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~ 第二話 冒険の始まり ~

 さて、めでたく? 俺は勇者候補として採用になった。

 何やら読めない文字で書いてある契約書らしき物にサインをさせられ、出発準備だ。

 契約書の内容を聞いてみたが、エルフィエールは大した事は書いておらぬとニコニコしていたので、ロクな事は書いていないのだろうと諦めた。


「では、そろそろ旅立ちの準備じゃ」


 エルフィエールの透き通った声が淡い光に包まれた部屋に響く。背中の立派な羽を三度羽ばたかせると、俺の足元に七色に輝く魔方陣が浮かび上がった。

 突然で慌てふためく俺を見て、エルフィエールが言葉を続ける。

「旅立ちの支援を我に求めよ」


 求めよって、えぇぇーーっ?!

 まだ心の準備も何も出来てませんがーっ!


「魔方陣の色が消えると旅立ちじゃ、急ぎ支援を求めよ! 」


 エルフィエールの無情なセリフを聞き、足元の魔方陣を見ると、色が減っている気がする……

 見ている間にまた一色減った気がする。一色あたり約10秒か、残り50秒弱! ヤバイぞ考えろ俺! 異世界で俺ツエーするために!


「まず俺のステータスレベルをマックスで! 」


 これは外せないだろう、むしろこれだけでもいいって話しだ。

 俺はニヤリと笑い、エルフィエールを見た。だが彼女は可哀想な捨て猫でも見るような目でこちらを見ながら言い放った。


「それは無理じゃ、どの世界もレベルとステータスは1からじゃ」


 ……で、ですよねー、考えが甘かった。それが出来るなら苦労はしないよな。


「急ぎ他の支援を求めよ。時間が迫っておる! 」


 エルフィエールの言葉に俺もテンパり気味になってしまう。

 ヤバイ! とりあえず知らない世界で楽に生きていく為には何が必要だ!? とりあえず思い付くまま言葉にする。


「か、金を!大魔王を倒すまでに困らない金だっ! それから最強装備を! あとは、あとは、それなりの住むところを! 」


 そこまで叫んだところで足元の魔方陣が真っ白に輝いた。それと同時にエルフィエールが両手を掲げて叫ぶ。


「我の拳属に加護を与え、聖なる試練を与える」


 エルフィエールが言い終えると同時に俺の体はまばゆい光に包まれ、宙に浮いた。次の瞬間魔方陣へと吸い込まれていった。


「……か? ……ですか? …大丈夫ですか?」


 誰かの声が聞こえる、ユサユサと体を揺さぶられている、もう暫く眠っていたいところだが、俺は渋々と眼を開けた。

 目の前には銀髪の美少女がいた。左右の眼の色が違う。片方は澄んだ青色、もう片方は若葉のような緑だ。俗に言うオッドアイって奴だな。いや、それよりも顔が近い、これまで徹底して他人との関わりを避けてきた俺は、こういう場面に免疫が無いのだ。


 恥ずかしさから眼をそらして大丈夫だとゆっくりと手を上げる。

 すると彼女はサッと立ち上がり、俺の手を引っ張り起こしてくれた。とりあえずお礼を言おうと彼女の方を見た。


「うん、大丈夫そうね、私急いでるから行くねっ」


 と言い終わる前には走り去ってしまった……お礼……言えなかったな。

 ふと周りを見渡すと広大な草原が広がっている。エルフィエールさん、ちょっと転送が雑じゃないですかね。今度話す機会があれば文句の一つも言ってやろう。

 とりあえず右も左も分からないので、助けてくれた彼女の走っていった方へ歩いてみた。


 少し歩いて小高い丘を越えると大きな城門が見えた。

 近寄ってみるとその大きさに圧倒される。城門の扉は開いていて、その両脇には屈強な兵士が二人立っており、開いた扉の奥には活気溢れる街が見えた。更にそのずーっと奥には城が見える。王様でもいるんだろう。


 行き交う人々を見ると、幸い街への出入りは自由なようだ。俺は門番と眼を合わせないように城門をくぐった。

 遠くに見えるお城のの方へ真っ直ぐに伸びる石畳の道は広く、悠に車が二台すれ違えるだろう。その道の両脇にはレンガや石造りの建物や、様々な店が建ち並び、威勢良く客引きを行っている。まさにゲームの世界に入り込んだという表現がしっくりくる。ファンタジーだ。


 目に入る物は全てが珍しく、興味深かった。少し歩いたところで何やら美味そうな匂いがした。ギュルルルと腹が鳴く。そういえばコンビニ強盗のせいで結構な時間、何も食べていない事を思い出した。


 フラフラと匂いに誘われるがまま歩くと、ジュウジュウと食欲をそそる音をたてながら大きめの肉を串焼きにして売っている屋台があった。ヨシ、買いだ!腹も減ってるし二本だな。あまりの香ばしい香りに、たまらず注文する。


「おじさん、二本ちょうだい! 」


 スキンヘッドで浅黒く日焼けしたイカついおじさんが、顔に似合わない愛想の良い笑顔で、アイヨッっと串焼きを差し出してきたので俺も手を伸ばす。串焼きが手に届く直前でおじさんの手が止まり、ニカッと笑いながら言った。


「二本で4クルネだ。」


 ハッとして俺は固まった。ヤバイ、ここが異世界だった事を忘れていた。 元の世界のお金は持っていたからどうにかならないかとポケットが付いていた場所を探るが、ポケット自体が無い! そもそも自分が今どんな格好をしているかも分かっていなかった。シドロモドロな俺の様子を見て、金を持っていないと思ったおじさんから笑顔は消えていた。


 それでも諦め切れなかった俺がダブついた上着をめくると、俺の腰に大きめのポシェットが巻かれているのに気がついた。慌てて中を見ると、金色のコインが四枚と紙が入っていた。

 もしやと思い、そのコイン四枚を恐る恐るおじさんに差し出すと、さっきの笑顔と共に串焼き二本が俺の元にやって来た。


 腹が減っていた事もあり、その場でペロリと二本の串焼きを平らげた。皮はパリッと、身はジューシーで鶏肉に似ていた。あまりの美味さに思わず何の肉か聞きそうになったが、ここは異世界だ。嫌な予感がするので肉の正体は聞かない事にした。


 屋台のおじさんに手を振り先に進むと、広場に出た。位置的に丁度街の中心のようだ。空腹も満たされ、目の前にベンチがあったので腰を降ろす。落ち着いたところでポシェットの中にコインと一緒に入っていた紙を取り出した。


 どうやら街の地図のようだ。よく見ると広場から少し戻って、メイン通りから数十メートル程脇道に入った建物に印が付いている。もしやここがエルフィエールに支援を頼んだ住まいだろうか?


 とりあえず行くあても無いので地図の示す場所に向かってみる。碁盤の目のように整備されている通りのお陰で、迷うこともなく目指す建物の前まで来ることが出来た。

 改めてその建物を見ると、周りに比べて大きくもなく小さくもなく、それなりの二階建ての家だ。


 さて、入ってもいいのだろうか? 俺の勘違いだったら嫌なので、とりあえず表札を探す。程なく表札らしき物は見つかったが、何も書いてない。


 いや、よく見ると小さく何か書いてある。近寄って読んでみると……

 注)表札にむかって名前を述べよ。

 と書いてあった。

 名前か、俺の名前を言えばいいんだな。


「俺の名前は、……名前は……名前……」


 ん? 俺の名前はなんだ? 自分の名前が思い出せない! 異世界への転送の影響なのだろうか、いくら思い出そうとしても自分の名前が思い出せなかった。

 鍵の掛かった扉の前で力なく座っていると、暗くなってきた。家があるのに野宿なんて勘弁だ。それにこの先名乗る名前が無いのも困る。とりあえず、この世界での名前を決めよう。


 そう考えるとすぐに頭に浮かんだ名前がある。元の世界でゲームをやる時に必ず付けていた名前だ。

 俺は何も書いていない表札に向かってその名前を告げる。


「レオ・ファルシオン」


 自分には無い、強さと格好良さを自分なりにイメージした名前だ。元の世界ではとてもじゃないが、恥ずかしくて名乗れない。

 名前を告げてから数秒で、表札に名前が浮かび上がった。と、同時にガチャリと玄関の鍵があいた。


 家の中に入る頃にはすっかり日も暮れてしまったが、月明かりが窓から入り込むお陰で部屋の中の移動には困らなかった。一通り家の中を見て回ると、一階には釜戸の付いたキッチンと暖炉、部屋の中央にはテーブルと四脚の椅子。


 二階に上がると小さめだが三部屋あり、それぞれにベッドが置いてあった。自分でも気が付かない内に、相当疲れていたのか、そのままベッドに倒れ込んで泥のように眠った。


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