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~ 第三話 それでも俺は…… ~

 朝だ、たぶん朝だ。窓から差し込む陽光で目を覚ました。

 明るくなった部屋の中を改めて見ると、実に殺風景だ。六畳程の部屋にベッドがひとつと、俺の背丈くらいの本棚がひとつ。他の二部屋も同じだった。一階にはキッチンと、中央にはテーブル、壁には食器棚があり、ある程度の食器が入っていた。


 とりあえず、顔を洗おうとキッチンに行くと……水道が無い。代わりに足元に木の桶が置いてあった。

 水汲みですね……

 今日の洗顔はパスだ。やれやれと力なくへたり込んでしまった。


 さて、これからどうしたものかと考えていると、二階からドガシャン! と何かが落ちたような音がした。かなり怖かったが、必死に足音をたてないように二階にあがり、一番手前の昨夜眠った部屋のドアを開けた。

 真っ先に俺の眼に飛び込んで来たのは、部屋の中央にドーンと置いてある豪華な装飾が施されたデカイ宝箱だ。


 ふむ、これは開けるしかないよね。一応俺の家だし。思いきって宝箱を開けると、中には一目で高価で強そうだと分かる剣と盾、鎧が入っていた。

 なるほど、俺がエルフィエールに頼んだ支援の最強装備って奴ですな。キラキラと輝く最強と思われる装備品を見て、俺は思わずニヤついてしまう。


 男のロマンってもんですよ。基本的に何事にも無干渉だった俺だけど、何も考えずに没頭できるゲーム、特に冒険物RPGはよくプレイしていたのだ。


 まずは剣を手に取ってみる……取ってみ……あれっ?重いっ! 剣の柄を握りしめ、思い切り持ち上げようとするがピクリとも動かない。盾と鎧も同様だ。意味が分からない。

 もしやエルフィエールが何か失敗したんじゃなかろうか?


「ったく、だから君は見習いなんだよ、エルフィエール君……」


 俺はブツブツと文句を言いながら、仕方がないのでベッドシーツを宝箱に被せて隠した。まぁ、これだけ重ければ盗まれる事もないのだろうが。

 なんにせよ、俺の頼んだ支援は とりあえずの住む家、最強装備、大魔王を倒すまでに困らない金。まず、住む家はOK、装備はあれだが……今は忘れよう。あとは、金だが、まさか昨日ポシェットに入っていた4クルネで終わりって事はないよな……


 まぁ、ここで考えていても仕方がない。まずはこの世界の事をしっかりと知らないといけない。

 ここは情報収集だ。水汲み場すら分からないしね。と、なると、お約束は人の集まる酒場や冒険者ギルドってとこか。

 ふむ、酒場は金が無いと話しにならないからパスだ。ってことで俺は冒険者ギルドを探す事にした。


 さて、張り切って外に出たはいいけど、どうしたものか。人に聞けばすぐに分かるかもだが、緊張するし面倒なので、頑張って探してみる事にした。

 昨日大通りを歩いた感じだと、中央広場まではそれらしい建物は無かったはずだ。よし、まずは中央広場に行ってみよう。

 暫く歩くと広場が見えてきた。あの先はまだ行ってないから探してみようと進んでいくと、ベンチに座っている見覚えのある銀髪を見つけた。あの子だ。


 肩まで伸びた綺麗な銀髪は結構目立つ。そういえば起こしてもらったお礼、言ってなかったよな……

 他人と関わるのは面倒だが、礼を欠くのは良くない事だ。決して可愛い子だったから話しかけたいとか、邪な気持ちからではないっ!

 そ、そう、あくまでもお礼と、あわよくばギルドの場所を教えてもらう事が目的だ!


 誰に言い訳をしてるのやら、自分のコミュ能力の低さを呪う。

 俺は意を決して銀髪の美少女に声をかけた。


「や、やぁ、先日はおこ、おこしてくれて、ありがとうございますた」


 ヤバイ、緊張して噛みまくりだ。変に思われたかな……

 そっと彼女を伺うと、一瞬キョトンとした顔をされたが、すぐに気づいてくれた。


「あっ、あなたは街の近くで倒れてた人ですよね?」


 俺が頭をポリポリと掻きながら頷くと、彼女は人懐っこい笑顔を浮かべながら話しを続ける。


「あの時は私も急いでて、あなたの事を置いていっちゃったから気になってたの。会えて良かったー」


 銀髪の美少女は少し頬を紅くして、満面の笑みを向けてくる。

 な、なんて破壊力だ……

 これが世にいうフラグというものなんだろうか。

 いや、まて俺よ、慌てるな。これはただの会話だ。勘違いしては大怪我の元だ。

 などと考えていると、


「あの……? 」


 彼女は少し困った顔をして俺の反応を伺っている。

 まずい! な、何か言わなければっ。


「あ、あぁ、俺も凄く会いたかったよ!」


 ってぇ!俺は何を口走っているんだっ!?

 そ、そうじゃなくて、いや、そりゃ会えて嬉しいけれども、これじゃ軽く告白してるみたいじゃないか……

 とりあえず落ち着け俺。

 なんとか平静を装い彼女を見ると、真っ赤な顔で俺を見て、エヘヘと笑った。

 ハイ、俺の敗けです。その笑顔に一撃KOですよ。


 よし、ここまで頑張って話したんだ、何とか仲良くなりたい!

 17年間生きてきて、初めて芽生えた感情だった。俺は勇気を振り絞って話しを続けた。


「えっと、実は俺、ここに来るのが初めてで、知り合いもいないし、もし君が迷惑でなければ色々教えてもらえないかな? 」


 すると彼女は俺の方をジッと見た後、少し考えるような素振りをみせた。さすがに厚かましかったか……


「あ、突然こんな事言われても困るよね、ゴメン! 」


 俺が慌てて謝ると、彼女も慌てて両手を広げてブンブンと振る。


「違うの、そうじゃなくて、もしかして貴方のその格好、西の砂漠の街から来たの? 五日ほど前に突然の砂嵐と流砂に襲われて一晩で消失してしまったって、噂で聞いたものだから」


 なるほど、そう言われてみれば確かに。俺の格好はターバンこそ巻いてないが、なんとなくシンドバットっぽく見えるかもしれない。

 もしかしたら本来俺は砂漠の街に転送される予定だったのに、街が無くなった関係で草原に放り出されたのかもしれないな。

 むむむ、また一つエルフィエールへのクレームが増えた。もっと増えそうだし、ちゃんとメモに残しておこう。


 さて、さすがに異世界から来ました。なーんて言う訳にもいかないしな、ここは彼女には悪いけど誤魔化すしかないか。


「いや、実を言うと、君に起こしてもらう前の記憶が無いみたいで、自分の名前と、この街に住む家があるって事くらいしか思い出せないんだ」


 そう話しながら俺はまだ名前すら名乗っていなかった事に気がついた。


「ゴメン、まだ名前を言ってなかったよね、俺の名前はレオ・ファルシオン。 呼ぶときはレオでいいよ。 ヨロシクね」


 俺の記憶喪失と、突然の自己紹介の二段攻撃に彼女は少し慌て気味に自己紹介をしてくれた。


「私は、セリス・ミーティア。 セリスって呼んでね。それと、嫌な事聞いてごめんなさい。記憶、戻るといいね。」


 そう言うとセリスは少しションボリしてしまった。仕方がないとはいえ、嘘を付いている事もあり胸が痛い。


「いやいや、記憶の事なら気にしないでよ、俺自身全く悲しいとか思ってないから。」


 セリスを元気付けようと、俺は精一杯の笑顔を見せた。恐らくはぎこちなかったであろう、その笑顔を見て、彼女も笑ってくれた。


「それじゃあレオ、色々聞きたい事って、具体的にはどんな事? 私で分かる事ならいいんだけど」


 ありがたい事に彼女から切り出してくれた。俺はその言葉に甘えさせてもらう。

 それから小一時間ほどかけて、この国の常識や、大まかな地理を雑談を交えながら教えてもらった。

 常識に関しては、元の世界と殆んど変わらないようだ。地理は……その内に地図を調達しよう。

 ある程度話しが落ち着いたところで今度はセリスから質問された。


「レオはこれからどうするの? その、やりたい事とか、何かを手に入れたいとか」


 セリスに聞かれて、どう答えるか少し考える。

 ギルドの場所を聞くのはもちろんだが、大魔王を倒すために冒険するぜ! ってのは、引かれないかな……

 うん、大魔王の件はまだ伏せておこう。


「そうだね、とりあえず冒険者ギルドに行ってみようかと思ってるんだ。とはいっても冒険者ギルドの役割とかも分かってないんだけどね」


 タハハと笑う俺とは対照的に、セリスは冒険者ギルドと聞いて、少し元気が無くなった気がする。何か嫌な事でもあったのかな。

 それでもセリスはすぐに元の笑顔に戻って冒険者ギルドの事を教えてくれた。

 セリスの説明によると、この世界の冒険者ギルドとはこうだ。

 この世界では、ギルドに登録する事によって初めて正式に冒険者と呼ばれる事になる。


 冒険者になる事によって、ギルドに集まる様々な情報を共有出来たり、街の人達や、時には王宮等からギルドに依頼されるクエストを受注する事が出来るようになるのだ。

 冒険者はこのクエスト達成の報酬で稼ぐ事になる。


 なるほど、セリスの説明は解りやすかった。

 よし、まずは冒険者ギルドに登録して、冒険者になろう!

 大魔王討伐への第一歩だ。


「そういえばセリスって冒険者ギルドには登録してるの?」


 何気無く聞いただけなのだが、突然セリスの様子が怪しくなる。


「えーっと、うーんと、そのぉ、まぁ、一応……」


 お、セリスはもう冒険者なのか、これはありがたい。一人でギルドに行くのも心細いし、何とか同行してもらいたいところだ。


「それなら俺もギルドに登録したいから、甘えっぱなしで悪いんだけど、一緒に来てもらえないかな? 」


 俺はパンッと手を合わせてセリスに拝む。するとセリスが悲しそうな顔で不思議な事を言う。


「私とギルド会館に行くと……レオが嫌な思いをするかも……」


 俺が嫌な思い?セリスみたいな可愛い子と一緒して嫌な思いをする訳がない!

 諦めない俺に結局セリスが折れて、同行してくれる事になった。


 セリスの案内で、広場から少し北に歩くと、人の出入りが多い、かなり大きめの建物が見えてきた。

 いよいよギルド会館に到着だ。俺はセリスを伴って建物の中に入る。

 外から見ても大きな建物だと思ったが、やはり中も広い。正面にカウンターがあり、五名の受付嬢がイカつい冒険者の対応をしていた。


 カウンターの横には一見酒場のようにも見える待合所があった。セリスが言うには、ここで臨時のパーティーに勧誘したり、されたりする事もあるそうだ。

 お、奥には掲示板がある。登録が終わったら見てみよう。

 俺はセリスに言われて、番号札を取り、順番を待つ。

 相変わらずセリスは落ち着かないようだ。どうしたんだろう。


 程なく、俺の順番が来た。

 受付のお姉さんは金髪で耳が長いキリッとした美人さんだ。エルフなのかなぁ、後でセリスにこの世界の種族の事とかも聞いてみよう。

 俺がカウンターの前に立つと、受付のお姉さんがジッと俺の顔を見ている。不思議に思った俺が首を傾げると、受付のお姉さんはハッとして顔を紅くしながら話しだした。

 俺の顔、何か付いてたかな……


「それでは、ご用件を承ります」


 受付のお姉さんにそう言われ、冒険者の登録をしたい旨を伝えると、少々お待ち下さいと言いながら、カウンターの下からゴルフボールくらいの大きさの水晶玉を出してきた。


「それでは右手の甲を上にしてカウンターの上に置いてください」


 俺が言われた通りに手をカウンターに乗せると、受付のお姉さんが何やら呪文のようなものを唱えながら俺の手の甲に水晶玉を置いた。

 すると、水晶玉は溶けるように薄く変形し、手の甲にピタリと埋まった。不思議な感触だ。

よく見ると水晶の表面に水面に写されたようにゆらゆらと数字の1が浮かんでいる。レベルが表示されているようだ。


 続けて巻物のような物を広げて、その上にガラス玉を埋めた手を乗せるよう言われた。

 すると、乗せた瞬間巻物が光だし文字が浮かび上がった。どうやら自動的に個人情報を吸いとって記載する物らしい。


「レオ・ファルシオン、17歳、冒険者レベル1、登録を完了しました。貴方の旅に希望の道標を」


 無事に登録が終わり、冒険者としての注意事項や、ギルドショップでしか買えないアイテムの事、パーティーの作り方等の説明を受けた。

 これで俺も冒険者だ!

 受付のお姉さんにお礼を言って、待ちくたびれているであろうセリスの所に戻った。


 セリスは俺に気づくと笑顔で迎えてくれた。

 が、次の瞬間、俺の後ろを見て様子が変わる。少し怯えているようにも見える。


 何事かと振り替えると、俺やセリスと同じ年齢くらいだろうか、男三人女一人のグループがニヤニヤしながらこちらを見ている。小悪党臭がプンプンする。

 絡まれると面倒なので、無視していると、一人の男が近づいてきた。


「なんだぁ? セリスじゃないか、お前まだ諦めてないのかよ!」


 憎たらしい笑みを浮かべながら後ろの仲間に聞こえるように大声を出す。セリスは下を向いたまま黙っている。

 俺はセリスを庇うように男とセリスの間に割って入った。


 コンビニ強盗に比べれば怖くない! と自分に言い聞かせたが、体は正直だ。少し膝が震える。

 男は一瞬険しい顔をしたが、すぐにニヤついた笑みを浮かべて俺に話しかけてくる。


「ふふんっ、お前が誰かは知らないが、セリスとパーティーは組まない方がいいぞぉ」


 男は後ろの仲間に目配せしてヘラヘラ笑っている。セリスと何かあったのだろうか。


「どういうことだよ」


 なるべく冷静に男に問う。

 すると男からニヤついた笑みが消えてイラついた様子になった。情緒不安定な奴だな。


「こいつはレベルが上がらねぇんだよ! たまたま俺達と同じ日に冒険者登録をしたからよ、何かの縁だって事でパーティー組んで狩りに行った。四日目で俺達四人はレベル5になったが、そいつはレベル1のまんまだ!」


 なるほど、そういう事か、セリスはこいつらと会いたくなかったから、ここに来たくなかったんだな……

 男の口撃は止まらない。


「そういう事だからよ、お前の為だ、セリスと組むのはやめておけ。」


 そう言いながら男はポンと俺の肩に手を乗せた。俺は瞬間的にその手に激しい嫌悪感を覚え振り払った。

 男は一瞬ムッとしたが、すぐにやれやれといったポーズを取り仲間を見て笑っている。


「お前さ、冷静に考えてみろよ? レベルアップしない奴と何が出来る? そんなもん只の寄生虫じゃねえか!」


 さすがに言いすぎだ!文句の一つも言ってやろうと身構えると、それに気付いたセリスが俺の手をギュッと握って、駄目だよ、とフルフルと首を横に振っている。

 俺は唇を噛んで堪えた。


 確かに男の言う事はわかる。本当にレベルアップしないなら、いずれ足手まといになる。すぐにパーティーとして機能しなくなるだろう……


「それでも……」


 言葉が溢れた。


「あぁん?」


 男は俺を睨む。

 でも俺の言葉は止まらなかった。


「それでもっ…それでも俺がっ!俺がセリスとパーティーを組みたいんだよっ!」


 俺は大声で言い放つと、セリスの手を引っ張り急いでギルド会館を飛び出した。外は大雨だった。

 それでもそのままセリスの手を引き広場に向かった。

 広場に向かう途中、俺は泣いていた。悔しかった。そして何よりも自分が情けなかった。


 セリスは見ず知らずの俺に、あんなに優しくしてくれたのに、俺はあの男に何も言い返せなかった。

 それどころかセリスがレベルアップしないと聞いて、一瞬とはいえ損得が頭をよぎった。


 情けなかった……


 広場に着いて立ち止まった。

 俺がセリスに謝ろうと振り向くと、セリスが抱きついてきて、嗚咽をあげて泣き出した。

 ゴメンと言い損なった俺は、ずぶ濡れになったセリスの銀の髪を優しく撫でる事しか出来なかった。


 ひとしきり泣いて落ち着きを取り戻したセリスは、必死に笑顔を作り俺の方をみて小さな声で言ってくれた。


「……ありがとう」と


 俺はセリスと一緒にいたいと心から思った。


 もっと話していたかったが、生憎の大雨だ。セリスも宿をとってあるとの事なので、明日の朝にまた会う約束をした。

 セリスが家まで迎えに来てくれると言うので、俺の家までの地図を渡すと、精密な地図だねぇと驚いていた。

 元気に手を振り走っていくセリスを見送って、俺も家に帰った。

 ずぶ濡れの服を脱いで椅子にかけた。

 明日までに乾くかな……

 疲れきった俺は、素っ裸のまま二階のベッドに潜り込んだ。泣きそうになったが歯を食いしばって堪えた。

 強く、強くなりたいと初めて思った。

 夜は優しく、悲しみも空腹も、睡魔が連れ去ってくれた。


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