すと、ありがとうと言いながら、鞄から紙包みを二つ出して、一つを俺に差し出した。


「はい、朝ごはんだよ。レオってばいつも朝ごはん食べてないみたいだから、昨日の内に買っておいたの」


 なんていい娘なんだ……笑った事は忘れてあげよう。


 早速紙包みを開けると、サンドイッチだった。

 いいね、朝から美少女と紅茶とサンドイッチ。元世界ではありえなかった事だ。


 いただきますと、紙をめくってサンドイッチを見ると、野菜と肉が挟まっている。どこかで見たような肉がはみ出している……もしや奴かっ!

 震える手を抑えながらセリスに聞く。


「あ、あのぉ、セリスさん? このサンドされたお肉はなんでしょうか……?」


 するとセリスは、眼をキラキラさせて答えた。


「大王ナメクジですよ。香ばしい薫りがパンに最高に合うの♪」


 なんてこったい、俺の為に昨日から準備してくれたのに、断れる訳がないじゃないか……


 俺は男をみせた。美味しかったと笑顔で完食した。

 どうやら大魔王より先にナメクジ屋台のオッサンを始末せねばならないようだ。


 いやはやもうね、朝からテンション上がったり下がったりで、出かける前に俺のHPはゼロよ!

 暫く休憩した後、お互いの持ち物や装備を確認してギルド会館に向かった。


 ギルド会館に到着すると、せっかくパーティーを組んだのだから、買っておきたいアイテムがあるとセリスが言うので、まずはギルドショップで買い物をする事にした。


 買ったアイテムは小さなイヤリングだ。

 アイテム名は、絆のイヤリング

 効果は、装備するとパーティーメンバー限定で、声に出さなくても頭で思うだけで話しが出来るようになる。いわゆる念話とかテレパシーの類いだ。

 敵に気付かれないように連携するには非常に有効なアイテムだ。

 確かに便利だが、それだと考えてる事がパーティーメンバーに全て筒抜けなってしまうのでは……と不安になる。

 そりゃ俺だって男の子ですから、色々と考えちゃう事もある訳ですよ。


 等とアホな事を考えていたが、無用な心配だった。

 念話をするには、まず会話する者同士がイヤリングを装備している状態で、発信者がイヤリングを指でつまんでいる間だけ、念話を送る事が出来るという優れものだ。


 せっかくなので、すぐに装備して試してみた。

 感度は良好だが、頭の中に直接声が響いてくるのは、なんとも不思議な感覚だった。


 よし、これで準備万端だ。

 満を持してクエスト依頼の貼ってある掲示板を見る。

 掲示板は二つあり、レベル10に満たない駆け出し専用掲示板と、レベル10以上なら誰でも受注可能なフリー掲示板に別れている。

 当然俺達は駆け出し専用掲示板を見る。

 依頼内容は様々で、各種ポーションの材料収集や、近隣の街や村への届け物であったり、低級モンスターの素材集め等々だ。


 セリスとは既に話し合っていて、目的は決まっていた。

 レベルアップを第一に考えて、受注するのは戦闘系クエストだ。

 いくつかの候補から選んだクエストは、マッドラビットの毛皮10枚収集する。という物だ。


 俺は掲示板から依頼書を剥がし、受付で受注を済ませた。

 今日は冒険者登録した時の、エルフの受付のお姉さんいなかったな、チョッピリ期待してたので残念だ。


 さて、いよいよ初のクエストだ!いよいよ冒険の始まりって感じがしてきた。

 ギルド会館を出て、街の外に出るまでにセリスからマッドラビットの特徴と戦い方を教えてもらった。

 マッドラビットの大きさは小型犬くらいで、白くて毛むくじゃら、さほど攻撃的ではないが、近づくと毛を逆立てて体当たりをしてくるらしい。


 戦い方としては、マッドラビットが毛を逆立てたら、盾を構えて体当たりを防御する。体当たりの後は大きな隙が出来るので、そこを狙って倒す。なるほど、思ったよりも簡単そうだ。


 これは楽勝だろうと思い、意気揚々と街を出る。

 久しぶりに見る草原だ。風が気持ちいい。


 さて、目的のマッドラビットだが、草原の所々にある木の下にいる事が多いらしい。

 木からたまに落ちてくる実を待っているのだそうだ。

 暫く歩いていると、襲ってはこないが、結構な頻度でモンスターを目にする。


 ドロドロしたスライムや、人間サイズのバッタ、見た目は完全に羊なのに、恐ろしく素早い奴。

 あぁ、本当に俺は異世界に来たんだなと今更ながらに思う。


 セリスが急に俺の腕を掴む。と同時に頭に直接声が響く。


「いた!右斜め前の木の下に二匹」


 言われた方を見ると、50メートル程先の木の下に、白い毛玉が二つ見えた。

 俺はセリスに誘導され、風下から毛玉に近付いていく。


 同じレベル1でも、戦闘経験があるセリスはとても頼もしかった。

 敵まで残り10メートル程の所で武器を抜く。俺は長剣にバックラー。セリスは短剣とバックラーだ。

 俺が右、セリスは左の敵を狙う。

 すぐに敵もこちらに気付いて身構える。

 ゆっくりと距離を詰める……心臓の音がうるさい。

 あと二歩か三歩で剣が届くという所でマッドラビットの毛が逆立つ!次の瞬間、白い柴犬くらいの毛玉が俺のみぞおちに突き刺さる!


「がっはぁっ!」


 俺の体は九の字曲がり吹っ飛ばされた。

 い、息が出来ない……何が起きたのか理解出来ずにうずくまっていると、フシュッフシュッと威嚇音を発しながらマッドラビットが近づいてくる。

 これは……ヤバい! 死ぬ……のか?

 うずくまる俺の目の前で白い毛が逆立つ。

 もうダメだ……と思った瞬間だった。


「こぉーーーのぉーーつ!! 」


 叫び声の直後、ギャピーッというマッドラビットの断末魔が聞こえた……


 た、助かったのか……?

 ゆっくりと眼を開けると、セリスがヘッドスライディングのような体制で、両手にしっかりと握った短剣をマッドラビットに突き立てたまま、泣きそうな顔で俺を見ていた。


 油断しすぎと怒るセリスに、ゴメンと謝りながらポーションを飲む。正直ナメてた。もっと気を引き締めないと、いくつ命があっても足りない。

 次はちゃんとやる。

 気持ちを切り替えて、次を探そうと立ち上がる俺の前に、ドサリと毛玉の塊が置かれる。血で所々赤く染まったマッドラビットだ。


「私はあっちの奴を処理するから、レオはこれお願いね」


 そう言ってセリスはもう一匹のマッドラビットの処理にかかる。

 リュックの中からナイフを取りだし、手慣れた様子で毛皮を剥ぎ取る。三分もすると、毛皮と肉に綺麗に分かれていた。


 その作業をボーッと見ていた俺に気付いたセリスが、剥ぎ取った毛皮をリュックに詰め込みながら、レオも早く剥いじゃってと言う。


「セリスごめん、俺こういうの、やった事なくて……やり方、教えてもらえるかな? ってか、なんでそんなに手慣れてるの?」


 まるで俺が変な事を聞いてるかのように、セリスが不思議そうな顔をして聞き返してくる。


「なんでって……みんな子供の頃から獲物の処理は手伝うでしょ? レオはやった事ないの?」


 そうか、こっちの世界だと出来て当たり前なんだな……

 俺はセリスに教わりながら、何とか毛皮を剥ぎ取った。

 ゲームの世界だと、敵を倒すとアイテムがポンッとドロップして拾うだけだが、実際はそんなに甘くない。


 くそっ! 今のところセリスと一緒に頑張るどころか邪魔しかしていない……次こそは!

 剥ぎ取った毛皮をリュックに押し込み次の獲物を探す。

 元々マッドラビットは生息数が多いので、すぐに見つかった。

 今度は一匹だけだったので、俺がやるよと言って、前に出る。


 セリスが不安そうに見ている。ここで決めなきゃ男じゃないっ!

 マッドラビットはまだこちらに気付いていない。

 俺は盾をしっかりと構えて近づいた。


 さっきと同じくらいの間合いでマッドラビットが俺に気が付き身構える。

 焦るな……敵の動きをしっかりと見ろっ!

 先に動いたのはマッドラビットだ。

 フシュッという威嚇音と同時に全身の毛を逆立てた。

 俺は前傾姿勢でしっかりと盾を構える。

 次の瞬間盾に激しい衝撃が走り、マッドラビットの体当たりを受け止めた。

 俺に防御されたマッドラビットは仰向けにひっくり返った。

 今だっ!


「うりゃぁぁぁぁっ!」


 その隙を逃さずマッドラビットの喉元に剣を突き立てると、キュゥと一鳴きし、動かなくなった。


「ハァハァ……やった、やったよセリス!」


 俺は嬉しさのあまり、セリスの手を握ってブンブンと上下に振った。

 初めて自分の力で敵を倒した俺は、今まで経験したことのない興奮に身震いした。





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