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七回

〇二章,水の神殿/七回



 フウラはナリスと二人きりになると、微笑みながら上目づかいに見つめた。

 その探るような眼差しと微笑には、立場によるものではなく、純粋な興味のほうが上回っている印象を受ける。

 反面ナリスは補佐役としての立ち位置を崩すことなく、生真面目な面立ちで彼女に目を向けた。


「ねえ、あの方達をどう思う?」


「彼等に敵意も悪意もはないようですが、かといって不用意に信用はできませんね。ハーフを連れていることもそうですが、ケティルという男から醸し出される雰囲気は、ただ者とは思えません」


 危険をはらみつつも強い意志を感じられるため、精神面もおそらくは強靭だろう。その辺りが不安要素だと、ナリスは告げた。

 しかしフウラはわずかに頬を膨らませながら、ナリスを睨み上げた。だがそれは怒りではなく、すねているように見受けられる。


 最初に感じたように、巫女としての立場からではなく、個人的な興味なのだと確信に変わった。

 けれどナリスとしても責任ある立場であるため、不用意に言葉を紡ぐことはできない。

 個人的な言葉で返せば、それを受理とみなして行動する大胆さを見せるときがあるのだ。


 しかも彼等の一人は混血である。

 人の血を受け継ぐ彼に敵意を向ける者は多くおり、見境なく関わりを持とうとする行動がフウラの立場を危うくし、神殿内を険悪な雰囲気に包み込んでしまう可能性がある。

 しかし彼女の視線はしつこく突き刺さり、根負けしたナリスは小さく息を吐いた。幸いここには二人だけだという考えがよぎったためかもしれない。


「彼等と話をしたいのだというのでしょう。ですが、ほどほどにしてください。以前、人と妖精が懇意になった際、一度お目通りになったではありませんか」


 ナリスは、怪我を負ったリフティアという人間の男をかくまい、なおかつその子を身篭みごもったフロリスミアという女を思い出しながらたしなめた。

 どうやらフウラも、すぐに察したらしく釈然としない面立ちを浮かべている。


「あのとき、話ができなかったじゃない。それに今回は純粋な人間ではなく混血なのよ。そんな相手と会ったことないんだもの。一度くらい話してみたいと思うのは当然でしょう」


 事実リフティアと出会ったのは、フロリスミアとの懇意が明るみに出て、謁見の間に通されたときのみである。

 公開法廷のような形で、周囲の目のある中、フウラと対面したのである。

 そのためフウラは個人的な立場での発言は許されず、巫女としての対応と決断しか許されなかった。

 神殿内の妖精達の大半が、人に敵意を向けている。その人と恋仲になり、その上子を宿したとなれば、その場で処刑されてもおかしくはなかった。


 だがフウラは彼女達を神殿の外へと放り出すことで処罰を下した。

 その場で断罪を下すのは簡単だが、外にも魔物や妖魔はいる。力も非力で魔法も使えぬ人間と、身篭った妖精の二人では、そう長くは生きてはいけまい。

 そこで自分達が犯した罪を意識しながら果てるがいい。

 という采配を言い渡したのだ。


「もちろん私は、自分の立場をわきまえてる。でも一度も見たことも話したこともない相手を、他の同胞達のように憎んだりできないんだもの。本当に話しに聞いたような者達なのか知りたい。彼等の話を聞きたいというのは当然でしょう。だからあのときだって、彼等を神殿の外に追い出すという采配をしたんだもの」


「お気持ちはわかりますが、この神殿にいる以上、その行動はある意味危ういものです」


「わかってる。でも今回は裏切り者ではなく、旅の者でしょう? だったら同伴している彼等を交えて、混血の彼と話をしたいの。それなら、ある程度は誤魔化せるでしょう」


「そうかもしれません。ですが彼等でさえ、どのような人物か窺い知れません。先程述べたように、ケティルという青年は」


「あれも駄目、これも駄目。じゃあせめて他の神殿の方と交流を深めるための使者でもいいから、外の世界を見てみたい」


 これまでフウラは、水の神殿周辺以外の場所を目にしたことはない。

 物心つく頃から、水の神殿で過ごしてきたためだ。これが巫女という肩書きさえなければ、それも可能だった。

 しかし彼女の場合、年端もいかぬ頃から役目を背負わされた。そのため身を守るということが第一優先となっている。

 だがフウラは、ハーフや人間、妖精間の争い事は現実味を帯びないのかもしれない。

 もしくは理解しているがために窮屈な生活の中でできることを模索し、ナリスに意見を求めるのだろう。

 語るフウラの眼差しには、懇願と切実さが込められている。

 ナリスは不憫に思いながら、またしても小さく息を吐いた。

「残念ながら、少なくとも今はご意向に沿うことはできません。現在、妖魔でさえ神殿に押し寄せている様子。せめて彼等の攻撃の手が緩むまではお待ちください」

 当面は神殿内のほうが安全だという見解のもとに下した配慮だが、フウラはやはり釈然としないようだ。まだなにか言いたいような面立ちである。

 彼女のわかりやすい態度に、ナリスは思わず微苦笑した。


「いつかあなたが、神殿の外へと行く機会はあるでしょう」


「いつかって、いつ? 妖魔達の攻撃だって、いつ緩まるかわからないじゃない。いっそ無理だって言ってくれたほうが嬉しいわ」


「私とて、気休めや、できない約束はいたしません。必ずあなたを、外の世界にお連れします」


「とんでもなく気の長い話になりそうね。それがいつかはわからないけど、約束が果たされない場合は、意地でも飛び出してやるんだから」


 そのときは、否応なくナリスも連れ出してやる。そしてこっ酷く叱られるといいのだわ、と皮肉交じりに、しかし面白がるように豪語した。

 フウラの補佐役兼お目付け役として、ナリスは周囲に認識されている。

 そのためフウラとの仲介役として様々な意見を聞かされたり、言付けされることが多々あった。

 そのためだろうか、羽目を外すたびに、教育がなっていないと小言という名の進言を聞かされる。

 同時にフウラだけでは事足りない際の命令系統をも管理している。

 こういった経緯があり、もしフウラが勝手に外へと出たとなれば非難を浴びる。それどころかナリスも共にともなれば、なおのこと周囲の怒りや困惑は飛び火どころか炎上さえするだろう。


「肝に銘じておきます」


「なら、今はフィニアさんと話をするだけで我慢しておくわ」


「あの女性の方と?」


「ハーフの子は駄目、ケティルという方も用心に越したことはない。そういうのなら、その方ならいいんでしょう?」


 ルアスのことや外の話を聞いてみたいのだと、フウラは朗らかに微笑みながら部屋を後にした。


「フウラ様!」


 あの二人と行動を共にしているのだから、フィニアに対しても用心するに越したことはないと忠告しようと試みた。

 しかしフウラは呼びかけに気づくことなく、軽やかに立ち去っていく後姿があった。

 だが追いかけてまで制止しようとはせず、小さなため息を浮いた。

 ルアスと関わるなと言ったのは、混血児に嫌悪を抱く者もいるため、よからぬ火種を生まぬため。それさえ守るのであれば、怪しいのはケティルという青年のみ。

 フィニアからは不穏な気配は感じ取れなかった。

 どのような人物かわからないため目を光らせる必要はあるが、昔から外の世界を知りたがり、自分の目で見て歩きたいと渇望してきたフウラの意思を捻じ曲げることはできないと思い至った。

 これくらいのことは甘受しなければと、ナリスは自分を諌めた。


 そんなとき、扉を数回ノックする音が聞こえた。


「フウラ様、失礼します。ナリス様は、おいででしょうか」


 少々高い、しわがれた男の声が扉の向こうから発せられた。

 落ち着きのある声に、ナリスは聞き覚えがあった。


「入れ。今は私一人だ」


 言うと扉の開く音がし、背の低い白髪がいくらか入り乱れた、初老のエルフの男が入ってきた。

 ナリスはなんの用だと目で問うと、大胡は小さく頷き、先程よりも声を潜めた。


「彼の者達から伝言を言い渡されました。……例の件で」


「わかった、場所を変えよう」


 ナリスはわずかに眉を上げると、言うが早いか先導する形で歩き出した。

 先程までいた部屋はフウラの自室である。彼女がいつ帰ってくるかわからない以上、場所を変える必要があった。

 これから向かう場所は、ナリスの自室である。副官であり、フウラの次に身分の高い立場である。相談事も受けることがあるため、そこで話し込んでいても疑われにくい。

 やがて机や椅子など必要なもの以外は見当たらない、簡素な部屋へとたどり着いた。

 ナリスは、男ミルナを椅子に座るよう促すと、自分も即座に腰を落ち着けた。


「彼らは、なんと言ってきた」


 ナリスは前置きを省き、食い入るように鋭い眼差しを向けた。

 ミルナはそれに物怖じすることなく、静かに語り始めた。


「今日この神殿へとやってきた三人組は、ウンディーネを狙っている。彼等と、ウンディーネを明け渡せ、と」


「なるほど、そうきたか」


 彼等魔の存在は、精霊の長を狙っている。

 それを知ったのは、数年前のことである。

 妖魔が水の神殿を襲うようになった当時、これ見よがしに姿を現し、水の神殿にいる者達に聞こえるような声でウンディーネを所望した。


 しかしナリス達はそれを拒否し、今も抵抗を続けている。

 にも関わらず、妖魔はナリスへと交渉を持ち掛けていたのだ。

 このような長きに渡る争いに終止符を打ちたくはないか。

 ウンディーネと、それを扱える者を引き渡せば、もはや水の神殿や、そこに住む妖精達に危害を加えることはない。


 そういった甘い言葉を囁きながら――


 だが精霊は肉体を持たない。それを引き渡せということは不可能である。

 しかも精霊の長は、信仰すべき対象であり象徴である。

 たとえ引き渡したとしても、召喚できる者は現在わかっているだけで、巫女フウラと副官ナリスのみである。

 ナリスは人身御供として赴くことはもちろん、フウラを差し出すつもりはない。

 フウラは守るべき存在であり、その傍らにナリスはあり続けたいと願っている。


 しかし、こうも考えていた。

 妖魔が告げたように、ルアス達がウンディーネを狙っているのなら、彼等を引き渡せば万事うまくいくのである。だが、同時に危険もはらんでいた。


「我等にとっては魅力的な申し出ではありますが、彼等の言葉、信用してもよろしいのでしょうか」


 ミルナも危険を感じたのだろう。眉間にしわを寄せる面立ちには、戸惑いと困惑が窺えた。


「簡単に信用するわけにはいかないな。私達を内部から混乱させる、新たな方法という可能性もある。しばらく様子を見るしかないだろう」


「では、どのように伝えましょう」


「彼らが本当にウンディーネを狙っているのなら、我らにとっては大罪人。そのときは容赦なく引き渡そう。だがウンディーネは、約束できない。そう伝えてくれ」


「妖魔達は文句を言ってくるでしょうね」


「だろうな。だがもしあの三人のうち誰かが、精霊の長を呼び出せるほどの実力を備えているなら、交渉次第ではどうにでもなるはずだ」


「はたして思惑通りに事が運ぶでしょうか」


 ミルナは期待よりも不安のほうが大きいらしく、目元に影が差した。

 対してナリスは、緩やかながらも不敵な笑みを口元に浮かべた。


「うまく成し遂げてみせるさ。そのために、これまで妖魔との接点を断ち切らずに交渉を重ねてきたんだ。お前にはいつも危険な役回りをさせてしまうことになるが、もう少しの辛抱だ。よろしく頼む」


「もったいない、お言葉。これは先代への手向けと、フウラ様の将来のためでなのです。そのためなら、自分の命さえ惜しくありません」


 それでは失礼しますと、ミルナは緊張と高揚感を伴いながら退室した。

 一人部屋に残ったナリスは、天井を仰ぎ見た。

 フウラは齢十歳で、この神殿の責任者である巫女となった。

 この神殿には、戦争のあった折に心の拠り所として集まった者達ばかりである。


 恐れを抱く対象となる精霊もいるが、自然と共に生きるナリス達妖精にとって、恵みを与えてくれる精霊は大事な隣人であり、精霊の長は崇拝対象ともなっている。

 各地に建てられた神殿は、その代表だった。

 最初は行く当てもなく行き場を失った者達が集っていたが、数が多くなるにつけ、必然的に諍いが多くなってくる。そうなると統率してくれる者が必要となった。


 その時選ばれたのが、先代だった。

 先代はさほど強い精霊を呼び出すことはできなかったが、年長者の部類であり、穏やかな人格者であったことが、選ばれた要因である。

 しかし間もなく魔物や妖魔達が現れ、神殿を幾たびも襲い始めたのだ。

 人格者というだけでは神殿内に身を寄せた者達を守ることはできないと、先代は感じたのだろう。

 魔の存在達を対等に渡り合うためには、精霊の長を呼び出せるだけの力の象徴が。

 素質のある者を選び、共に神殿を率いていくこと道を選んだのだ。


 その時選ばれたのが、ナリスである。

 当時まだ幼いながらも、神殿んの中では群を抜いて強力な精霊を呼び出すことができた。だがその数年後に、まだ赤子だったフウラがやってきた。

 そのフウラは、生後さほど経っていないというのに、容易に精霊長を扱うだけの資質を持っていた。

 その瞬間、フウラは巫女として選ばれることになった。ナリスは、フウラを補佐役として傍に遣えるようにと言い渡された。


 先代になにかあったとしても、二人が協力して神殿にいる者達を守れるように、と。しかしそれはフウラ達を神殿内に閉じ込める起因にもなった。

 先代は苦悩していたのだと知ったのは、ナリスが将来のために補佐として彼を支えるようになってからのことだった。

 滅多にそれを表に出すことはなかったが、いくら神殿に身を寄せた者達を守るため、力の象徴を必要としているとはいえ、年端もいかぬ子供達を道具のように扱わなければならないのだと、負い目さえ感じていた。

 けれど自分が生きてさえいれば、二人にだけ重い責務を負わせることはないと、奮闘していたのも事実だった。


 それでも七年前、呆気なく殺された。

 そしてフウラが巫女として神殿の責任者となり、紛れもなくカゴの鳥となった。

 先代の苦悩と努力、フウラの境遇をかんがみ、このような連鎖から断ち切りたいと望む者がいた。


 ナリスが、その一人だった。

 そんなとき、妖魔から思わぬ提案がされた。

 精霊長を渡せば、もはや神殿を攻めることはしない、と。

 妖魔の言葉を聞いたナリスは内心衝撃を受けた。提案を聞き入れれば、この連鎖を断ち切れる。もはや戦わずにすむ。

 そんな思いに駆られていることを恥じ、思い悩んだ。


 当時の知るほとんどの者は、先代の思いと、崇拝する精霊長のために戦うことを望んでいる。戦って勝つことを望んでいる。

 けれど妖魔の言葉により、精霊長を渡してでも、先代やフウラの犠牲よって支えらている、戦い続ければ同じことが繰り返されるだろう未来を変えたい。いつ果てるかわからない戦いを終わらせたい。

 そう望む者が少なからず、いることにナリスは気づいた。

 迷いに迷った末、精霊長を差し出すための協力者を密かに集めた。ミルナも、その一人だ。

 妖魔とも内通するようになったのはそのためだ。


 その際知ったことは、精霊長を渡すには、精霊長を呼び出せる者も必要なのだということ。

 だが知る限り呼び出せるのは、フウラとナリスのみ。とはいえフウラや自分を差し出すことはできない。

 かといって、これまで共に戦ってきた身内ともいえる神殿の者達に、これ以上の過酷な戦いをさせるわけにはいかない。

 たとえそれで神殿の者達が救われたとしても、一時のことでしかないかもしれない。差し出したとしても、必ずしも約束を守るかどうかさえわからない。

 それでもこのような連鎖は断ち切るのだという意志は変わらない。

 けれど自分の保身と安全のためでしかないのだという胸の奥に救った罪悪感は、けして拭うことはできなかった。



 執務室から駆けるようにして出てきたフウラは、ややあって歩を緩めた。

 これまで巫女としての風格と態度をと、教育されてきたのだ。はしたないと小言を散々向けられてはと、自重する。

 立ち振る舞いに若干の窮屈さはあるものの、巫女という役職を苦痛に感じたことはない。ただ不思議なことは、なぜ妖精達は人やハーフを忌み嫌い、憎むのだろうということだった。

 フウラ自身、大切な仲間の死を否応なく見せられてきたため、妖魔や魔物を憎む気持ちはわかる。

 おそらくその感情が、過去の出来事によって人やハーフ達にも適応されているのだろう。それがわからないわけではない。


 わからないのは、人やハーフはそんなにも憎む対象なのかということだった。

 だからこそ外の世界を見てみたい。人やハーフと直に会い、話をしてみたい。

 けれどできるのは神殿に閉じこもり、人や混血を憎むフリをすることだけ。そのため聞けるのは外から来た純血者達の話を聞くことだけなのだ。

 人や混血は、そんなにも憎むべき対象なのかわからないため、彼等と自分の間には温度差がある。それが大きな壁のように感じられて、時折切なくなることがある。

 ナリスの言う通り、まずはフィニアという女性と話をするのが一番だろう。いろいろと面倒くさいなあと、フウラは心の中で一人ごちる。


「そうはいっても、彼女達が来たその日に話しかけるのも変よね。少し時間を置くしかないかなあ」


 残念だけれどとボヤキながら、フウラは自室に退散した。



 水の神殿に留まることになってから数日。

 ただなにもせずにいるということはせず、フィニアとシェイドは滞在中なにかしらの手伝いをすることになった。

 その間に様々な情報を得るという名目なのだが、ルアスだけは自由行動を制限させられた。不浄な者が神殿内を動き回ることを良しとしないのだろう。

 神殿内で育てている食材収穫の手伝いをしながら、フィリアは小さく息を吐いた。

 わかっていたことではあるけれど、神殿にいる者達のルアスへの態度はあきらかに険悪なものである。 

 それも小間使いとして共にいるためか、神殿内を歩き回っても思っていた以上に危害を加えられていないようなのが幸いであるものの、複雑な心境だった。


(こんなとき、アーサー様が姿を現してくれたら……)


 思ってから、フィニアは自分を恥じた。

 信仰の対象となる彼が具現したら、対応は確実に変わる。

 けれどそれは根本的な解決にはならない。信仰心を利用しているだけであり、他力本願でしかない。自分では、なにもしていない。

 共に手を携え、未来を変えようと努力していくフロリスミアとリフティアの方が、どれほど立派だろう。


(私は、どうすればいいんだろう)


 人や妖精との諍いを見たくはない。両者の争いにより、肩身の狭い思いをしている混血達を目にするのは忍びない。

 とはいえフィニア自身、戦争直後は人を憎み、混血を毛嫌いしていた。彼等に禍根を残していないかといえば、嘘になる。

 しかしゴルファ洞窟に捕らわれていた一件が、それを希薄なものにしていた。

 強要されていたとはいえ、ゴルファ洞窟に紛れ込む人を殺めた当時は純粋な怒りがあった。

 けれど長年続けるたびに、どんなに理由や理屈を浮かべたところで命を奪っていることに変わりはないと気づいたとき、罪悪感と虚しさだけが残った。

 殺めた相手が、フィニア達に危害を加えた相手ではないのだということも、さらなる苦悩しか生まなかった。

 アーサーの声が聞こえ、ルアスやシェイド達と出会ったとき、覚悟を決めたはずだった。そのために行動を共にする道を選んだはずだった。今もそれは変わっていない。

 けれどそれは流されているだけではないのだろうか。自分はなんのために行動しているのだろうか。

 現状をどうにかしたいという思いはあるものの、明確な考えは持ち合わせていないことが情けない。意味合いは違うものの、ルアスに覚悟を説きながら、これでは説得力の欠片もない。

 私はどうすればいいのだろうと再度自問自答し、小さくため息をついた。


「どうした、もう疲れたの? それとも恋人と離れて仕事するのが嫌だとか?」


 声をかけられて、フィニアは伏せ目がちだった顔を向けた。

 声の主は同じフェアリーの種族であり、食材収穫の手伝いをする際に、指導してくれているロマリエという女性である。

 年の頃は、三十代半ばを連想させた。髪は癖のある、ショートより少々長めの、勝気な印象を受ける女性だった。同時に人懐っこさも現れており、朗らかな笑顔を浮かべながら気にかけてくれていた。

 その彼女の、どことなく含みのある笑顔での問いかけに、フィニアは首を傾げた。相手の投げかけた言葉が飲み込めなかったのだ。

 ロマリエは、キョトンと目をまたたかせている様に、逆に戸惑ったようだ。苦笑しながら、カゴを持っていないほうの手を腰に当てた。

 彼女の言葉をようやく理解したフィニアは、思わず頬に朱が差した。


「ち、違います! 私にとってあの方は恩人で、そういう間柄ではありません!」


 恋愛感情で見ては失礼だという思いのほうが強い。とはいえ男女が旅をしている構図が、まるで恋人のように見受けられてしまうことには思い至らなかった。

 そのことが気恥ずかしいと感じると共に、自分の配慮のなさもある。

 同時に、三人旅だと思っていたのだが、混血であるルアスは勘定に入らないのだという思いも強くこみ上げる。

 思わず目元を伏せるフィニアに、彼女が口を開きかけたときだった。

 どこかしらから激しくなにかが叩きつけられたような水しぶきの音が聞こえた。すると彼女を含めた周囲の表情が硬くなる。

 ロマリエ達が互いに目配せをすると、手に抱えていた作物を地面に置いた。


「フィニアさん、ここにある作物お願いね」


「待ってください、私もお手伝いします」


 どこかからか聞こえた音と彼女達の行動により、魔物が襲ってきたのだと察しての発言だったのだが、彼女は緩やかに首を振った。


「あんたは旅の途中で、ここに立ち寄ったんだろ。無理に戦闘に参加させることはできないよ」


 しかしフィニアは引き下がれず、睨みつけるように見つめた。

 彼女は呆れたのか、押し負けたのか、微苦笑した。


「どうしてもというのなら、ここを守ってて。食料を守るのも、大事な仕事でしょう?」


 言うと彼女は数人連れで、どこかへと駆けていく。

 現在フィニアがいる場所にも複数で留まる者、新たにやってくる者達がいた。

 よくよく観察してみると、三人一組で行動しているようだ。

 魔物と対峙するとき、一対一でいるよりも効率がよく、誰かが手傷を負っていたとしても即座に対応できるのだろう。さすがに考えられているなと、内心感嘆した。

 だが今は感心しているときではない。

 彼女達と共に前に出て、戦を手伝いという思いは変わらないが、生きるための食料も大切なのだ。今はロマリエの意志を汲み、この場に留まることにした。

 決断すると、フィニアはこの場を守る彼等へと歩み寄った。



 水しぶきの音が聞こえると同時に、周囲がけたたましく騒ぎ始めた。

 ルアスは状況が掴めずに何度か周囲に訪ねてみるも、まもとに取り合ってはくれない。ハーフだということもあるかもしれないが、それにこだわってはいられない慌しさも感じられた。

 一体なにがあったのか考える間もなく、再び水しぶきの音が聞こえた。先程と同じように一度きりではなく、複数である。

 魔物の浸入を許すなという声が飛び交っていく。

 彼等の声により、ルアスは魔物が押し寄せてきたのだと知った。

 だとしたら、なおさら心穏やかではいられない。なにかできることはないかと、またしても声をかけるも、相手がルアスだと知るや邪険にするばかりである。

 中には、行き場をなくしているルアスの肩を掴み、魔物にこの神殿の情報を売るつもりなのだろうと、牢に入れようとする者もいた。

 人と混血は、妖精達の中では魔物を呼び出したのだとされていることを思い出した。そうでなくともハーフは妖精に嫌われているのだ。

 捕まっている場合ではないと、彼等の手から逃れると身を隠した。

 どうしたらいいのだろう。このままでは、どこまでいっても邪魔者扱いである。

 シェイドとフィニアは、どうしているだろうか。

 神殿にいる限り、安否は確実だろうと思うのだが気になってしまう。だが現段階では、まともに探し出すのも難しい。

 焦りと戸惑いが込み上げる中、後頭部に軽い痛みが走った。

 自分を捕らえて牢に繋ぐために、誰かが来たのだろうかと表情を強張らせながら剣に手をかけ、振り返る。

 するとそこには見知った姿があり、肩の力が抜けていた。


「良かった、シェイド。でも、どうしてここに?」


「また炎を使われては困るからな」


 そのために来たのだと言いたげなシェイドの言葉に、ルアスは内心で合点した。そうでなくては、わざわざ探しに来ることもないだろう。


「じっとしている暇はない。行くぞ」


「行くってどこへ? 今のうちに祭壇に行くのか」


「いや、行くのは前線だ」


 言うや否や、シェイドは身を翻して駆けていく。

 行動範囲を制限されていたため、ルアスは神殿内の細部を知らない。ここで置いてきぼりにされては大変だと、シェイドを慌てて追いかけた。

 人の目を駆け抜けながら神殿の外へと出ると、薄い水の壁が周囲を取り囲んでいた。

 その壁に向かって魔物の群れが押し寄せるも、容易に入れずにいる。周囲を覆っていたのは水の障壁であり、魔物の浸入を制限しているようだ。

 そのため前方の敵よりも、おもに空の魔物に向かって、矢や投石といった武器や、魔法等を放っていた。上空だけは覆われておらず、空を飛ぶ魔物の姿が複数見てとれるためだ。


「なるほど。建物の構造が、上ではなく下に伸びていたのはそのためか」


「それって……水に覆われてるから大事なところは、あの水の障壁で防げるから? これを確認したくて前線に?」


 ルアスは首を傾げながら問いかけるも、シェイドは一瞥するだけだった。

 そして腰に下げていた短剣を手にすると、近くにいた男へと、手を貸すと声をかけながら歩み寄っていた。

 同じく歩を進めるルアスに邪険な眼差しを向けていたが、シェイドがなにかしらを告げていた。男は不服そうだったが、ややあって渋々頷いた。


「話はついた。俺達は今回、ここで魔物の侵入を食い止めるぞ」


「え、いいけどフィニアはどうするんだ?」


「あいつはあいつで、自由に行動するさ」


 心配ではないのか、信頼しているのか、シェイドは繰り広げられる戦闘に目を向けながら断言した。

 魔物との戦いが終わったのは、この日の夕暮れ間近のことだった。

 終わったのだとわかったのは、潮が引くかのように、それまで戦っていた魔物達がいっせいに姿を消したためだ。

 激戦を繰り広げていたために、あまりの呆気ない幕引きにルアスは拍子抜けすると同時に、再び襲い掛かってくるのではという恐れを感じた。


 しかし周囲の妖精達は気にも留めず、十数人ほどの見張りを残したまま神殿内へと下がった。

 主にケガ人の収容と手当、食事の支度に取りかかっている。皆疲れ切っているというのに、統率のとれた動きに感嘆した。

 だが逆に考えれば、これまで数え切れないほど交戦してきたということになる。


 これが戦というものか。それだけ神殿も精霊も大事だということか。

 ルアスは鬱屈した思いが、胸の奥底に降り積もっていくような感覚を覚えた。

 彼等が戦う理由。自分自身の身を守るため。崇拝する精霊を守るため。もしくは他の、なにか。それがなんにせよ、それぞれに考えて出した結果の行動が、今に繋がっているのだろう。

 心境的に理解できるところがあり、共に戦う者としての心強さがある反面、なぜだか恐れや物悲しさを感じた。今回の戦いを通して、妖精と人間との戦いを思い描いたためかもしれない。

 実際に両者の戦争を見たわけではないけれど、血を血で流すような惨状が行われたのかもしれない。ならば互いが恨み辛みを向けるのは、当然のことかもしれないと、ただただ思い巡らせた。



 神殿内が落ち着くを取り戻し始めたのは、魔物との戦闘から二日目のことだった。

 ルアスは一人軟禁状態で部屋に置き去りにされる中、シェイドとフィニアは巫女の執務室に呼び出されていた。


「このたびは旅の途中の貴方方を危険な目にあわせてしまって申し訳ありません。けれども協力して下さったそうで、感謝しております」


「一時的にしろ、神殿に身を寄せているんです。当然のことをしたまでです」


「ご謙遜を。不慣れな状況下にありながら、ケティルさんは前線で、フィニアさんは後方でケガ人の手当てをなさって下さったと聞き及びました」


 頭を緩やかに下げるシェイドに、フウラは朗らかに応じていた。彼女の緊張感のない態度のためだろうか、傍らに立つナリスの表情は硬く、しかめしいものだった。

 側近のそんな態度など意に介さず、話を進めていた。


「この神殿では魔物との戦闘の際、戦闘、回復、補助の三人一組で行動しているんです。ちょうど貴方方は役割分担がなされているようですし、あのハーフの子を入れて行動してはと提案を持ち掛けたいのです」


 その方が、なにかと都合がよいという配慮だった。

 これまで寝床は近くに配置されていた。神殿に留まる事を拒まれたため客人として扱いたかったフウラだったが、旅人であろうと滞在しているのだからと、シェイドは強く協力を申し出ていた。

 彼の熱意の押されたフウラは戦闘に参加させるかどうかは保留のまま、比較的安全な場所であり、人手不足の場所を選んで二人に働いてもらうことにした。


「ありがたい話ですが、ハーフを野放しにするようなことをして宜しいのか」


「今回の戦闘において、混血が一人うろついている状態だったらしい。客人の持ち物とはいえ、それが許せない輩も多くてな。言わずもがなだろうが…。だがお前と共に前線で戦っていた姿を見ていた者も多い。ならばお前達の監視下に置くという形で可能な限り行動をするなら、いくらか納得させられる」


「それは、どこへでもということですか?」


「祭壇以外なら、自由にハーフの子を引き連れて回れるということです」


 巫女と側近の有難い申し出に、シェイドは片方の眉をつり上げた。

 シェイドの仕草で、訝しんでいるのだと感じたのだろう。ナリスは、仏頂面をいっそう強めた。


「不本意でも、受け入れてもらう。理由は言わずもがなだろう」


 有無も言わせぬ言動に、シェイドは内心喜びの声を上げた。

 神殿に来た時点で予測されていたことでもあるため、シェイドは彼等の言い分も理解できた。これまでの経緯を考えれば人と混血は、妖精達にとって疫病神でしかない。

 そんなルアスを、神殿内で自由に行動させるのは至難だった。今回の巫女達の申し出は、この上ない幸運だった。ルアスを交えて行動できる範囲が広がれば、祭壇に入る可能性は上がる。

 わずかに視線をフィニアに向けると、複雑な面立ちではあるが安堵の色も窺えた。


「一緒に行動できるなら、ありがたいです。ルアスさんも、きっと喜びます」


「貴女、それってどういう……」


 フィニアの一言が意外だったのか、フウラは目を丸くして前のめりになった。

 すかさずナリスの咳払いが入り、フウラは拗ねたように恨みがましい眼差しを向けていた。けれどすかさず表情を改め、二人に向き合った。


「やはりこの神殿に留まっていただくのは、困難でしょうか」


「申し訳ないが、それはできない相談です」


「だが精霊の加護を求めるという目的は果たしたはずだ。そのわりに滞在期間が長いのはなぜだ」


 それにはフウラも疑問に感じていたようだ。物言いたげな視線が注がれている。

 精霊の加護を求めるだけならば、二、三日あれば事足りる。

 シェイド達が滞在してから、一週間は経っている。だが出ていく素振りさえない。なにかあるのではと勘繰られるのは当然といえた。

 フィニアは返答に窮しているのか、困惑の色が窺えた。

 どう説明したものかとシェイドは瞳を閉じて思案を巡らせていると、ふと頭の隅をなにかが過ぎ、閃いた。あまり使いたくはない理由だったが、今は他の方法を考えている暇はなく、必然的に選択肢は限られる。

 些か不本意だという思いはあったが、それを押し隠して観念したというようにため息をついた。そして即座に閃いた理由の説明を始めた。

 話を聞き終え、退出していくシェイド達の背中を見送ったあと、フウラは小さく息を吐いた。


「彼の話、本当かしら」


「話の筋は通っています。ただ、どこまで彼らの言葉を信じられるかは、また別の事柄でしょうね」


「……やっぱり私、あの方達と話をしてみたい。どういった決断を下すかは、それからでもいいでしょう」


 半分は問いかけではあったが、残りの半分は既に自分の中で定まっていた。

 そのことに気がついているのだろう。反目おいたあと、ナリスは頷いた。



 部屋へと戻る途中、先に歩く見慣れた背中をためらいがちに見ていたフィニアは、ふと目を伏せた。


「あのようなことを言って、よかったのでしょうか」


「とっさに浮かんだのは、あれしかなかったんだ。言ってしまった以上、あいつにもそのことを頭に叩き込んでもらう必要はある」


 言いながらも、シェイドからは悪びれた素振りは感じられない。

 しかし彼等に語ったことは、ルアスにおおいに関わることなのだ。けれど言葉として表に出してしまった以上、取り返しのつかないのは明白だった。

 二人はフウラと面会する際、一時的に牢に入れられていたルアスと合流すると、割り当てられた部屋へと戻った。

 シェイドは扉の外に人や、人によって操作された精霊の気配などがないことを確認すると、腰を下ろした。


「なあ、巫女のお礼ってなんだったんだ」


 ルアスは純粋な興味を持って、問いかけた。精霊の神殿に来ることなど、よほどの縁がなければ来ることはない。

 しかも神殿の長ともいえる巫女自らが礼をしたいと従者をよこしたのである。興味を覚えるなというほうが難しいだろう。

 それを物語るように、ルアスの瞳は爛々と輝いていた。

 しかし相反して、シェイドは常より緊張めいたものが伺えた。罪悪の念というより、聞かれはしまいかという警戒によるものだろう。

 フィニアも、気まずさを感じながらルアスを見つめた。


「そのことで、貴様に伝えておかなくてはいけないことがある」


「なにかあったのか?」


 少しもくつろぐことなく神妙な表情を浮かべたままの二人に、違和感を覚えたのだろう。

 ルアスも、どこかしら表情が強張っていく。


「この神殿の長期滞在理由に関してだ。貴様の姉を利用させてもらった」


「利用? それって、どういう……」


「じつは私達は、大切なものを盗んで逃げたルアスさんのお姉さんを追って旅をしている、と。この神殿に立ち寄ったのは、精霊の加護と、この神殿で彼女を知る者を探し、情報を探るためという名目になります」


 ルアスは暫し、目を白黒させながら二人の言葉を反芻はんすうしていた。ようやく言わんとしていることを理解したのか、憤りを満面に浮かべながら立ち上がった。

 怒りに任せて飛び掛らなかったのは、更なる説明を求めているためなのか、神殿内での喧騒をためらってのことなのか。


 理由はなんにせよ堪えるルアスに、フィニアは手順を踏んで説明を始めた。

 フウラ達に礼と、長期滞在の理由を求められたこと。

 精霊の加護を得るだけならば、長期滞在は不自然だった。そのときシェイドは、とっさにシンシアを引き合いに出した。

 そしてそのシンシアを取引を行うための人質として、ルアスを同行させている。

 シンシアが神殿に立ち寄ったかどうかの調査と、立ち寄ってはいなくとも、目撃、もしくは彼女を知る人物がいないかと探っていた。

 ならばなぜ先に、そのことを言わなかったのかと問われ、魔物等の襲撃に手一杯の神殿に確証もないことで手をわずらわせることはできなかったのだと説明した。


 両者のやり取りと、それによる説明を聞いていたルアスの怒りはある程度抑えられたようだが、納得いかないのか苦虫を噛み潰したような面立ちである。


「精霊の協力を得るためには、都合がいいってのはわかる。でもさ!」


「都合がいいと理解しているのなら、今は黙って従ってもらおう」


 有無も言わせぬ態度に、ルアスは口元をへの字に曲げた。

 不平不満は山ほどあるが、現状においてシェイドに一理あるということだけは理解しているのだろうことは、その瞳からうかがえた。

 それがなおさら、ルアスの感情を偏屈なものへとさせていたのかもしれない。

 神殿の責任者に公言してしまった以上、現状において取り返しがつかず、他に打開策は考えつかない。

 フィニアもそれはわかっていたため、言葉を投げかけるのがためらわれた。なにを言ったところで、慰めにもならないと自覚できたためだ。


「……それで、姉さんがなにを盗んだってことにするんだ」


 不本意満面で、ルアスはシェイドに問いかけた。


「友の形見、ということにした」


「家族の形見じゃなくてか?」


「その場合、俺達の種族が違う以上、下手に突っ込まれやすいほうを選択すれば後々厄介だ」


 種族が異なる点を考えると確かにそうかもしれないと思うものの、信憑性という面でいえばどうなのだろうという疑問は拭えない。


「とにかくだ、この神殿にいる間は人質なのだということは忘れるな」


 いまだ不服ではあるものの、相手にそう伝わっている以上、ルアスは頷くしかできなかった。

 言い終えると、これ以上の議論は不要だとでも言うようにシェイドは肩をすくめた。

 フィニアは、物言いたげな、物憂げな視線を向けていた。ややあって視線もわずかに伏せる。

 シェイド一人に過酷な責務を負わせ、その結果ルアスに対してもなにもできない自責の念が、胸をえぐる。


「貴様は……そのままでいろ」


 その一言に、フィニアは思わず顔を向けた。

 どういった意図によるものかわからず、次の言葉を待ったのだが、彼は無言で部屋を後にした。

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