~ 第十三話 魔王の贈り物 ~
ーーー 闘技会前日 ーーー
既に各国の代表団や招待客達が到着しており、エストレア城の内外問わず賑わっていた。
そんな中、俺は闘技場に来ていた。明日の闘技会の組み合わせを決める抽選があるのだ。今回の闘技会は各国の代表に加え、招待枠、一般参加枠があり、総勢24名で行われる。
周りを見ると厳つい戦士や、怪しげなローブで全身を包んだ魔導師みたいな奴、目のやり所に困るくらい露出の高いアマゾネスみたいな女戦士等々、早くも一触即発の緊張感が漂っていた。
「お集まりの戦士の皆様、大変お待たせしました! これより係りの者が箱を持って参りますので、中から一枚だけ札をお取り下さい。取ったら書いてある数字を係員にお見せ下さいますようお願い致します」
暫くして俺の元にも係員がまわってきた。さてさてどうかな……
「ゲ、一番……」
「エストレア王国代表、レオ・ファルシオン選手、一番枠でございます!」
うへぇ、第一試合かよ……こういうのって、何となく後の方が緊張しないんだよなー。
さて、俺の相手は……と、まだ決まってないのか。
「天照国代表、水無月・桜花選手、二番枠でございます!」
お、俺の相手も決まったみたいだな、どんな人だ……って、どう見ても忍者……あ、女の子だからくの一だっけか。
国の名前が和風だと思ったらまさかのくの一か、こりゃ益々天照国に行きたくなってきたね。
ま、とりあえず戦う前に一言挨拶でもしとくかな。
あれ? いない、ちょっと目を離しただけだった……
「おい」
「うわっ! び、びっくりした」
いつの間にか俺の後ろにくの一が立っていた。
「いつの間に後ろに……」
「お主、気が緩みすぎではないのか、ふん、まぁいい、明日の試合、私は最初から全力で行く、女相手で油断した等と言い訳されぬよう忠告に来た」
「そりゃどうもご丁寧に、お互い頑張ろう」
そう言って手を差し出して握手を求めたらスパーンと手を弾かれた。
「私は遊びで来ているのでは無い、強者と戦える又と無い好機、初戦の相手がお主のような腑抜けとは……」
彼女は残念そうな表情でクルリと背を向け去っていった。
んー、参ったね、思いきりガン飛ばして、オウオウ姉ちゃん、調子乗ってんじゃねぇぞコラッ! って感じが正解だったのかね。
いや、無理。面倒くせぇ……
まぁさっさと優勝して、胡散臭いフラン王とおさらばだ。
ーーー そして闘技会当日 ーーー
観客席は溢れんばかりの超満員。熱気と怒号とも思える声援で頭がクラクラする。
お、フラン王が出てきた。いよいよ闘技会の始まりだな。
「各国よりお集まり頂いた代表団の方々、また観客席に集った民衆達に、今日この闘技会が最高の物になる事をここに誓おう! 」
いやはや、この盛り上がりの中での第一試合は色んな意味で緊張感があるなぁ……
「さぁそれでは第一試合を始めます! 」
案内役に先導されて、入場口から闘技場に入った。
試合のルールは相手を気絶させるか参ったと言わせれば勝ち。殺しはご法度だ。
「両選手、中央へ!」
水無月、は長いから桜花ちゃんでいいや、俺は勝手に脳内で桜花ちゃんと呼ぶ事にした。
俺と桜花ちゃんは中央に二本引いてある線まで進む、お互いまでの距離は約五メートルくらいかな。
そこで見合って構える。
「始めっ!」
審判の合図と共に桜花ちゃんが飛び上がった。
「ハアッ! 」
上空よりクナイの雨が降る。結構な速さだが盾で軽く防ぎきった、瞬間…足元にかがんだ体制で刀を振りかぶる桜花ちゃんがいた。
ヒュォッっという風切り音が俺の足元をかすった……咄嗟にバックステップで避けたが、今のはヤバかった、完全に足を切り落としに来てたぞ……
少しナメてたな、ちょっとマジでやりますか……
「風付与……」
風の加護を全身に纏い、その力を剣に集約させる。
そして桜花ちゃんが飛びかかってきた瞬間、一気に解放する。
「暴風!」
それなりに手加減したつもりだったが、まともに技をうけた桜花ちゃんは闘技場の壁に勢い良く激突した……
観客席からどよめきが起こる。
しまった、やりすぎたか。
審判が確認の為近づくと、桜花ちゃんはヨロヨロと立ち上がり、何かぶつぶつと呟きながら近づいてくる……
「……ない……るさない……ゆるさないゆるさないゆるさない! しねーーーーーっ!!」
鬼のような形相で飛びかかってきた桜花ちゃんが目の前で増えた!
「水無月流奥義! 鏡花水月!!」
スパーーン!
次の瞬間、俺の足元にうつ伏せに倒れた桜花ちゃんの姿があった。
桜花ちゃんが目の前で増えた瞬間、剣の腹でとりあえず全部ひっぱたいたのだ。
俺が離れると、審判が確認する。
「水無月選手の気絶により、勝者、レオ・ファルシオン選手!!」
俺が軽く手を挙げると大歓声が巻き起こった。
桜花ちゃんはそのままタンカで運ばれていった。流石に女の子相手だとちょっと後味が悪いな……
でも最後のは面白い技だったなぁ、ぜひとも覚えたい技だ。
俺はその後も当然ながら余裕で勝ち上がり、いよいよ決勝戦となった。
決勝の相手は全身をローブに包んだ、あの怪しげな魔導師だ。まぁ奴には申し訳ないが、サクッと終わらせますかね。
「さぁさぁ!いよいよ決勝戦となりました! こちらは彗星の如く表れて、一撃も食らう事無く快進撃を続ける、エストレア王国代表、レオ・ファルシオン選手! かたやこちらは一般参加からまさかの決勝進出! 謎の魔導師、フレアロード選手!」
選手紹介が終わった瞬間、全身ローブの魔導師が空高く舞い上がり、ローブを脱ぎ去った。
その姿を見て観客席から悲鳴が上がる。警護をしていたブリッツ団長率いる騎士団まで集まってきた。
「降りてこい! 汚らわしい魔族めが! 叩き斬ってくれる!」
ブリッツ団長が怒声を挙げるが、魔族は相手にせず大声で語りだした。
「よく聞け虫ケラ共! 今日は貴様らにめでたい知らせを持ってきてやった。 我ら魔族の大願であった、魔王様と女王様の降臨が遂に成された! その祝いとして、魔王クロキ様より貴様らに贈り物を預かってきた。ありがたく受け取れ!」
そういうとその魔族は黒い水晶を噛み砕いた。
「ふっ、ふはははは……が、ぁぁぁぁ!!」
魔族の噛み砕いた水晶からどす黒い煙が溢れだし、その体を飲み込んでいく……煙はやがて液体となり闘技場の地面に流れ落ち、巨大な魔方陣を産み出した。
観客席は大パニックでまともに避難ができていない。
これは不味いな、悪い予感しかしない。
いつの間にかアイラが俺の隣、セリスはその少し後方と、しっかり陣形を構えていた。
当然ながら悪い予感は当たる。激しい地鳴りと共に魔方陣から巨大な黒いドラゴンが姿を表した。
真っ赤に燃えるような眼、濡れているかのように輝く鱗、鋭く尖った爪と牙、圧倒的な存在感だ。
「レ、レオ殿、あれは無理だ、我々の手に負える相手じゃない! ダークドラゴンだ!」
ブリッツ団長まで戦意を失ってしまっている、だが、やるしかない!
「ここは俺達が引き受けるからみんな逃げろ! セリスとアイラは逃げる人達を出来る限り守ってくれ!」
二人はすぐに逃げ遅れている人達とドラゴンの間に立ち塞がる。
すると一瞬ドラゴンの動きが止まった。次の瞬間ドラゴンが大きく口を開けた、しまった!ブレスかっ!
黒い灼熱の炎が容赦なく吹き出された。
誰もが駄目だと思ったが、その炎は大きな光の盾に遮られ、誰一人焼かれてはいなかった。
「私の聖なる盾……守れました!」
「こぉんのぉぉぉぉ!雷鳴拳!!」
間髪入れずに上空からアイラの強烈な電撃を纏った拳がドラゴンの額に撃ち込まれ、大きくよろめいた。
好機だ!
「あとはまかせろ!光の加護付与……光の粒子を剣に凝縮する。喰らえっ! ホーリースラッシュ!!」
俺の放った光輝く一閃で、ダークドラゴンは光の粒子となり跡形もなく消え去った。
暫くの静寂の後、割れんばかりの大歓声が巻き起こった。ブリッツ団長は半分呆れたような表情で笑っている。
どさくさに紛れてターセルが抱きついてきたが、アイラに一瞬で引き剥がされた。
「しかしあのダークドラゴンをたった三人で、しかもあっという間に倒してしまうとは……」
ブリッツ団長が言うには、その昔魔族との戦争時、ダークドラゴンを倒す為に、当時の強者が100人がかりで丸一日戦ってようやく倒したと言い伝えられているそうだ。
まぁ昔話なので多少大袈裟に言い伝えられているとは思うが……
それでも今は強敵を倒した事実を喜んでおこう。
そして同時に魔王クロキ、その妃の女王の復活、それに対抗すべく、勇者の登場。何やら仕組まれたかのような気がしなくもないが……うん、悪くない。
各国の代表団達も国へ戻って今回の話しをするのは間違いないし、これで他国のお偉いさん方に会うのが楽になるな。
よし、この機会に各国の代表団に挨拶しておきますか、まずは次の目的地予定の天照国の代表団だな、桜花ちゃんのお見舞いも出来るし。
「セリス、アイラ、着替えてから代表団の人達に挨拶に行こうか」
「そうね、こんな機会はそうそう無いもんね」
「…………」
「ん?どうしたアイラ、浮かない顔だな」
「ふふっ、アイラってば、自分の技がダークドラゴンに大したダメージを与えられなかったのがショックだったんだよねー」
「っ! あ、あれは、レオに決めてもらとうと手加減したんだっ!」
アイラはプクッと頬を膨らませそっぽを向いた。
「仕方ないって、ブリッツ団長が言ってたけど、ダークドラゴンは光や聖属性以外の耐久値が相当高いらしくてさ、それを雷系の攻撃で体勢を崩すなんて凄いって言ってたぞ」
「へ、へぇ~、そ、そっか、まぁ手加減したんだけどな」
相変わらずそっぽを向いてるが、フサフサ尻尾がパタパタと左右に揺れている。モフモフしてぇ……
「よし、じゃあ着替えて俺の部屋に集合って事でよろしく」
ーーー 数十分後 ーーー
俺は着替えを終えて、ソファに腰掛けターセルの淹れてくれた紅茶を飲んでいる。
「えーっと、ターセル?」
「なんですか、レオ様」
こっちが照れてしまうくらいの笑顔だ。
「その、なんていうか、ターセルはここにいて平気なのか?」
「はい?」
「いやほら、騎士団の仕事とか……さ」
「私は最初にレオ様のお手伝いをと任じられています。幸せです」
ん?最後変な事言った気がするが……
「おまたせー!」
勢い良くドアが開いてアイラとセリスが入ってきた。
「……アイラ、だからノックくらいしろって」
アイラはニシシと笑っている。全く反省する気ないな……
「レオ殿、失礼する。ターセル、やはりここにいたか」
開けっぱなしのドアからブリッツ団長が入ってきた。
「ターセル、破損した闘技場の修復作業の指示を……」
「任務中です」
「いや、サイラスだけだと手が足り……」
「任務中です」
「お前の任務はレオ殿が困った時に……」
「に・ん・む・ちゅ・う・です!」
ブリッツ団長が俺に目で訴えてきてるけど、ターセルから何かヤバいオーラ出てますからー。
「はぁ~、わかったわかった、好きにしろ、サイラスには俺から言っておく。レオ殿、ターセルが面倒かけてすまない」
「え、面倒なんてとんでもない! 色々と助かってますよ」
ターセルの期限が途端に良くなった。すまない、サイラス副団長……
「じゃあ早速だけどターセル、天照国の代表団の人達に会いたいんだけど、案内を頼めるかな」
「はいっ、お任せを」
なんかもうターセルが参謀というよりメイドさんに見えてきたぞ。いや、でもターセルはメイドさんっていうより秘書が似合うな……
「どうしたの、レオ、ニヤニヤしちゃって……」
「なっ! 何言ってるんだよセリスさん、 気のせいだよ気のせい、アハハハハ」
参ったな、変な妄想してたら顔に出てたか……
「レオはエッチだからなー。ニシシシ」
「レ、レオ様は……エッチなのですか……」
ターセルが恥ずかしそうにチラチラと俺を見ている。
「なっ!おまえら……」
「着きました。ここが天照国代表団の方達がお泊まりのお部屋です」
「くっ、あ、ありがとう」
気を取り直してドアをノックすると、袴のような着物を着た優しそうな男の人が出迎えてくれた。
「突然すみません、自分はレオ・ファルシオンといいます。もし迷惑でなければお話しできないかと、それから桜……水無月さんは大丈夫でしょうか」
「これはご丁寧に、あのダークドラゴンを倒した勇者の訪問です、迷惑な訳がございません。さ、お入り下さい」
中に入ると、数人の従者らしき人達と、奥のソファーに桜花ちゃんが座っていた。
桜花ちゃんは俺を見るなり駆け寄ってきた。
「おぉ、誰かと思えば其方達であったか、よく来てくれた、さぁ皆も座ってくれ」
「水無月さん、怪我の方は大丈夫ですか?」
「ん、あぁもうすっかり回復した。それよりも私の方こそレオ殿の強さを見誤り、失礼な物言いをして申し訳なかった。謝りたいと思っていたのだ。訪ねてきてくれて感謝する」
「お話し中申し訳ないのですが、姫様、私も紹介して頂きたいのですが……」
え?今姫様って言ったよな?桜花ちゃんって……
「おぉ、すまなかった、レオ殿、この者は天照国の大臣兼、私のうるさいお目付け役だ」
「姫様……ちゃんと紹介してくださいよ。失礼しましたレオ殿、私は天照国大臣、佐倉新之丈と申します。以後お見知り置きを」
セリス、アイラ、ターセルも自己紹介を済ませ、ソファーに座り話しを続けた。
「それで、レオ殿は何か話しがあって来たのではなかったか?」
「あぁ、そうなんです。水無月…姫にお願いが」
「桜花と呼んでくれ」
流石に一国の姫を呼び捨ては不味くないか……俺が佐倉さんに目で伺うと、佐倉さんは優しく笑顔で頷いた。
「んじゃ桜花、俺の事もレオでいいよ。」
「うむ、わかった、レオ」
うん、こういうノリは楽で助かるなぁ。
「じゃあ早速なんだけど、桜花にお願いがあるんだ」
「お願い?私に出来る事ならよいのだが」
「俺達を天照国に連れていって欲しいんだ」
俺の突然の申し出に、桜花と佐倉さんは目を丸くして顔を見合わしている。
「え、えーっとですね、レオ殿、まずは天照国に行きたいという理由をお聞かせ頂けますか?」
「はい、天照国は魔族が巣食う死の大地に一番近く、魔族達の動向を見張っていると聞きました。俺は最終的に魔王を倒すつもりです。その為にはもっと情報が欲しい……大雑把に説明するとそんなところです」
「なるほどな、よし、レオ、共に参るとしよう」
「なっ?姫様、お待ちを! 殿がそう簡単にお許しになるとは思えません」
「うるさい! 父上には私から話す。心配するな」
「姫様、私は知りませんからね……」
桜花はうるさいと言いながら耳を塞いでいる。すげぇ不安だ。
「レオ殿、殿はあまり外からの客を好みません。ある程度の障害がある事をお覚悟願います」
「了解です」
「それではレオ殿、我々は二日後の早朝に出立しますので、それまでに支度をお願いします」
不安そうな佐倉さんをよそに、桜花は勇者一行を連れ帰るとご機嫌だった。
俺達は二日後に街の入り口で落ち合う約束をして部屋を出た。
「さて、俺達も急いで準備をしないとな」
「そうだね」
「そうだなー」
「そうですね」
……ん?返事が一つ多くないか。
俺とセリス、アイラの視線がターセルに集まる。
「皆さんどうしました?」
「いや、ターセルが当たり前のようにそうですね、とか言うからビックリして……」
「嫌ですわ、レオ様、ターセルは何があろうともレオ様に付いてまいります」
…………とりあえずブリッツ団長の所へ行くか……
ーーー 騎士団詰所 ーーー
「ターセル! 自分が何を言ってるのか分かってるのか!」
「もちろんです。私は決めたんです、レオ様の魔王を倒すという想いを叶える為に、微力ながら私の全てを捧げると」
「レオ殿、すまんが暫く二人で話しをさせて貰えないか」
「わかりました、俺達は部屋に戻ってますね」
深刻な顔をする二人を残して、俺達は部屋に戻った。
その後は特に誰も来ることは無く、久しぶりに俺とセリスとアイラの三人で、今までの事、これからの事を夜遅くまで話した。




