真里とユエ
「店長ー!ちょっと真里を迎えに行って来るねー」
「はいよー!」
返って来た返答にホッとしてユエは店から出ていった。
タッ
軽やかな足音が響く。
ユエの駆ける速さは尋常じゃない程に速かった。
「真里…」
心配そうに呟いた言葉はすぐに空気に溶けて消えた。
「どこに居るの…?」
焦る気持ちでユエの走りも速くなる。
タッタッタッ
暫くの間、走り続けているとユエは何かに気づいた様で立ち止まった。
「真里…?」
ユエは足音を忍ばせて真っ直ぐに進む。
「…やっぱ…組織…だったのね」
真里の声が微かに聞こえてきたことにユエはそっと息を吐いた。
会話が聞こえるということは真里の近くに誰かが居ることになる。
おそらく、敵と真里は一緒に居る。
ユエはそっと声が聞こえてきた方向に進んで行く。
「フハハハ!」
狂気を孕んだ声が響いた。
ユエは急いで真里の元へと駆けた。
「真里!!」
「?!ユエ!」
短い互いを呼ぶ声ー、ユエは咄嗟に真里の前に立った。
そして、敵の姿を視界に捕らえた。
「ハハハ、お仲間がきたか!」
研究衣の男性は、現れたユエを面白そうに見た。
「真里…コイツ、何?」
「…組織の人間よ」
ユエは不愉快そうに男性を睨み付けて、真里の返答に頷いた。
近くに倒れている鬼に気づいたが、ユエはそちらには目もくれずに男性を睨む。
「フハハハ、私には君達と戦う気はないよ?」
男性は愉快そうに、にやけたまま二人へと視線を向ける。
「私たちが逃がすと思ってるの」
ユエは強気でそう男性へと応える。
真里はそんなユエの腕を掴んだ。
「ユエ…、ここは一端退くよ。」
「なんで?!」
思いがけない真里の言葉にユエは語調を荒くして問う。
「頼人が心配だよ」
真里は淡々と答えて、男性を睨み付けた。
「今回はアンタを逃がしてあげる」
男性はその言葉に意外そうに肩を上下した。
「そうかい?じゃ、また会う日を楽しみにしてるよ」
男性は笑って、真里達に背中を向けた。
真里はその様子を確認してユエを先頭にその場を後にしようとする。
「今度は今回の様にはいかないよ」
真里とユエの背後から男性の愉快そうな声が響いたが、真里は振り返ろうとはせずにユエの背中を押してその場を立ち去った。
「良かったの?」
ユエの不満げな声が真里へと問いかけた。
真里はユエの不満げな声を聞いてそっと息を吐いた。
「頼人は今一人きりでしょ?安全な場所と行っても奴らに気づかれるかもじゃない」
「…そっか」
二人は来た道を戻り、sweettimeへと急いだ。
一方、その頃、頼人はソファに寝転がって眠っていた。
頼人は夢を見た。
真っ暗な闇に支配された場所に立っていた。
「ここは……?」
頼人の呟きは響くことなく闇に沈んで行く。
「貴方の夢の中だよ」
自分以外誰もいないこの場所に1人の幼い少女の声がした。
「誰だっ!?」
頼人は驚いて後ろへと後ずさる。
「ここだよ」
パッと一瞬光ったかと思うと闇で支配されていたのに真っ白な空間になっていた。
そして、目の前に白を纏った幼子がいた。
「大丈夫、私は貴方と関わりある存在。私は貴方の味方だよ」
無邪気に微笑んで、頼人を優しく見つめた。
「関わり…?俺は君を知らないけど」
「今はね。でも、関わりある存在なんだよ!貴方と私は」
幼子は頼人の右手をとってそっと両手で包んだ。
「私は*****だよ、頼人。貴方に力を貸してあげる」
幼子が触れている右手がほんのりと熱くなった。
そして、頼人の視界が光りに支配された。
パーッ
「それは貴方の力になる。使い方はそのうち解ると思うよ」
幼子の声が聞こえた気がした。