十二回
〇三章,激動の末に・上/十二回
暫し誰もが口を聞くことができずにいると、植物達は急速に枯れていき、その先から光の粒子となって孵化へと溶け込んでいく。
どうやら孵化のある間は、生まれたすべては帰っていくようだ。
次の世代へと移行するための準備でもあるのだろう。
「なぜ……」
このときのアーサーにとって、できうる限りの問いだった。
だが女に対しても、レンドに対しても、疑問が拭いきれない。
むしろそこまでさせるなにが、彼等にあるのだろうという思いが沸き上がる。
冷酷さが窺える瞳を携えながら、レンドは振り返る。
底冷えするような眼差しが、アーサーを捉えた。それがことさら、問いを重ねることを躊躇わせる。
「なぜ、だと?」
意外にも平静に、レンドは口を開く。
「それを聞きたいのは、私の方だ。同胞がこのまま消えうせてもいいのか。共に今を築いてきた同胞を」
「…いい加減にしろよ。いつまでもレイナの亡霊に突き動かされるつもりだ。あれはお前のせいばかりとは言えない。あいつ自身が望んだことに、いつまでも罪悪の念を抱いている必要なんてないだろ」
「どういうこと?」
掴みかかるガリックへと、事の真相を知らない二人は疑問を投げかける。
レンドはそんな彼等を皮肉交じりに笑みを浮かべ、アーサーへと目を向ける。
ゆっくりと手を差し伸べる。
「アーサー。お前は、私と来てくれるな?」
「…なにをするというのだ」
「孵化の消滅。その邪魔をする者と、孵化に還ろうとする者の排除」
躊躇なく答えるレンドに、アーサーは息を呑んだ。二人も同様のようで、言葉を失っている。
「断る。彼等には彼等の考えがあり、選ぶ道がある。我々ができるのは、他の者達の手助けに過ぎない。独断で世界の成り立ちを歪めるつもりはない」
「ならば私が与えた力、返してもらおうか」
「それも断る。なにをするのか知っていて、返すことなどできぬ」
断固として拒否を示すアーサーに、レンドは片方の眉をひそめる。
憤怒の炎が、瞳に宿っていく。静かに燃え盛る眼差しに、敵意を剥き出しにしながら進み出ようとする。
行動により、なにをするのか察したのか、ミレイアは両手を広げて割って入る。
続いてガリックも、隣に並ぶ。
「アーサーに手出しはさせない」
「それで私を、止められると思っているのか」
「なにをするのかわかっていて、黙ってみていると思うなよ」
「待て、我のことなら……」
止めようとするアーサーだったが、二人の射抜くような怒りのこもった目が、完全拒否を示している。
その様に思わず、二の句が継げなくなる。
「僕は許せないんだよ。これまで一緒に頑張っていたのに、どうしてこんなことする必要があるの」
「私の力の約半分はアーサーが持っている。今後のために取り戻したいと思うのは自然だろう?」
「だか渡したのは、お前だ。意見が対立したから強引に奪い返すってのは、筋が違うだろう」
「そうだよ。力づくで事を済ませて、邪魔する同胞は排除して、それでなにが残るっていうの。そんなのただの独裁支配でしかないじゃないか」
沈黙がよぎる。だが互いを見つめる眼差しは、火花が散っていた。
誰もが自分の意思を曲げるつもりなどないのは、一目瞭然だった。
ややあってレンドは、諦めにも似た短いため息をついた。
「どうやら話は平行線のようだ。やはりアーサーに渡した力を返してもらうしかない。だがその前に」
レンドは自分の胸元に手を置いた。
なにをするのだろうと、アーサー達は身構える。
「今の私の力で、生み出せるのは三つか」
呟くとレンドは、拳大程の光の球を一つ生み出した。
光の球の形状は、孵化から生み出される同胞達に酷似していた。
個体としてなれなかった者は、水飛沫のような小ささなのである。
そのことに瞠目する。なにかを産み落とす行為はだけは、孵化しかできないことなのだ。
「なぜ……」
アーサーは思わず呟いていた。
「これは、あの女が私の中に溶け込む際にくれたものだ。だからこそ私だけが扱える。さて、アーサーを殺せ。できなければ足止めをしろ。名は、そうだな。ザルバード」
名を定めると、それに応じる声が上がる。
それと同時に全身が紅い鱗に覆われ、レンドと同じ真黒な羽をはばたかせる者の姿があらわになっていく。
これまで見たことのない異形の姿に、アーサー達は唖然とした。
その隙を縫うようにして、ザルバードはアーサーへと向けて直進する。
鋭い爪で一閃されそうになり、とっさに避けた。
だが完全に避けることができず、服にいくつもの切り込みが入った。
レンドはアーサー達を一瞥した後、背を向けて遠のいていく。
「待て、レンド。話を……」
追いかけようとするアーサーだったが、強く腕を掴まれて引き離される。
腕を掴んでいたのはガリックである。
なにをするのだと非難の目を向ける最中、またしてもザルバードの爪がアーサーを襲う。
ザルバードの攻撃をよけた直後、ガリックの叱咤が飛んだ。しかしまたしてもザルバードの手は向けられる。
だがミレイアが攻撃を受け流し、追いやると、反撃に出る。
加勢しようとするアーサーだったが、ガリックに腕を掴まれたままであるため、行動に移れなかった。
「なにをしようと勝手だが、お前は今狙われてんだってことを忘れるな!」
発言する間を失い、なおかつ釘を刺され、アーサーは否応なく呑みこんだ。
ザルバードをどうにかすることが先決なのだということは、明らかなのである。
思いながらアーサーは、異形の者を改めて見やる。
現在ミレイアと交戦中である。だが力は拮抗しているのか、一進一退を繰り広げている。
「生まれたばかりで力の使い方がなっちゃいないが、俺達と同じような力が使えるなら厄介だ。いいか、お前はそこにいろ」
「だが……!」
レンドを追いかけることも、応戦することも許されないといわんばかりのガリックに、アーサーは声を荒げる。
このままなにもせずにいろという方が、我慢ならない。
「黙れ。あいつの意思がどういうものにせよ、お前は事実命を狙われている。このまま奴を追いかけても、話もできずに終わるのがオチだ」
またしてもアーサーは言葉に詰まる。
交戦中とはいえ、いまだにザルバードの殺気はアーサーに向けられている。
なおかつレンドの傍には、他の二人の追従者がいることになる。
話し合いを求めた所で、ガリックの言うように、ふいをつかれて命を落とすことだってあり得るのだ。
なにもできずにいる自分に不甲斐なさを感じ、口元を一文字にくくる。目元に切なさが宿る。
ザルバードはガリック達と交戦するも、うまく立ち回り、しまいには魔法をも使い始めた。
闘うために生み出されたのだろうか、短時間での戦闘吸収率とセンスはずば抜けている。
対してガリック達は、これまで交わったことのない相手であるためか、やり難さを感じているようだ。
それが徐々に苦戦の要因として大きくなっているようだ。
ならばと、アーサーは一つの案に思い至る。
ザルバードの狙いを考えれば、時間がない以上、他の策を考えている余裕はない。
アーサーは大きく旋回し、レンドの去っていた方へと飛行する。それを見るや、ザルバードは睨みつける
。
「アーサー?」
「あの馬鹿、先走るなっていったのに!」
ガリックとミレイアも、アーサーの取った行動に少なからず意表をつかれた。
それにより少しばかり気の緩みができた瞬間、隙を突いてザルバードはアーサーを追いかける。
数刻のことだったが、遅れを取った二人も後を追った。
逃げるように旋回していたアーサーだったが、一定のところまで来ると即座に反転し、ザルバードへと突進した。
相手も相当な速度で追ってきていたため、向かい合う速度は尋常ではない。
接触する直前、アーサーはザルバードに向けて風の魔法で切り裂いた。
「「アーサー!」」
傍から見れば、危険極まりない。むしろアーサーの身の危うさを感じたのだろう。
だが落下していくのがザルバードであるといことに安堵し、急いで近づいた。
「この馬鹿が。心配させるんじゃねえ!」
「そうだよ。一瞬アーサーが危ないと思ったんだから」
二人は一斉にアーサーへと噛みついた。
反感を買うとは思っていたが、予想通りの反応に微苦笑する。
だが束の間、倒したと思っていたザルバードは全身に傷を負いながらも、再び上昇してきたのだ。
かなりのダメージを受けているらしく、肩で大きく息をしている。それでも向かってくる姿に息を呑む。
ガリックは睨み据え、ミレイアはすぐに交戦できるように身構える。
だがアーサーは傷ついている彼とは、これ以上戦う意思などなかった。
「もうやめるのだ。これ以上は、そなたの命に関わる」
「俺は…死なぬ。主の命令を遂行するまでは…」
攻撃の手を向けようとするザルバードだったが、突然動きが止まった。
訝しく思い見つめていると、ふと手を緩めて後退する。
先程までの行動が嘘だったかのように颯爽と去っていくザルバードを、唖然として見送ってしまった。
「なんなのさ、あいつ」
「もしかしたら足止めとやらが、終わったのかもしれんな」
ぼやくミレイアを余所に、ガリックは今後を問うようにアーサーへと目を向ける。
数瞬遅れて、ミレイアも同様の視線を向ける。
「一度、憩いの舘に戻るとしよう。レンドがいるかもしれぬ。そうでなかったとしても、なにかわかるかもしれぬ」
「でも危ないんじゃないの?」
アーサーは、軽く首を左右に振った。
危険だとわかってはいても、会いたいと思う。会えなくとも、なにかが残っていてほしいと願う。
一度は拒絶されたが、やはり腰を落ち着けて話をしたい。
難しくても、何度も邪険にされても、今一度話をしたい。正直な心の内を聞きたい。
それがアーサーにとって、偽りのない思いなのである。
言葉にせずともガリックにはわかっていたようで、やや呆れ気味に顔をしかめる。
「話し合いで止める気だろうが、きっと聞く耳をもたんぞ」
「それでも、まずできることをしたいのだ。命を狙われているとはいえ、無暗に敵対したくはない」
僅かにアーサーは目元を伏せる。だが強い決意は秘められていた。
始めからこうなるとわかっていたのか、二人は呆れたように息をつく。だが落胆でもなく、諦めでもない。
「仕方ない。その様子だと、止めても聞きそうにないな」
「本当にね。だから放ってはおけないんだけどさ」
「これは我とレンドの問題だ。付き合う必要などないのだぞ」
慌てて止めるも、二人は互いの顔を見合わせた後、再びため息をついた。
「駄目だ」
「嫌だ」
即答する二人に、むしろアーサーの方が面くらってしまった。
これはアーサー自身のケジメであるため、関与させるつもりなど、まったくなかったのである。
戸惑いと困惑によって慌てふためくアーサーを、ミレイアは可笑しそうに見据えていた。
「僕はアーサーの居るところに、一緒にいる。ずっと前から、そう決めてたんだからね」
「俺も少なからず、あいつとは縁があるからな」
「だが……」
「お前がしたいことがあるように、俺達は俺達の考えがあって一緒にいるんだ。不都合もなにもないだろ」
いまだに困惑しているアーサーへとガリックは言うと、ミレイアも強く頷いた。
ガリック達の思いに躊躇うものの、拒否しきれずに承諾の意味を込めて頷いた。
早速憩いの舘に行くと、無数の光の粒子が残留していた。一人二人の量ではなく、しかも殺されて間もないようだ。屋敷内には、他の同胞達の気配は一つもない。
ガリックは唇を噛みしめ、ミレイアは悲痛なまでに顔を歪めた。
いくら互いを束縛しないとはいえ、それぞれ気の合う者もいた。
そうでなくとも同胞が痛々しい目にあって、平然としていられなかったのだろう。
「既に去ったあとか」
アーサーは呟いた。できることなら同胞を手にかけてほしくはなかった。
だが邪魔立てする者には死を、協力する者には手を伸ばすということなのだろう
。同胞の無残な姿を見ては、レンドが本気なのだと思わざるを得ない。
現在憩いの館にいないのは、おそらく孵化の消滅を促すため。
同時に敵か味方かを見定めるために、他の同胞を探しに行ったのだろう。
そうなると舘以降の行き先を捉え、探しだして話し合いをするということは、難しいかもしれない。
なぜなら同胞には固定された住居はなく、寄り集まって過ごす習慣はほとんどないためである。
だがすべてが終わる前に、会わなくてはと空を仰ぐ。
そんなとき同胞達が、幾人かやってくる姿を目にした。
「空は青くなるし、草木は枯れた先から粒子になって孵化に取り込まれていくし、一体なにがあったんだ」
「レンドに話を聞きに行った同胞は帰ってこないまま、レンドはどこかに行ってしまったしな」
同胞達は地上に降り立つや否や、口々に質問を浴びせた。
そのため気持ちが落ち着き、周りに目を向ける余裕ができたのだろう。
庭先に光の粒子の名残が多数あることに、一瞬言葉を失った。ややあって色めき立っていく。
「皆、聞いてほしいことがある。この世界の行く末と、レンドのことについてだ」
アーサーはその言葉を皮切りに、先程あったことを同胞達に伝えた。
話が進むたびに、誰もが信じられず、戸惑いの表情を浮かべていく。
だが世界に起きつつある現象と、粒子の名残が物的証拠となって存在しているだけに、否定しきれないようだ。無言のまま、それぞれ顔を見合わせている。
「困惑する気持ちはわかる。だが各々がどうしたいか、よく考えてほしい。できるならこのことを、多くの同胞達に伝えてほしい。その上で孵化に還るか、レンドにつくか、中立を保つかは自由だ」
「お前は、どうするつもりだ」
ややあって、同胞の問いがアーサーへと飛んだ。
アーサーは若干目を細める。問いかけた同胞へと据えられた
「レンドを見つけ出し、話をし、止めたいと考えている」
「もし、やめなかったら?」
「…そのときは、戦うことも辞さない」
決意の込められた瞳に、同胞達に小さなどよめきが走る。
「だからこそ、各々の道は各々で決めてほしい。我が言えるのは、それだけだ」
思考が追いつかないのか、それとも信じ切れずにいるのか、同胞達には動揺が走り、軽い混乱状態に陥っている。
彼等を暫し見つめた後、これ以上できることはないと、アーサーはその場を離れるべく飛翔する。
するとミレイアも後に続き、やや遅れる形でガリックも追ってくる。
森林や空を一望できるほどの高台まで来ると、アーサーは降り立った。隣にミレイアと、ガリックも続く。
「…ねえ、レンドと戦うなんて言って良かったの?」
「そなたこそ、良かったのか。孵化に還り、次世代に生まれ落ちたいのなら、今しかないのだぞ」
「いいんだって言ったじゃない。僕はアーサーのいる所にいたいんだよ」
「…ありがとう」
そんなアーサー達のやり取りを見ていたガリックは、呆れたように息を吐く。
なぜだろうと、アーサーは不思議そうにガリックを見上げた。
気づいていないのかと言いたげに、ガリックはまたしても呆れたため息をついた。
「お前さ、本当に自分の気持ちや相手の気持ちに気づいていないのか。鈍感にもほどが…いって!」
ミレイアはガリックの足を思い切り踏みつけると同時に、睨み上げる。
思わぬところからの容赦ない攻撃に、ガリックも睨み返した。二人の視線が火花を散らす。
「そこがアーサーの良い所なんだからいいんだよ!」
「どこがだよ。はっきり言わなきゃ、いつまでも変わんねえだろうが。お前はそれでいいのかよ!」
「いいんだよ、このままで!」
「ああ、そうかい。勝手にしろ!」
「そうしますよーだ!」
睨みあう二人が、なんのことで言い合っているのか知らないアーサーだったが、ふと笑みが零れた。
「そなた達は仲がいいのだな。夫婦になるときは、教えてくれ」
「違う、全然違う! どうして俺がこいつなんかと!」
「絶対にない! 僕の理想は、まったく全然違うんだから! もうそれもこれも誤解されたのは、あんたのせいなんだからね。ガリック、責任取りなよ」
「なんでそこで俺に振るんだ。もともと誤解されたのは、いつまでもお前がはっきり伝えないのが悪いんだろうが!」
「だからって、よけいなお節介することないでしょう。僕がそうしたいからそうしたいの!」
これでもかと息の合った二人のやり取りに、アーサーはまたしても笑みがこぼれた。
衝撃的であった先程のことが、まるで嘘のようである。
だがややあって、別のことが頭をよぎった。
レンドと女との因果関係である。あのような行動に出た背景には、なにかあるような気がしてならないのだ。
「…レンドとあの女の関係のことを知っているようだったな。できれば教えてはくれまいか
」
「そういえば、レイナの亡霊がどうとか言ってたよね」
二人の問いに、ガリックは途端に渋面になった。
なにかを思い出したのか、哀しげに視線を地面に落とす。口元もきつく結ばれている。
「言いたくないのであれば、我はこれ以上聞かぬが」
「いや、そうじゃない。そういうわけじゃないんだ」
弁解しようとするガリックではあるが、またしても口をつぐむ。
伝えたいが、躊躇っているという印象である。
煮え切らない態度に、ミレイアは眉をひそめた。
「もう、しっかりしなよ。いつもの威勢はどうしたんだ。言いたいの、言いたくないの、どっち?」
腰に手を当てて詰問するミレイアに、ガリックは諦めたように微苦笑する。
「…らしくない、か。そうだな。あの女は、いや元々は女じゃなかったんだが、レンドと対になって生まれた同胞だ。それから遅れるようにして、俺が生まれた。その頃はまだ、孵化は一つしかなかったんだ」
「そうなの?」
訊ねるミレイアに、ガリックは小さく頷いた。
「どうやらレンドとレイナが生まれることによって、孵化ができたらしい。もしくはその逆かもしれない。だから二人は俺達の始祖であり、別格なんだ。そんな経緯からか、孵化の幹に選ばれたのも奴等の内の一人だったんだ」
その頃、まだ孵化は不安定でしかなかった。
空間の歪みのような存在であるためなのかもしれない。そのため存続するための力が必要だったのだろう。
だが最初選ばれたのは、レンドだった。
日が経つごとに、孵化に呼ばれる感覚も衝動も強くなっていく。
だというのにレンドは気力によって、跳ね除け続けた。
「暫く経った頃、孵化に還ったのはレイナだった。以来レイナが幹という名の礎になった。レンドの代わりに。そして今ある、無数の孵化が生まれることになった。その時いた同胞達は孵化に還ってしまったから、このことを知っているのは俺とレンドだけってことになる」
「……本来ならレンドが、孵化の幹になっていたかもしれないんだ」
問いに、ガリックは頷いた。
「そうだ。同質の力をもつレイナが孵化に還ることで、衝動は収まったらしい。だが孵化に還る直前、レイナは今後生まれてくる同胞達が健やかに日々を過ごせる世界をと、レンドに託したんだ」
「レンドがこの世界と同胞を守りたいって固執していたのは、そのためだったんだね」
「おそらくはな。けれど一人で成し遂げるには、心に空いた穴は大き過ぎたのかもしれない。だからこそ共に築いてくれる同胞を望み、最終的にアーサーを選んだ。背景には、レイナと同じ、その銀髪と無垢な青い瞳に惹かれたからなんだろうな」
「……そうだったのか」
そういえば銀の髪も、目の色も、女と同じなのだということに、アーサーは今更ながら思い至る。
求められていたのは、見ていたのは、アーサーの向こうにいるレイナ。
事実、時折アーサーを通して、遠い誰かを見ているような感覚は受けていた。
ふいに胸の奥に、寂しさが吹き抜ける。
「だが誤解するなよ。確かに最初はそうだったみたいだが、あいつの傍にいて、時には苦言をして、共に歩いてきたのはお前だ。力の半分をお前が握っているってこともあるが、今あいつを止められる確率が高いのは、お前だけだと思ってる」
だから死ぬなよと、ガリックは続けた。
ミレイアも、アーサーの手を取って微笑んだ。
「僕も一緒にいるんだ。絶対に大丈夫。レンドを捜そうよ。こういったやり方以外に、道はないのか一緒に考えよう。ね」
それだけで二人は、共にどこまでも付いてくるのだということを、アーサーは改めて実感した。
アーサーをアーサーとして見てくれている。
そして共にいてくれる。そのことに感謝で満たされていく。
「ありがとう」
どこまでこの想いを伝えきれているのかわからないが、二人に感謝を告げた。




