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~ 第四話 信じる者は救われる! ~

「チリンチリン、チリンチリン」


 鈴のような音で目が覚める。

 何事かと思い眠い眼をこすりながら部屋を見渡すと、窓の横に取り付けられた小さな鈴が、外に繋がっている紐に引っ張られて揺れている。


 ゆっくりとベッドから起き出し、鈴の鳴る窓の外を見ると、ドアの前で紐を引っ張るセリスの姿が見えた。

 どうやらこれは呼び鈴らしい。

 瞬時に目が覚めた俺は、慌てて階段をかけおり、まだ少し湿ったシンドバット風の服を着てドアを開けた。


 セリスは待ちくたびれたとばかりに、少し頬をふくらませて、腕を腰に当てチョッピリ怒ったような表情だ。


「もーっ! レオってば遅いよー。今起きたの? 」


 俺はゴメンゴメンと謝りながら、セリスを家の中に招き入れた。

 おずおずと入ってきたセリスは、俺に勧められるがままテーブルについて、部屋の中をクルリと見渡した。

 俺も座ろうとしたが止められる。


「ふふっ、レオってば、髪の毛ボサボサだよ、待ってるから顔洗ってきたら? 」


 そう言ってセリスはクスクスと笑っている。


「いやぁ、そうしたいのは山々なんだけどさ、実は水が無くて困ってるんだ。水汲み場もどこにあるのか分からなくて。」


 寝癖の付いた頭をポリポリと掻きながら、苦笑いする俺を見て、セリスは少し呆れた様子で席を立ち、台所の横にあるドアを開けた。

 あれ?そんな所にドアがあったっけ? どんだけボンヤリしてたんだ俺は……


 勝手口のようなドアの先には、ちょっとしたスペースがあって、つるべ式の井戸があった。

 どうやらこの街の家には一家に一つ、井戸があるようだ。


 これで水の心配が無くなった。毎日遠くまで水汲みなんて、俺には出来そうもないからね。

 おっと、セリスをあまり待たせても悪い。サッサと身支度を済ませてしまおう。

 井戸水を使うなんて初めての経験で不安だったが、澄んだとても綺麗な水で驚いた。

 汲み上げた水を桶に貯めて、顔を洗おうとした時、桶の水に見知らぬ男の顔が映った!


 俺は驚いて飛び退いた! まだ寝ぼけているのだろうか、見間違いかもしれないと思い、恐る恐るもう一度桶の中の水面を覗き込む……

 そこに映っているのは赤毛で精悍な顔立ちの、いわゆるイケメンだ。

 どういうことだ? これが今の俺の顔なのか? 思わず見知らぬ自分の顔をペタペタと触り、つねったりしてみた。

 痛い……

 どうやらこちらの世界に来た際に、姿が変わってしまったようだ。素敵なサプライズだ。


 エルフィエールさん、いや、エルフィエール様、ありがとう! 俺の中でエルフィエールへの不満が全て無くなった。


 暫く新しい自分の顔を眺めた後、ニヤける顔を洗って髪を整え、改めてセリスの前に座った。


「お待たせ。早速なんだけど、セリスに大事な話しがあるんだ」


「え、えっと、ハイ。」


 突然畏まって話し出す俺に、セリスは眼をパチクリさせて返事をする。

 少し間を置いて、そしてセリスの眼をしっかりと見て話した。


「俺とパーティーを組んで欲しい」


 そう言われてセリスは、下を向いてモジモジしている。よし、もう一押し。俺は更に話しを続ける。


「レベルアップしない事は気にしなくていいよ。きっと上手くやっていける方法があるよ。」


 レベルアップの事を話した途端、セリスが立ち上がって大きな声を出した。


「違うの! ……あ、ごめんなさい……」


 すぐにハッとしたセリスは座り直して、聞いて欲しい事があると言い、話しを続ける。


「あのね、私はここから遥か北にある、クリスタ山脈の奥地にある森に住んでたの。一族の規律はとても厳しくて、森から出る事も、また他所者の侵入も許されなかったの。」


 そこまで言うと、セリスはジッとして話すのが落ち着かなくなったのか、お水貰うね。と言って席を立ち、食器棚からコップを二つ取りだし井戸から水を汲んできた。

 後で紅茶でも買っておこう……


 セリスは一口水を飲むと壁にもたれかかって話し出した。


「そんなある日、森で迷っていた旅人を偶然助けた事があって、その旅人はお礼に本をくれたの。 内容は、ある村の若者が冒険者になって旅をし、悪いドラゴンを倒して姫を助け出し、勇者と呼ばれるようになる物語。」


 俺は察した。


「それで冒険者に憧れて、森を飛び出した……ってとこかな? 意外とお転婆だなぁ」


 俺がそう言って笑うと、セリスも釣られて照れたように笑う。


「そうなの、さすがに黙って出ていく訳にはいかないから、母様だけには出ていく時に話したの。父様は絶対に許してくれないからね」


 そう言って、フフッと笑った顔は少し寂しげだった。

 セリスの話しは続く。


「その時に母様に言われたの。自分達の種族はレベルの上がり方が特別だから、冒険者になると他の種族より、何倍も苦労するって。だから、レベルアップしない訳じゃないの。母様と話していたら、父様に見つかりそうになって詳しく聞けなかったけど、レベルアップはするはずなのよ……」


 そう言ってセリスは自分の手の甲にある水晶に浮かぶ1という数字をそっと撫でた。


「その話しは前のパーティーの奴等にはしなかったの?」


 俺が聞くと、セリスはフゥと溜め息を一つ。


「話したけど、そんな話しは聞いた事がないって、取り合ってもらえなかったの。」


 そう言ってセリスは黙ってしまった。

 だがこれは朗報だ。レベルアップしない訳じゃない。頑張ればどうにかなるはずだ。

 それにしても、特殊な種族って気になるな。聞いたら嫌がるかな……


 そう思いつつも好奇心には勝てず、思いきって聞いてみると、気にする様子もなく、サラリと答えてくれた。


 彼女の種族はレアエルフ《純血エルフ》というらしい。セリスの眼のように、色違いのオッドアイが純血の証だそうだ。

 街で普通に見かけるエルフは、違う種族の血がまざっているのだとか。丁度良い機会なので他の種族の事も聞いてみた。


 この世界の種族は次のように大別される。


 *ステータスの全てが平均的な人間属


 *体力はやや低めだが、魔力の高いエルフ属


 *体力が高く、装備品や日用品等の道具造りに長けたドワーフ属


 *敏捷性が高く、手先の器用なホビット属


 *見た目は人間属に近いが、力が強く敏捷性も高い、耳と尻尾が特徴の獣人属


 *全ての種族を敵とする魔族……大魔王はこいつらの親玉っぽいな。


 他にもあまり知られていない種族が結構いるらしい。


 なるほど、勉強になった。

 種族の事を聞き終えた俺はお礼を言って、改めてセリスの方に向き直る。


「では改めて。セリス、俺とパーティーを組んで欲しい。」


 俺はニコリと笑って握手を求めた。

 セリスは俺の顔を見て真っ赤になりながら、ありがとう。と握手をしてくれた。パーティー結成だ!


 早速セリスを俺のパーティーに入れる為、ギルド会館で教えてもらった儀式のような事を行う。簡単だ。

 パーティーに加入させる権限は、リーダーしか持っていない。

 まずはお互いの手の甲にある水晶を、軽くコツコツと二回ぶつけ合う。すると、水晶がしばらく光るので、その間にまずリーダーが


「我が旅の友となれ」


 と言い、加入したい側が


「友となろう」


 と、答えればめでたくパーティーに加入される。

 パーティーを脱退する方法は、リーダーに申請する、メンバーの死亡、ギルド会館に申請し、手数料を支払う。基本的にこの三つだ。


 ぎこちないながらも無事に儀式を終え、晴れて俺とセリスはパーティーを組む事になった。


 一段落ついたところで、俺の腹がグーッと鳴る。そういえば朝飯も食べてない。

 俺の腹の音を聞いて、クスクスと笑いながら、セリスがお勧めの食堂があるよ。と言うので、すぐに行く事になった。

 かなり話し込んだせいで、家を出て空を見上げると、太陽が真上にあった。もう昼だな……


 だいぶ見慣れてきた大通りを、セリスに先導してもらい歩いていると、あの香ばしい臭いがしてきた。

 例の串焼きの匂いだ。セリスも匂いに気付き、鼻をクンクンさせながら言った。


「うーん、いい匂いだねぇ、大王ナメクジの串焼き、美味しいんだよね♪」


 ……え、今とんでもない名詞が聞こえませんでしたか?

 ナメクジって聞こえたよ?……

 ほらねっ。だから俺は肉の正体聞かなかったのにー!

 うぁー、嫌な予感が的中だよぉ。異世界で肉って言ったら大抵ゲテモノって相場が決まってるんだよ! それでもまぁ、トカゲや蛇あたりだろうと思ってたのに……よりにもよって、ナメクジですかぃ……


 うなだれて歩く俺に気付く様子もなく、セリスはご機嫌に前を歩いていく。


 食堂はナメクジ屋台から百メートルほど離れた所にあった。四人用のテーブルが5組と、10人くらい座れそうなカウンターがあった。愛想の良い人属のおばちゃんが経営している雰囲気の良い食堂だ。


「ここはねー、日替りランチがお勧めだよー」


 と、セリスが言うので、勧められるまま日替りランチを頼んだ。

 程なく料理が運ばれてくる。


「はいよっ!日替り二つ、たんと食べておくれっ!」


 おばちゃんが元気よく、結構な量の……これは……唐揚げ?

 串焼きの恐怖が甦ってきた。

 見た目はまんま、唐揚げ定食だ。

 ご飯と豆のスープにサラダと山盛りの……唐揚げ……

 俺はゴクリと息を飲みセリスに聞いた。


「セリス、この唐揚げって、何の肉?」


 セリスはキョトンとした顔で、鶏肉だよ。と教えてくれた。思わず小さくガッツポーズをしてしまう。

 ただの唐揚げをこんなに愛しく思ったのは、生まれて初めてだ。

 ニワトリさんありがとう!

 久しぶりのまともな食事に大満足だ。なんならチップを払ってもいいくらいだ。


 ……スッカリ食べ終わってから大変な事を思い出し、俺は青くなった。未だに元世界の感覚が抜けず、文無しだという事をキレイサッパリと忘れていた。

 ここで女の子に出してもらうのも格好つかないが……むむむむ……


「ごちそうさまー!おばちゃん、今日も美味しかったです。」


 セリスのその声で、ニコニコしながらおばちゃんが空いた食器を下げに来た。


「いつもありがとね、二人分で10クルネだよ。」


 ひとまずセリスに食事代を立て替えてもらおうと思ったのだが、おばちゃんの10クルネ。という声に反応したかのように、腰に巻いたポシェットからチャリンと音がした。もしや……

 中を見ると、期待通り丁度10クルネ入っていた。

 俺は当然とばかりに格好つけて、二人分の支払いを済ませた。いやはや、焦った……


 お腹も満たされたところで、少し休憩しようと広場に来た。

 セリスがお手洗いに行くと言って離れたので、ポシェットの事を考える。

 まだ確信はないが、これはエルフィエールの支援の一つではないだろうか? 大魔王を倒すまでの【必要な】お金。


 要は、本当に必要とした時にだけ、お金が出てくる魔法のポシェットではなかろうか。

 そう思って、俺は試してみる事にした。


 暫くしてセリスが戻ってきたので、俺に合う服を一緒に選んで欲しいと頼んだ。

 すると、セリスはニコニコしながらウンウンと頷いた。


「そうよね、その格好だとちょっと浮いてるもんね」


 あ、やっぱり浮いてたんだ……

 周りに同じ様な格好の人がいないから、もしかしたらそうなのかなー、とは思ってたんだけどね。

 急に恥ずかしくなってきた俺は、急ぎ服屋に案内してもらう。


 案内された服屋には、若いホビット属の女の子が店番をしていた。早速セリスに良さげな服を上下見繕ってもらい、女の子に許可を貰って試着させてもらった。

 着替えた俺の姿を見て、セリスと店番の女の子が顔を合わせて、素敵、似合うと手を叩いてくれた。

なんだかくすぐったい。


 元世界で服を試着した時なんて、何を着ても作り笑顔の店員がお似合いですよーと、棒読みテンプレ回答してくれるだけだったし。

 やはり新しい顔はイケてるようだ。もう一度言おう。

 エルフィエール様ありがとう!


 さて、ここからが本番だ。女の子に服の値段を聞き、耳を澄ませる。


「上下セットで25クルネでいいよ」


 相場が解らないので、高いのか安いのか判断出来ないが、女の子の25クルネという声に反応して、ポシェットからチャリンと音が聞こえる。思った通りだ。

 予想が当たって俺がニヤついていると、何やらセリスと女の子が揉めている。


「前に私が買った時に比べて随分安いのね?!」


「こ、今回はたまたま安く生地が手に入ったのよ!」


 どうやらセリスが前回服を買った時の金額に比べて、俺の今回買った服がかなり安かったらしい。

 散々言い合った挙げ句、セリスが次回買う時にオマケするって事で落ち着いたようだ。

 大人しそうに見えて、セリスも逞しいね。


 とにかく、これでお金の心配が無くなった。遠慮無く必要な物が買い揃えられる。

 冒険者になったからには、しっかりと装備を揃えないとね。


 ウキウキしながらセリスに頼んで、武具屋に連れていってもらう。

 街に一つしかない武具屋とあって、かなりの品揃えだ。

 お金の心配が無くなった俺は、迷わず棚に飾ってある強そうな剣を手に取る。

 が、ピクリとも動かない。まただ。

 その様子を見ていたゴツいが、愛嬌のある髭を生やしたドワーフの店主が話しかけてきた。


「おい若いの、今レベルいくつだ?」


 そう聞かれ、俺は苦笑いしながら人差し指をピンと立てる。

 それを見てドワーフの店主は豪快に笑いながら、お前の装備はあそこだ。と指差す方にあったのは、傘立てのような籠に刺さっている数本の剣だ。

 長さも丁度傘くらいで、飾り気もなく、所々に刃こぼれも見える。中古じゃないのか?


「レベル10にも満たない駆け出しには、それでお釣りがくるわい! ガーハッハッハ!」


 思い切り笑い飛ばされてしまった。

 どういう事かとセリスに訊ねると、どうやらこの世界は、全ての武具に封印が施されており、武具に見合う適正レベルに到達すると、封印が解除されるのだそうだ。


 俺が何故そんな面倒な事をするのかとボヤくと、そんな事も知らんのかと、呆れながらも店主は理由を教えてくれた。


 大昔は封印なんてものは無かったのだが、そうせざるを得ない流れになっていった。

 鍜治師達の努力により、武具の性能はどんどんと上がっていく。

 そうなると、当然のように、権力を持つ者、富を持つ者が良い武具を独占しようとする。

 強力な聖剣や魔剣を欲するがあまり、戦争まで起きた。


 だが鍜治師達の職人としてのプライドが、それを許さなかった。相応の力が無き者に、我等の誇りである武具は渡せんと。


 何百年前の事かは不明だが、当時の鍜治師連合の話し合いにより、高名な賢人に頼み込んで、彼等の造った武具には自動的に封印が施されるようにと、鍜治師の血に術を掛けてもらったそうだ。


 と、いう訳で、自分の適正以上の装備品は、封印により動かす事さえ出来ないのだ。家の宝箱に入っていた装備を動かせなかったのも、そういう訳だ。


 こればかりは仕方がないので、とりあえず店主お勧めの初心者セットを購入した。

 そして今現在の俺の装備がこれだ。

 刃こぼれのある質素な長剣

 樽の底で作ったようなウッドバックラー

 ちょっと錆びている胸当て

 ハチマキに申し訳程度に鉄板が付いたハチガネ


 ま、まぁ、レベル1だしね、元世界のゲームでも、最初はこんなもんだったよ。

 そう言い聞かせて武具屋を後にした。セリスにポンポンと背中を叩かれ慰められた時は涙が出そうになった。


 その後、道具屋でリュックや各種ポーション等を買い、雑貨屋でヤカンや鍋、紅茶を買った。コッソリと手鏡も。


「ふぅ、大体こんなところかな。付き合ってくれてありがとう」


「ううん、私も久しぶりに楽しかったよ」


 俺がお礼を言うと、セリスは笑って答えてくれた。


「それでさ、いよいよなんだけど、明日からクエストを受けてみない?」


 俺が切り出すと、セリスも頷き力強く答える。


「私もお願いしようと思ってたの。明日から頑張ろうね」


 そう言って握手を交わし、今日は別れた。

 帰りにナメクジ屋台の前を通ると、おじさんが手を振ってくれたが、俺は華麗にスルーした。

 ナメクジなんか売ってんじゃねぇ。


 それから晩飯用に、露天で売っていたパンと、牛の干し肉を買って家に帰った。

 夜になって、ランプをを買い忘れた事に気が付いた。せっかく買った手鏡の出番が明日になったのは残念だけど……

 まぁ、月明かりの中、食べるパンもなかなかだよ。


 軽く晩飯を済ませ、体を拭いてベッドに潜り込んだ。

 睡魔に誘われながらも、今日の事を振り返る。

なんといっても一番嬉しかったのは、セリスもレベルアップする事が判明した事だ。

 頑張って一緒に強くならなきゃな……

 あ、あとイケメンになれたのも嬉しかったな、今までモテた事無かったし……

 それから……それから……

 今夜もあっけなく睡魔に敗北した。






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