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九回

〇二章,水の神殿/九回


 巣窟の中、暗闇の一部で仄かな明かりが滲んでいる。

 明かりだけでも、誰がいるのか充分に知ることができる。

 明かりを挟むようにして、人でも妖精でもない者が顔を合わせていた。

 限りなく人型に近いが、魔物とは少し違う。魔物より格が上の者達である。

 一人はザルバード。もう一人は、水の神殿に侵略行為を続けている妖魔ヨーゼフである。


「水の神殿にルアスがいるというのは、本当なのだろうな」


「御意に。水の神殿に入るのを、我が配下が目撃しております。何度か進軍したところ、神殿から出た様子はありません。なにより神殿には、心強い味方がおりますゆえ」


 妖魔が不敵に笑んだ。ザルバードはルアスを確保できれば神殿の内情に興味はないのか、鼻で軽くあしらう。


「なんの目的で滞在しているかはわからんが、逃げ腰の臆病者ではないようだ。そろそろ頃合だな。次は俺も出る」


 準備をしておくように告げると、妖魔は深々と拝礼する。

 水の神殿は、これまでにはないほどの襲撃を受けることになる。

 もちろんそれを知るのは、今この場にいる一握りの者だけである。



 会議の場として設けられている一室に、フウラを筆頭にした、それぞれの担当警備責任者がテーブルを挟んで膝を合わせている。

 もちろんルアス達を捕らえた、神殿担当警備のホビットの青年もこの場に出席していた。

 誰も彼も、渋面をたゆたえた面持ちである。


「フウラ様、いつまでもあのような者達を生かしておくのは危険すぎます。フィニアとかいう娘も、ウンディーネを呼び出したのですから、抹殺すべきでしょう」


「だがどのような理由で、そのような行為に走ったのか、理由は不明だろう」


「そうは言うが、彼の者達が妖魔の軍勢に味方していないとは言い切れまい。娘がウンディーネを取り込んだのも、そのためだろう」


「彼等は取り押さえられてから今まで、逃げる兆候も素振りもまったくなかった。もし妖魔の軍勢と関わりがあるのなら、なにかしらの干渉はあったはずだ」


「それも私たちを油断させるための策略かもしれん。だが一番厄介なのは、あの娘だ。娘の中にいまだ不安定な状態で存在し続けている。不用意に手を下せば、ウンディーネの力が暴走しかねん」


「そうなればこの神殿も無傷ではすまされない。その隙を狙って、またしても妖魔の軍勢が押し寄せてくる可能性は高い」


「やはりそう考えると、彼等は妖魔たちと手を組んでいると勘ぐるべきだろう」


「そうさな。だがそれを抜きにしても、二週間経った今でも夢現の中にいるにせよ、自我を保っていられるといることには感服せずにはいられないな。このような最中でなければ、惜しい逸材だ」


「だが今は余談を許さぬ状態だ。決断は早ければ早いほど良い」


 各々の担当警備責任者達は重苦しい息を吐くと、沈痛な雰囲気が立ち込める。

 即刻英断しなくてはいけないというのに、誰一人ルアス達に対する妙案が見つからずにいた。

 状況が状況なだけに、妖魔の軍勢との関係を切り離して考えることができなかったのである。

 とうぜん真実を見極める手段があるはずもない。

 沈黙が過ぎる。


「そろそろ私直々に、彼等に面会しても良い頃合ですね。もし本当に妖魔達と無関係であるなら、ぜひとも神殿に留まっていただかなくては」


 それだけフウラにとって、シェイドとフィニアの資質や能力は捨てがたいのである。

 闇の精霊の閉める割合が濃いとはいえ、威圧感のあるシェイド。

 フィニアも意識を失っていながらも、水の上位精霊をその身に宿しながら、自我を失うことなく今も意識下で闘っている。二人なら強大な戦力となってくれるかもしれないと踏んでいた。


「危険です。フウラ様みずからお会いになるなど!」


「その通りです。懐柔しようと我々がまこと密やかに催した策を彼等は逆手に取り、今回の件に至ったのです。ケティルという青年の闇の禍々しさも然ることながら、混血児を引き連れていること自体信用に値しません!」


「彼等が妖魔の軍勢と共謀していないとは言い切れないのですよ!」


 直ちに足を運ぼうとするフウラに、様々な制止の声が上がる。

 彼等へと、フウラは一蹴するような凛とした眼差しを向ける。

 彼等は気圧され、一瞬にして言葉を失った。異論はあるらしく誰も彼も渋面だが、表立って口にできずにいる。沈黙だけが過ぎていく。

 フウラは彼等を見やりながら、やがて澄んだ声を放った。


「では聞きますが、このまま手を拱いていることが良策と言えますか。彼等の話が筒抜けとはいえ、魂胆がわかると言えますか。ただでさえ妖魔が何度も襲いくるというのに、いつまでもこの件で手を割くことなどできません」


 言い終えるとフウラは、ハキハキとした足取りでルアス達のいる洞穴へと向かっていく。

 あまりの大胆な発言、行動に驚き、唖然としたのは彼等である。フウラは現在の統率者であるために、なにかあっては困るのである。彼等は慌てて追いかけた。


「護衛をつけて頂かなくては困ります。何人かお連れになってからでも宜しいでしょう」


 駆け寄った中で声をかけたのは、腹心の青年ナリスである。

 深緑の髪と真青な瞳で叱りつけるように窘める姿は、見ようによってはあやしているようにも感じる。


「では護衛は、貴方一人に任せます。あとの者は持ち場に戻りなさい。彼等のことは、おって連絡します」


 歩みを止めることなく小狡賢そうに一瞥するとし、着いてくる他の警備担当責任者達へと告げた。

 持ち場へと戻るように告げられた彼等は不服を隠そうとはせずに見やる。だがナリスが護衛として残ると知ると、誰もが安堵の息を漏らしていた。

 腹心という役職は名ばかりではない。時折暴走しがちなフウラを諌め、意見することができる立場であり、警備担当責任者との仲介者でもある。

 二番目にウンディーネと交信できるだけの力を兼ね備えている。

 誰もがナリスを信頼しているのである。


「出せよ、バカヤロー!」


 いつまでも叫んでいたためだろう。

 ルアスの涸れた声が洞窟内に反響している。


 入り口の外にまで聞こえていたのだろう。苦笑しながらフウラ達が入ってくる姿が目に入る。

 ただでさえ閉じ込められてからというもの、自分達以外の動く存在を目にしていなかったために、より敏感になっていたことも関係していた。

 足を踏み入れた人物がフウラと腹心のナリスだけであることに目を瞠ったルアスだったが、すぐ様睨み据える。


「おい、フィニアは無事なんだろうな!」


「落ち着け」


「これが落ち着いてられるかよ。フィニアが命の危機に晒されてるかもしれないってのに!」


「だからこそ落ち着けと言っているんだ。巫女フウラと腹心のナリスが来たことに、少しは不信を抱け!」


 頭に血が上っているルアスを窘めるシェイド達の姿に、フウラは俄かに声を上げて笑んだ。


「とても小間使いの従者とは思えない態度ね。貴方達の仰る無事という意味がどのような形を指すのかわかりませんが、意識は失っているものの自我はまだ失っていませんよ」


「フウラ様、悠長に笑っておられる場合ではありません。混血児の身でありながら、不遜な態度を取らせておくなど……」


「別に良いでしょう。私は混血児に会うのは初めてなの。生まれてから一度も、神殿の外には出たことがないんですよ」


 何度か出逢ったときとは違い、軽口を叩き、うっすらと笑むフウラにルアスは困惑を示した。

 シェイドは探るような眼差しを向けている。


「それより本題に入ったらどうだ」


「そうですね。貴方達は何故、担当警備の者達にあのようなことをし、ウンディーネを呼び出したのか。それを訊ねに来たの。返答次第では処罰を与えなくてはいけません」


「話をしたところで、信用されなければ意味はない」


「話をして下さらねば、こちらも判断のしようがありません」


 フウラとシェイドは静かに睨みあう。まるで互いの思惑を推し量ろうとしているかのようである。


「こんなときにまで強情張るなよ。俺達はアーサーに言われて、ここまで来たんだ。ウンディーネの力が必要だから呼び出したんだ!」


 フウラは訝しげに眉をひそめ、シェイドは露骨に舌打ちした。


「アーサー?」


 フウラは意味深に口元に名を紡ぐと、更に問おうと身を寄せようとしたときである。

 なにかが激しく神殿に叩きつけられた衝撃が走り、轟音が響く。続いて地鳴りが起こった。天井からは細かい砂埃が落ちてくる。


「これは、もしや襲撃?」


 誰ともなしにフウラが呟いたのと同刻、洞穴に一人の男がやって来た。

 伝令の一人なのだろう。走り詰めだったらしく、息が上がっている。


「フウラ様、またしても妖魔の軍勢です。しかも今回は妖魔が二体です。片方は例の妖魔ですが、片方は赤い鱗に覆われた体に蝙蝠の羽を持つ新手です」


「ということは、奴等もそれだけ切羽詰っているということか。だが何度来ても知れたこと。いつものように対応し、撃退せよ!」


 勇ましく激励を飛ばすナリスに感銘を受けたのか、男は敬礼すると踵を返して戻っていく。


「さあフウラ様、私達も急ぎ戻り、指揮を取りましょう」


 促すナリスだったが、フウラは表情を強張らせ、体を小刻みに震わせていた。

 どこか遠くを見るように、目の焦点も合ってはいない。


「ザルバード……」


 どうなされたのかと問おうとするナリスより早く、フウラの口から呟きが洩れる。

 紡ぎ出された名に、過敏にしたのはシェイドである。

 烈火の如き憎悪に全身をわななかせながら、鋭い眼差しでフウラを射抜く。


「貴様、奴のことを知っているのか!」


「今まで目にしたことはありません。ですが以前ウンディーネが眷属の下級精霊を遣わして、私達に知らせて下さったことがあるのです。魔物の容姿と属性と名を……」


 魔族が出てくるなどとは考えていなかったための、緊張と恐れと緊迫感とがフウラの身を満たしていくのが容易に知れる。

 ルアスとナリスはどう判断して良いのか戸惑い、揺れる。


「では彼等は本腰でウンディーネを手に入れるつもりか」


「それじゃあフィニアは!」


「ウンディーネを縛り、閉じ込めている器と成している以上連れて行かれるのは間違いない。無事に手中に収めたなら、最期には……器は必要ではなくなるだろう」


 最終的には殺される。そういうことなのだろうと察したルアスは、戦慄した。


「……出して、今すぐここから出してくれ!」


「なにを言っているのです。そのようなこと、できるはずがないでしょう」


 身の程を弁えないルアスに、豪語するフウラ。

 だがルアスとしても黙って言われるがままにできるはずもない。

 今までは大丈夫かもしれないという思いがあったが、今回は必ずしもそうとはいえない。

 妖魔達はウンディーネを手に入れるために、水の神殿に進軍してきたのである。

 しかも魔族が関わっているかもしれないと知れば、一際である。

 このままなにもせずにいたなら、フィニアの危険は増すばかりなのだ。


「フィニアが危ないんだ。このままじっとなんてしていられない!」


「俺はザルバードという魔族に用がある。ルアス、もはや迷う必要などない、燃やせ!」


 言い終えるのとルアスが炎を舞い上がらせ、蔓を燃やしたのとはほぼ同時だった。

 剣などを使っても壊すまでには至らなかった檻が今、あっさりと崩れ落ちていく。

 けれどそれはルアスの檻だけであり、シェイドの所へは残り香が一部を覆うのみ。

 機を逃がすことなく、炎が宛がわれた場所へと手を置き、消え入る前に素早く詠唱していく。


「風の中位精霊ジンよ、俺の呼びかけに応じよ!」


 風は炎によって薄くなった蔓を、補修する隙を与えずに切り刻んでいく。

 半端ない爆風を間近で感じたナリスは、巻き込まれないと急いでフウラを抱き寄せて、地に伏せる。

 刹那シェイドの檻は破られた。裂け目から身軽に土に覆われた地面に降り立つと、憎悪に塗れた眼差しと嬉々とした薄い笑みを口元に含ませ、洞穴から抜け出した。

 取り残されたルアスはフウラ達に駆け寄り、切羽詰った面持ちを向ける。


「フィニアはどこ」


 開口一番に問われた内容に、ナリスは思考がついていかず、眉をひそめた。


「フィニアはどこ!」


「貴様に教えられるはずもなかろう!」


 ようやく問いの内容を理解したナリスは、即座に跳ねのけた。

 けれどそれくらいではルアスは怯まない。

 なおも詰め寄ろうとしたとき、出入り口から爆風が吹き込んできた。ただでさえ争いによる老朽化と、先程のシェイドの風の魔法により、脆くなりかけている洞穴である。

 爆風と共に、瓦礫がルアス達を襲った。

 叩きつけられるように吹き飛んでくる瓦礫を身構えながらも辛うじて避け、出入り口を見ると、人間での妖精でもない異形なる者が一人たたずんでいる。

 ねっとりとしたものを口元に含ませながら、ほくそえむ異形の者に、ルアスは見覚えがあった。

 ゴルファ洞窟で対峙した、妖魔ガースに造形が良く似ているためだ。立ちはだかる異形の者も、妖魔の一人に違いない。


「お前がルアスだな。ザルバード様のご所望により、連行する。抵抗はするなよ。半死半生は問わずとは言われているが、殺すなと厳命されているのでな」


 下手に抵抗されると手加減できるかどうかわからないと、続け様の卑下た笑みを浮かべる。


「貴様、一体どこから入ってきた!」


 ナリスは妖魔へと激烈な叱咤を与えた。

 現在地は水の神殿の最下層に近い場所。容易に入れる場所ではない。

 妖魔は答えることはせず、暗い闇のような、赤黒い炎のような瞳をナリスに向ける。


「どうして俺の名前を知ってるんだ」


 問うも、ルアスは冷や汗が頬をつたい、根が生えたのではないかと思えるほどに、一歩も足を動かすことができない。

 名を知られていることもそうだが、なんの目的があって連れて行かれなければならないのか。

 妖魔に命令を下したザルバードとは、フウラが口にした通り魔族であるなら、よけいに意図がわからない。

 むしろ一つだけ心当たりがあるために、喉は渇き、動機は早まり、妖魔から視線を外せない。

 心当たりとは、姉のシンシアである。


 アーサーは告げていた。

 連れ攫われた可能性があるとすれば、妖魔よりも数段格が上の魔族か、それらを束ねる魔王だけだと。

 後先考えずに妖魔についていけば姉に会えるかもしれない。けれどそれではフィニアはどうなるというのか。

 なんの身構えもなしの妖魔と対面して足が竦んでいるということも関係しているが、ルアスの中で迷いが生じており、それが動けずにいる要因の一つにもなっていた。


「フウラ様、今のうちにここから脱出しましょう。……どうなされたのですかフウラ様」


 妖魔がルアスに気を取られているうちにと、ナリスは促す。けれどフウラはルアスを、驚愕の面持ちで凝視している。肩を揺らしても、何度呼びかけても応じようとはしない。

 ルアスは間近にいる彼等の存在をようやく思い出し、腹を括ると剣を引き抜き、妖魔へと向かっていく。

 いくら混血児だからと批判を受け、二週間もの間閉じ込められていたとしても、この状況下で野放しにしておくことなどできはしなかったのだ。なによりフィニアを置き去りにすることにもなる。


「お前に選択権などないのだよ」


 妖魔は呪文を詠唱すると、ルアスへと手をかざした。すると石礫が襲う。

 ルアスは避けきれず、体を石礫が抉っていく。血が滲み、痛みが全身を駆け巡った。

 口元が苦痛に歪み、足元がふらつく。けれど闘志だけは怯むことなく、妖魔に叩き付けた。


「なんの用かは知らないけど、俺は捕まるわけにはいかないんだよ!」


 再び剣を構えると、フウラ達へと促すように一瞥し、妖魔へと斬りかかった。

 斬られまいと妖魔が身を捩った隙間を通り抜け、ルアスは一直線に逃げ出していく。

 ルアスの背中を目で追いかけながら、妖魔は剣呑な態度で舌打ちした。

 簡単に屈服させ、捕らえることができるという傲慢さによって油断したに違いない。なんにしろ目的はルアスのようで、妖魔はフウラ達には目もくれずに追っていく。


 そのことにナリスは心底安堵した。安心感と共に、ルアスは自分達を逃がすために囮となるべく逃げたのではという思考が一瞬過ぎったが、すぐに打ち消した。

 ナリスもサフィニア戦争を知らないわけではない。以後に受けた人間の仕打ちを知っている。人間はもちろん、僅かでも彼等の血を受け継ぐ混血児の存在を憎む思いは消えていない。当然ルアスも例に洩れない。胸の内で即座に否定したのはそのためだ。

 ナリスは思考を打ち切ると、なにかに脅え、怯んでいるように放心しているフウラを助け起こした。


「大丈夫ですか、フウラ様。妖魔は立ち去りました。お気を確かに」


「炎の魔神、イフリート……」


 様子がおかしいのは、妖魔と予期せぬ場所で対面を果たしたためだと思っていたナリスは、彼女の口から紡ぎ出された炎の精霊長イフリートの名を耳にして困惑した。

 フウラのように精霊の長と交信できる者は少なく、魔者達は長を呼び出すことのできる確率の高い存在を欲している。その

 ため狙われる率は高く、命を落とす者も少なくない。


「あの少年、炎を出した際にイフリートの息吹を感じました。ケティルさんの身にも、闇の精霊長シェイドの存在が見え隠れしていました。あの方達は一体……」


 ウンディーネと交信できる数少ない存在であるために、他の精霊長を感じ取る感覚も研ぎ澄まされているに違いない。

 驚きと困惑を滲ませながら、フウラはルアス達が去っていった洞穴の出入り口を眺めていた。

 聞き終えるや、ナリスも険しく眉をひそめた。

 彼もまた、フウラの次に感じ取れるほどの高い能力を有しているのである。

 己達の身の安全を最優先にしていたために気づかずにいたが、改めて思い返し、表情を険しくさせた。



 まばらに生える木々の間から、小さいながらも水の神殿が見え始めた。

 豆粒ほどの大きさのために詳細までは知れないが、異様なほどの煙が立ち込めている。

 煙に気づいたエルフォーネ達が目を凝らして確かめようとした途端、鳥の群れはいっせいに飛び出し、続いて轟音が響く。


「なに!」


 向かう先を考えれば言うまでもないのだが、エルフォーネの胸に容赦ない不安が込み上げる。


「聞くだけ野暮ってもんだ。それにしても本当に、ザルバードがいやがるとはな」


「行きましょう」


 姿を見る、気配を感じるというには、神殿との距離は離れすぎている。

 ルアスを追ってザルバードも水の神殿に向かうと聞き、行動に移しているエルフォーネではあるが、今まさにいるのだという確証はない。

 だというのにゲオルグ達が、容易にザルバードの存在を確認したことに戸惑いを憶える。初めて出会ったときも、一目で混血児だと見抜いたことも引っ掛かる。

 けれど結局聞くことができないまま、先へと行ってしまった二人の後ろを追いかけた。

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