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序章

 あたりを焼き尽くす炎が、街全体を覆うかのように包み込んでいく。

 人間達は手に武器を持ち、理性がいづこかへと飛んでしまったかのように妖精達と対峙する。


 妖精達はそんな人間達に、文字通り命がけで抵抗を試みていた。

 血は流れ、体は引き裂かれ、死体があちらこちらに横たわっている。


 その中を、耳の先端はとがり、背中から羽の生えた人ならざる、フェアリーと呼ばれる種族の女の妖精を背に担いだ人間の男と、右手には彼女と同じフェアリーである五、六歳程の少女の手を取り、左には赤ん坊を抱えた人間の女という奇妙な団体が息を切らしながら走っていた。


 赤ん坊は男に担がれている女から、先程産声を上げたばかりである。

 容貌は母親や姉にあたる少女のように、フェアリーの特徴である鋭角で四枚羽の透き通るような羽も耳も尖ってはおらず、人間の姿と酷似していた。

 幼い姉弟は、人間と妖精とのハーフである。


 やがてその団体を、武器を持った男達が辺りを囲んだ。

 団体を囲んだ人間の男達は彼等を裏切り者と罵り、奇妙な団体と称された者達は、こんな戦いは無意味だと返した。


 けれど口論は一度も交わることなく平行線を辿り、人々は手にしていた武器を振るい始めたのだ。

 フェアリーの女を背負っていた男は身を守るために大剣を振るい、逃げ道を確保しようと努める。

 子供の手を取っていた女は姉弟を逃がそうとする。


 しかし人数的に、身を守るにしても、反撃するにしても、形勢不利な奇妙な団体は結局逃げることが叶わない。

 なすすべなく徐々に傷を負い、血まみれになり、やがて無残にも倒れ息を引き取った。


 奇妙な団体を追いかけてきた人々も、かなりの者が倒れた。

 手負いながらも僅かに生き残った者達は彼等の遺体を見て取るや、目的を成し遂げたことにより咆哮のような歓声を上げる。次の獲物を追い求めてか、早々と引き上げていった。



 どれくらい経っただろうか。

 奇妙な団体の一人、子供を引き連れ、守るように覆い被さって息絶えた女の腕の中で動いた者がいた。連れられていた少女だった。

 混乱の最中に身を呈してまで守ろうとしていた男女の大人達同様、血に塗れ、共に殺されたと思っていた少女だった。

 奇跡的にも死に至るような傷はなく、あるのはかすり傷程度のものである。


 女の腕の中から這い出すと体をゆっくりと起こし、目の前の光景を見るや、壮絶たる惨劇に言葉を失った。

 目の前は耳を塞ぎたくなるような静けさと、崩れ落ちた家々に残っている炎の欠片と、血の海と、もう動くことのない息絶えた死体の山が広がっている。


 突如間近から赤ん坊の泣き声が発せられ、少女は現実に引き戻された。

 泣き声が発せられた場所を見ると、少女と同じように息絶えた女の腕の中から聞こえた。

 赤ん坊の声は、少女の弟のものである。

 弟もこの惨劇を、誰一人知っている者達が死に絶えた中を生き残ったのだろう。

 女の腕の中に埋もれている赤ん坊を抱きかかえると、もう一度周りの情景に目を向ける。

 見つめる少女の瞳の奥底は、まるで炎が宿っているかのようだった。



 この地、アルカディア大陸には妖精と人間という二つの種族が存在していた。

 長い歳月の積み重ねにより、互いを良き隣人、良き友として友好関係を築いていたのだ。

 そのため双方の間で、子供ができるというのは稀ではなかった。

 まるで当然であるかのように、更に親睦を深め、共存という道を確立していく。


 いつしか誰となしに種族は関係なく誰もが共に暮らすことのできる『サフィニア』―神の祝福―という意味合いの持つ国を建設しようとした。

 多くの者達に受け入れられた国家は、大陸各地に地の精霊、風の精霊、水の精霊、植物の精霊、光の精霊を奉る五つの神殿を造り、円を描くように建てられた。

 それら神殿に、どれとも等間隔にあたる中央に神の神殿を置いた。

 こうしてできたのが、唯一無二である巨大都市サフィニアである。



 それから約二年。

 幸せに満ちた日々を覆す出来事が起きた。

 一人の妖精の子供が、一人の人間の子供に、魔法で怪我を負わせてしまう。

 よくある事故であり、いつもなら気にも留めない、ほんの些細な出来事のはずだった。異常に反応したのは人間の大人達だった。

 このときを境に人間達は、彼等妖精の持つ力を急速に恐れはじめる。

 不可思議な力でいつか我々人間は支配されるのではないかと囁きあうようになり、やがては疑心暗鬼となり、自分達とは違う種である妖精達を追い出し、一切の関わり合いを絶とうとしたのである。

 だが一方的なそれが万人に受け入れられるわけがなく、争いは起こった。


 それは必然のように戦争へと発展していく。

 最初妖精側は身の潔白を訴えたのだが、一度ついた疑惑の念は、簡単に拭い去れるものではなかった。

 戦況が悪化していく中、人間側にも当然納得しない者はおり、制止の声が上がったが、聞き入れられることはなく逆に人間に仇なす裏切り者とされ殺されたのだ。


 このときほとんどの人間は、憎悪、嫌悪、妬み、恨み、嫉み、恐れという名の感情に支配されていったのである。

 やがて憎しみが憎しみを呼び、争いが争いを呼び、互いの大量の血と屍を見るまでは収まることはなかった。

 ようやくの思いで終焉を迎えたこの日、たった二年という短い繁栄を見せた巨大都市サフィニアは内部紛争という形で幕を下ろした。


 だが両者の溝は埋まることなく、十七年の年月が流れた。

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